バイトに行く途中、道端でいきなり謎の原始人らしき男に絡まれるボロス。
完全見ず知らずの相手からの威嚇に困ってしまう。
そう…困るだけ。
全く怖がってはないし、その気になればすぐに終わる。
「ふむ…どうしたものか」
一応、今の彼はヒーロー協会の保護下にある。
多少の自衛行為は認められているが、相手は所謂『怪人』と呼ばれる存在。
本来はサイタマやパチュリーのようなヒーローが対処すべき相手。
表向きは一般人扱いの自分が勝手に戦ってもいいものか。
ボロスの目下の悩みはそこにあった。
「グルルルゥゥ…シャァァァァァァァァァッ!!!」
自分の威嚇に全く動じないボロスに怒りを覚えたのか、原始人は爪を立てて襲い掛かって来た。
その動きは凄まじく、常人の肉眼では捉える事すら出来ない。
だが残念ながら、ボロスは常人ではない。
それどころか、そこらのヒーローや怪人などとは一線を画す強さを誇る存在。
「ん?」
仕方がないので、ポケットの中から支給されたスマホを取り出し、バイト先の店長に連絡しようとしたところで原始人の攻撃が直撃する…が。
「がぁぁぁぁっ!?」
「なんだ? 何をしている?」
ボロスには全く通用していない。
彼はただ立っているだけで、回避も防御も行っていない。
なのに、原始人の攻撃に対して微動だにしていない。
「もしもし? はい…ボロスです。実は、道端でなにやら質の悪い男に絡まれまして少し遅れそうなんです。え? まだ時間に余裕はあるから大丈夫? 気にせずゆっくり来てくれればいい? そうですか…分かりました。はい。ありがとうございます。では…」
一通りの連絡をしてから、ボロスはスマホをポケットに戻す。
その間も原始人はずっと攻撃をし続けていたのだが、ボロスには全くの無意味。
逆に、原始人の爪のほうが欠け始めていた。
「ふぅ…流石はヒーロー協会が進めてくれた店だな。まさか、逆に『怪我をしないように気を付けて』と言われるとは。誰かに心配されるなんていつ以来だ…? ん? お前、まだやってたのか? 随分と熱心だな。そんなに暇なのか?」
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
どれだけ攻撃をしてもビクともしない。
それどころか、疑問すら抱かれる始末。
「ぐるるぅぅぅ…! あがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
爪での攻撃は意味が無いと判断したのか、原始人は高くジャンプしてから大きく口を開けてからの噛み付き攻撃を仕掛けてきた。
だが、それが彼にとって最大の悪手であり、運の尽きでもあった。
「む…奴の涎が…」
口を開けてしまった上に、ジャンプでボロスの上を取ってしまったので、必然的に涎が零れ落ち、それがボロス自身に降りかかる。
勿論、ボロスの服にも。
だから…つい
「汚いだろ」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
思わず迫ってきた原始人に向かってのアッパーカット。
微塵も力など込めてなどいないつもりなのだが、それでも原始人にとっては超絶的な威力となり、文字通り彼の体を木端微塵に消し飛ばしてしまう。
「あ……」
思わず手を出してしまった事に固まるボロス。
これはヒーロー協会に謝らないといけないだろうか。
そう心配し始めた時…彼が現れた。
「一撃…だと…!?」
一瞬で多くの人々が湧き始める。
その強さに、その美貌に。
彼の名はアマイマスク。
A級ヒーロー1位の男。
「流氷の中から凍結状態で発見され、蘇生に成功した原始人『スッポン』…。研究所から脱走を図り、町へと逃げ出してから人々に危害を加え続ける『悪』…。ヒーロー協会からは生け捕りにしろと言われていたが…」
それがまさか、自分以外の相手に倒されるとは思わなかった。
しかも、たったの一撃で。
