ここまで長かったです。
ヒーロー協会本部
幹部会議
ここでは今、ヒーロー協会の幹部たちが集まって会議を行っていた。
問題は、その会議内容なのだが…。
「S級ヒーローランキング13位パチュリー。同じくS級ヒーローランキング14位ジェノス。そして、A級ヒーローランキング20位こあ。B級ヒーローランキング7位サイタマ。流石に、一気に四人ものヒーローネームを決めるのは大変だったが、これで決定と言う事でよろしいかな?」
「「「「異議なし!」」」」
そう…ここではなんと、サイタマやパチュリー達のヒーローネームを決めるための会議が開かれていたのだ。
勿論、幹部であるシッチもこの会議に参加しているが、彼は和気藹々としている他の幹部たちとは違い、終始硬い表情を崩さなかった。
「まず…数々の凶悪怪人にも決して怯まず、アグレッシブに立ち向かっていく様からジェノス君のヒーローネームは…『鬼サイボーグ』」
「その相棒的ポジションにして、その可愛らしい容姿から人々から絶大な人気を誇るこあ君のヒーローネームは、その姿から名付けて『小悪魔』」
弟子コンビのヒーローネームは、そのまんまと言った感じの物になっていた。
「サイタマ君とパチュリー君は…シッチの出した案で問題無いか」
(こいつらに任せていたら、絶対に変な名前にしそうだしな…。只でさえ現状を全く把握していない連中の遊びに嫌々付き合ってやってるんだ。せめて、あの二人の名誉ぐらいは守らんとな。ジェノス君とこあ君に関しては先手を打たれてしまったが…)
これまでのヒーロー達の活躍に、幹部たちは完全に油断をしていた。
何があっても、彼らがいれば問題が無いと。
「サイタマ君は、その拳にて数多くの怪人たちを『一撃』で葬ってきた。そう…たったの一撃でだ。故に、私が考えた彼のヒーローネームは…」
周囲を睨み付けながら、シッチが静かに言った。
「ワンパンマン」
「いいんじゃないか? なんとも力強くて」
「将来有望な彼に相応しいヒーローネームだな」
本当は『ハゲマント』と名付けようとしていたが、シッチがそれを事前に察知し、即座に却下を出した後に今の名前に変えた。
サイタマが居たら、他の幹部たちには激怒し、シッチには普通に感謝していただろう。
「そして、パチュリー君は、多種多様の魔法を駆使し、影に日向にとヒーロー達と街の平和を支えてきた。だからこそ、彼女のヒーローネームは…」
深い溜息を吐き、周囲に言い聞かせるようにハッキリと言った。
「七曜のパチュリー」
「成る程、タツマキやフブキ姉妹と同じ感じか」
「同じ特殊能力を使う女性ヒーロー同士と言う共通点もあるしな」
「いいんじゃないか?」
「七曜…数多くの属性魔法を操る彼女らしい名前じゃないか」
こうして、無事に四人のヒーローネームが決定した。
だからと言って、何が変わる訳でもないが。
少なくとも、本人達は特に気にしないだろう。
「これでようやく、彼らも一人前のヒーローになったようなものだな!」
「ヒーローネームは、ヒーローを志す者達にとって憧れのようなものだ」
「これを知ったら、きっと喜んでくれるだろう! はっはっはっ!」
「これからの彼ら四人の増々の活躍を期待しようじゃないか!」
大笑いをしながら談笑している幹部たちを見て、シッチは呆れて何も言えなくなっていた。
(くそ! あの『人間怪人』を自称するガロウへの対策会議は、たったの15分で終わりとは…こいつらは本当に事態の重要性を理解しているのかッ!? この低能楽観主義者共め!)
今までも楽観的な部分はあったが、そこへ新進気鋭の大型新人が一気に四人も増えたことで、幹部たちは見事に増長しきっていた。
その増長は、つい先日の宇宙人騒ぎの解決と共に更に増した。
(確かにヒーローネームは大事かもしれんが…だからと言って、どうしてそれに2時間も掛ける必要がある! バカのように談笑なんぞしおって! こいつらは事の重要性というものを微塵も理解していない!)
