S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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やっぱりこうなる

「究極奥義?」

「そうだ! 貴様等に与えられた屈辱…それを晴らす為だけに産み出した俺の切り札! 受けてみるがいい!!」

 

 全身から非常に濃密な殺気を出しているソニック。

 サイタマとジェノス、パチュリーは平気そうにしているが、フブキは驚きの余り、大きく目を見開いたまま動けないでいた。

 因みに、マツゲと山猿はとっくの昔に立ったまま気を失っている。

 

「そうか。なら見せてみろ」

「望むところだ!!」

 

 突如として、ソニックの体が大きく揺らぎ始める。

 それは、彼が最初から本気だと言う証拠でもあった。

 

「サイタマー。私は何かした方がいいー?」

「んー…別に大丈夫だろ? だってソニックだし」

「それもそーね。んじゃ、頑張ってー」

「おー」

 

 なんて適当な会話。

 フブキから見たら考えられなかった。

 どう考えても無謀な勝負。

 なのに、パチュリーは全く心配しないどころか、その場で普通にスマホを弄りだした。

 

「舐めやがって…! その減らず口を永遠に聞けないようにしてやる!!」

「そっか。なら、やってみせろよ」

「言われるまでも無い!! これが…俺の究極奥義!! その名も…」

 

 なんと、ソニックの体が10個に分身し、それぞれがサイタマに向かって襲い掛かって来た。

 ただ分身しただけでなく、その速度もまた常軌を逸している。

 常人ならば肉眼で視認する事すら不可能だろう。

 

「十影葬!!!!」

 

 ソニックの繰り出した切り札に対し、ジェノスは冷静に分析をし、フブキは驚愕の余り冷や汗を掻き、パチュリーは呑気に感心していた。

 

「十個に分身をしただと…!? 一体どれだけの鍛錬を積めば、これ程の技を…! 確かに恐るべき奥義ではあるが…それでも…矢張り…!」

「あの男…単純な戦闘技術だけならば間違いなくS級レベル…! 普通に考えたらB級のサイタマに勝ち目はない…ない筈…なのに…」

「あらー。ソニック君ってばやるわねー。身体能力と体術だけでブリンクと同じことをするだなんてー」

 

 攻撃を仕掛ける刹那、ソニックは考える。

 今までの鍛錬を。己の中にある決意を。

 

(情けない話だが…どれだけ鍛錬を積んでも、こうして実際にお前を前にすると全く勝ち目がないように思えてしまう…だが! なんとしても、お前に勝利し…この敗北のイメージを心の中から払拭しないと! 俺は一歩だって前には進めないんだ!! だから!!)

 

 十の刃が無防備なサイタマに迫る。

 このまま棒立ちでは、その体がズタボロにされる。

 その時だった。

 

必殺…マジシリーズ

「え?」

 

 瞬間、ソニックの眼前に無数のサイタマの分身が出現した。

 

「マジ反復横跳び」

 

 それはもう十とか二十なんてもんじゃない。

 数え切れないほどのサイタマの分身が、超高速で目の前を左右に往復している。

 さながら、台風時の濁流の如き光景。

 少しでも巻き込まれたら一瞬で粉砕される。

 

「あばっふっ!?」

 

 余りにも衝撃的な光景に、思わず変な声を出してしまったソニック。

 走り出した車が急に止まれないように、最高速に達したソニックもまた急には止まれない。

 結果、彼はそのまま目の前の大量のサイタマの分身の濁流に巻き込まれ、全ての分身は消滅。

 ソニック自身は避ける事に全力を注いだお蔭で辛うじて致命傷を避ける事には成功したが、それでも無傷とはいかない上に、着地にも失敗して地面の上に転げ落ちた。

 

「き…貴様…一体…何を…し…」

「別に…反復横跳びをしながら通り過ぎただけだ」

(反復横跳び…だと…!? ふざけるな…! その衝撃波だけで…これ程の威力があると言うのか…! 予備動作も無しに繰り出された無数の分身…俺のよりも…遥かに速かった…! くそっ…!)

