S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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この世で最もドス黒い悪

「…これで話は終わりだ」

 

 ボロスの話が終わり、会議室は耳が痛いほどの静寂に包まれていた。

 荒唐無稽と言えばそれまでだが、不思議とここにいる全員がボロスがこの期に及んで世迷い事を抜かすような男とは思っていなかった。

 故に本気で戸惑っている。

 常にクールに振る舞っているフラッシュや、S級ヒーロー達の中で一番の現実主義者であるゾンビマンですら、目を見開きながら冷や汗を掻いている。

 天才ゆえの科学至上主義な童帝ですら、想像すらしなかった話のスケールの大きさに、思わず開いた口が塞がらなくなっている。

 唯一、タツマキだけはいつもと同じような表情に見えるが、良く見たら眉間に皺が寄っているし、腕組みをしている手も僅かにだが震えていた。

 

「…アンタが地球に来る前に、まさかそんな物語があったとはね」

「広大な宇宙を旅していれば、割とよくあることだ…と言いたいが、流石に惑星が消滅する場面には滅多に遭遇は出来ない。皮肉な話だがな」

 

 誰も彼もが声を出すのに躊躇している所に、パチュリーが普通に声を出す。

 彼女も彼女なりに色々と頭の中を整理していたのだが、その前にまずはこの空気をどうにかしなくてはと考え、意を決して会話を開始したのだ。

 

「…ボロスの話したことが真実かどうかは俺達には分からない。だが、一つだけ確信して言えることがある」

「奇遇だなゾンビマン。俺もだ」

「「『星神』とやらは、この世で最も邪悪な存在だ」」

 

 似ているようで真逆の性格をしていると思われていたゾンビマンとフラッシュの意見が合致した。

 それだけでも割と驚くべき事だった。

 

「僕も、フラッシュさんとゾンビマンさんと同じ意見です」

「童帝くん…君もか…」

 

 S級の実質的な頭脳とも言うべき彼が賛同した時点で、他の者達には何も言えなくなる。

 故に、他の者達は敢えて黙って話を聞くことに。

 因みに、サイタマだけは全く話の内容を理解出来ず、途中から半分ぐらい寝ていた。

 

「恐らくだけど…星神には『目的』は無い」

「目的が無いだとっ…!? それはどういうことかねっ!?」

「そのまんまの意味。星神の精神性は『子供』なんだよ」

 

 星神の精神が子供。

 そう言われても、いまいちピンと来ない。

 そこにパチュリーが助け舟を出した。

 

「要するに、星神は『お遊び』で惑星を滅ぼしたり、生み出したりしてるってことよ」

「遊びだと? どういう事だよ?」

 

 ここでようやく声を出した金属バットにも分かり易く説明をする事に。

 

「皆さ…見たことない? 何も知らない子供が遊び半分でアリの巣に水を流したり、蝶の羽を毟ったりしている光景。それと一緒ってこと」

「星神は文字通りの全知全能の力を持っているのかもしれない。けど、奴はその強大な力を何かの役に立てようなんて考えは一切持っていない」

「気紛れ。暇潰し。なんとなく。星神にある考えなんて、恐らくはそれだけでしょうね」

「パチュリーお姉さんの言う通り。星神の行動には一貫性というものが微塵も無い。その気になれば、人類も地球も一瞬で滅ぼせるのに、何故か奴はそれを実行しようとしていない。今までずっとそれは謎だったけど、ボロスさんの話を聞いてすぐに答えが出たよ」

 

 パチュリーと童帝の畳み掛けるような意見の数々。

 それを聞き、思わずシッチは唾を飲んだ。

 

「他の星神はともかくとして、この『地球の星神』にとって、この惑星は単なる『遊び場』に過ぎないってこと」

「『怪人』や『ヒーロー』って存在も、星神にとっては遊びの為の『盤上の駒』にしか過ぎない。今頃、僕達がこうして話し合っている事すらもニコニコしながら見てるんじゃないかな?」

 

