「星神…だと?」
老婆から聞かされた言葉に、俺達は揃って小首を傾げた。
「それは…あれか? この星を生み出した創造主のような者のことを指し示しているのか? それとも単なる比喩表現の類なのか?」
俺達が思った事をゲリュガンシュプが代弁してくれたが、それに対して老婆は全く表情を変えず、余裕のある笑みを浮かべたまま静かに答えた。
「そうでもあり、違いとも言えますじゃ」
「どういうことだ?」
「『星神様』とは、この星そのものであり、常日頃から我等をお守りくださっている偉大な御方なのですじゃ。嘗て、この惑星が自然豊かだったのも全ては星神様の恩恵があったからこそ」
「その割には、今は見る影もないような状態になっているがな」
「仕方がありません…全ては我等が星神様の逆鱗に触れてしまった事が原因…」
老婆の言葉はとても抽象的で、現実主義者である我々には上手く理解出来ずにいた。
なので、他にも色々と聞いてみる事にした。
「お前達は、その『星神』とやらに会った事はあるのか?」
「まさか。そんな畏れ多いことなど、とてもとても…。それに、そんな事をせずとも星神様と我等は常に共に有ります故」
「共にある…だと?」
「その通り。星神様はこの星の意志そのもの。それは即ち、この星に生きる全ての生物を創造主様でもあると言う事。星神様はこの星のありとあらゆる物に宿っておられるのです。空に。風に。大地に。そして、我々の中にも…」
話にならなかった。
俺達には老婆の言っている事が全く分からなかった。
「…先程、貴様は『星神の逆鱗に触れた』と言った。お前達は何か星神とやらを怒らせるような事をしてしまったのか?」
「それは我々にも分かりませぬ。我等はいつも通りの日常を送っていただけ。ですが、今より約一年ほど前…突如としてこの星に数多くの天変地異と怪獣、怪人などが出現し、あっという間に荒廃していったのですじゃ」
「何か前兆のような事は無かったのか?」
「ありませんでした。本当に突然だったのです。嵐が吹き荒れ、大地震が頻発し、それが終わったと思ったら終わることのない強い日照りによって食物は育たなくなり、川や湖は悉く枯れ果て、水源を確保することすらも容易ではなくなりました」
「井戸などは無いのか?」
「嘗ては至る所にありましたが、地震によって破壊され、辛うじて残った井戸も完全に枯れてしまいました」
話を聞けば聞くほどに酷い状況なのがよく分かった。
今もこうして星が残っていること自体が奇跡に近い。
「お前達は、この状況をどうにかしようとは思わなかったのか?」
「勿論、我等とて黙っていたわけではありませぬ。若い者達や男衆などが、まだ無事な場所などを求めて旅に出ました。ですが…」
「一人も帰ってこなかった…か」
「はい。それはこの村だけでなく、他の地域も似たような状況のようで、そのせいで全体的に労働力不足に陥りました」
「それでか…」
よくよく観察すると、その村には若者や男が極端に少なかった。
恐らく、行方不明となってしまった連中の殆どは普段から肉体労働に従事している者達ばかりで、残っているのは女子供や病人、体力が無い者達などなんだろう。
そうなれば星全体が荒廃してしまうのも当然と言えた。
「ところで、どうしてお前達は星神の存在を信じている? 普通に考えれば、そんな存在なんて信じないだろう。何か存在を証明するような物的証拠でもあるのか?」
「古くから言い伝えられている『言い伝え』がありますじゃ」
「言い伝え…だと?」
よりにもよって『言い伝え』。
これには俺達も呆れるしかなかった。
「それと、ここより遠き地に星神様を祭った神殿があると言われております」
「神殿…か」
それを聞いた途端、俺の食指が反応した。
星神を祭った『神殿』。
そこには確実に『何か』があると。
この惑星がこんな風に変わり果てた原因…その一端を知ることが出来る何かが。
「その神殿とやらの場所は分かっているのか?」
「いえ…あくまで噂ですので。ただ…」
「ただ?」
「その神殿は、通常では決して辿り着けない場所に存在しているとか…」
「ふむ…」
そう言われたら、逆に行ってみたくなるというのが好奇心というもの。
補給と修理が終了するまで暇を持て余していた俺は、今後の行動を決めた。
