本番は次回から。
観客席にて、パチュリー達がのんびりまったりしながらお菓子とジュースを口にしていると、突如として会場全体にアナウンスが流れてきた。
『ご来場の皆さま、大変お待たせ致しました!!』
「あら?」
「む?」
「え?」
会場全体が急激に騒がしくなっていく。
その様子を見て、三人は『遂に始まった』と悟る。
『第22回スーパーファイト…全選手の入場です!!』
選手専用の通用口の扉が開かれ、大会参加選手たちが選手紹介をされながら次々と入場してくる。
『まずは初出場! A級ヒーロー現在19位! 『イナズマックス』の名でも活躍中のこの男!! 今大会でも得意の蹴り技が見事に炸裂するのか!? 『ハイパー空手』マックス!!!』
「当然だが、俺は優勝しか見ねぇ!」
最初から見知った相手の登場に、パチュリーとこあは思わず目を丸くした。
「あら。イナズマックス君も出てたんだ。意外ねぇ…」
「格闘家として、こういう大会は無視出来ないんでしょうか?」
「かもね。彼、ああ見えてジェノス君に負けず劣らずの真面目君だし」
「「お~い!」」
この喧騒の中で聞こえるかどうかは分からないが、一応は言ってみることに。
すると、なんとイナズマックスは一発で彼女たちの事に気が付いた。
「あ…あそこにいるのは…まさか、パチュリーちゃんとこあちゃん!? な…なんで、この会場に!? まさか…俺の事を応援に…?」
本当は全く違うのだが、それでも知ってしまった以上は応援せざる負えない。
そういう意図で手を振っている二人を見て、イナズマックスは一気に気合を入れた。
「パチュリーちゃんとこあちゃんが見てくれてるってんなら…ますます負けられねぇじゃねぇか!! よっし!!」
気力が上がった彼を他所に、他の選手たちも次々と入場してくる。
『今大会の紅一点! 電光石火の早業は、もはや芸術の領域! 女性格闘界ではもう戦う相手が残っていないと嘆いているとか! 『掌鈴拳』リンリン!!!』
「はぁ…早く試合がしたいナ…」
まさかの女の子の選手に、同じ女であるパチュリー達は地味に感心した声を出す。
「へぇ~…女の子も出てるのね。しかも一人だけで」
「男たちの中に混ざってということは、それだけ実力がある証拠なのでしょうね」
「凄いですねぇ~…」
やっぱり、現代は女でも護身術ぐらいは出来た方が良いのかもしれないと思い始めるパチュリーだった。
『道場荒らしでジワジワと名を上げてきた酷道流を束ねし男が遂に公の大会に姿を現しました! 今大会の台風の目となるのか果たして! 『酷道流』ベンパッツ!!!』
「ぬふふふ…ようやく大会出場にまで漕ぎつけたぞ…!」
何とも言えない風貌の男を見て三人の感想は一つだけだった。
「…噛ませね」
「噛ませですね」
「どう見ても、噛ませさんですねぇ…」
プロヒーロー三人から散々な酷評を受けていたベンパッツだった。
『ベスト4常連! その蛇のようにしなる腕と技は相手を何処までも追い詰めて確実に仕留める! A級ヒーロー最下位の男! 『蛇咬拳』スネック!!!』
「あのさ…その『最下位』って紹介…言う必要ある? いい加減にしないとマジで泣くぞ?」
本人はポーカーフェイスを貫いているが、心の中では泣きまくっているスネックだった。
「あ…スネックさんも出てますよ。パチュリー様」
「ホントだわ。そういや、彼も格闘家だったわね」
「地味に忘れてましたね。まぁ…最下位とは言えA級であることには違いないですから」
こっちも散々ではあるが、名前をちゃんと覚えられているだけ遥かにマシだった。
流石に無視は可哀そうなので、彼の事もちゃんと応援してあげることにした。
『幼少期の落雷事故が、彼をここまで強力な戦士に変貌させるとは一体誰が想像したでしょうか!? 超帯電体質! 『雷々拳』ボルテーン!!!』
「フンッ…」
特に何も言わずに佇んでいるが、その目は確かにイナズマックスを捉えていた。
「彼…完全にイナズマックス君と被ってるわね」
「能力的にはそうでしょうが、奴は間違いなくイナズマックスの完全下位互換です。帯電体質程度で、A級上位ランカーであるイナズマックスを倒せるとは思えません」
「電気って意外と弱点も多いですし、イナズマックスさんはちゃんとそれを補う術も持ってますからね」
図らずも、同系列の選手が出たことで三人の中でのイナズマックスの評価が高いことが判明した。
もし彼が聞いていたら、確実にむせび泣いていただろう。
『その決着は常に90秒以内! 一撃必殺の破壊力に拘り続け、鍛え抜いた無骨なスタイルで優勝まで突き進む!? 『バズズ流爆拳』バズズ!!!』
「がははっ! 今日の俺を今までの俺と同じだと思うなよ!」
ここからは特に興味も無いのか、三人は黙って選手紹介を見守ることに。
