みどりラブストーリー   作:坂本圭助

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はじめまして。
初投稿になります。
映画館で「たまこラブストーリー」を見た後衝動的に1話を書きました(笑)

たまこラブストーリーの内容を、常盤みどりの視点から描いた話です。
みどり→もち蔵の描写がありますのでそのあたりお嫌いな方はご用心を。
それでは。

pixivとマルチ投稿をしております。


1 常盤みどりは振り向かない

大路もち蔵、と言う男がいる。

ペンネームや芸名でもなく、本名だ。

そしてこの男、おもちゃ屋をしている私の家がある「うさぎ山商店街」の餅屋「RICECAKE Oh!Zee」の一人息子なのである。

これもまた餅屋なのに何ちゅうネーミングだ、と正直思う。

どうも彼の父親―吾平さん―のネーミングセンスには一種独特なものがあるようだ。

 

そして北白川たまこ、と言う女の子がいる。

この子もまた、うさぎ山商店街にある餅屋の娘である。

前述の大路とは家が向い同士の幼馴染。

父親同士が親友で、生まれた時から一緒に過ごしていたという、それこそマンガやアニメに出てくるような幼馴染・オブ・幼馴染。

 

そしてもう一人、常盤みどり、と言う女の子がいる。

…………何のことはない、私自身のことなのだが。

うさぎ山商店街の一角に店を構える「トキワ堂」と言うおもちゃ屋の店主、常盤信彦の孫娘。

大路やたまことは幼馴染……と言っていい関係にあると思う。

大路とたまこほどに長い時間を一緒に過ごしたわけではないけど、でもたまこは私のことを幼馴染と思ってくれてるはずだ。

大路は…………まぁどうでもいいか。

 

以上の3人。

生まれたころからの幼馴染だった2人に、小学校から私が加わった3人。

小さな言い合いや喧嘩はそれこそ数えきれないほどにしてきたが、それでも私たちは変わらずにそれなりに上手くやってきた。

 

 

 

だが。

 

変わらないものなど、この世にない。

 

 

 

 

「やったーーー!」

 

目の前で大路が、あたり憚らず大声を上げる。

春になり、私たちは高校3年に進級した。

当然、新学期のクラス替えが発表される。

そのクラス替えの発表での出来事だ。

 

「あ、もち蔵と同じクラスだ……初めてかな」

 

大路の隣でボードを見上げるたまこがつぶやく。

大路ほどではないが、それでもその顔には笑顔が浮かんでいて、彼女がこのクラス分けを喜んでいるのは明白であった。

たまこと大路。

それこそ生まれたころからの幼馴染である二人だが、実は学校で同じクラスになったことはないらしい。

大路がそのことをことあるごとに何故か私に愚痴ってくるので実に面倒くさい。

クラス分けのたびに、祈るような表情でボードを見上げ、そしてその数秒後がっかりと肩を落として去っていく大路の姿は、私にとっては春の風物詩のようなものであった。

 

 

そう。

大路もち蔵は、幼馴染の北白川たまこに片思いしているのだ。ずっと。

いつのころから、などは分からない。

しかし、私が二人と知り合ったころにはもう、間違いなくそうであったと確信を持って言える。

 

 

「常盤!俺はやったぞ!ついにやったぞ!」

 

やがて大路が一人で喜びを爆発させることに飽きたのか、私の下にやってきて珍妙な踊りを見せ始める。

ウザいことこの上ないがたまこの手前ツッコむのは避けた。

 

「はいはい。良かったわね」

「…………そう言えば常盤はどうだった?」

 

一通り踊って満足したのか、大路がついでのように尋ねてくる。

…………この男は。

もう一人の幼馴染たる私のことはついでかこの野郎。

怒りがふつふつとわきあがってくるのを何とか抑え込む。

しかし、完全には抑えきれていなかったようで目の前の大路が怯えるように数歩後ずさった。

そんな大路から視線をそらし、私は口を開く。

 

