人々の危機に何処からともなくさっそうと現れ、あらゆる敵を一撃の元に葬り去り、名も告げずに去っていく。
そんな…『地上最強のヒーロー』。
それが『キング』と呼ばれる男だった。
今、彼の人生に最大級の危機が現在進行形で訪れていた。
(人が…死ぬ…! それも…大勢…!)
トイレの個室の中で腰が抜け、思わず座り込んでしまったキング。
だがすぐに、外から聞こえてきた炸裂音に反応して立ち上がった。
「ひ…ひぃっ!? あ…あいつ…大暴れしてる…!?」
未だに体は震え、上手く思考は働かない。
それでも必死に今をどうにかする方法を模索する。
「そ…そういや、あいつってば俺の戦闘データがどうのこうのと言ってたけど、マジで意味が分からない! 考えろ…考えるんだ俺…! なんとかして、この状況を乗り切る方法を…!」
頭の中で何度も何度も考え、そして一つの結論に至る。
「あ…………やっぱこれ、どう考えても絶対に無理だわ。マジでどうしようもない。このまま殺されてジ・エンドじゃん」
脳裏に過ったのは、G4の巨大な剣によって真っ二つにされる自分の未来。
それを考えた瞬間、彼の行動は早かった。
「この公衆便所から、さっきのロボットがいる場所まで約二分ほど…」
必死に計算をする。
自分が生き延びる方法を。
「に…逃げられる…かなぁ…?」
次の瞬間、キングはフードを深く被り、今出来る全速力で道路を走り、自分の住んでいるマンションへと向かって行った。
(ごめん…本当にゴメン! ごめんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
少しだけ時間は戻り、先程の場所。
時間になり、G4が暴れ出しそうになった…その時。
「ふんっ!!!」
「!?」
荷物を地面に置いたジェノスが、その鋼鉄の拳でG4の大剣を粉々にへし折っていた。
「まだだ!」
ジェノスが拳を振りかぶり、全力で拳を突き出すと、なんとワイヤーに繋がれた前腕部が凄まじい勢いで飛び出し、G4の顔面に直撃し、その巨体を大きく吹き飛ばした!
「おぉ~! なんだそれ? ロケットパンチ?」
「いえ。これはワイヤード・フィストです」
「微妙に違うのね」
「難しいですね~」
そうして話している間に、倒れた筈のG4が背部ブースターを利用して飛び上がり、落下の勢いを利用してジェノスを踏み潰そうとしてきた!
だが、そんな安直な攻撃を受けるようなジェノスではなかった。
「甘い!」
胴体部の緊急離脱用ブースターを利用し、即座に僅かな後方移動し回避に成功する。
今の所は互角だが、ここからどうなるかは分からない。
また壊れて、修理で研究所行きになるではないか。
それを懸念したサイタマは、ここで珍しく『助言』をする事に。
「おいジェノス。ちょっと聞け」
「先生?」
戦闘中とはいえ、あのサイタマからの話となれば話は別。
即座にジェノスは話を聞く体勢になった。
それを見て、こあは小首を傾げ、パチュリーは楽しそうに笑みを浮かべた。
「まだ俺がプロヒーローになる前、今みたいな強さを得る前もだが、俺はずっとパチェと一緒に活動をしていた。たった一人じゃできない事も、パチェと一緒なら何でも出来た」
その話は以前にも聞いた。
けど、その事を話したいわけじゃないのだろう。
きっと、本題はここから何だとジェノスは心の中で構えた。
「ジェノス。お前はまだまだ発展途上だ。これからもっと強くなれる可能性を十分に秘めている。そんな時期に、無理して一人で頑張る必要はないんだぞ。苦戦すると思ったら、素直に誰かを頼れ。俺にはパチェと言う相棒がいた。じゃあ、お前の相棒…傍にいる奴は誰だ?」
「俺の…傍にいるのは…」
そう言われてすぐに思い付いたのは、こあの存在。
知らず知らずのうちに、自分の中でサイタマやパチュリーと同じぐらいに大きな存在となっていた少女。
「分かったみたいね」
「だな。ジェノス!」
「はい!」
「二人三脚で前に進むってのも…意外と悪くないもんだぜ?」
それはサイタマが実感した事。
パチュリーがいなかったら、今の自分はどうなっていたか分からない。
言葉には出さないが、サイタマはパチュリーに対して全幅の信頼と多大な感謝の念を抱いている。
だからこそ、彼はパチュリーに頼ることを躊躇わない。
彼女が自分にとって、最も大切で掛け替えのない、そして信頼できるパートナであるから。
「こあ!」
「は…はい!」
「ここは任せるから、ジェノス君と協力してアイツを倒しなさい! いいわね!」
「わ…分かりました!」
もう自分も立派なヒーロー。
