In My Home 作:雪須
次の日は、ご近所さんや友人などに今まで不在だった理由をどう話すかの相談をして、そのあと部屋の整理、シティに持っていく物の選別など、事務的な作業をした。
そしてその夜......
「そっちどう?」
「うわーよかったね」
「変身のことやっぱり親に言う?」
「うん、そうしようよ」
「帰りどうする?私はねぇ......」
「じゃまた明後日、おやすみ」
「お母さん、お父さん、それじゃおやすみなさい」
「ん、おやすみ」
二階の自室に戻って蛍光灯のスイッチを切り、ベッドの上で思いを巡らす。
「...明日の昼過ぎに家を車で出て、そして明後日の明け方にシティ近くに着く予定...」
「実家も明日までか、なにはともあれ、久しぶりに戻ってこれてよかったぁ。次はいつ戻ってこれるかな......」
「......」
「......うん」
ふと起きだして、ベッドの上で正座をする。正座したその目線の先には......とある人影、体育座りで小さくなってる少女の人影。
とても見慣れたその姿を、みちるはこの部屋に最初に入ったときにも認めていた。
それは昔の自分の姿。
人のように二足歩行をしつつも、顔、手足などは獣と化して、耳が頭頂部に、尾すら有る、人ならざるもの、その容姿に変化し、もう人として生きていけない、終わりだ、と思っていた頃の自分自身。
その時の姿が今そこに、目の前にいる。
その人影に語りかける。
「あのときはもう終わりだと思ってたよね」
人影からは何の返答もない。ただかかえている足の間に顔をうずめているのみ。
「でも終わりなんかじゃない、私を見て。それは自分のやりたいことにつながる「始まり」なんだよ」
「安心して。あきらめないで。そのまま前を向いて進んでいって」
机の上のノートPCを見た。
人影の頭に手を当てて、まずは世界を探してみて、と声をかけた。
そして、みちるは再び床に就いた。
私は変わってしまった。
この容姿に変わってからもう長い時間が経つ。
どのくらい経ったのかは数えてないが、季節が何回か変わったのは覚えている。
顔も手も足も毛で覆われ、耳は頭頂部から、尻尾まで生えている、私はもう人間じゃない、どうしたらよいのかも分からない、この先も考えられない。
その人影は、今日も体育座りで、手でかかえている両足の間に顔をうずめた姿勢で時間を過ごしている。
もうどのくらいこのままでいるだろうか。その間ずっとこの思考を繰り返している。
何回目だろう、その思考のサイクルを始めたとき、ふと自分の頭を何かが触ったような感覚がした。
はっと顔を上げる。何もない、誰もいない。
しかし些細で不確かな事象ではあるものの、その外乱がトリガーになったのだろうか、頭の中で今まで単調に繰り返してきた思考サイクルとは別の思いが発生していた。
それは「あきらめないこと」、そして「探すこと」。
どうにかできないか?その芽生えた思いを維持しながら、体の感覚に意識を移してみる。
すると机上のノートPCを認識できた。そのノートPCを手元に置き、起動させる。
そしてWebブラウザで検索ページから検索ワードを入力。ブラウザに表示された検索結果を見る。そこに表示されたリンクの中の一つをクリック、表示されたページには.....
顔も手も足も毛で覆われ、耳は頭頂部から、尻尾まで生えている複数の人物が明るく手を取り合い、互いに助け合って生活している街の写真が表示されていた。
その街の名はアニマシティ、獣人の街。
小さな外乱で単調な繰り返しから抜け出ることができた人影はそのページをずっと、ずっと見つめていた。
そしてさらに新しい思いを一つ生成することができた。
自分もそこへ行きたい、という思いを。
次の日の朝、目を覚ましたみちるは体を起こし、うーんと言いながら伸びをした。
夢を見たようだ。
ふとベッドの隣を見た。
もう人影は見えなくなっている。
みちるは光が差し込む窓越しに空を見上げた。
「がんばれ、あの時の私」
そう言い、そして、ほほ笑んだ。