 自分達の必死の抵抗も、星神の前では単なる遊び。

 どこまでも掌の上な事に、静かにアトミック侍がブチ切れた。

 

「野郎…舐めた真似をしてくれんじゃねぇか…!」

「真綿で首をジワジワと締め付けるように苦しめ、ワシらに抵抗する隙を敢えて残させる…か。嫌味な事をする神じゃわい」

 

 シルバーファングもまたイヤそうに顔を顰めて、傍にあった茶を啜る。

 

「もしや、つい先日の深海族の突然の侵攻も、その星神とやらが裏で手を引いていたのか…?」

「可能性としては大いにあるわね。当人達は微塵も自覚は無いでしょうけど」

 

 当時、パチュリーがずっと疑問に感じていたこと。

 どうして深海族にばかり有利な状況で事が進んでいたのか。

 実際にはなんてことは無かった。

 単純に、奴らは星神の加護を受けていただけだった。

 人類の意志と力がそれを見事に上回ったのだが。

 

「それと関係あるかどうかは分からないけど…これも見てくれるかな?」

「ん? それは…」

 

 急に童帝がモニターを切り替えて映し出したデータ。

 一瞬、それが何なのかよく分からなかったが、彼が説明してくれた事ですぐに分かった。

 

「実は、僕は密かに常日頃から地球の環境とかを細かく調査してたんだけど…ここを見てくれる?」

「なんだこれは?」

「何かのグラフのようだけど…」

 

 タンクトップマスターとぷりぷりプリズナーが揃って首を傾げる。

 彼らにはそれが何を示すグラフなのかよく分かっていなかった。

 

「これは、地球の海面の高さを示すグラフなんだけど…ここ数年間に渡って、地球全体の海面が急激に上昇し始めてるんだ。今はまだ致命的なことにはなってないけど、もしこの状態が進んで行けば…」

「行けば…?」

「地上は間違いなく海に沈む」

 

 この状況で最も聞きたくなかった言葉。

 ただでさえ逼迫した状況だと言うのに、更に海面上昇問題まで出てくるなんて。

 

「あのー…海の高さが上昇するのって、確か北極や南極の氷が溶けてる事が原因だって、前にテレビで見たことがあるんですけどー…」

「確かに、通常ならこあお姉さんの言う通り、地球温暖化によって氷が溶けて海面上昇ってのが普通なんだけど…」

 

 童帝が別の映像を映し出す。

 今度は巨大な氷の塊の映像だ。

 

「ご覧の通り、北極の氷も南極の氷も最近は殆ど溶けてない。完全に原因不明なんだよ。この海面上昇は。それこそ『神の御業』でもない限りはね」

 

 どう考えても科学では説明が不可能な事象。

 流石の童帝も、ここまで材料が揃ってしまったら嫌でも神の存在を認めるしかなかった。

 

「オゾン層が薄くなったり、気温が無駄に上昇したりってのも、もしかしたら…」

「星神の仕業の可能性が高い…ということか」

 

 最後はジェノスが締めた。

 確かに、これらの事は今でも根本的な原因が解明できておらず、世界中の科学者も殆どお手上げ状態となっていた。

 

「車から出る排気ガスが…って当初は言われていたけど、だとしてもこの変化は余りにも異常過ぎる。ほぼ確実に別の所に原因があるとしか思えないんだよ」

「フッ…星神の考えそうなことだ。奴は、自分の産み出した惑星の住人達が右往左往する様を楽しんでいる節があった。そして、それが無くなると途端に飽きて…」

「星が滅ぶ…」

「そうだ。故に奴は最も危険なのだ」

 

 星神の危険性を最も間近で体験したボロスの言葉には不思議な説得力があった。

 最早、彼の言葉を疑っている者は一人もいない。

 

「で? 結局のところ、どーすんのよ? 神だろうとなんだろうと、アタシがこの手で捻り潰してやるけど、その肝心の相手の詳細やらが分からない事には手の打ちようがないじゃないの」

「そこなんだよなぁ…問題は…」

 

