天羽響は奏者である 作:折り紙のユニコーン@UNICORNぬ
6話です。若葉の成長の話なので、響君は大分空気になる予定です。
この前初めて感想を貰って小躍りするほど喜びました。
なるべく返信するつもりでいるので、どうぞ気軽に感想書いてください。
お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。
アドバイスや誤字脱字など感想は歓迎してます。
「あー、極楽極楽。いやぁ、とんでもない贅沢してる気分だよ……いや、実際贅沢か」
現在俺は、貸し切りの旅館で風呂に浸かっていた
「―――はぁー………寂しい」
1人で
俺が…いや俺達勇者が旅館にいるのは今が休養期間だからだ。今の所大きな怪我もなく、戦績は快調
しばらくは侵攻も無いとのことで、大社から休養を言い渡された俺達。そして休養ということで、とある旅館が厚意で貸し切り宿泊をさせてくれたのだ
「旅館に来る前に火傷が治ってよかったな……なんて、誰も返してくれないのに口だけは回りやがる」
そして今、俺達は温泉に入っているのだが…俺は男。他のメンバーは女だ
当然風呂は分けられている。覗きとかはするつもりはない。しかし、友達と旅館に来ているのに話し相手が誰もいない状態というのは悲しいものだ
やはりこういう時は同性がいたほうが楽だと痛感する。女所帯だと男はやりづらくってしょうがない
「かと言って黙るのも性に合わない……こういうときは歌って誤魔化すに限るな」
同性の友人とバカやっていた小学生の頃が恋しい。なんて思いながら俺はお湯に浸かりながら目を瞑り、小さく歌い始めた
響が男湯で一人寂しく歌い始めた頃、時を同じくして若葉たちも風呂に入っていた
「ふぅー……身にしみるなぁ」
タオルを頭に乗せた若葉がお湯に浸かりながら顔を緩める
「おじいちゃんみたいですよ。若葉ちゃん」
そんな若葉のリアクションに反応するのは、タオルで前を隠して風呂の縁に座るひなただ
「せっかくの休養だしなー。それに、旅館のご厚意で貸切にしてくださったんだ。満喫しないと失礼だろう」
若葉はすっかりリラックスしきっているのか、返す言葉も緩くなっている。ひなた風に言うならふにゃふにゃ若葉だろう
そんなときガラリと温泉の扉が開き、他の勇者達も入ってきた
「あー!?やっぱり先に入ってた!!
一番風呂狙ってたのにー」
その声と共に球子が風呂へ飛び込んだ
「さーて、定番のやついってみようか」
両手をワキワキさせながら球子がひなたへロックオンする
「球子さん、その手は一体……」
「もちろん成長過程の身体チェックだ!!」
「きゃー!!」
身の危険を感じて腕で胸を隠すひなただが、球子はお構い無しにガバっと襲いかからんとする
しかし、そこに杏が割り込んだ
「タマっち先輩!!温泉は人の体を調べる場所じゃないんだよ」
「むむむ……む!?」
流石に杏に注意されると弱い球子だが、それも杏のとある部分を見てしまうまでのこと
ソレを認識してしまった球子は、ブレーキが効かない変態暴走車になるのだ
「あんずぅ……よく見たらお前も成長してないか?」
「ふぇっ!?」
ターゲットが自分に移ったことを理解して、杏が腕で体を隠す。当然球子はお構いなしだ。ギラリと瞳を輝かせて杏の胸を鷲掴みにした
「隅から隅まで調べてやるっ!」
「ひゃああぁあ!!」
南無三。杏は犠牲になったのだ。登山の犠牲にな
「ちょ……っ、やめ……っ、響先輩もいるのにぃ……ひゃあぁあぁ!!」
杏の人様に聞かせられない声が聞こえてしまったのか、男湯から仕切りを超えて風呂桶が飛んでくる。それは弧を描いて見事に球子の頭に直撃した
「いったー!?おいこら響!何するんだ!!」
「バカ野郎!何してんだはこっちのセリフだ!!