戦いには自信はまだないが、それでも今の自分に出来る全力でジェノスを支え、勝利へと導く。
「先生とパチュリーさんはどうするのですか?」
「私達は、キングの事を追い駆けてみるわ」
「だな。色々と聞きたい事もあるし」
「分かりました!」
サイタマとパチュリーがこの場から去ろうとしたら、不意にG4がパチュリーの方を見て分析を始めた。
「…分析完了。S級ヒーローのパチュリーか。キングの代わりに奴を…」
「させると…」
「思うんですか?」
一瞬でG4の顔面部まで飛びあがり、全力のパンチで再びG4を地面に倒す。
その際、ジェノスの体はこあの補助魔法である『バイギルト』で攻撃力を倍に上げていた。
「俺の援護を頼むぞ…こあ!」
「はい! ジェノスさんの背中は私が守ります!」
「あぁ! いくぞ!!」
こうして、弟子コンビと謎の戦闘機械との戦いが始まり、それを横目で見ながらパチュリーとサイタマは改めてこの場から去って行った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その後。
キングを追い駆けていったパチュリーとサイタマは…。
「彼の足が思ったよりも遅くて、すぐに追跡は出来たけど…」
「あいつ、この高級マンションに入って行かなかったか?」
どう考えても普通に一般人が住む事なんて許されないような高級住宅。
S級ヒーローは伊達じゃないと言う事なのか。
「入るか?」
「そうしたいけど…こういう場所って、一階の所に管理人やら警備員がいて、部外者は入れないようになってるもんじゃない?」
「S級ヒーローとB級ヒーローでも駄目か?」
「駄目なんじゃない?」
「そっか…」
普通に玄関から入れないのならば、一体どうやるべきか。
少しだけ考えてから、サイタマはすぐに実に彼らしいパワープレイを思い付く。
「…窓から入るか」
「マジで?」
「それしかねーじゃん。俺はジャンプすればいいし、パチェは普通に空を飛べるだろ?」
「…それもそうね。問題は彼が何階に住んでるかだけど…ライブラ」
ここで試しにライブラ発動。
基本的に何でも調べられる調査魔法なので、ダメ元でやってみた。
「あ…見つけた」
「マジで?」
「うん。彼、どうやら22階の、ここから見て右から三番目の部屋に住んでるみたい」
「すげーなー。んじゃ、行くか」
「はいはい」
自他ともに認める頭脳派であるパチュリーだが、いつの間にかサイタマと似たような思考になっている事に気が付かないまま、二人揃って仲良く謎の空中散歩をする事になったのだった。
勿論、姿を消す特殊な葉『きえさり草』を使って。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
同時刻。
キングの部屋。
「はぁ…はぁ…はぁ…! な…なんとかして逃げる事には成功したけど…マジで夢に出てきそうだな…あの怖いロボット…」
リビングのドアにへばりつきながら呼吸を整える。
ようやく自分の部屋と言う安全地帯に戻って来れたことで、少しだけ冷静さを取り戻したようだ。
「こんな時は…ゲームでもやって嫌な事は忘れよう…」
と言うことで、実は密かに購入していた新作ゲームのディスクを本体に入れつつコントローラーを手に取る。
「やっぱり…恋愛ゲームこそが心のオアシスだよなぁ…」
現実で良い出会いなんて全く無いキングにとって、これこそが異性と正面からである唯一無二の機会なのだ。
あくまでゲームの中でだが。
「流石はどきどきシスターズの新作…今回もオープニングが凝ってるなぁ…。これはワクワクが止まりませんな」
『起キテー! オ兄チャン! 朝ダヨ―――!』
「うっわ…なんだ、この素人丸出しの声優…。棒読みにも程があるでしょ…」
ゲームの出来に呆れながらも、テキストを読み進めていく。
途中で、主人公の名前入力画面になった。
「『主人公の名前を入力してください』…か。流石に本名は照れ臭いよな~…29にもなって。どうしようかな~」
「普通に『キング』でよくね?」
「それはちょっと安直じゃない?」
「そうそう。ヒーロー名はちょっとね~。ゲームのキャラに『キングお兄ちゃん♡』なんて呼ばれているのを誰かに見られた日にゃ、マジでもう死ぬしかないッつーか……え?」
「「え?」」
「「「え?」」」
ここで一瞬、部屋の空気が凍りつき、時間が止まった。
キングの背後にいつの間にか、サイタマとパチュリーが立っていたから。
(え? え~~~~~~っと…? え? いや…何この人達…? なんで俺の部屋に普通にいるの…?)
