S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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偽りの王

 突如として出現した謎の機械怪人『G4』。

 ジェノスとこあの連携により倒すことに成功したと思ったら、中から別の小型の機体が出現し、いきなりのビーム攻撃を仕掛けてきた。

 

「チッ…なんて弾幕だ…! こあ、大丈夫かっ!?」

「は…はい! なんとか…!」

 

 こあの唱えた特殊攻撃反射魔法『マハラカーン』によって、辛うじてビーム攻撃は防げているが、余りの攻撃の量に攻撃も仕掛けられないのが現状だった。

 

「こちらの攻撃を防ぐ障壁か。市民への被害を出さないようにしたが故の判断だろうが…所詮は無駄な足掻きだ!」

 

 一息…僅かな時間ではあるが、G4本体のビーム攻撃が止んだ。

 それを見て、ジェノスはある予想を立てる。

 

(こあ…良く聞け)

(なんですか?)

(もしかしたら、奴は連続してのビーム攻撃は出来ないのかもしれない)

(そ…そうなんですか?)

(もしかしたら、だけどな。俺もそうなんだが、高エネルギーを使う攻撃は、使用すると必然的に内部に熱が溜まっていく。故に、オーバーヒートを防ぐ為の冷却作業を行わないといけないんだ)

(それが…今?)

(恐らくはな。確かに奴の弾幕は非常に厚いが、強力であるが故の隙もまた生じるってことだ。それを上手く突けば…)

(勝てる!)

(そういう事だ。こあ、今から奴に最後のコンビネーションを仕掛ける。俺の言う通りにしてくれ。出来るか?)

(任せてください!)

(あぁ…頼んだぞ!)

 

 小声での作戦会議。

 この間、僅か五秒ほど。

 

「最後の作戦会議は終わったか?」

「お蔭様でな」

「ならば…これで死ね! 我が目標はあくまでキングのみ!!」

 

 再びG4がビームを撃とうとした瞬間、ジェノスが高速移動にてその場を離れ、偶然にも安全対策として道端に設置してあった『それ』を見つけ、迷う事無くG4目掛けて蹴り飛ばした!

 

「はぁっ!」

「無駄だ!!」

 

 飛んできたそれを当然のようにビームで迎撃するが、それは悪手だった。

 

「ぐがぁっ!?」

 

 ジェノスが蹴った『それ』はビームが命中した事で空中で破裂し、中から大量の白い粉を撒き散らし、G4の全身を真っ白に染めた。

 

「くっ…! これは…消火剤…!? 今のは消火器か! おのれ…味な真似を…!」

 

 ビームの発射口も消火剤によって防がれ、一時的とはいえ攻撃を封じられた。

 すぐに小型のワイパーによって発射口を防いでいる消火剤を取り除いたが、それがG4にとって致命的な隙となった。

 

「そんなに邪魔なら…私が洗い流してあげましょうか?」

「し…しまっ…!?」

 

 G4の視線の先では、すでにこあが魔力の充填と呪文の詠唱を終えていた。

 彼女の足元に広がるのは青い魔方陣。

 それが表すのは『水』。

 

「ウォータガ!!」

「こ…これはっ!?」

 

 G4の頭上に超巨大な水の塊が出現し、それがそのまま落下した!

 それによりG4の全身が水に濡れたが、それだけが目的ではない。

 

「我が機械であるが故に水を使った攻撃か。だが残念だったな。我の体には完全防水加工が施されている。この程度の水攻撃では…」

 

 水での攻撃を本命と思う。

 それがミステイクだった。

 

「待てよ…水…? この近くには、まだ熱を帯びている我の外殻が…はっ!? ま…まさかっ!?」

 

 気付いた時にはもう時既に遅し。

 こあの放ったウォータガの水は、見事にG4の外殻にも及び、その熱とぶつかった結果…。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 巨大な水蒸気となって、G4の周囲を完全に覆い尽くした。

 

「真の本命は…これだったのかッ!?」

「そうだ」

 

 戸惑っている間に水蒸気の向こうからワイヤーが飛んできて、G4の全身を拘束する。

 

「う…ぐぐぐぐ…! おのれぇ…! このような物でぇぇ…!」

「無駄ですよ」

「湯気は光を拡散する。もう貴様の攻撃は使えない」

 

 身動きも、攻撃も封印され、僅かに晴れた水蒸気の向こうには、電光を拳に纏わせたジェノスと、その手から雷を迸らせているこあの姿が。

 

「貴様はキングの事を狙っているようだが…」

「私達は、あの人よりもずっと強い人達を知っています」

「そして、お前などよりも…」

「私達の方が強いです」

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 辛うじてワイヤーから出した右腕を構え、ジェノスに突撃してくるG4。

 だが、判断が遅すぎた。

 

「ハイボルテージフィスト!! 最大出力!!!」

「ジオダイン!!!」

 

 二つの最大電気攻撃がG4に炸裂した。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 あの時も。

 この時も。

 その時も。

 