そういう事は家でやりやがれっ!!」
「家でもよくないです!!」
頭を押さえながら抗議する球子に、響のいつもより荒い反論が飛び、杏が息を切らしながら突っ込みを入れる
勇者達は気付いていないし気付かなくてもいいことだが、この時響はわざわざ球子に桶を当てるためだけに遠距離タイプに切り替えていたのだった
「身体検査といえばさ、みんな病院の検査でおかしなところなかった?」
ふと友奈が思い出したように全員に問いかける
休暇前に勇者達全員は病院で念の為の検査を受けていた
「私は問題なしだ。友奈こそ影響はないのか?」
「
「タマも完全な健康体だ。この前の脱臼もすぐ治ったしな」
「私も……昔より体が丈夫になったくらいです。」
「体は問題ない。敵を殺さないといけないから……怪我も病気もしてられない」
「響君はー!?」
「あん?何だー?」
「検査大丈夫だったー!?」
「おー、火傷も治りきったし、バッチリ元気だー!」
「だって。響君も元気みたい」
全員の結果を聞きながら、若葉は1人考えていた
――千景は変わった。実家に戻った頃からだろうか。訓練にも戦闘にも、鬼気迫る勢いで励んでいる
何があったのかわからないが……
勇者の自覚が一番強いのは、彼女かもしれないな
「……何ジッと見てるの……?」
若葉の視線に気付いた千景がギロリと睨む
「い、いや……なんでも……」
――こういうところは変わってないか
「なーなー、お風呂出たらゲームやろう!!」
「ゲーム……!!」
球子の提案により千景の目が輝いて球子へ向かい、千景の視線から逃れられた若葉は胸をなでおろした
「私は将棋盤を持ってきました」
とひなた
「私はトランプ」
友奈は定番のアイテムを持ってきたらしい
「ゲーム機が……部屋にあった」
千景は部屋でテレビゲーム機を見つけていたようだ
「人狼なら紙とペンとアプリがあれば」
杏も手軽にできるゲームを提案する
「よーし!全部やる!!そしてタマが全部勝ーつ!!」
そして球子が勢いよく立ち上がり、元気よく勇んで……
全敗
5人がワイワイとテーブルを囲んでいる横で、杏と球子が並んで部屋の隅で落ち込んでいた
「手も足も出なかった……」
「将棋も人狼も……」
「さすがぐんちゃん。全勝だね!」
「得意……だから」
「うーん、圧倒的。さすがゲーマー。アナログゲームまで制覇してるとは恐れ入った」
「……天羽君もまだまだだね」
友奈の言葉に返し、ボコボコにされた響をクスクスと笑う千景。しかしすぐに表情を引き締め、最後の戦いへ臨む
「この勝負も……次で決着。今回も……勝つ」
「現在一勝一敗だ。今度こそ勝ち越させてもらう」
「それじゃ、俺が合図させてもらうな
スピード3回勝負!決勝3回戦目……スタート!!」
そして始まる真剣勝負。互いに素早い動きでカードの数を減らしていく。しかし僅差で若葉が速い
千景の表情が苦しくなっていく
――最初こそ慣れないゲームに戸惑ったが、やっとコツを掴めてきた
「絶対……負けない……貴方には……!絶対……」
若葉が最後の1枚を手に取り、勝利を確信する
――僅差だが、私の勝――
はむ
「ふぁああぁ!!」
だが、なんとひなたから妨害が入った。耳を啄まれたのだ。不意打ちの耳への刺激にビクンと体を震わせカードを取り落とす若葉
「ひなた!?急に何を――!!」
思わず振り向き抗議する若葉だが、当然千景はその隙きを逃さない
「ラスト」
「あっ!!」
「勝者、ぐんちゃん!!」
「千景がチャンピオンー」
無情にも場に出される千景のラストカード
遊びとはいえ、勝負に負けて落ち込む若葉
友奈と響に挟まれ両腕を掲げさせられて万歳のようになりながら満更でもなさそうな千景
