S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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『王』の名を持つ男

 とある町中。

 帽子にフードを深く被った一人の男が人込みの中を静かに歩いていた。

 

(はぁ…今すぐにでもヒーロー辞めたい…)

 

 男の表情は無のままだが、その心の中はかなり饒舌だった。

 

(大体さ…『星神』って一体なんだよって話なんですけど。いきなり意味不明な事を言い出されても、逆にこっちの方が困るっつーの。つい最近だって宇宙船がやってきたりさ、こちとらもうとっくの昔にお腹一杯なんだよ。もうこれ以上、俺を変な事に巻き込まないでくれよ…)

 

 誰にも聞かれないように、そっと大きく溜息を吐く。

 現状を変えたくても変えられない、そんな彼が唯一出来るせめてもの抵抗だった。

 

 その時だった。

 

「ギューハハハハハハハハハッ!!! 俺様は、爬虫類を溺愛する余り、自分自身が爬虫類に変異してしまった怪人シタノビール様だ!! 女ども!! 俺様の子を孕みやがれっ!!」

 

 いきなり飛んでも発言をしながら現れたカメレオンのような姿をした怪人。

 人々は驚き、恐れ、逃げ惑う。

 しかし、彼は知らない。

 これより数秒後、気分は何とも情けなく無様な末路を辿る羽目になることを。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一方その頃。

 同じ街に買い出しに来ていた、毎度お馴染みのサイタマ&パチュリー御一行。

 

「おや? あそこにいるのは、もしや…?」

「知ってる奴か? ジェノス」

「はい。アレは恐らく、この間の会議にも出席していたS級7位のキングです」

 

 その名を聞き、隣で買い物袋を持っていたパチュリーが反応する。

 因みに、彼女達が話している間に例の爬虫類怪人はキングによって無傷で鎮圧されていた。

 

「あぁ…彼か」

「パチェも知ってるのか?」

「知ってるっていうか、気になってた」

「気になってたぁ?」

「うん」

 

 あのパチュリーに興味を持たせるほどの存在。

 それだけで、サイタマ的にも気になった。

 

「彼、あの時の会議でも全く発言せずに沈黙を保っていたし、ボロス達が襲撃してきた時も微動だにしていなかったらしいわ」

「あの騒動の中で…ですか?」

「えぇ。動かなかった理由は不明だけど、全くのノーリアクションなのは相当な胆力がある証拠よ。でも、彼に関する情報は一切不明。前にシッチさんにヒーロー協会内にあるライブラリからキングに関する情報を見せて貰ったけど、その中の殆どの項目が『不明』だったのよ」

 

 何から何まで謎だらけの男。

 であるにも拘らず、数多くの人々やヒーロー達から注目されている。

 

「あの男に関する事と言えば、サイタマ先生やパチュリーさんを差し置いて『地上最強』の称号を持っている事ですが…」

「たったそれだけじゃあねぇ…」

 

 良い機会だし、彼と直接話して何かを聞きだしてみようか。

 今やパチュリーも立派なS級ヒーローなのだし、遠慮をする必要はない筈だ。

 

「ねぇ皆。ちょっと彼と…」

 

 パチュリーがあることを提案しようとした、その時。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「か…怪人だぁぁぁっ!!」

「子供が危ない!!」

「早く逃げろぉぉぉぉぉっ!!」

 

 街中に再びの悲鳴が上がった。

 無論、ヒーローであるサイタマやジェノス、パチュリーやこあは即座に反応して悲鳴が上がった方に視線を向ける。

 

「怪人だと?」

「やっつけますかっ!?」

「いや…少し待て、こあ」

 

 動き出そうとするこあを手で制するジェノス。

 

「先生。パチュリーさん。これは謎に満ちたキングの実力を測るまたとないチャンスかもしれません。少し様子を伺いましょう」

「そうね。でも、いざとなったら、すぐに動けるようにはしておくわよ?」

「勿論です」

「おう」

 