頭がお花畑になっている幹部たちを見ながら、シッチは先程の話を思い出していた。
『あぁ…少し前に、ここで大暴れしたと言う頭のおかしい男の事か』
『それなら心配は無用だ、シッチ』
『S級ヒーロー3位のシルバーファングが自ら名乗りを上げて、その人間怪人の追跡中だと言う話だ』
『あの超人じいさんに任せておけば大丈夫だろう』
『異議なし』
『いざとなれば、タツマキやキング、パチュリーやブラストまでいるんだ』
『どれだけ強くても所詮は普通の人間。例の予言とは全く関係が無いに決まっている』
世界の平和を担う筈のヒーロー協会の幹部が、こんな事で本当に良いのか。
シッチは一人、心の中で本気で焦っていた。
(くそっ…! お前達は本当にこれでいいのか…! 何かがあってからでは遅いんだぞ…!)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
同時刻。
T市某所。
「ぐあぁっ!?」
路地裏にて一人の男が吹き飛ばされる。
筋肉質で、良く見たら、どこかで見た事のあるタンクトップを身に着けていた。
「く…くそぉ…! いきなり襲い掛かって来て…何者なんだ、お前は…!」
「…………」
彼をぶっ飛ばした張本人の青年は、ジッと倒れた相手を見つめるだけだった。
「俺は…A級のヒーローなんだぞ…! それなのに…どうして攻撃なんて…」
「…A級9位のタンクトップベジタリアン。偶然にも街中で見かけたから手を出してみたが…余りの歯応えの無さに悪い意味で驚愕だぜ。こんな雑魚をA級の上位に据えるなんざ、ヒーロー協会の幹部ってのはよっぽどの馬鹿の集まりか、それとも相当な人材不足かのどっちかだな」
「なんだと…! 言わせておけば…!」
爆笑する膝を抑えながら立ち上がり、青年と対峙するタンクトップベジタリアン。
だが、それもすぐに青年の拳によって倒される。
「ぐはぁ…! クソがぁ…覚えてやがれ…俺達ヒーローを敵に回すとどんな目に遭うか…」
「もういい。黙れ」
「ぐほぅっ!?」
トドメの一撃を腹に喰らい、遂にベジタリアンが倒れる。
白目を剥き、その場で気を失った。
「そこまで言うのなら…精々期待させて貰おうか。バケモノ級のヒーローと戦える瞬間ってのをよ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それから数日後。
毎度お馴染みのサイタマ&パチュリー達のアパート。
「なんですって?」
「バング…シルバーファングの様子がおかしい?」
「それって、どういうことなんですか?」
今日のお客さんは、シルバーファングの自称一番弟子のチャランコ。
その顔は怪我だらけで、所々にガーゼが張られていた。
「何かあったのか? それに、その顔の怪我は一体…」
「急に『今から実戦稽古をする』とか言い出して、それから俺の事を一方的にボコボコに…」
「「「うわぁー…」」」
あのバングからの一方的な拳なんて想像もしたくない。
素人ならば、文字通り一瞬であの世行きだろう。
「あんなにも温厚だったバング先生が、いきなりこんな事をするなんて今でも信じられない。絶対に何か深い訳がある筈なんだ!」
「確かにそうね…私も俄かには信じられないわ…」
「だろ? だから、ヒーロー協会内でもバング先生と親交が深いアンタ等なら何か知ってるんじゃないかと思ってやって来たんだ」
「そうだったのか」
藁にも縋る思いでやって来たチャランコだったが、同時に別の事も考えていた。
『暫く見ないうちに人が増えてね?』…と。
(謎の美人さんに謎の男…あの人達って誰?)