「ダメですよ、怖い顔しちゃ。ゲームなんだから楽しまないと」
「だ、だが……くすぐったいだろう……!!」
「若葉ちゃんの弱点はすべて把握済みです」
若葉の抗議にドヤ顔で返すひなた
そして、若葉の弱点と聞いて復活するのが2人
「弱点!?」
「どこですか!?」
「ズバリ、若葉ちゃんの弱点はみ――」
「こらー!!やめろー!!」
普通に弱点を暴露しようとするひなたを中断させ、笑いながら軽く逃げるひなたを追って玄関の方へ向かう若葉であった
「おい待てって。……ひなた?」
じゃれあい気分で追いかけていた若葉だが、ふいにひなたの足が止まり不思議に思う
「何事にも真面目に取り組むのは若葉ちゃんの美点です。でも……自分のまわりの人のことももっとよく見てあげてください
さっきだって……」
話しながら振り向くひなたは心配そうな顔をしている。だが、若葉はひなたの話がよく理解できていなかった
「さっき?」
「……いえ、これは自分で気づかないと意味がないことですね。皆のところに戻りましょう」
「お、おいひなた」
若葉の呼びかけにも構わず部屋の中にも戻っていくひなた
「『よく見ろ』……どういう……意味なんだ……?」
~~~~~~~
「多すぎる……!!」
休暇が終わり、俺達は再び戦場に立っている
見据える先に存在するバーテックスの数はこれまでの比にならない量だ
見えるだけでもざっと千は超えているだろう
遠目から見ればまるで天の川だ……なんて皮肉を口に出すことなく飲み込む
「今回ばかりは全員固まってたほうがいいかもな……!」
ポツリと呟く。さすがのイチイバルもここまで数があると厳しいだろう。しばらくチャージが必要な大技も使えない……いや、勇者達が纏まっていれば使えるだろうが今は無理だ
「おい、若葉。あんま突っ込むんじゃねぇぞ。今回は特に軽率な行動が命とりに……って、おい若葉聞いてんのか?」
声をかけているにも関わらず、先程からずっと黙っている若葉に目を向ける
改めて声をかける暇もなく若葉は1人飛び出してしまった
「私が先頭に立つ!!」
「おい若葉!!……〜っ!あんのバカ野郎!!」
「ど、どうしよう響君!」
「どうもこうも……ちっ!若葉を無視してこっちに来やがった!!
――となると、目的は若葉と俺達の分断か……!?全員、なるべく互いに離れるな!!1人にならないようにしろ!!」
若葉が突貫してしまい、肝心の指揮官が消えたので俺が指示を出す
今回の数は尋常じゃない。進化体こそいないが圧倒的な数はそれだけで脅威になる
勇者の中でもトップクラスの実力を持つ若葉なら大丈夫だと信じたいが、杏や球子などが分断されればそれこそ無事では済まない
故に今俺は若葉を気に掛ける余裕がない
「ちぃっ、死ぬなよ若葉……!」
無事であることを願うしかないのだ
俺達も迫りくるバーテックスを睨みつけ、必死の攻防が始まった
~~~~~~~
若葉は1人、バーテックスの大群へ突撃していた
走り回り、目につくバーテックスを片っ端から斬り裂いていく
――敵陣の中心に自ら飛び込み、追従する者も共闘する者も必要ない。大きな負担は自分だけで充分……
響には悪いが、これが私の戦い方だ!!
しかし、敵の動きに違和感を感じた若葉は動きを止める
「敵の侵攻が止まった――?いや、違う」
――大群の一部が神樹様に向かって皆を引き付け、残りで私を取り囲んだのか
戦術面での『進化』……
「分断して各個撃破。まずは私を潰す気か」
呟くと同時に一斉に大量のバーテックスが若葉に襲いかかる。攻撃を避けつつ倒そうとするも、数が多すぎる
斬っても減らず、避けた先にも待ち構えている
そうしてついに、背後からのバーテックスに気付かず肘に噛みつかれてしまう
ブシュッ……!