「まさか、星神様の神殿を探すおつもりで?」
「そうだな。探してみてもいいかもとは思った」
「「ボロス様っ!?」」
ゲリュガンシュプとメルザルガルドが驚いたような顔でこっちを見るが、もう俺の心は決まっていた。
「…探すと言うのであればお止はしません。仮に止めたとしても、行きなさるでしょうが…」
「良く分かっているではないか」
「ならば、一つだけお願いしたい事が。もし仮に神殿を見つける事が出来たとしても…」
「中を荒らしたりはせん。そもそも、ここまで荒廃した星にある神殿に金銀財宝の類が残っているとは思えんがな」
「そうですか…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
老婆との話を終えた我々は一旦、停泊している宇宙船に戻ってきた。
「ボロス様! 本当に星神の神殿とやらを探しに行くおつもりですか!?」
「当然だ。フフ…最近はずっと戦いばかりだったからな。こうした『冒険』は久し振りで、柄にもなく興奮している。まるで盗賊団を立ち上げたばかりの頃みたいじゃないか?」
「それは…」
闘争だけでは決して満たされない好奇心。
子供じみた表現をすれば、俺はワクワクしていた。
「どうせだ。お前達も一緒に来い」
「わ…我々もですかッ!?」
「そうだ。一人で冒険をしてもつまらんだろう? それに、どうせ補給や修理はそう簡単には終わらん。それなりの時間が必要だ」
「やめとけってゲリュガンシュプ。こうなった時のボロス様は止めるだけ無駄だってお前も知ってるだろ?」
「うぐ…」
長年ずっと一緒にいただけあって、何も言わずとも俺の事を理解してくれている部下に感謝するしかなかった。
「仕方がないか…。ですが、移動には小型の高速艇をお使いください。あれならば、すぐに船にも戻れます」
「いいだろう。こっちの我儘を聞かせているんだ。それぐらいの言う事は聞くさ」
こうして、俺達は本格的にこの惑星の探索を始める事にした。
しかし、俺達はこの冒険で知ることになる。
この宇宙にはまだ、俺達の想像すらも及ばない程に不可思議な存在がいる事を。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その惑星を本格的に調べていく内に分かった事が多々あった。
まず、星全体的に住人が少ないこと。
恐らくは、一年前に起きた謎の天変地異のせいで大勢の者達が一気に亡くなったせいだろう。
何の前触れもなく発生したのだから、災害対策なんてしたくても出来なかっただろうし、いきなりの事で大混乱だったのは想像に難くない。
そして、宇宙から見たとおり、極端に動植物の数が少ないこと。
まるで最初から荒野の惑星だったと言われても違和感が無い程に星全体が乾燥しきっていた。
『冒険』を始めてから数日、俺達は高速艇に乗って罅割れた大地の上を低空飛行で移動していた。
「うーむ…おかしい…」
「どうかしたのかよ? ゲリュガンシュプ」
「いやな…マップによると我々は今、海上を飛行している筈なのだが…」
「海の上って…海どころか水溜りすらねぇぞ?」
「そうだよなぁ…」
マップは海の上を指しているのに、我々の目にあるのは変わり映えのしない荒野だけ。
俺も最初は不思議に思ったが、荒野の上に大量にある白い物体を見て、不意にある考えが頭を過った。
「まさか…」
「ボロス様? いかがなされました?」
「ゲリュガンシュプ。急いで降りろ。気になることがある」
「はぁ…承知しました」
眼下に広がる大地に降り立った俺は、すぐに足元にある白い物体に手を伸ばして、それを指で掬ってから舌で舐めた。
「ボ…ボロス様? そのような物を舐めて一体何を…」
「これは…まさか…」
それを舐めた瞬間、俺の疑惑が確信に変わった。
「メルザルガルド。お前もこれを舐めて見ろ」
「お…俺もですか?」
「そうだ。良いから舐めてみろ」
「はぁ…」
溜息交じりにメルザルガルドも同じように白い物体を舌で舐める。
すると、奴は顔を顰めながらソレを吐き出した。
「うげっ!? ペッペッ! なんじゃこりゃっ!? しょっぱ!」
「しょ…しょっぱい? ボロス様、もしやこの白い物体は…」
「塩だ。と言う事はつまり…」
俺と同じ答えに至ったのか、ゲリュガンシュプも冷や汗を流しながら驚愕していた。