「……貴方たちと同じよ」

「本当だー!みどりちゃんも一緒だよもち蔵!よかったねー」

「あ、ああ、そうだな」

 

私の言葉に答えたのはたまこであった。

私と大路の手を取って万歳をするように振り回す。

もっとも、振り回されている大路の方は複雑な表情だったが。

…………おそらく私が、大路がたまこにアプローチをかけるうえでの障害になると思っているのだろう。

まぁ、去年の臨海学校では少々やりすぎたと反省している。

しかし、こうもあからさまに警戒されてはいい気分にはなれないのも事実。

そんな私の不機嫌そうな様子を感じ取ったのか、大路が取り繕うように言葉を続ける。

 

「と、常盤とは何だかんだで同じクラスになることが多い気がするな。まぁよろしくな」

 

…………多い、だって?

大路の言葉に私は眉を急角度に跳ね上げる。

私の記憶が正しければ、大路と私は知り合ってからずっと、クラスが違ったことはなかったはずだ。

そんなことも覚えてないのかこのトンチキは。

私の表情の急変を見て、大路も何やら地雷を踏んでしまったことは分かったのだろう。

 

「あ、そ、そういえば犬山達のクラスも見とかないとな!……それじゃ!」

 

その一言を残し、大路は風のような速さで私たちの前から姿を消した。

 

「……もち蔵、どうしちゃったのかな」

「さぁね」

 

本心からわかっていない様子のたまこに、内心ため息をつきつつ返事をする。

そんな感じで、私たちは3年生に進級した。

 

 

 

 

高校3年と言えば、今までの2年と違いある一つのことが現実味を帯びてくる時期である。

卒業、だ。

卒業した後、ある者は大学に進学し、ある者は就職を選ぶ。

中学におけるそれとは違い、高校卒業後の進路はその後の人生をも決定づける大きな選択と言えるだろう。

そしてその重要な進路を一応にでも考えるきっかけとなる進路調査が、進級して1か月にもならない5月に早くも行われた。

 

その日の帰り道のことである。

 

「私、進路希望『たまや』って書いちゃった」

 

この発言者は言わずと知れた変態餅娘こと北白川たまこである。

就職、ですらなく実家の餅屋の名前とは。

受け取った先生の困惑やいかばかりであっただろうか。

…………案外「これでこいつには何も指導する必要がなくなった」と喜んでいたりするかもしれない。

 

「史織ちゃんは英文学部?」

「うん」

 

そう答えたのは朝霧史織。

私たちバトン部と一緒に体育館を使っているバドミントン部の部員で、2年の春から友達になった。

眼鏡をかけたおとなしめな外見通りの文学少女といった雰囲気で、成績も優秀。

英文学部か。私には一生縁がなさそうなジャンルだが、史織にはお似合いだろう。

 

「かんなちゃんは建築学部だよね」

「当然」

 

牧野かんなが答える。

彼女はいわゆる…………「不思議系」に属するのだろうか。

とにかく言動が突拍子もなく、私たちは何度振り回されたか知れない。

しかしその突拍子もない行動がいつもいい結果を招き寄せているから不思議なものだ。

彼女の家は大工であり、何かと言うと大工用語を会話に無理やりはさんだりするのも、彼女との会話が妙な流れになる一因だ。

彼女もまた、家の大工と言う仕事が大好きであり、学校の設計をしたいからと言うこれまた珍妙な理由で高等部より編入してきた。

だからこそその返答もまた、彼女からすれば当然なものであり。

 

「みどりちゃんは?」

「私は…………」

 