「彼は確か…報告にあった例の協力者…。今はヒーロー協会の庇護下にあると聞いていたが…」
一応、アマイマスクにもボロスの事は報告されている。
あの宇宙人軍団の首領ではあるが、サイタマとパチュリーに敗れた後は降伏し、そのままヒーロー協会に情報提供をした後に正式な協力者となったと。
それと同時に、ボロスの実力がサイタマ&パチュリーに比肩する程のものであることも。
(噂では、彼はパチュリー君の本気の魔法を幾ら喰らっても立ち上がり続け、サイタマ君の攻撃にも何度となく耐え続けたと聞いている。あの異常なまでの強さを誇るサイタマ君に本気を出させた唯一の相手とも…)
アマイマスクは絶対に悪を許さない。
だが、それ故に相手の強さが測れないような愚か者でもない。
(強い…圧倒的に…! 悔しいが…『今』の僕じゃ掠り傷一つすらつけられないだろう…。いや、仮に『あの姿』になっても、真面な戦いになるかどうか怪しいな…)
経緯はどうあれ、ボロスは人々を脅かす怪人を倒して町を守った。
この事実は変えようがない。
(それに…彼からは何故か『悪』を感じない…。となると、僕もそれ相応の対処の仕方をしないとな…)
深く何度も深呼吸をし、自分を落ち着かせる。
頭が冷えた所で、アマイマスクは堂々とボロスの前に現れた。
「もしかして、その怪人は君が倒したのかい?」
「お前は…」
「僕の名はアマイマスク。ヒーロー協会所属のヒーローさ。君の事は既に聞いているよ。ボロス君」
「そうか。だが…良かったのか? ヒーローでもない俺が、こんな真似をして…」
「構わないさ。協会には僕から報告しておくよ。君は遠慮なくバイトに行くといい」
「助かる。では、失礼する」
軽く頭を下げてから、ボロスは改めてバイト先に向かう事に。
その背中を見つめながら、アマイマスクは小さく溜息を吐いた。
「はぁ…ったく…他のヒーロー達も、少しは彼を見習ってくれればいいものを…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
舞台は戻ってサイタマの部屋。
まだフブキの話は続いていた。
「兎に角…世の中には決して常識では測れないような、化け物染みた強さを持つ連中が確かにいるのよ」
「サイタマみたいな?」
「確かに、サイタマ先生の強さは異次元ですね。でも、それを言うならパチュリーさんもでは?」
「んー…どうなんだろ?」
「パチュリー様もすっごくお強いですよ~」
因みに、フブキはまだ隣の部屋に、この二人とほぼ互角の実力を誇る『化け物染みた強さを誇るもう一人の男』が住んでいる事を知らない。
もし知ったら、今度こそ彼女が卒倒してしまうかもしれない。
「アナタも十分に化け物みたいな強さだけど、それでもアマイマスクや私の姉程じゃ…」
「いや、普通のあの二人よりサイタマの方が強いわよ?」
「え?」
いきなり話を遮られて目が点になるフブキ。
そんな事にはお構いなしにパチュリーは話を続ける。
「アマイマスクにはもうサイタマの実力は知られてて、彼にもその強さは認められてるし、タツマキだって言葉には出してないけど、実際にサイタマの異常な強さの片鱗は見てるから、なんだかんだ言いながらもサイタマの事を少しは認めてるんじゃないかしら?」
「そ…そんな…馬鹿な…」
目の前で呑気に漫画を読んでいるこの男が、あの二人よりも強さが上。
とてもじゃないが信じられない…信じられないが…。
(彼女が嘘をついているとも思えない…)
元A級であり、今はS級となったパチュリー。
その両方の階級のヒーロー達と深い接点がある彼女だからこそ、その言葉には得体の知れない説得力があった。
「で…でも! 他にも人類最強と称されるキングや、全てのヒーローの頂点に君臨するブラストみたいな規格外の連中もいるのよッ!?」
「んー…ブラストは兎も角、キングねー…」
パチュリーはキングの本当の姿を知る数少ない人間の一人。