 自信満々ながらも正論をぶつけてきたタツマキに、童帝が初めて頭を抱える。

 敵の正体や目的は判明した。

 けど、相手はそれこそ『神』と呼ばれる存在。

 まるで目の前にある幻影を掴むかのような感覚に、その存在に全く近づけない。

 真に倒すべき相手が分かっているのに、そこに至るまでの道筋が全く見えないのは非常にもどかしかった。

 

「…今は取り敢えず、情報と認識の共有をしておくべきでしょうね」

「パチュリー君の言う通りだな。何もかもが全く分からず不透明な状態から、ようやく一歩前に出た…いや、違うな。やっとスタートラインに立つ事が出来たと言うべきか。それだけでも非常に大きな一歩だ」

 

 どう対策をすればいいのか、それは全く分からない。

 けど、何も知らずに行動するよりは遥かにマシだ。

 

「これからは、怪人たちの動向だけでなく、地球の環境などにも目を向けなくてはいけないな」

「そうね。どこにどんなヒントが転がってるか分からないし」

 

 事態は完全に地球規模にまで拡大している。

 これをどうにかするには、それこそ全てのヒーロー達が一致団結するしかない。

 シッチは本気でそう考えていた。

 

「ふぅ…取り敢えず、今日の会議はここまでにしよう。流石に疲れた…」

「そうね。サイタマなんて、少し前から爆睡してたし」

「んあ? え? 俺? ね…寝てねーよ?」

 

 パチュリーに指摘されてようやく起きたサイタマ。

 言い訳をしても、もう遅いのだが。

 

「大丈夫よ。後で私から噛み砕いて教えてあげるから」

「マジか。サンキューな。パチェ」

 

 やっぱりパチェは頼りになるなー。

 改めてそう実感したサイタマだった。

 

「ところでボロスくん。君はこれからどうする気だ?」

「地球に移住しようと考えている。というか、もうそれしか選択肢は無いだろう」

「ならば、ヒーロー協会の方で君の身分証明書と戸籍を作っておこう」

「いいのか?」

「勿論だとも。君の話が無かったら、我々は未だに何の情報も無しに、正体すら分からぬ相手に戦いを挑もうとしていた。それを考えたら、これぐらいは当然の事だ」

「そうか…ならば、有り難く頂戴しよう」

 

 ここでようやくボロスは微笑を浮かべた。

 それは余裕の笑みなどではなく、安心の笑みだった。

 

「住居に関しては…」

「それなら、ウチの隣に住めばいいんじゃね?」

「そうね。あのアパートなら家賃とか光熱費はいらないし、空いてる部屋なら沢山あるし」

「俺としても、サイタマやパチュリーの近くに住めるのは助かる。こいつ等との戦いで俺は知った。まだまだ伸び代があると。強くなれると。お前達といつでも訓練できる環境なんて、こっちからお願いしたいぐらいだ」

 

 多少は馴染んでも、やっぱりボロスは体育会系だった。

 どこまでも貪欲に強さを追い求める。

 野望や支配のためなどではなく、純粋に高みを目指したいから。

 

「で…では、住居に関してはそのようにしよう。後で君に住民票などを届けるようにしておこう」

「感謝する」

「では、これにて今回の会議を終了とする。皆、ご苦労だった」

 

 会議が終了し、やっと場の空気が軽くなる。

 約一名を除いて。

 

「ん?」

 

 各々に席を立って会議室から出て行こうとする中、一人だけ腕を組んだ状態でジッと座っている男がいた。

 その男の名は『キング』。

 S級7位にして『地上最強』の異名を持つ男。

 

(そう言えば…さっきの会議中も、彼だけは全く発言とかしてなかったわね)

 

 パチュリーの目を持っていても得体の知れない相手。

 ある意味、ボロス以上に謎に包まれていた。

 

「どーしたパチェ? 行こうぜ」

「え? あぁ…そうね。行きましょうか」

 

 サイタマに言われ、パチュリーも一緒に会議室を出る。

 それでもキングは全く動かず、その場に静かに座っていたままだった。

 

 

 




次回、キング編…になるかも?






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