『終わることのない技のコンビネーション! その恐ろしい進撃に一度でも捕まった選手はトラウマになるほどの恐怖とダメージを負うことになります! 『数撃当流術』ガトリン!!!』
「連打こそが最大の攻撃にして防御なり」
一人の選手が紹介されるたびに会場が賑わうが、そんなのとは関係なしにマイペースに場を楽しむ三人。
もう誰も、パチュリー達がプロヒーローであることも忘れていた。
「あら。もうポップコーンが無くなっちゃったわ。そこのおねーさん。そのポテチをくださいな」
「はーい! どれになさいますか?」
「勿論、私は王道のうすしおよ。こあはどうする?」
「そうですね~…じゃあ、私はコンソメパンチください」
「はーい。うすしおとコンソメですね。毎度ありがとうございまーす」
地味に論争になりそうなことを言っているが、この場では無礼講なのだろう。
味の嗜好は人それぞれである。
『女性や子供でも扱える技を教えてくれると評判の護身術道場からまさかの初出場! 説得力皆無の、そのガタイの良さが逆にその強さを匂わせます! 『ひまわり道場の優しい護身術』ハムキチ!』
「道場の月謝は2000円です。今日はよろしくお願いします」
ニッコリ笑顔で手を振っているが、その体は明らかに歴戦の猛者だった。
そんな彼を見て、パチュリーは密かに考える。
(女子供で扱える技…ね。健康の為にも私も通ってみようかしら…)
ヒーローになってからこっち、前以上に健康志向になりつつあるパチュリー。
それは彼女がS級になってから更に顕著になった。
他のS級たちに良い影響を受けたのかもしれない。
『今大会最重量選手! しかし、ただの肥満に非ず! 高い跳躍力を活かした強力なボディプレスはこれまでに何人もの選手を病院送りにしてきました! 『巨漢流圧殺法』デーブ!!!』
「ふーっ…ふーっ…」
明らかに会場内の室温を上げているであろう彼に対する言葉は一言。
「痩せなさいよ」
「痩せろ」
「痩せた方が良いですよ~…」
これ以外には本当に何も言えなかった。
『相手の心理を分析、誘導し、試合を有利に運んで勝利を掴む…らしいです! 文科系の星となれるか!? 『心理分析格闘術』ロジー!!!』
「心理ロジックに従って格闘界に新たな革命を起こして見せましょう」
これまた明らかに場違いな男が出たことで、特にパチュリーの目が鋭くなる。
「確かに心理分析は大事だけど、それだけで試合に勝てたら誰も苦労なんてしないわよ」
「全くですね。それに、そんなものは真の強者であるシルバーファングやアトミック侍には児戯にすらならないでしょう」
「なんか…あの人からも噛ませの匂いが…」
本当に噛ませになるかどうかは彼次第だが。
何かのフラグは立ったかもしれない。
『事前のアンケートでは全選手を見下すような発言が目立ちました! 不敵な笑みを浮かべる謎の男の真意と実力はいかに!? 『選民血脈格闘術』チョゼ!!!』
「愚民共…よく見ておくのだな…」
などと格好をつけているが、殆どの観客が彼を見ておらず、他の選手にばかり注目していた。
知らぬは本人ばかりなり。
『刺激の強い香辛料を擦り込んだ拳で相手の目を執拗に狙う戦いを得意とする! これを反則扱いにしないのは、このスーパーファイトだけ! 『香辛拳』メンタイ!!!』
「今日は赤トウガラシでかましてみせるぜ!」
色々とツッコミどころが多いが、誰も興奮で何も言わないのでパチュリー達が代理でツッコむことに。
主人公チームも大変である。
「他の大会じゃ普通に反則扱いになってたのね…」
「というか、どうしてここでは反則にならないでしょうか…理解に苦しむ…」
「今日のお夕飯はキムチ料理もいいかもなぁ~…」
こあだけ完全に別の事を考えていたが、お陰で今晩のおかずが一品決まったので良しとする。
『遂にこの大会に本場のプロレスラーが殴り込み! 本人曰くメンタルが弱いので、選手紹介ではあまり煽らないでほしいとのこと! 了解しました! 『ギガプロレス』ジャクメン!!!』
「い…いや…俺は普通に興行の宣伝をしに来ただけなのに…あんましこう…殴り込みとか乱暴な言い方をされるのは普通に困るって言うか…うん…」
強面な顔とは裏腹に、絶対に根っこは良い奴なオーラが出まくっている。
こういう男が実は、そこらのプロヒーローよりも強かったりするのがパターンだったりする。
『元流水岩砕拳の実力者が独立を果たし旗揚げしました! 今大会で見事な結果を残し、門下生の体力獲得なるか!? 『ニガムシ流拳法』ニガムシ!!!』
「うぅっ…緊張すると急に吐き気が…」
聞き覚えのある名前が出て、三人は顔を見合わせた。
「成る程ね。あれがさっきサイタマがメールで教えてくれた、チャランコ君の兄弟子ね」
「ガロウが暴走する瞬間を目撃した貴重な生き証人。ヒーロー協会としても最重要要人の一人になるでしょうね」