彼が第三者から、どんな風に見られているかは知っているけど、改めて超拡大解釈されているのを見ると、別の意味でキングって凄い奴なのではと思えてくる。
「つまり、B級ヒーローの私達じゃ、個人の力で上を目指すのは非常に難しいのよ! だからチームを…徒党を組む必要がある! それの何が悪いってのよッ!?」
「いや…別に悪いとは言ってねーよ。それがお前のやり方なら好きにすればいいじゃねーか。これから先、何が起きても自分の責任だしな。でも、俺はお前の手下になるつもりはないから」
「ですって」
「当然だな」
「あはは…お茶のおかわり…いります?」
「…いただくわ」
ツンケンしているようで根は素直なフブキ。
こあに湯呑を返してから、おかわりを貰う事に。
「ったく…折角、この私が『フブキ組』に入れてあげようと思ってたのに…」
「余計なお世話だッつーの。ん?」
ピンポーン。
いきなり玄関のチャイムが鳴り、誰かが部屋に入ってきた。
「お~い、サイタマ氏~。もしかして、俺のゲームを持って帰ってない?」
それは、今となっては完全にサイタマとパチュリーの友人となったキング。
実は彼もサイタマの部屋に良く出入りしている人間の一人だったりする。
そんな事など全く知らないフブキは、腰が抜けそうな程に驚いているが。
(キ…キキキキキキキキングッ!? なんでっ!? どうして彼がここにッ!?)
ヒーロー協会の切り札と称され、最強の存在とされるキングが目の前にいる。
しかも、何故かサイマタやパチュリーと仲良さげに話をしている。
「あ…ごめん。持って帰ってた」
「やっぱり? じゃあ返してくれる?」
「それはいいけど…ごめん。間違ってデータ消しちゃった…」
「え? マジで? まぁ…別にいいけど」
フブキは自分の目を疑った。
最強のS級が、格下である筈のB級と仲良くしているから。
「そうだ。パチュリー氏。この間貸したパズルゲームはどうだった?」
「中々に歯応えがあって楽しかったわ。良い頭の体操にもなったし」
「今度はシミュレーション系のゲームを持ってきたんだけど。ほら、パチュリー氏って戦略とか考えるのも得意そうだし」
「そうね。いい頭のトレーニングになりそう。貸して貰えるかしら?」
「勿論。その為に持ってきたし」
ジェノスは知っている。
サイタマがパチュリー以外の人間とは決してコンビを組まない事を。
それは、二人が心の奥底まで繋がった仲だから。
故に誰とも対立などしない。
ランキングなんて見向きもしない。
「キングさん。お茶をお持ちするので待っててくださいね」
「お気になさらずー。そうだ…こあ氏。この間くれたクッキー、凄く美味しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。自信作だったんで、喜んで貰えて良かったです」
「ちゃんとジェノス氏にも渡したんでしょ? リアクションはどうだった?」
「お…美味しいって…言ってくれました…♡」
「いいね~…青春だね~」
だけど、不思議と色んな強者を惹きつける。
数多くのS級ヒーロー達だけでなく、ボロスのような圧倒的強者も。
それは何故か。
答えは単純明快。
「キング。出来れば俺にも何か貸してほしい」
「え? ジェノス氏も? また珍しい…」
「パチュリーさんの戦いを見て、戦略を練ることの大切さを学んだ。なので、俺も戦略を練る練習がしたい」
「そこまで言うなら…格ゲーとかいいかも? リアルタイムで戦略を練って、一瞬一瞬の判断力を要求されるし」
「良さそうだな…貸してくれ」
「う…うん。沢山あるから、良さげなのを持って行っていいよ?」
「感謝する。うーむ…」
それは…彼が強いから。
だから、サイタマの周りには人が集まる。
やがてそれは一つになり、神さえも討ち取る力になる。
誰も知らない所で、最後の希望は確かに芽吹いていた。
次回、やっとタイトル回収。