「つ…次こそは…かなら…ず…ガク」

 

 典型的な負け台詞を吐いてから、ソニックは気絶した。

 

「死んだか」

「いや!? 別に殺してはねーよッ!?」

「っていうか、ソニック君も、あの程度で死ぬような軟な鍛え方はしてないでしょ…多分」

「そ…そーだよなー! あれぐらいじゃソニックは死なないよなー! って…あれ? なんかいなくなってるし…」

 

 あれ程の戦いがあったと言うのに、和気藹々としているサイタマ達を見てドン引きしつつ、同時にフブキは戦慄していた。

 

(つ…強すぎる…! どう考えても普通じゃない…!)

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「私は…『一番』になれなかった」

 

 なんか、いきなり始まったフブキの独白。

 因みに場所は、いつの間にか部屋の中に移っていた。

 

「頭脳…体力…要領の良さ…そして、生まれ持った超能力。本来なら、私はトップに立つべき存在の筈だった。そう…『あの人』がいなければ」

「あの人?」

 

 少しだけ間を置き、フブキはゆっくりを吐き出すようにその名を言った。

 

「私の実姉であり、同時に最強の超能力者でもあるS級ヒーロー…戦慄のタツマキ」

「あなた…タツマキの妹さんだったの?」

「そうよ。昔から孤高であることを貫いていた筈の姉さんが、アナタと共闘をしたって聞かされた時は耳を疑ったわ。でも…今日、実際に会って納得した。パチュリー…アナタもまた立派に『あちら側』の住人だって事が。姉に認められるのも分かるわ…」

「私は別に本気とか出してないんだけど…」

 

 パチュリー的には、別にどっち側であっても関係ないし興味も無い。

 自分の立ち位置は常にサイタマ達と同じだと思っているから。

 

「あ…お茶どうぞ」

「ん…ありがと。貴女にも変に絡んじゃったわね。ごめんなさい」

「いえ…私なら別に気してませんから」

 

 こあから差し出された茶を飲んで一息入れるフブキ。

 あれから室内にいたこあにも事情を話し、ある程度の情報共有をしておいた。

 

「それにしても、まさか外でそんな事が起きてたなんて…ちょっと騒がしいなーとは思いましたけど」

「あれだけの出来事を『ちょっと』で済ませるの…?」

「この近辺じゃ日常茶飯事ですし」

「だなー。相手がソニックか怪人かの違いだもんな」

「それだけ、こあも場慣れしてきたと言う証拠だろう」

 

 こあの図太さに半ば呆れるフブキに対し、とことんまで褒めるジェノス。

 それだけで彼の機嫌は一気によくなった。

 

「話を戻すけど…あの姉のお蔭で、今までの人生で何かで一番になれたことは一度も無かった。しかも、今じゃあの人は天下のS級ヒーローの2位と言う地位についている。だから私は、B級1位になった時に決めたの」

「何を?」

「今のこの位置を維持しながらB級以下のヒーロー達を束ねて、単独至上主義の姉を超えてみせようって」

 

 話だけを聞くと、自分なりに出来る事を考えてから必死に足掻いているようにも感じるが、それとは裏腹にフブキ本人の表情は暗いままだった。

 

「あの女…タツマキは俺やパチュリーさんと同じS級だろう? どうしてA級1位を目指そうと思わない?」

「確かになー。実際、パチェだって一瞬だけとはいえA級1位になったから、そのままS級に繰り上げられたんだし」

「サイタマ先生の言う通りだ。タツマキやパチュリーさん程ではないにしろ、お前だって十分に強力な超能力者…十分にA級の上位を狙えるんじゃないのか?」

「そうよねぇ…何か理由があるの?」

 

 ジェノスとサイタマとパチュリーに褒められるように言われたが、ヒーロー業界に厳しい現実を知っているフブキはその言葉を即座に否定した。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど…A級は無理よ。パチュリー…アナタは例外中の例外。最初からS級クラスの実力を持っていたから実際にS級になれたのよ」

「それは…」

 

 否定したいけど、それに関しては協会幹部の連中からも過去に言われていたので何も言えない。

 