たまこに話を振られたところで、はたと言葉に詰まる。

私の実家はうさぎ山商店街でおもちゃ屋をしているが、私自身、たまこやかんなのように自分の家のおもちゃ屋と言う職業に興味を持てないでいた。

そのあたりは、現在店主をしている祖父もわかっているようで「みどりの好きにしなさい。家を継ごうとか無理しなくていい」と言ってくれている。

だからと言って他にやりたいことがある訳でもなく。

なんかもうこのまま適当に大学行って、何年かフリーターでもしてどこかに永久就職して主婦になっちゃうのもいいかな、などと現代っ子らしい枯れた考えも浮かんでくる。

…………まぁ、「永久就職」と考えた時、頭に一瞬浮かんだヘタレ男の顔はとりあえず無視する方向で。

 

「わかんない。特にやりたいこともないし」

 

結局、私の口をついて出たのはそんな面白味も何もない言葉であった。

そんな私の返答に、たまこたちは納得したように頷いてくれる。

 

「まぁ、そうですよね。3年生になったばかりでいきなり卒業後のことを聞かれても、みどちゃんのような返事になってしまう方が大半なのではないでしょうか」

 

かんながフォローしてくれるが、その口調はいつもと変わらぬ平板口調で、いまいち慰められてる感じがしない。

しかしこれ以上に発展しようのない話題であったのも確かであり、進路についての話はそこで終わりとなった。

 

 

 

「はぁ……」

 

家に帰り、ベッドの上にだらしなく寝転がってため息をつく。

進路、か。

たまこにも、史織にも、かんなにも、やりたいことが明確にあって、その為の準備を今から始めている。

それに引き換え、私は…………

そう言えば、あいつはどうするつもりなのだろうか。進路。

たまこと同じ餅屋に生まれているが、いつも死んだ魚のような目で店番をしているその姿からは餅屋と言う職業に対するモチベーションは欠片も見られない。

 

 

…………餅だけに。

 

 

ま、まぁそれはともかくとして。

おそらくあいつも私と同じで何も考えていないんだろうな。

私と同じように適当に大学を出て、どこか地元の企業に就職して、そして奥さんを――――

 

ぴりりりっ!

 

「うひゃっ!」

 

枕元に置いてあった携帯電話が急に音を立て、私は思わず間抜けな声を上げて飛び起きる。

時ならぬ騒音によって強制的に中断された思考の行きつく先は果たしてなんだったのか。

それを追及してしまうことは、私の周りのこの居心地のいい空気を根底から覆してしまいそうで怖かった。

 

ぴりりりっ!ぴりりりっ!

 

なかなか電話に出ない私を咎めるように鳴り続ける携帯電話。

私は小さく頭を振って埒もとりとめもない思考の残滓を頭から追い出すと、携帯電話をつかんだ。

 

「……え?」

 

ディスプレイに表示された着信者の名前に、私は再び間抜けな声を上げる。

そこに表示されていたのは――――

 

「大路」

 

ディスプレイにはただ二文字、その名前だけが表示されていた。

通話ボタンを押す。

そんな簡単なことのはずなのになぜか体が凍りついたように動かない。

埒もなく奴のことを考えたりしていた時に丁度タイムリーに電話をかけてくるなど、少しは空気と言うものを読んでほしい。

……ダメだ。

本格的に思考が取り留めもなくなっている。

私が躊躇っているうちに、携帯電話は鳴動を止め、やがてディスプレイに映し出される「着信あり 1件」の文字。

 

 

「折り返さないと」

 

折り返すべきなのだろう。

どうせ大した用でもないのだから、普通に折り返しの電話をして、そしてすぐに取れなかったことを少し謝って。

しかし、何故か私は、大路に対し折り返しの電話をかける気になれなかった。

 

 

――――大事な用ならまたかかってくるでしょ

 

 

電話不精な人間の典型的な言い訳を心の中で呟き、私は携帯電話を再び枕元へと放り出す。

しかしその日私が休むまで、携帯電話が再び鳴動することはなかった。




いかがでしたでしょうか?

まだ全く続きが書けていないので続きはいつになるか分からないことをあらかじめお詫び申し上げます。
楽しんでいただけたなら幸いです。
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