「ニガムシさん的には本当に無念だったでしょうね…」
まだ実際に彼と話をしたわけではないが、それでも三人はチャランコの無念を知っている。
それを更にダイレクトな形で味わったであろうニガムシのことは、ヒーローとしても、一人の人間としても決して無視できない。
彼の為にも、必ずガロウの事を捕まえようと決める。
『今回でなんと七回連続出場! 諦めと言う言葉を知らない男の姿に魅了されたファンも地味に増えてきました! 今回こそ念願の初戦突破なるか!? 『猪突猛真券』ザッコス!!!』
「今日の為に死に物狂いで修行してきたんだ。初白星を飾って彼女にプロポーズするためにな」
地味に会場が湧き始めるが、パチュリー達はそれよりも次の選手に視線を送る。
何故なら、次こそがサイタマの選手紹介になるからだ。
『怪我で無念の出場辞退されたチャランコ選手の代理で出場したという、三人目のヒーロー協会所属の選手!! 完全未知数のその力は、ある意味では最大のダークホース! 『極限流空手』サイタマ!!!』
「スネックとマックスって、よく見たら前に深海族ん時に一緒に戦った奴らか。知ってる顔があると、それだけで安心するよな~」
緊張皆無。
ある意味、最もサイタマらしい反応である。
「こんな場所でもやっぱりサイタマね。全然緊張とかしてないわ」
「流石はサイタマ先生! 勉強になります!」
「頑張ってくださ~い! サイタマさ~ん!!」
サイタマに関しては微塵も心配などしていない。
寧ろ、彼と対戦する選手の事を心配する。
せめて、五体満足で家に帰れますようにと。
『そして…スーパーファイト史上最強と目されるはこの男!! 過去2度の優勝経験を持つ格闘家! 恐るべきことに、これまでの全ての試合がこの選手による一方的な蹂躙劇…見るも無残な凄惨な内容ばかり! 対戦選手の中には選手生命を絶たれた人間も少なからずいるにも関わらず、本人は未だに微塵も本気を出していないとのこと! 人呼んで『鬼神』!! 『闇地獄殺人術』バクザン!!!』
「今日の優勝…それにこそ初めて意味が生まれる」
明らかに普通じゃない空気を醸し出す男。
だが、残念ながら、この程度で震えあがっていたらヒーローなんて出来ていない。
少なくとも、選手の中ではスネック、イナズマックス、サイタマは微塵もビビっていない。
それは、観客席にいるパチュリー達も同じだった。
「随分と仰々しい紹介をしてるけど…」
「なんでしょうね…全く脅威とは感じない。S級ヒーロー達は愚か、A級上位ランカー達の前でも1秒以上立っていられれば上等…と言った所か」
「う~ん…私から見ても『普通』に見えちゃいますねぇ~…」
今までに数多くの修羅場を潜り抜けてきた三人からすれば、バクザン程度の相手は文字通り山のように見てきた。
特に、近所に住むようになったボロスを知れば、単なるバクザンも単なる一般人認定だ。
『更に…彼もまた無類の強さを誇っております…7年振りに姿を現しました! 過去に4連覇という大偉業を果たした若きレジェンド!! 『冥躰拳』スイリュー!!!』
「イエーイ。イェイ。皆見てる~?」
『今までずっと行方知れずだった、この3年間…本人が言うには『遊び歩いていた』とのことで、今回も優勝賞金のみが目当てだと申しております!』
「あ。あそこにいる女の子、可愛いな~」
『地位と名誉に執着しないが故の強さなのか…しかし!! 今大会には同じく優勝経験者であるバクザン選手も出場しています! 順当な予想では、決勝戦はこの二人の死闘が見れそうですが…果たして!? 初出場の選手が多いので、まさかの大どんでん返しも十分に有り得ます!!』
司会が興奮気味に語る中、バクザンはスイリューを、スイリューは別の誰かを探していた。
「あの男が『スイリュー』か…。面白い…奴さえ倒せば、この俺こそが名実共に最強となる…」
(なんつー露骨で刺すような殺気だよ。あの男の狙いが俺なのが見え見えじゃん。でもなぁ~…俺個人としては、前大会で優勝したって言う男とやり合いたかったんだけど…)
あからさまな溜息を吐きながらも、彼の視線は別方向を向く。
(だからと言って、そこまで退屈するような大会にはならなさそうだ)
その視線の先には、スネックとイナズマックス、そしてサイタマの姿が。
(ヒーロー協会所属の現役のプロヒーロー…。そんな連中と合法的に戦える機会なんて普通じゃ絶対にない。日常的に怪人なんていう未知の化け物と戦っている奴らがどれほどの強さなのか…試させて貰おうか)
先程までの軽薄な笑みとは打って変わって、急に戦士の顔つきになるスイリュー。
これこそが彼の本来の姿なのかもしれない。
『以上418名の選手と共に…第22回スーパーファイト開幕です!!!』
次回、大会本番と、その裏での出来事。