S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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牙を研ぐ狂狼

 パチュリーやサイマタ達が病院にてタンクトップマスター達から話を聞いている頃…。

 

「これがS級ヒーローのキングって言うんだよ。一番強いの」

「へぇ~…」

「んで、これがA級の電光ゲンジで、僕んちの近所をよくパトロールしてくれてるんだ。ほら、ここにサインも書いて貰ったの」

 

 その襲撃犯であるガロウは、市内にある公園にて一人の少年と話をしていた。

 少年の手には様々なヒーローのプロフィールが掛かれたファンブックが握られていて、彼はそれを広げて自慢げに語っていた。

 

「クックックッ…サインねぇ…」

 

 不敵な笑みを浮かべるガロウ。

 まだ闘争のスイッチこそ入ってはいないが、その表情の中にはある種の狂気が宿っていた。

 

「俺もサイン欲しいなぁ…。今度、その場所に俺を案内してくれよ」

「全然いいよ! おじさんもヒーローが好きなんだね!」

「おじさん言うな…っと」

 

 少年の『おじさん発言』に律義にツッコミつつ、ガロウは隣に座る。

 傍から見ていると、完全に怪しい光景である。

 

「その『ヒーロー名簿』っての良いな…。回写真と基本情報が一覧出来るとか…」

「うん。お小遣いを貯めて買ったんだ」

「そっか。その名簿さ…一週間だけでいいから俺に貸してくれよ」

「話聞いてた? これは僕がお小遣いを貯めて買った宝物なんだよ。貸すなんて嫌だよ」

「いいじゃねぇかー…ケチくせぇこと言うなよぉ~…ん?」

「どうしたの?」

 

 少年がページをめくった瞬間、ガロウの表情が明るくなる。

 

「おいおいマジかよ…怪人の事も記載されてるじゃねぇーか。なんかワクワクすんな」

「えー? なんで怪人のページ見てワクワクするのー?」

 

 少年のような一般人にとって、怪人とは恐れる者であって、少なくともワクワクするような存在ではない。

 なので、怪人の写真を見て笑みを浮かべているガロウの姿は、彼にとっては奇妙に感じたのだろう。

 

「それは、未解決の怪人事件や都市伝説怪人のページだよ。読んでるだけで凄く怖いんだ」

「何言ってんだ。怖い方が良いに決まってんじゃねぇか。それがカッコいいって思わねぇか?」

「えぇ~…? それは流石に趣味悪いよぉ~…」

 

 これに関しては少年の方が普通に正しい。

 

「いいねぇ…俺もいつか、こんな本に載れるようになりたいもんだ」

「え? もしかしてヒーロー目指してるの?」

「あ?」

 

 どうやら勘違いをしたようで、少年は急に落ち込みだす。

 

「僕もなんだけどさ…運動苦手なんだ…」

「…そっか。そいつはよかったじゃねぇか」

「おじさんって…性格悪いなぁ…」

「うっせ。つーか、おじさん言うな。俺はそんな歳じゃねぇ…ん?」

 

 本を少年に返して、彼が適当に開いたページを見た瞬間、ガロウ視線が止まった。

 

「おい…そのページ…」

「あ? これは今年に入って新しくヒーローになった人たちの特集だよ」

「新人ってことか…」

「うん。凄いんだよ~。今年になってS級ヒーローが一気に二人も増えたんだって」

「S級が…二人も追加…」

 

 ガロウは、そのページを食い入るように凝視した。

 少しでも情報を持ち帰ろうと思って。

 

(S級14位の鬼サイボーグ…それから、S級13位の七曜のパチュリー…。特に、このパチュリーって女は、あの魚野郎どもの親玉を一方的に倒した上に、例の宇宙人騒ぎの時も最前線で陣頭指揮をしていたと記載してある…)

 

 まだS級下位ではあるが、その才能と実力は間違いなく上玉。

 思わずガロウは舌なめずりをしてしまう。

 

(女だろうが子供だろうが関係ねぇ…そいつがS級という名の極上の獲物なら、そいつを倒してから糧にさせて貰うぜ…!)

 

 ガロウの中で、パチュリーがターゲットの一人にされた瞬間だった。

 

「おっと…そろそろパトロールの時間だ。そろそろ俺は行くぜ」

 

 立ち上がってから遠くを見つめ、まずは今日の獲物を頭の中で整理する。

 

(この名簿の情報が確かならば、A級の『黄金ボール』が常連にしている居酒屋に顔を出す時間帯だ。今から移動すれば丁度いい筈だろう)

 

 S級はまだ取っておいて、今はまだ地道にA級から狩っていく。

 タンクトップマスターに勝利したからと言って、決して過信はしない。

 あれは単純に自分の流水岩砕拳と彼のファイティングスタイルの相性が良かったからに過ぎない。

 もし他のS級の中に、彼の師のような超一流の拳法使いがいた場合、ガロウの苦戦は免れない。

 だからこそ彼は腕を磨く。

 最強の怪人になるために。

 

