こちらでは初めての投稿なので至らぬ点があるかとは思いますが
よろしくお願いします
pixivと重複投稿しているのでよろしくお願いします
月1ペースで更新していく予定なのでよろしくお願いします
これはデビューして1年で武道館での単独ライブを成功させ、「深窓の歌姫」と呼ばれるようになり、世間を一世風靡した一人の女性の物語
そして、姿を消したラストライブの一部始終である
日本全国のドームやアリーナを巡るツアーライブの最終幕
ツアーの終了となる横浜アリーナでのライブを来週に控え、本番通りの通し練習の日に起こったある出来事
「皆さんお疲れさまでした!」
プロデューサーのその声はその部屋にいた全員に届き
「「お疲れさまでした!」」
この後は担当部署ごとに細かい打ち合わせや反省をして解散となる
数時間歌い続けていた彼女こと姫野真白は各種機材の邪魔にならない所に配置されていた椅子に腰かけ、水を飲みながら休息をとっていた
すると真白のサポートをしている女性が話しかけてきた
「真白さん。通し練習お疲れさまでした。休憩して着替えが終わったらで良いので社長室に来てほしいとの事です」
真白は直接呼び付けられた事を不思議に思いつつ
「分かりました。でも社長が呼び出すなんて珍しいこともあるのですね」
「えぇ、私としても珍しいことだと思います。それと用件の方は伺っておりませんので直接聞いてください」
そう言って彼女は真白から離れていく
彼女にも仕事があるのだ。そんな中、伝えてくれてただけでありがたいと思う
用意されている控室に戻り、練習用の服から普段着に着替えて忘れ物が無いか確認してから部屋を出る
それからエレベーターに向かい、上矢印を押して待つ
すぐにやってきたエレベーターに乗り込み
社長室のある階の番号を押す
ドアが閉まり、エレベーターは静かに上に進みだす
その間真白は呼び出された用件を考えてみる
幾つか候補が上がったが、確証には至らなかった
やがてエレベーターは速度落とし、目的の階に辿り着いた事を知らせる
社長室はエレベーターを出てすぐの所にあるので気を引き締める
エレベーターから降りて、社長室のドアをノックする
「姫野真白です」
その声に反応して、部屋の中から
「どうぞ」
と返事が返ってくる
「失礼します」
そう言って音を立てないようにドアを開ける
自らの体を中に入れ、ドアを閉める
正面を向きなおし、社長のいる位置に目を向ける
「練習終わりに呼び出して悪かったわね」
フランクな感じでそう言ってきたのはこの事務所の社長である野神遥である
「いえ、社長がお忙しいのは分かっておりますので」
真白としては多忙な社長が時間を割いてまで呼び出したのだから何かある筈と考えていた
「立ったままなのはあれだから座って頂戴」
そう言って客人用のソファーに座るように言ってくる
「し、失礼します…」
滅多に来ることのない部屋に緊張を隠せないでいた
少しおどおどしながらソファーに腰かけると
その反対側に野神が座る
「いよいよ来週ね。全国ツアーのラストライブ。調子はどう?」
当たり障りのない事から聞いてくる
「スタッフの皆さんがとっても気合が入っていて、本当に最後だと実感しているところです」
その返答に満足しなかったのか野神は
「貴方はどうなの?」と聞いてきた
「何時もよりも調子が良いとは思います。自分ではよくわかりませんが…」
音響の担当さんに言われた事を言っただけ
「そう。なら良かったわ」
ラストライブのチケットは完売
後は万全の状態で本番に臨むだけ
あの会場が満員の人で埋まり、そのステージで歌えることが彼女にとっては最高のご褒美である
「今日は、2か月程前に貴女から頼まれたことについて調べ終わったから伝えようと思って呼ばせてもらったわ」
ここからが呼び出した用件の事の様だ
しかし不思議な点がある
「速すぎませんか?最低でも半年はかかるというお話でしたが…」
頼んだことと言うのは、姫野真白いや姫野透花の調査である
少なくとも半年は掛かると言われていたから気長に待っていたのだが…
「調べてくれた友人曰く、予想よりも早く終わったからおまけの情報と共に知らせてきた」
なんとハイスペックな友人をお持ちになっている…
と思いつつ
「そうですか…それで結果の方は…」
更に詳しく言うと、姫野透花の戸籍についてである
「まず、初期の段階で貴女から伝えられた情報とデータベースから得られた情報に相違点が多く見つかったそうよ」
これはどちらかの情報が間違っているという事である
「それで不審に思って調べていったら、偽造されていたそうよ。でもそれ以上は掴めなかったと言っていたわ」
戸籍の偽造。これは誰にでも出来る事ではない
「やはり偽造されていましたか…」
だが、透花としては不思議な事ではない
「驚かないのね。少しは動揺すると思っていたのだけど」
しかし透花からしてみれば
「ある程度予想は立てていたので…」
野神に依頼してからというもの、一人かつ時間があればこの事について考え続けていたのだ
「しかしだ、その偽造されていた箇所が普通ではなかったそうだ」
これは想定外だった
「それは…どういう事でしょうか」
「貴方が捨て子で何処の誰の子か分からないという事に“なっていた”そうよ」
「なっていた…?」
野神の意味深な言い方に戸惑う他ない
「次に見た時には修正されていて、貴女の知っている情報に書き換えられていたそうよ」
「そんな事って可能なのですか?リアルタイムでデータを修正するというのは」
これには野神も頭を悩ませていた
「正直詳しい事は何も分からないわ。多分余程強い権力者の誰かが張り付いていたのでは?と言っていたけど」
