In My Home   作:雪須

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先日みちるは、図らずも実家を訪れ、母と再会することができた。母と約束した、今度は最初から本人としての実家への帰省を市長にお願いに行く。


帰省します

「市長、近いうちに実家に一度帰ることにしました。両親にシティに住むことしっかりと話をしておきたいので」

 

アニマシティ市庁舎の市長執務室から明るい声が弾む。

 

「やはりそう来たわね。なずなさんが両親に会いに行くことになったからかしら?」

 

みちるはこくりとうなずいた。

 

「いい機会だからしっかりと会ってきたらいいんじゃない」

「ええっ?いいんですか?」

 

ほんの少し前に会ったところだから控えるように言われるかと思っていたのが、真反対の答えが返ってきたのでみちるは思わず再確認をしてしまった。

 

「本当は市外にはあまり出てほしくないのだけれど、そもそも市外に出るのに私の許可が必要なわけでもないし。出たいときにはちゃんと私に連絡相談してくれるからね」

「市長はシティでの私の保護者のような人ですから、ちゃんと伝えておかないと、と思って......」

 

実際みちるにとってロゼ市長はシティにおける自分のよき理解者、無用な心配などかけたくないと思っている。

 

「ただし、家族以外に人間から獣人化したということを知られないようにすること。そして、家族にも獣人化した原因については不明としておくこと。これらを守ってもらわないと、あなた方しいてはご家族の安全にもかかわってくることだから注意してね」

「やっぱり原因とかは話せないんですか?」

 

みちるの両親にとって、聞きたいことにこの点は必ず入っているはず。

なにせ世界でも聞いたことのない現象が身内に起こったのだから。

 

「あなたとなずなさんが獣人化したのは、獣因子を活性化したといわれている獣因子試薬を輸血された医療事故が原因ではあるけれど、獣因子の何を活性化したのかまではまだ分かっていない、今も調査しているところ」

「でもその事故で人間が獣人化したなら、人から獣人にできる原理があるということになる」

「獣人の能力は兵器にもなりうるもの、そして人間からその体になれる原理が存在する。その事実を人間側が知ったら、その原理を欲する者たちからその原理を手に入れるため狙われることになる」

 

市長は戦争下で獣人がおかれた惨状を体験した人、その人がこのような懸念をするのは至極当然のこととみちるには思えた。

 

「だからそうならないためにも口外はくれぐれもしないように注意してちょうだい」

 

人間から変質した獣人の体(みちる、なずなは特別の変身能力もある)は好きになった。

しかしその事実を自分が属していた種族、人間たちに知られないようにするのは正直面倒極まりないことだった。

 

「もう一生、人間から獣人になったってことは家族以外に隠さなきゃならないんでしょうか?」

「だから今も調査しているのよ、メディセンの力も借りてね」

「その原理が分かれば世界に公表できる。そうするとあなたたちは狙われることはなくなるわ。その必要がなくなるから」

 

兵器にも転用できる原理を見つけたとして、その原理をすんなりと発表なんてさせてくれるんだろうか?

 

「兵器にもなりうる原理を公表するなんてできるんですか?」

「なんとしてもする、そういうこと」

 

市長は目を閉じ静かに言った、決意を示すかのように。

 

 

 

 

 

「そのために俺がいる、人間どもに邪魔はさせない。といっても俺は人間を獣人化するなどという獣人への冒涜はやめてもらいたいところなんだがな」

 

突然青年男性の声が割り込んできた。

 

「ただ、人間どもの争いに獣人が巻き込まれるのはもうごめんだ。人間たちが争いたいなら、争いたい奴らが勝手に獣人化してやってくれればいい、それだけだ」

 

人間への侮蔑も含めた言いようで青年は話をつづけた。

 

「あら、来てたの?」

「今ちょうどな」

「まぁ私は獣人化することで人間にメリットのある方へ展開していきたいんだけどね。例えば体の弱い乳幼児の体力改善に獣人化手法は利用できるのではないかと考えてる」

「ふん、市長も甘いな。人間どもに何かしても返ってくるものなんてない」

 

「士郎さん...」

 

元人間であるみちるはいたたまれず、青年の名をつぶやいた。

 

「心配するな、おまえは別だ」

 

別扱いされても、人間と獣人の間を取り持ちたいみちるにとってはやりきれなさが残る。

 

「でも、このままでは人間と獣人との間のミゾは埋まらないようにどうしても私には思える。なのでやってみる価値はあるはず」

「みちるさんみたいに人間と獣人をつなぐ人たちが双方から出てくれればと私は思っている」

 

市長の言葉に応えるように、みちるは返事をする。

 

「さっきの士郎さんの「別」扱いの人がたくさん出てくればいいわけですね」

「そうゆうこと」

 

(「おまえとおまえとおまえと・・・・おまえは別......長いな」と言わせたら勝ちね)

市長とのやり取りで、とりあえず獣人と人間のミゾを埋める方向性(これを実現する手段は思いついてないが)を見つけたみちるはひとまずやりきれなさを抑えることができた。

 

「それじゃあ近いうちに実家に行ってきまーす」

「ん、なんのことだ?初めて聞いたぞ。ついこの前行ってきたばかりじゃないのか?」

 

う、そうだ、まだ士郎さんに言ってないんだっけ。

 

「獣協に帰ってから言うつもりだったんだよー」

 

かくして、その場で実家の往復行について士郎にプレゼンするハメになった。

そのため、市庁舎を出るのが小一時間ほど遅くなってしまった。

 




市長に言わずに帰るというのもありかと思いましたが、本編を含めたこれまでの市長との付き合いで事前に話はしておくように心がけている設定にしてみました。
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