 いつでも飛び出せるように全身に力を籠め、パチュリーとこあは魔力の充填を開始する。

 そうこうしている間に、キングの目の前に巨大な影が立ちはだかる。

 

「…………」

 

 それは、巨大な機械の騎士。

 その手には巨大な剣を持ち、全身から隠そうとしない圧倒的なプレッシャーを放っている。

 

「我が名は『G4』。『組織』によって生み出されし『機神』なり」

 

 自らをG4と名乗った怪人は、すぐに目の前の男の分析を開始する。

 

「データ照合…間違いない。S級7位のキングだな?」

「それが?」

「これより、貴様を抹殺する!」

 

 目の前で堂々と抹殺宣言をされても、キングは微動だにせずズボンのポケットに手を入れたまま。

 そんな彼に気が付いた周囲の一般人が、急に騒ぎ始める。

 

「キ…キングだ! 史上最強のヒーローがいるぞ!!」

「マジでっ!?」

「よ…良かったぁ~…」

「これでもう大丈夫だ~!」

 

 途端に安心し始める周囲の人間達の歓声を無視し、キングは静かに話し始める。

 

「『組織』…だと? この俺をS級ヒーロー7位のキングと知って戦いを挑もうとしているのか?」

「そうだと言っている!!」

 

 突如として目の前に剣を突き付けられ、その勢いで帽子が吹き飛ぶ。

 

「この戦いは我の戦闘AIの性能テストも兼ねている! 隙だらけの貴様を殺しても全く意味が無い! 遠慮は無用だ…全力で掛かって来い!! 本気の貴様と戦い、勝利してこそ意味があるのだ!!」

 

 次々と言葉を並べたてるG4。

 それを聞きながら、キングは頭の中でどうするべきか必死に考えていた。

 

(え? 何? こいつって人工知能で動いてるロボットなワケ? そんなの実際に存在してたんだ…。遂にフィクションが現実に追いついてきましたかーってか? はっはっはっー…って笑ってる場合か。そもそも『組織』って何? どこの誰の事を言ってんの? 冗談抜きで本気で意味不明過ぎて頭がパーになるんですけど…)

 

 ここでキングは、咄嗟に考えた苦しい言い訳を言ってしまった。

 

「戦うのは良いだろう。だが、少し待て」

「なんだと?」

「お前には悪いが、今からトイレに行かせてくれ」

 

 いきなり何言ってんだ。

 普通ならば、そう思われるだろうが、キングが言う事で誰も文句を言わない謎の迫力を持つ言葉へと変わる。

 

「便意を我慢しながらの戦いでは本来の実力の半分も発揮出来ない。それはお前だって本意じゃないだろう? お望みのデータが取れないんだからな」

「…いいだろう」

 

 良かった。

 意外と話せば分かる奴だった。

 

「ただし、貴様が一分遅れるごとに10人ずつ殺す事にする。もし逃げたりしたら、この街から人間は一人もいなくなると思え」

「…了解した」

 

 それだけを言い残し、キングはその場から去って行った。

 

 その光景を近くの物陰から伺っていたパチュリー達は…?

 

「あいつ…中々に強そうな怪人だな」

「高エネルギー感知…あれは怪人と言うよりはロボットですね」

「ロボットねぇ~。アレ系は弱点が明確な分、必ずそれを補うような改造をしている場合が多いから地味に厄介なのよねー」

「うわぁ~…とっても強そうですぅ~…」

 

 その姿は、さながらトーテムポール。

 見ている分には普通に面白かった。

 

「そういやボロスは? あいつ、あーゆーのには敏感に反応しそうだけど」

「ボロスなら、今日はバイトに行ってるわ」

「バイトォ? あいつが?」

「えぇ。シッチさんから地球の戸籍を貰ってから、『少しでも地球の事を学ぶために、まずはなんでもいいから仕事をしてみようと思う。実益も兼ねているから問題は無いだろう』って」

「なんというか…そこら辺の奴よりは遥かに真面目ですね」

「ボロスさんも頑張ってるんですね~」

 