透花は何故こんなにも早く調査が終わったか理解した
「権力の前ではご友人も逃げざるを得なかったからこんなにも早かったという事ですか…」
「あぁ、申し訳ない事にな。あちらからはこれ以上の調査はできないと釘を刺された。それほどの相手だという事だろう」
ここで透花は初めに野神が言っていた“おまけ”について聞いてみる事にした
「社長、初めに仰っていた”おまけ“について聞いても良いですか?」
その言葉に対し野神は
「先程手が伸ばせないと言ったがあれは君の戸籍に関しての事のみで、妹さんの方に関しては深く潜り込めたらしい」
その言葉に透花は唖然とする他無い
「透奈についても調べてくれたのですか?」
「依頼者である君に対してのお詫びの印と言って途中から同時進行で調べていたらしい」
”お詫びの印“という事はある程度の可能性で調査が出来なくなるという事が分かっていたという事だろう
「それで結果は…」
続きを促す
「偽造されていた箇所は君と同じだが、妹さんに関しては本来書かれているべき事が抜けていた様だ」
「まさかとは思いますが…あの子の病気に関しての事ですか…」
「そのまさかだ。君の妹さんは普通の健康優良児という事になっていた」
予想すらしていなかった事態に透花は頭を抱える
「では、透奈は…書類上普通の子であったと」
「あぁ、私も実際に聞いた時はおかしいと思ったさ」
どうやら思ったことは双方同じようだ
「やっぱり、私たち姉妹は結局“要らない子”であったという事ですか…」
透花の中で何かが音を立てて崩れる
「そっか…あの人は元から…だから私たちを捨てたのか…」
その姿はまるで箍が外れた、理性の無い生物の様だった
透花は妹である透奈にも、社長である野神にも言っていない事がある
それは”あの人”に捨てられた日に言われた事に起因するのだが…
透花は墓までその事を持っていくと決めていた
(あぁ…どうしてこうなってしまったのかしらね…)
透花の様子がおかしくなった瞬間は呆然とする他無かったが
気が付いた時には透花を抱きしめていた
「何があろうと、私は絶対にお前達姉妹の味方だから…」
そう言って透花が落ち着くまで抱きしめ続けた
数分、いや数十分の間抱きしめ続け、透花の精神を落ち着かせる
普段冷静な彼女がここまで乱れるのかと思いつつ
それでも離すことは無かった
やがて透花が落ち着いてきて、野神は気になっていた事を聞くことにした
これは彼女の心を傷つける事だと分かっていながら会社のトップとしては聞かずにはいられない
「ねぇ透花?妹さん、元気にしているの?」
なるべく優しい口調で問いかける
「えぇ、表面上は…」
表面上という事はそれほど芳しい状態ではないという事だろう
「何かあったのね…」
「病院側も言ってきてはいませんが…先日電話した時の感じからして恐らく限界が近いのかと…」
元々この姉妹は病気を患っていた
「でも、それは貴女も同じなのでしょう?」
「ええ、ですけど私は妹よりは安定しているので…」
普通なら喜ぶべきだが野神は素直に喜べない
「…どの位なの?」
「詳しい事は何とも…ですが、半年から一年程かと…」
思っていたよりも酷い状態であったようだ
「妹さんはそれよりも短いという事ね…」
「はい」
野神としてはもう少し長いものだと思っていた
「確か妹さんの為に歌手になったのよね…」
「えぇ、私達姉妹には親と呼べる存在は居ませんでしたから。それなりのお金はありましたが限界が来ることは目に見えていたので…」
二人は初めて出会った時の事思い出していた
「あの時は驚いたわ。でも不思議と失敗の可能性は微塵も無かった」
「私としても渡りに船だったので…」
互いに恥ずかしくなっていた
片や倒産寸前のプロダクション
片や病気持ちの姉妹
何処か通じるものがあり、今の関係になっている
野神はどこか考え耽る。そして社長机の引き出しからあるものを取り出す
それは何かの鍵であった
「これ貴女にあげるわ」
いきなり手渡された透花は…
「これは?」
「貴女が頑なに必要以上の報酬を受け取らなかったから、こっちで使わせてもらったわ」
透花いや真白は妹も治療費と自身の最低限の生活費のみを受け取り、それ以上の報酬は受け取っていなかった
この数年間でその金額は結構な額に上っており、秘かに作っていた彼女達の口座に入れて保管し続けていた
「見るからに家の鍵ですよね…?」
「えぇ、貴女達姉妹のね」
透花は驚く他無い
「えっ…」
「隠れ家みたいな物ね。周辺一帯には人がいないし緑が多いわよ」
頭の処理が追い付いていないようだがさらに続ける
「貴女がマンションの契約を切ったと聞いてね。丁度いい機会だと思って」
「何も言わないんですね…」
この言葉はマンションの契約に関することだと分かる
「ええ何も言わないわよ。倒産寸前の小さな事務所だったこの会社を此処まで大きな会社にしてくれたのだから」
そう倒産の危機を救ったのは紛れもなく姫野真白である
会社としても、個人としても彼女には感謝してもしきれない
「社長には何もかもお見通しだったという事ですが…」
「スタッフのごく一部には既に言ってあるわ」
だからこそ今日この部屋に呼び出したのだ
「そう、ですか…」
「他所には情報を漏らしていないからある程度騒ぎになると思うけど気にしなくていいわ」
「あり、がとう、ございます…」
彼女の頬には一粒の雫が流れていた
「当然の事よ。最高のライブにして終わりにしてあげたいもの」
そう言って野神は改めて透花を抱きしめる
抱きしめられて安心したのかこちら側に体重をかけてくる
「お疲れさま、透花。今までありがとうね…私に希望をくれてから世界が変わったわ」