 あの時も。あの時も。あの時も。

 

 キング()は単なる『被害者』だった。

 

 そんな日々を過ごしていくだけで金が自動的に手元に入ってくる。

 勘違いをした人々が勝手に貢ぐようになっていったから。

  

 その現場に居合わせた。

 それだけで彼が全て倒したと思っている。

 だが実際には、今までの人生の中で喧嘩すらしたことが無い。

 

 『キング』。

 それはヒーロー協会が『ヒーローの頂点の風格』や『生態系の頂点』と言った意味を込めてつけられた名前。

 

(はっ…笑えるぜ)

 

 キングは自分自身の愚かさに嫌気が差し、心の中で思わず笑う。

 

(何もかもが全て間違っているんだ! 本当の俺は嘘の塊のような男! 世間の皆が憧れている『キング』は俺なんかじゃない! 本物の『キング』は必ずどこかにいる筈なんだ!!)

 

 もう迷っている暇なんて無い。

 今こそが全てを打ち明ける最大にして最後のチャンス。

 そんな彼の葛藤なんて全く知らないサイタマとパチュリーは、この期に及んでも呑気な会話をしていた。

 

「ねぇ。この鳥…私がどうにかして良い?」

「別にいいけど…何をする気だ?」

「なんか急に焼き鳥が食べたくなったのよね」

「あぁー…なんか分かった」

 

 トコトコと巨大な怪鳥に向かって歩いて行くパチュリー。

 傍から見ていると、無謀極まりない行為だが、ただデカい程度の鳥でパチュリーをどうにか出来れば誰も苦労なんてしない。

 

(あ…危ない!! あの女の子がデカい鳥に向かって歩いていく! あぁ…急いで言わないと…今! ここで! 本当の事を言わないと! 死ぬ!!)

 

 パチュリーがS級だと言う事も忘れ、普通の女の子として見てしまっていたキングは、彼女の事を案じ、遂に決意を固める。

 

「じ…実は…俺は…俺は…!」

 

 その時、巨大怪鳥が突如として咆哮を挙げた。

 同時に無理矢理に巨大な体を突っ込ませようとしたが…。

 

 凄まじい熱と熱風が部屋中を覆い尽くし、思わずキングは目を瞑りながら必死に叫ぶ。

 今の一撃に火災報知機が稼働してスプリンクラーが降り注ぐが、そんな事なんて気にしている場合じゃない。

 

(い…今の音と熱は一体なんだっ!? あの二人は食われてしまったのかッ!? あぁ…俺なんかが傍にいたからか…すまない…! 俺には君達を守る力なんて微塵も無かったんだよ…! 今更だって思われるだろうけど…許してくれ…!)

 

 恐る恐る目を開けると、そこにあったのは…。

 

「え? その話…マジで言ってる?」

「今までの評判も戦歴も全てが虚構…ね。それならば一応の筋が通るわね」

 

 部屋に壁に大きな穴が開き、穴の周辺はまるで熱に溶かされたかのようにドロドロになっている。

 そこに立っているのは、煤汚れたサイタマと、呑気にジュースを飲んでいるパチュリーの二人。

 

「な……!?」

 

 信じられなかった。

 災害レベル『鬼』を、全く苦戦せず、たった一撃で倒してしまった。

 先程の会話から察するに、恐らくはあの少女…パチュリーが。

 でも、最初の怪鳥の襲撃を片手で防いだことから、サイタマも同レベルの実力者なのは分かった。

 

(なんで…普通に立ってる…? さっきのデカい鳥は? は? え…は? こ…この二人…倒した…のか…? 災害レベル『鬼』を…?)

「今の鳥で漏らすって事は…マジみたいだな」

「別の意味で色々と聞きたくなったわ」

 

 現実感皆無な光景に、一瞬だけ意識が遠くなる。

 

「大丈夫か?」

「どこか怪我でもしたの?」

 

 二人の声を聴いた時、不意にキングの脳裏にある記憶が呼び起される。

 それはまだ彼がヒーローじゃ無かった頃。

 否、ヒーロー協会と言う組織すら、まだ生まれていなかった頃の話。

 

(こ…この…声は…!)

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「う…うわぁぁぁっ!? なんか出たぁぁぁぁッ!?」

「逃げろ! 逃げろぉぉぉぉっ!」

 

 街中に突如として出現した巨大な怪物。

 人々は逃げまどい、場は混乱に包まれる。

 

「俺は災害レベル『虎』のタコヅメ男だ! 人間ども、覚悟しろ~!」

「ひ…ひぃぃぃぃっ!?」

 

 逃げ遅れてしまった一人の青年が尻餅をつき、怯えながら必死に立とうとするが、腰が抜けて上手く立ち上がれない。

 だが、タコヅメ男にはそんな相手の都合なんて関係ない。

 容赦なく、その鋭い爪によるひっかき攻撃を繰り出し、青年の顔の左半分に三本戦の切り傷をつける。

 