「A級上位に食い込むこと自体は、やろうと思えば出来なくはない…かもだけど…」

「だけど?」

「A級1位にだけは絶対になれない。少なくとも…私達のようにB級で甘んじているような連中には」

「え? そうなんですか?」

 

 現在A級にいるこあが思わず声を挙げる。

 別に1位を目指すつもりはないが、それでもやっぱり気になってしまう。

 

「…A級4位『ブシドリル』。A級3位『オカマイタチ』。A級2位『イアイアン』…S級ヒーロー4位アトミック侍の愛弟子である三剣士がS級ヒーローになれない理由の一つ」

「え? あの三人?」

「知ってるの?」

「知ってるも何も…ねぇ?」

 

 パチュリーが皆に目配せをすると、全員が揃って頷く。

 

「俺達、前に何度もあいつ等と一緒に戦った事があるぞ?」

「確かに、お前の言う通り…アイツ等はサイタマ先生程ではないにしろ、かなりの実力を持った剣士たちだった」

「よくお世話になってますよね~」

「貴方達の交友関係はどうなってるのよ…」

 

 完全に予想外の事に頭が痛くなってくるフブキ。

 その時、あるパターンが思い浮かび、恐る恐る尋ねてみる事に。

 

「まさかとは思うけど…アマイマスクとも交友があるとは言わないわよね…?」

「「あるけど?」」

「主に向こうから来るがな」

「でも、割と会う機会は多いですよねー」

「やっぱり…」

 

 もう、この四人が誰と知り合いでも驚かない自信があると思ったフブキだが、まだ彼女は知らなかった。

 もう既に、数多くのA級ヒーロー達、そして全てのS級ヒーローとも顔見知りになっていると言う事実に。

 その中でも特に、あのシルバーファングことバングや、アトミック侍とはかなりの交流をしている。

 

「そのアマイマスクこそが、私を含めた他のA級以下のヒーロー達がA級1位になれない最大にして唯一無二の理由なのよ」

「でも、私はなれたわよ?」

「だ・か・ら! それは例外中の例外だって言ってるでしょ! 私の話ちゃんと聞いてた!?」

「聞いてたわよ。でも、私を例外扱いにするのはおかしいんじゃない?」

「なんですって?」

「ヒーロー業界がどれだけ厳しいのかは知らないけど、贔屓なんてしてても意味無いじゃない。現場でちゃんと動けないと意味無いんだし」

「パチュリーさんの仰る通りだ。実戦では階級や順位なんて意味は無い。実力こそが勝敗を分かつ全てだ」

「その点で言えば、まさにパチェは実力で勝ち上がっていったって感じだよな」

「そんなもんかしらね~」

(この四人は…)

 

 現実が全く見えていないように見えて、でも実際には誰よりも真理が見えているのかもしれない。

 そう思うと、途端にこの四人が普通のヒーロー達とは違って見えてくる。

 

「ところで、お前と一緒にいた黒服の連中…帰しても良かったのか?」

「別にいいわ。あの二人には聞かせられない話だし…」

「面子…ってことか?」

「そんなもんよ。私にだって私なりのプライドがあるのよ」

「ふーん…」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一方その頃。

 街中にてバイト先に向かおうとしていたボロスは、その途中で変な者と遭遇していた。

 

「急にこっちを睨み付けてきて…お前は一体なんだ?」

「フシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…!」

 

 牙をむき出しにしながら殺気をぶつけてくる謎の男。

 褐色の肌に半裸の状態、その両手にはボコボコにされた一般人二人が握られていた。

 

「ふむ…まだ少しだけ時間に余裕があるとはいえ、このままではバイトに遅れてしまうな。どうしたものやら…」

 

 常人ならば裸足で逃げ出しそうな殺気でも、ボロスにとっては微風に等しい。

 伊達に大宇宙を旅して、幾多の強敵と戦ってきたわけではない。

 

 地球で手に入れたボロスの日常にも、再び戦いの気配が漂い始めてきた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 




次回、ボロス無双(予定)。





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