ヒーロー業界の事はあまり詳しくないので、フブキの事は顔を見ても分からなかった。
キングの事は名前だけは知っているが、顔は知らないと言う感じだ。
「申し訳ないが、俺は知らないな。こあはどうだ?」
「私も全く…信じられませんね…あのバングさんがそんな…」
「そうね。普通じゃ考えられないわ」
「だよなー。割といい爺さんだったのに…何があったんだろうな」
「っていうか、さっきから言ってる『バング』って、もしかしてシルバーファングの事を言ってる?」
「その話が終わったら、皆でゲームでもしような」
今回、完全に蚊帳の外状態のフブキとキング。
キングは普通に遊びに来ていて、フブキはまたサイタマを勧誘…する振りをして、実はこあの手作りお菓子を食べに来ていた。
実はフブキとこあ、この間の一件で普通に仲良くなっていて番号交換もしていたりする。
「だけど…ある程度の推測ぐらいは出来るわね。っていうか、ほぼ間違いないでしょうけど」
「そうですね。俺もそう思います」
「アンタら二人がそこまで言うって…一体何なんだっ!?」
少しでも核心に迫れるならと、チャランコは思わず前のめりになる。
「恐らく、例の『人間怪人』ガロウが絡んでいるに違いない」
「ガ…ガロウッ!? それって…道場で大暴れして破門になったって言う…どうしてソイツがっ!?」
「あれ? もしかしてチャランコ君、まだ何も聞かされてないの?」
「き…聞かされてないって…?」
猛烈に嫌な予感がし、チャランコの頬を冷や汗が伝う。
「少し前、バングおじいちゃんの元弟子のガロウはヒーロー協会本部にて大暴れをして、それから凶悪怪人として全国指名手配されてるの」
「な…なんだってっ!?」
「そして、バングはその討伐に自ら名乗りを上げたという話らしい」
「か…怪人って…ガロウって奴は正真正銘の人間だろうッ!? それなのに、どうして…」
「本人が怪人を自称してたらしいわ。だから『人間怪人』」
驚愕の事実に愕然とするチャランコ。
流石に不憫に思ったのか、パチュリーは彼を宥める事に。
「激しい戦いになれば必然的に周囲を巻き込んでしまうことになる。だから、バングおじいちゃんは敢えてアナタを遠ざけたんじゃないかしら。少なくとも、君はあの人に嫌われてなんかないわ。寧ろ、大事だからこそ心を鬼にしてチャランコ君を安全な場所に逃がそうとしたんじゃないかしら」
「そう…なのか…?」
パチュリーの言葉で少しだけ冷静さを取り戻したが、今度は情けなさがチャランコの心を覆い尽くした。
(バング先生…俺は足手纏いなんですか…? 元一番弟子のガロウって奴は、それ程までに危険な相手だっていうんですか…?)
心の中で尋ねても誰も答えない。
チャランコは生まれて初めて、本気で自分の無力さに絶望した。
「サイタマ先生はどう思いますか?」
「俺か? そうだな…」
普段のサイタマなら完全に聞き流していたが、パチュリーと一緒に行動することで人の話ぐらいはちゃんと聞くようになった。
なので、今回もちゃんと聞いてはいた。
「取り敢えず、今回の一件…お前は余り首を突っ込まない方がいいんじゃないか? あの爺さんだって、そのつもりでお前を遠ざけたんだろうし」
「サイタマ先生の仰る通りだな。チャランコ、お前は暫くの間ジッとしていた方が良いだろう。脅すようだが、変に関わると命の保証は出来かねるぞ」
「そうね。チャランコ君、今日の所は帰った方が良いわ。事はもう既に単なるチンピラの暴走程度の規模じゃなくなってきてる。あのバングおじいちゃんが直々に追跡に名乗りを上げるって相当よ?」
「そうですよね…なんか、私達の知らない所で怖い物が動いてる感じがして嫌ですね…」
サイタマだけでなく、ジェノスやパチュリー、こあからも説得され、チャランコは肩を落としながら帰って行った。
その姿を見ながら、事態を上手く把握出来ずにいたキングとフブキは互いに顔を見合わせていた。