「ぎ…ぎゃぁぁぁぁぁっ!? 目が! 目がぁぁぁぁぁっ! 誰か…誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!! ああぁぁぁぁっ!?」

 

 余りの痛みに地面をのた打ち回る青年。

 だがその時、いきなり何かが殴られるような音と、何かが爆発するような音が聞こえた。

 

「おい、落ち着けって」

「もう大丈夫よ。怪人は私達がやっつけたわ」

「え…!?」

 

 彼の事を心配する優しい声を聞き、少しずつではあるが冷静さを取り戻す。

 

「目ぇ平気か? ちょっと診てやってくれよ」

「分かってるわ。えーっと…うん。そこまで深い傷じゃないわ。傷跡こそ残るかもだけど、失明はしてない。ほら、ゆっくりでいいから目を開けてみて」

 

 言われるがままに、痛みを我慢しながらそっと目を開ける。

 視界に映ったのは二つの影。

 

「ちゃんと目は見えるか?」

「ちょっと待っててね。今、回復魔法を掛けてあげるから」

「あ…あなた達は…?」

 

 段々と視界がクリアになっていき、目の前の二人の姿が明らかになっていく。

 

「ん? 俺達か? う~ん…まぁ…なんだ」

 

 それは、全身傷だらけでジャージを着ている青年と、その傍に寄り添う同じジャージを着ている紫髪の少女。

 

「趣味でヒーローを目指している者と…」

「趣味で魔法使いを目指している者よ」

「ヒーロー…? 魔法使い…?」

「おう。もし近い将来、ヒーローと魔法使いのコンビが現れたら、それは多分、俺達だぜ」

 

 酷い怪我をしているのに、青年は何でもなさそうに笑っている。

 そんな彼の横では、少女が呆れたように溜息をついていた。

 

「こんな怪我、全然大したことねー。つーか、今回は大金星。な?」

「そうね。私も良い実験が出来たし。結果としては上々かしらね」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

(こ…この人達は…あの時の…)

 

 全ての線が一本に繋がった。

 ここで遂にキングの涙腺が完全崩壊した。

 

「うっ…うぅぅ…」

「えっ!? ちょ…いきなりどうしたのよッ!?」

「ど…どした!? そんなに怖かったのかッ!?」

「うぅ…ずびばぜ…ひっく…」

 

 それから十数分後。

 キングも落ち着き、その間に巨大怪鳥を自分達が倒したことをヒーロー協会に報告し終えてから、改めてキングから話を聞くことに。

 

「なぁ…お前、楽しいのか? 嘘つきながらビクビク怯えてヒーローなんかやってて」

「た…楽しくない…」

「でしょうね。それが普通だわ」

「まぁ…俺達には関係ないし、説教とかもするつもりも無いけどさ」

「け…けど…俺がサイタマさんやパチュリーさんの手柄を横取りしたようなもんだし…」

「私達はそんなの全く気にしてない。っていうか、問題はそこじゃないでしょ?」

「パチェの言う通りだ。理由はどうあれ、お前は皆のヒーローなんだぜ?」

「い…いや…俺は…」

「言い訳しない。アナタが自分の事をどう思おうとも、少なくとも皆はアナタの事を最強のヒーローだと信じている」

 

 説教じゃないと言いつつも、やってる事は完全に説教な二人。

 年下の男女を目の前にしながら、正座をした状態で話をしている光景は中々にシュールだった。

 

「ねぇキング。このまま嘘を貫き通すつもり? それとも潔くヒーローを辞める?」

「な…中々…そのどっちも決める度胸が無くて…」

「だったら、本当に強くなって嘘を本当にすればいいだけなんじゃねぇか?」

「単純だけど、彼の為にもそれが一番ね」

「…………え?」

 

 なんか急に凄い事を言われて素に戻るキング。

 

「それじゃ、そろそろ俺達は帰るな」

「あ、そうそう。ついでだから、これだけは伝えておくわ。さっきアナタの命を狙ってたロボットだけど、ジェノス君とこあがちゃんと倒したらしいわよ。その点は安心して良いわ」

「あのロボットが…!?」

 

 あんな怖そうな奴を倒せる者が、この二人以外にもいるだなんて。

 キングはそれを聞き、増々自分が惨めになってきた。

 

「って…ちょっと待っ…!」

「「なに?」」

「怒らないのかッ!?」

「「何を?」」

「何をって…」

 

 余りにもあっけらかんとした二人に、思わずキングも毒気を抜かれる。

 

(だって…二人とも本気でヒーローを目指していたのに、俺なんかのせいで…!)

 

 別にパチュリーはヒーローを目指したりはしていない。

 ヒーローになったのは殆ど成り行きである。

 

「それじゃ、偶にゲームしに遊びに来るから」

「またね」

「え…? あ…うん…また…」

 

 こうして、パチュリーとサイタマにまた新たな交友関係が生まれた。

 それは他称『地上最強』のキング。

 この出会いが、後に意外な形で世界の命運を左右することになるとは、今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

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