冗談抜きでキングは意味が分からず混乱した。
自分以外いる筈の無い部屋に、自分以外の人間がいるのだから当然だが。
「窓が開いてたもんで」
「ちゃんと窓締まりはしないとダメよ?」
「ここ…22階なんですけど?」
この二人に、その辺の常識を問うのは無駄ってもんである。
「こ…困るんだけどなぁ~? 勝手に部屋の中に入って来られちゃ…」
「それに関しては御免なさいね。ちゃんと謝るわ」
「う…うん…」
女の子から正面から謝られて、女性経験皆無なキングは思わず許してしまった。
いつの世も美少女は無敵なのだ。
「謝るのは良いけど、それでもこれはなぁ~…? この俺がS級ヒーローだと知っての事なのかな…?」
「うん。知ってるよ。キングだろ?」
「つーか、今は私もS級ヒーローだし」
「え?」
ここでようやくキングは全てを思い出す。
(お…思い出した! こいつは、何故か会議に出席していたB級ヒーローっ!? それに、こっちの女の子は少し前に新しくS級に昇格したって子なんじゃっ!?)
実はあの時、会議の内容なんて殆ど理解出来ていなかったキングは、辛うじてパチュリーやサイタマの事だけは覚えていた。
因みに、星神云々は、そのインパクトの強さ故に辛うじて頭の中に入っていた。
「にしても…まさか、コレ系のゲームをやる奴とは思ってなかったよ」
「そうね。もしかして、女に飢えてるのかしら?」
『オ兄チャン! 名前ヲ決メテネ!』
「わ――――――――――――!!!!!」
見られた。
ほんの少しとは言え、知っている人間に自分が恋愛ゲームをしている場面を見られた。
しかも、一人はキングすらも見惚れるほどの美少女。
普通に考えても黒歴史確定である。
そんなキングの心境なんて全く知らないまま、サイマタは徐に近くにあったゲームのパッケージを拾い上げた。
「ん? なんだ、このゲーム? なんか面白そうだな」
「あ! ちょ…やめ…! えっ!? それはアクションゲームだ!」
「へー」
パッケージには、なにやらカッコいいロボットのイラストが描かれてある。
こういうのにはあまり詳しくないパチュリーだが、だからこそ好奇心が出てきた。
「これ、このロボットを動かして遊ぶのかしら?」
「そうそうそう! 本当はこれ系のゲームが大好きなんだけど、このゲームもアクション系かと思ってたのに、間違えて恋愛ゲームとか買っちゃったー! はははー!」
もう見ていて悲しくなる程に焦って、キングはさっきまで遊んでいたゲームのパッケージを床に叩きつけた。
「…これ『どきどきシスターズ』って書いてあるけど?」
「マジでッ!? てっきり『怒気怒気シューティングスター』かと思ってたよー! あ~騙されたな~! すぐに捨てよーっと!!」
もう必死だった。
別の意味で人生の大ピンチ。
「おっと! すぐに電源を切らないと電気代の無駄になっちゃうなー! 29にもなって恋愛ゲームを間違えて買っちゃうとかマジで恥ずかし~! あはははは~!」
気休めの証拠隠滅。
だが、天然のサイタマとパチュリーの牙城は、この程度では崩れない。
「じゃあさ、こっちのをやろうぜ」
「そうね。ちょっと興味もあるし、こういうのをやりながらの方が話もし易いだろうし」
「うんうんそうだよね! そっちの方が面白そう……え?」
ここで急に我に返る。
頭が冷えて二人の方を見た。
「や…やるの? これ?」
「「うん」」
二人揃って仲良く頷く。
もう断れるような雰囲気じゃない。
「え? ダメなの? だって暇だろ?」
「現場で頑張ってる二人には申し訳ないけど、これでアナタと話が出来るのなら、私は別に構わないわよ?」
「あー…いや…うん…はい…」
別の意味で頭が痛くなってくる。
一難去ってまた一難とは、まさにこの事だった。
(な…なんなんだ、この二人組は~!? なんか普通に図々しいし、タメ口だし、一応こっちの方が年上なんだぞ~!? あと…話って何の事? 俺と話がしたいの? この女の子が? 彼女いない歴=年齢のこの俺が、こんな美少女とお話? い…いや…それは普通に嬉しいけど…でもなぁ~…)
意味不明な状況と、女の子と話が出来ると言う状況に揺れ動く、悲しき男のキングであった。