「あぁ…マップの情報は間違っていなかった。俺達が今、立っているこの場所こそが…嘗て海があった場所…と言う事だ」
「な…っ!? んな馬鹿なッ!? たった一年で海全体が干上がっちまって事ですかッ!?」
「そうなるな。信じられんことだが…」
「ですがボロス様。その割には周囲に魚などの死骸が見当たりませんが…。ここが本当にこの星の海の慣れの果てならば、魚類の死骸が大量に転がっていても不思議じゃない筈…」
そう。
それだけが謎だった。
どうして、ある筈の海洋生物たちの死骸が全く無いのか。
「海と共に消え去った…と考えるべきなのか…」
「そんなまさか…。この海を消し去ったのも、例の『星神』とやらの仕業だと?」
「さぁな。それを調べる為にこうして惑星全体を調べているんだろう。だが、少なくとも我々の常識が通じるような相手じゃないのは確かだろうな。僅か一年で海が干上がるなんて普通は決して有り得ん。だが、その有り得ない事が俺達の目の前で実際に起きている」
「「………」」
ここまで来るともう、自分達の持つ常識は捨てた方が良いかもしれない。
俺達はそう思うようになっていった。
その後、再び高速艇に乗った俺達は移動を開始したが、すぐにまた気になる物を発見する事となった。
「ボロス様。前方に何かあります。あれは…」
「小さな船…形状からして漁船の類か?」
「どうしますか?」
「少し調べてみよう」
「承知しました」
再び降りてから、ボロボロとなった漁船を調査してみる事に。
外から見た瞬間、すぐに違和感に気が付く。
「この船…沈没したって感じじゃねぇな。船底に穴とかが全く無い。まるで落下したみたいだぜ」
「海のど真ん中で船が落下? そんなこと…」
「有り得るかもしれんぞ。突如として『海が消滅』すれば、そこに浮かんでいた船は海底に『落下』する」
自分で言っておきながらも、心の中では『そんな馬鹿な』と思っていた。
だが、考えられるとしたらそれしかなかった。
「…中は調べますか?」
「いや…いいだろう。大体の予想は付く」
「でしょうね…」
船員も消滅しているか。
いたとしても、中途半端に白骨化しているか。
もしくは綺麗に骨となっているか。
「哀れなものだな…。情報によると、嘗ては漁業で栄えていた時期もあり、新鮮な魚介類を使った食事などで有名になっていたらしいし…」
「本当に…滅びる時はあっという間ってことか…」
少し場の空気が湿っぽくなりかけていた時、俺の優れた視力が、ここよりはるか遠くにある『何か』を見つけた。
「む…?」
「ボロス様? 今度はどうしました?」
「何かあるぞ…この先に…」
「この先? マップには何も表示されていませんが…」
「だが、確かに見える。流石に、この距離では少しぼやけているが…」
「実際に行ってみりゃ分かることだ。行こうぜ」
メルザルガルドの言う通り、俺達は自分達の目で確かめてみる事にする為に高速艇を飛ばした。
そして遂に、俺達は目的の場所へと辿り着いたのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「こ…こいつは…まさか…!」
「海底神殿…! 成る程…海の底にあるのならば確かに『通常では決して辿り着けない場所』だ…」
その場所は石で造られていて、パッと見は廃墟のようにも見えるが、よく観察すると壁には未知の言語と思われる文字が刻まれ、石柱や石床などにも細かい装飾が施されている。
分かる者が見れば、すぐにここが『神殿』であると見抜くだろう。
「マップに表示されないのも、ここが海の底にあったからなのか…。こうして干上がってなければ、徒歩で向かうなんて絶対に不可能だしな…」
「海の中にある物なんで地図に書きようがねぇしな。そりゃ何も表示なんてされねぇわ」
その神殿には門のような物は無く、出入り口がポッカリと穴を開けていた。
まるで、入りたく入れと言っているかのように。
「ボロス様…矢張り…?」
「入るぞ。この場所に『星神』とやらの正体に関する情報が眠っているやもしれん。この惑星がこうなってしまった原因も分かるかもな」
「荒廃した惑星の未知の神殿か…。偶にはこういうのも悪くねぇかもな」
そうして、俺達は神殿の中に足を踏み入れた。