In My Home   作:雪須

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帰省初日

片田舎にあるそれほど大きくもない駅。

 

駅前のただでさえ数少ない商店は、夜9時になった今、コンビニと居酒屋の2件しか開いていない。客待ちのタクシーもないロータリー。その一角に、とある人物と待ち合わせるため、壮年の夫妻が乗っている車が停車していた。

 

その駅は夫妻の自宅から最寄りというわけでもなく車で一時間ほどかかる場所にあった。

 

なぜわざわざそんな自宅から遠く離れた駅に来ているのか。

 

それは今まさに待っている人物から、その駅まで迎えに来てほしいという要望があったからである。それは昔の知り合いとできるだけ会わないようにするため。

 

そんな駅では、ついさきほど下りの列車が到着、数十秒の停車ののち発車していった。そして、その列車から降りたであろう乗客が駅出口から数名出てきたところである。

 

夫妻は車中から、その乗客の中に自分たちが待ちこがれている人物がいないか探った。

 

しかし出てきた乗客たちは、特に誰かを探す素振りさえ見せず、それぞれの帰途につき、

駅前からは人影が見えなくなってしまった。

 

乗客がいなくなったことから夫妻は一瞬戸惑いを見せたが、人影がなくなったその直後、一人の、歳は17、8ぐらいの少女が駅出口から姿を見せた。

 

その少女の姿を見つけた夫妻は、顔いっぱいに喜びの表情を浮かべた。

少女は少女で、夫妻の車を見つけるなり、一目散に走り寄ってくる。

 

「お父さん、お母さん、ただいま!」

「おかえり、みちる」

 

はちきれんばかりの笑顔で父母とかわるがわるハグし、永らく数十年離れ離れになっていたように再会を喜び合った。

 

「出てこないから乗り過ごしたのかと心配したぞ」

「父さんごめんなさい、人の目避けたかったから一番後で出てきたんだ。だって父さん母さん見たら興奮してタヌキ姿になっちゃうかもしれないから」

「ああ、まだあの獣人病は治ってないのか....」

「う、うん、向こうでも診てはもらってるんだけど、今も調査中ってとこかな。でも人間の姿に戻ったりできるようになったからあの頃とは大違いだよ」

「そうか、それはよかった」

 

「ねぇ母さん、私の部屋ってまだある?」

「そのままよ、掃除と布団しいておいたから」

「うう、ひっさしぶりだぁ」

 

 

 

 

 

「ただいまー、自分の部屋に荷物置いてくるねー」

 

久しぶりの、いや父には秘密になっているがひと月ほど前に帰ってきた実家に、今回はみちる本人として玄関のドアを通り、玄関のホールに上がることができた。

 

「すぐにご飯にするから、すぐに降りてきなさいね」

「はーい」

 

ホールから二階へ上がり、自分の部屋のドアを開ける。体に染みついている動きで少し離れた位置にある部屋の明かりのスイッチをONにする。

 

壁際にはスポーツバッグと練習着がかかっている。机の上にはノートPCが、本棚には参考書やバスケの雑誌など。

 

「わぁ、私が家を出た時とほとんど変わってない……」

 

そう言いながらベッドの上を見つめるみちる。そして。

 

「……うん、久しぶりだね」

 

一言発して、みちるは部屋の明かりを消し、父母の待つ階下に戻っていった。

 

階下のダイニングには、母の手料理が並んでいた。

 

「わー、お母さんのハンバーグ、久しぶりー、食べたかったぁ」

 

母の手作り料理を前に正直な気持ちを口に出しつつ、席に着く。

いただきます、と言うと、早速主菜であるハンバーグを、箸で大きめに割いて口に運んでいく。

 

噛みしめるたびに滲み出てくる肉汁。

その肉汁とスパイスが絶妙に絡み合い、口内に旨味の泉を作り出す。

 

「んー、おいしーっ!」

ハンバーグのあふれる旨味を、これでもかというぐらい力強く目を閉じて堪能、そしてその味が消えないうちに、米飯をかきこむ。

 

「まあそんなに急いでかきこまなくても。何はともあれ、元気そうで何よりだわ。そういえばみちる、向こうで食費はどうしてるの?」

「もぐむぐ、仕事して稼いでるよ、あ、これもおいしー」

 

 

 

 

 

食事を終え、ダイニングから隣の和室の居間に移っても会話は続いた。食後のコーヒーをいただきながら、みちるは今の自分の状況を話す。

 

「それでね、シティでは相談係って仕事してて、困った人の相談と解決やってるんだ」

「それ、高校中退のあなたでこなせてるの?」

 

母のギリ昭和生まれ的常識からの問いかけに、

 

「大丈夫、ちゃんと解決してるもん」

「ほんとに?」

「た、たぶん、その後問題になってないし……」

 

みちるの回答が若干怪しくなってくる。対応した後の状況などは調査してないからであるが。

 

父からも親としての言葉がとんでくる。

 

「ちゃんと勉強してないと、詳しく知りたくって専門書とか読んでも理解できないぞ」

「もー、大丈夫だもん、必要なことはネットで調べたりしてるし」

「やっぱり父さんはみちるのこと心配だな」

「父さん心配しなくても大丈夫だって、助けてくれる人も周りにたくさんいるから......

ってあれっ?父さん?」

 

父から教育的文言と同時に、非教育的動作が。

 

「小さいときはよくこうやってお前をハグしたっけな」

「いや父さん、それ小学生までだって、それ以降はほとんどないじゃん」

 

背中から抱きしめられるようにされた父のハグに強烈な違和感を覚えたみちるは獣化。

 

「ええい、タヌキをハグして嬉しい?」

「おお、タヌキのモフモフな毛触りもなかなか...」

「うあああ」

 

父の答えに、「さぶいぼ」すら出てきたみちるは、獣人の運動能力を発揮しハグからするりと抜け出て、父の後ろに素早く回り込む。

 

「おっ?」

「んもぉっ、超ーきしょいっ!父さんいい加減にしてっ‼」

 

背後から爪を立てた両手で両肩を「がしっ」と掴み指に力を込め、

爪を立てつつ……

 

「お、おわ、みちる?!」

 

適度な握力で父の肩をもみもみする。

 

「お? おおっ、こりゃいい」

 

額を父の背中に押し付ける。

 

「......父さん、長い間留守にしててごめんなさい。でもその間に私、自分のやりたいこと見つけられたんだ。だからアニマシティに住むこと、許してほしい」

「まぁ仕方ないね。アニマシティがどんなところかまだ分かっていないけれども、やりたいことを見つけたんだったら精一杯そこでがんばってきなさい」

 

自分の望みを父が受け入れてくれたこと、その喜びを顔いっぱいに表して

「ありがとう、父さん」みちるはそう答えた。

 

そして手先に喜びと感謝を満たし、笑顔で精いっぱいの肩もみをしようと力を込めた。

獣化したことで握力が強くなっていることを忘れて。

 

ぎゅっ

 

「あたたたっ、爪が......」

「あ、ごめんなさい、獣化してるんだったっけ」

 

 

 

父を畳の上に寝かせて、腰のあたりを肘でもんでいく。

 

「うぉ、こ、これは。ううん、これは効く」

「ふむふむ、こりゃ凝ってますなぁ。ここらを重点的にぃ」

「母さん、これは効くぞぉ、みちる、アニマルセラピーな整体師なんかどうだ?」

「何それ、やんないよー。でも考えとく」

 

母が呆れて一言。

 

「父さん、そろそろいい加減にしなさいね(怒)」

「いや今しかできないと思っ......はい」

 

みちるはくすっと笑った。

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