「ぐぅううぅっ!!この……程度で!!」
ザシュッ!!
吹き出る血。痛みに顔を顰めながらも刀を持ち替えて自身に噛みつくバーテックスを斬り裂く。しかし……
ゴバッ
その斬り裂いたバーテックスの後ろから、さらにバーテックスが口を開いて襲いかかる
完全に不意をつかれた形となり、対応が間に合わない若葉
ドンッ!!
だが、そのバーテックスは上から降ってきた友奈によって叩き潰された
「友奈!?何故来た!?私は1人で戦える。それよりも――」
若葉の言葉は傷だらけの友奈を見て止まる
「友達を放って置くなんて、私にはできないよ
それに、響君にも託されたんだもん!」
「響に?」
『響君!若葉ちゃんを助けに行かないと!』
『……ちょっと待てっ!』
『響君!』
『〜っ!!焦るな、焦るな、焦らせるなッ!!今考えてんだろうが!
あークソっ!こんなすぐに思いつかねぇ!行くなら覚悟決めろよ友奈!俺も援護はするが多少はマシ程度だ!
ここは俺が死ぬ気で守ってやる!!気にせず行け!!』
『ありがとう!響君!』
『ただ!!』
『?』
『あのバカきっちり助けて来いよ!!……それと、死ぬんじゃねぇぞ!!死んだらぶっ飛ばすからな!!』
『うん!!』
「響……」
若葉と友奈が背中を合わせて並び立つ
「必ず生き残れ」
「若葉ちゃんもね。響君にぶっ飛ばされちゃうよ?」
「それは恐ろしいな」
そうして、果ての見えないようなバーテックスの大群に身を投じた
「なん……とか……ハァ、ハァッ……生き残れた……か」
――他の……他のみんなは………っ!!
「友奈――!!!」
戦いが終わった時、友奈は身体中に傷を負い意識を失っていた
ピッ…ピッ…ピッ…
友奈は病院に運ばれ、色々な機械が繋がれ眠っている。ガラス越しにそれを見る若葉の顔は暗い
「これが……あなたの引き起こした結果よ」
千景の声に若葉が振り向くと、響を除く他のメンバーが。巫女であるひなた以外、例外なく体のどこかに包帯が巻かれている
「響は……?」
「天羽君は……あなたや、あなたを助けるために向かった高嶋さんの穴を1人で埋めていたわ
自分にも私達以上のバーテックスが迫っていたのに、私達の援護をしていた!そのせいで……!」
「響君は現在意識がありません。シンフォギアの防護によって怪我こそ友奈さんほどでは無いものの、ボロボロで……蓄積した疲労も相まって別の病室で眠っています……」
響の状況を聞いてさらに若葉が表情を曇らせる
響の怪我だって、元を辿れば若葉のせいとも言えるからだ
初陣からずっと突出気味な若葉に変わって仲間をフォローし、今回の戦いでは他よりも多くバーテックスの相手をしながら援護もしていたのだから、その負担は計り知れない
「なぜこんなことになったのか………あなたはわかっているの?」
若葉は友奈の病室を見ながら思い当たる事を答える
「……私の突出と無策が原因だ」
――響の忠告を無視し、怒りに身を任せた暴走とも言える突貫
一体でも多くの敵に報いを受けさせることだけを考えた――
「違う――!!」
「え……?」
千景の強い怒りの籠もった否定に思わずそちらを見る
感情を表に出さない千景にしては珍しい、分かりやすく激しい怒りの表情
「……やっぱり分かってない……!!一番の問題はあなたの戦う理由!!
怒りで我を忘れるのも!!まわりの人間を危険に晒して気づきさえしないのも……!!
あなたが復讐のために戦っているからよ――!!」
若葉は、自身の戦う理由の否定に凄まじいショックと、存在が揺らぐような感覚を覚えた
いかがだったでしょうか。
書き終わってみると、思ったより響君が出てた気がします。
次回は若葉の再起回です。ついでに主人公の戦う理由にも触れるつもりです。
それでは、またお会いしましょう。