 地球人に完璧に偽装できているボロスだからこそできる芸当。

 ちゃんとヒーロー協会から衣食住の保証はされているにも拘らず、体を動かさずにはいられない。

 戦いと言う場から離れたボロスは、かなりの優等生気質なのかもしれない。

 

「それにしても、あれは相当に強大なパワーを秘めたロボットのようです。もしかしたら、クセーノ博士によって更なる改良を施して貰った今の俺よりも上かもしれない」

「え…? ジェノスさんよりも…?」

「あぁ。最低でも災害レベル『鬼』には達するであろう強敵だ」

 

 不安そうにするこあの頭を撫でて、彼女を安心させながらG4の災害レベルを分析するジェノス。

 

「果たして、キングはあれ程の相手に対し、どのように戦うのか…」

「興味深いわね…」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 近くにある公園の公衆トイレ。

 その個室の中で、キングは渇いた笑いを浮かべながら立ち尽くしていた。

 

「こ…この俺を…殺しに来た…か…。は…ははは…」

 

 気が抜けた瞬間、急激に呼吸が荒くなる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

 顔中に冷や汗が浮き出て、先程まで無表情だった顔が歪む。

 

「はぁ…はぁ…は…はぁぁぁ~…」

 

 そして遂に…崩壊した。

 

(どうして…? なんで…? こうなった…!? 怖えぇ…! めっちゃくちゃ怖えぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!)

 

 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッ。

 個室内に『キングエンジン』を鳴り響かせながら、キングは自分の胸を腕で抑えながら全身を震わせながら目尻に涙を溜めた。

 

(そもそも! 俺は全然全くちっとも強くなんかない!! どこにでもいる、ごく普通の無職でオタクで引き篭もりのニートなんだ!!)

 

 恐怖の余り、青筋を立てながら泣き、同時に引き攣った笑みを浮かべている。

 もう顔中が大渋滞状態だ。

 

(つーか『キングエンジン』ってなんだよっ!? アホかッ!? これは単純に俺が普通以上にビビり過ぎるが故に心臓の音が他人にまで聞こえちまってるだけなんだよ!! 普通の人以上…いや、その何十倍も臆病な人間なんだよっ!!)

 

 どうして、こんな事になってしまったのか。

 まるで走馬灯のように今までの頃が思い返される。

 

(たまたま俺の目の前に災害レベル鬼~竜の怪人が現れて、怖くて目を瞑っている間に誰かがやっつけてくれていた…。そんな場面に五回も出くわした! 偶然に! たったそれだけのことだ!)

 

 遂には口から泡まで吹き出す。

 それ程までに、今の彼は追い詰められていた。

 

(そうしたらヒーロー協会から勝手にS級ヒーローの証明書的なのを送りつけてきた! 『数々の功績を湛える』とか『最強の新人ヒーロー』とか言ってきて! 悪い気分じゃなかったから、否定しようとしなかった俺も悪いけど! まさか…こんな事態になるだなんて想像もしなかった!!)

 

 急激に訪れた極度のストレスで胃に大きな負担が掛かり、突如として激しい吐き気を催し始めた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…! うっ…げぼっ! ぅおぇっ!? はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…!」

 

 咄嗟に口を押え、全身の震えが更に増す。

 もう彼の恐怖心は限界に達しようとしていた。

 

(ヒーロー辞めたい! 死にたくない!! あんなロボット相手じゃ、いつもの名前での威圧も全く通用しないし!! 今にも心臓がはち切れそうだ!!)

 

 思わず腕時計を見ると、さっきからもう約束の10分が経過しようとしていた。

 その瞬間、外から何かがぶつかるような巨大な音が聞こえてきた。

 

「ひぃっ!? こ…この音は…まさか…!?」

 

 遂に起きてしまった。

 彼が最も恐れていた事が。

 

(始まってしまった…! 一分ごとに10人…! ごめん…本当に…ごめんなさい…!)

 

 自分のせいで殺されてしまったであろう人々に、震えながら心の中で何度も謝罪するキングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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