「じゃあなクソガキ。また、いつかその本を見に来るからよ」

「え…? う…うん! 分かった!!」

「あと、そうだ…何度も言うようだが、俺はおじさんじゃない。いい加減、言葉には気ぃつけろ」

「え? 何? よく聞こえなかったよ」

「…いいから、お前はとっとと家に帰れ」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 場所は戻り、病院内にあるタンクトップマスター達がいる病室。

 そこでパチュリー達は彼が戦ったガロウの話を聞いていた。

 

「俺の攻撃の全てが躱され、いなされ…受け流された」

「でしょうね。それこそが流水岩砕拳の神髄だし」

「パチュリー君の言う通りだ…」

 

 パチュリーの言葉に当時の事を思い出したのか、マスターは苦い顔をした。

 

「どんなに強力な一撃でも、それが命中しなければ何の意味もない」

「そりゃそうだ」

「更には、こっちの動きを完璧に読んだカウンターや投げ技、合気道のように相手のパワーを逆利用する技術も身に着けていた」

「パワー系とはとことん相性が悪いと思ってたけど…これ程とはね…」

 

 流水岩砕拳の凄さはパチュリーもよく知っている。

 目の前で何度も、その創設者であるバングの戦闘を目の当たりにしているから。

 あの拳法が敵に回る。

 これは、想像以上に厄介な事態と言えた。

 なんせ、流水岩砕拳を相手が使える…たったそれだけで大半のヒーローは無力化されてしまうから。

 拳法の心得があるヒーローなんて、それこそ数えるほどしかいない。

 それを知っているからこそ、幹部であるシッチも今回の事件を非常に重く受け止めているのだ。

 

「間接や急所を的確に狙った攻撃も厄介だった。こいつを受けたが最後、こっちの身体機能が著しく低下してしまう」

「ゲームでいう所のバッドステータスって奴か」

 

 ゲームの下手な物好きなサイタマらしい解釈をしたが、もしここにキングがいても、似たような考えになっていただろう。

 

「従来の怪人の戦闘方法は、その強靭な肉体を利用し、本能のままに、力のままに暴れるのが殆どだったが…あいつは…ガロウは全く違った。あいつは人間を壊す専門技術を…即ち、ヒーローを倒す方法を完璧に熟知している」

 

 今まで自分が培ってきた力が、ガロウの前では全くの無力だった。

 今回ほど、自分の未熟さを思い知ったことは無かった。

 

「あのシルバーファングでも奴を倒せるかどうかは分からないが…誰かが、なんとかしてガロウを止めなければ被害は拡大する一方だ」

「でしょうね。だからこそ、バングおじいちゃんも自分から捜索に志願したんだから」

 

 弟子の不祥事は師匠の責任。

 バングはガロウの師として、一人のヒーローとして責任を取ろうとしていた。

 

「自ら『怪人』を名乗る人間によるヒーロー狩り…。これは間違いなく現代社会の治安の根幹を揺るがしかねない大問題だ。ヒーロー協会の上層部はまだガロウの事を軽視しているらしいが…だからと言って、このまま野放しには出来ん。俺も怪我が治り次第、すぐにでも復帰するつもりだ」

「それでこそタンクトップマスターね。あなたの怪我が治るまでの間、私たちの方でも色々と調べてみるわ」

「そうか…よろしく頼む。パチュリー君。君の魔法ならば、あるいはガロウにも…」

 

 魔法使いであるパチュリーの存在は、間違いなくガロウにとっての最大級のカウンターになり得る。

 だからこそ、彼女の出番は出来るだけ最後まで取っておきたいのだが…今はそんなことを言っていられる状況ではない。

 使える戦力があるのならば、なんでも投入しなくては。

 

「拳法使いのヒーロー狩り…か。そういや、あいつも一緒に入院してるんだったよな? ほら、爺さんの弟子のー…何て名前だったっけ? チャンポン?」

「チャランコです。確かにそう聞いてましたね」

「どこの階にいらっしゃるか、ご存じですか?」

「一緒に倒れていた彼か。彼なら確か…」

「この階の部屋にいたはずだよ」

「そっか。んじゃ、あいつからも少し話を聞いてみるか」

 

 そんなわけで、今度はチャンポン…じゃなくて、チャランコの病室に行ってみることにしたパチュリー御一行だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 特徴的な名前なので、この階をグルリと一周すれば、すぐに目的の部屋は見つかった。

 

「よぉー…見舞いに来てやったぞー。元気か?」

「大丈夫? そっちも、相当にこっ酷くやられたって聞いてるけど」

「この包帯グルグル巻きのミイラ状態のどこが元気に見えるってんだよ…。見舞いに来てくれたのは素直に嬉しいけど…」

 

 矢張り単純な実力の差なのか、チャランコの怪我は明らかにさっきのヒーロー達よりも酷かった。

 なんせ、骨折した足にギプスを付けているから。

 

「つーか、顔ツッコむなって言った矢先に何やってんだよ…」

「全くだ。サイタマ先生やパチュリーさんの警告を無下にした報いだな」

「まぁまぁ…相手は怪我人さんですし、それぐらいで…」

 

 実に真っ当かつストレートな言葉に、思わずこあが仲裁に入る。

 じゃないと、ずっと愚痴を言ってそうだったから。

 

「あんたらには本当に申し訳ないと思ってるよ…。でも、動かずにはいられなかったんだよ…。こんなんでも俺は…あのバング先生の弟子だからな…」

「チャランコ君…」

 

 どうやら、バングから破門にされたと言う事実は、想像以上に彼の心に大きな傷をつけてしまっていたようだ。

 だからと言って褒められたことではないのだが。

 

「ところで話は変わるんだけどさ…」

「なんだよ?」

「ちょっとさ…強い武道家と試合がしてみたいんだよ。誰かいい奴いないかな?」

「「「え?」」」

 

 サイタマのいきなりな謎発言に、全員の目が点になる。

 だが、当の本人は全く意に介していない様子。

 

「あんたさ…前に散々バング先生の勧誘を断っておいて、何を今更言って…」

「それは分かってるよ。でも仕方ないだろ。このタイミングで興味が出ちまったんだから」

(ガロウの影響…かしらね)

 

 サイタマすらも認める相手を一方的に倒した拳法使いのガロウ。

 彼ならばもしや…と考えたのかもしれない。

 

「つってもなー…いつもなら迷わずバング先生を紹介するんだけど…今はな…」

「ガロウを追いかけている最中だからな。流石に頼むわけにもいくまい」

「なんだよなー…。でも、他の伝手とかはー…あ」

「どうしたんですか?」

 

 何かを思い出したのか、チャランコは自分の鞄の中をゴソゴソと漁りだし始めた。

 

「そう言えばー…流水岩砕拳の一番弟子になって浮かれて、その時のノリと勢いで申し込んだ異種格闘技大会があったんだった。そのチケットが確か、この辺にー…あった」

 

 取り出したのは、しわくちゃになった状態の一枚のチケット。

 チケットには『参加券』と書かれてある。

 

「一応、出場選手として登録はしてあるんだけど、この怪我だしな…今回は大人しく棄権するつもりだよ」

「いいの?」

「仕方ないさ。でも、入場チケットにはなるから、試合の観戦ぐらいは出来ると思う。マジで色んな流派の選手が出るみたいだから、参考にはなると思う」

「ふーん…」

 

 気怠そうにチケットを見つめるサイタマ。

 この男が見るだけで満足するような人間でないのはパチュリーが一番よく知っていた。

 なので、ここは少し助け舟を出すことに。

 

「これって、代理出場とかって出来ないの?」

「代理? 替え玉とかじゃなくて?」

「そ。ちゃんとチャランコ君から大会側に説明して、自分の代理としてサイタマを推薦すればいけるんじゃないかしら? 向こうとしても、出場する選手は一人でも多い方が良いだろうし、サイタマにはヒーロー協会所属のヒーローって肩書もある。その辺を上手く利用すればいけると思うんだけど…」

「うーん…どうなんだろ…やってみない事には何とも…」

「なら、やってみましょうよ。どうせ、駄目で元々なんだし。チャランコ君には一切の不利益は無いんだし」

「それもそっか。んじゃ、試しに…」

 

 パチュリーの説得によって、チャランコが自分のスマホを取り出して大会の開催委員会に電話をかけてみる。

 

「あー…もしもし? 今度の大会にエントリーしていたチャランコなんですけど、実は―…」

 

 10分後…。

 

「…大丈夫だって。怪我での棄権なら仕方が無いし、無断での替え玉ならともかく、ちゃんと事情を説明してくれた上での代理出場なら何の問題もないって…」

「おぉ! マジか!」

「うん…。あと、お前の他にも何人かヒーロー協会のヒーローが出場するらしいから、それがもう一人増えるのは大会側としても大歓迎なんだってさ」

「フッ…当然だな」

 

 何故か自慢げに胸を張るジェノス。

 久し振りに彼の天然が炸裂した。

 

「一応、出場するためには大会会場に直接出向いて、改めて事情を説明した後に大会選手としてエントリーしなくちゃいけないって言ってた」

「ちょっと面倒だけど…仕方ないか」

「それと、大会に出る時はちゃんと道着的な物を着て行った方が良いと思う」

「なんで? いつものヒーローコスチュームや私服じゃダメなのか?」

「ダメとは言わないけど…あーゆー所って暗黙のドレスコードみたいのがあるから…それ系の格好で行けば確実に悪目立ちすると思う。他のヒーロー達も、あくまで今回の大会は一格闘家として出場してるわけだし」

「つってもなー…俺、そういうの一着も持ってないぞ?」

「それっぽければ何でもいいんだよ。最近なら普通に店で売ってたりするし」

「成る程な…。なら、まずはどこか適当な店で道着の購入からか」

「だな。ま…健闘を祈るよ。アンタには無用の心配だろうけど」

 

 こうして、サイタマは己の好奇心を満たすために、チャランコの代理として大会に出場することとなったのだった。

 この事がまた新たな出会いと運命を呼ぶこむことを、この時はまだサイタマもパチュリーも知らなかった。

 

 

 

 

 

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