みどりラブストーリー   作:坂本圭助

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こんにちは。
また間が空いてしまい申し訳ありません。

12話投稿します。

多分あと1~2話で完結させられると思いますのでそれまでお付き合いください。

それでは。


12 常盤みどりは部長である

「はい、今日の練習終わりー!」

 

 

「「「お疲れ様でしたー!」」」」

 

 

私の言葉に、部員たちの言葉が唱和する。

あの日から数日。

私はいつも通りの生活を送っていた。

少なくとも表面上は。

それでも未だに大路の方に視線を向けづらいとか、それでも無意識に大路の姿を探してしまうとか。

そういうのは…………まぁ。

私も普通の高校3年生の女の子なのだから仕方ないところであろう。

 

「いよいよ明日が本番ですね」

「うん…………結局一度も成功しなかったけどね。エーリアル」

 

かんなの言葉に、たまこが落ち込んだように答える。

 

「北白川先輩、大丈夫ですって!」

「そうそう。先輩は本番に強いタイプなんですよ…………きっと」

 

双子から慰めになっていない慰めを受けるたまこはそれでも今までのどこか沈んだような空気をまとってはいない。

ちゃんと受け止められそう、と彼女は言った。

そう決めたのであれば親友としてはそれを応援するだけだ。

…………まぁ、少し複雑ではあるが。

 

「じゃあ、明日は本番だから今日はしっかり休んでね。朝10時に会場に集合!遅れたら容赦なく電話するから」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

私の声に再び部員たちが答え、私たちうさぎ山高校バトン部のマーチングフェスティバルに向けての練習は終わった。

 

 

 

「星とピエロ」

 

商店街の一角に、ひっそりとその店はある。

今はもうほとんど見かけなくなったレコードを売るお店だが、喫茶店も併設しており、おいしいコーヒーなどを出してくれる雰囲気のいい店だ。

マスターは八百比 邦夫さん。

たまこのお父さんが昔組んでいたバンドでキーボードを担当していた人らしい。

その縁で、たまこがいつも口ずさんでいた歌の正体を調べるのにずいぶん協力してくれたみたいだ。

店の雰囲気やコーヒーのおいしさもそうだけど、マスターが突然何気なくつぶやく一言が、その時抱えている悩みやらなんやらを解決してくれる一言になることがある、不思議な店でもある。

そんなわけで、たまこも私も(そして大路も)この店が大のお気に入りであり、学校帰りに良く寄り道をしたりしていた。

練習が終わった後、私がこの店にフラフラと引き寄せられるようにやってきたのは、ある意味必然とも言えた。

 

ガラスのショーウィンドウから、店内を除く。

…………どうやら誰もいないようだ。

こういう気分の時は、誰か知り合いに会いたくないものだ。

安心して、これまたガラスのドアを押す。

カラン、とカウベルが鳴り、背を向けていたマスターがこちらを向いた。

 

「いらっしゃい」

「ブラック一つ、お願いします」

 

マスターの言葉に一言だけ返し、私はカウンターに座る。

店内に流れるのはゆったりとしたジャズ。

しばしその旋律に耳を傾ける。

洋楽にはとんと疎い私には曲名も、誰が演奏しているかもわからない。

しかしこの曲を聴いているだけで先ほどまで心に少し残っていたもやもやが抜けていくような気分だ。

 

「お待たせ」

 

大して待ちもしていないうちに、私の前にコーヒーカップが置かれた。

一口。

コーヒーの苦味が口に広がる。

その苦味が喉を通りぬけていく感覚が、私の頭をクリアにしていく。

 

「私ももう、高校3年生なんだよね……」

 

唐突に話しはじめた私の言葉に、マスターはちらりとこちらに視線を送ってくるが、すぐにまた視線を戻して自分の作業を始める。

こちらを促すことも、返事をすることもない。

そんなマスターの態度に、私の舌は回り始める。

 

「明日のマーチングフェスティバルに、私が部長をやってるバトン部が出るんですけど、そのための最後の練習が今日、終わりました」

 

店内を流れるジャズが、曲調を変える。

 

「高校に入って3年間、ずっとみんなとしてきた部活。…………私の、うさぎ山高校バトン部としての活動は、多分明日で終わりです」

 

それはそうだ。

私はもう高校3年生なのだ。

夏を過ぎれば受験勉強が始まる。

どんな道に進むにせよ、私たち3年生の部活動はそこで終わる。

まだ新部長も決まっていない中で部活に全く出なくなるようなことはないだろうが、徐々に受験勉強の方に重点がシフトしていくのは避けられないことだ。

 

「後に待ってるのは後片付け。そして次の部長にバトンタッチすること」

 

そう。

お祭りはいつか終わる。

いつまでも高校生でいることなどできないのだ。

 

「私は…………このうさぎ山高校で、何かできたのかな……」

 

そこで言葉を切り、コーヒーを一口含む。

さっきより少し、苦味が増しているように思えた。

 

「若さとは、急ぐこと。スプーン一匙の砂糖が溶けるのも待てないほどに」

 

不意にジャズの旋律に乗っかるように聞こえてくる声。

それは間違いなくマスターの声であった。

 

「そして後悔の苦さは、何かをなした証。一つ一つ、味わいになる」

 

それだけ言うと、マスターは再び自分の作業へと戻っていった。

後悔の苦さ、か…………

別に後悔してるつもりはない。

大路の告白を煽った事も、大路に告白したことも。

それはいつか私たちが通り過ぎなければならない通過儀礼のひとつであったはずだから。

だから、この苦さは失恋の味……なのかな。

…………なんだかこのまま店から走り出て河原あたりで大声を張り上げたい気分だ。

全く……私らしくない。

再びコーヒーを一口含む。

 

「うん……やっぱりブラックがいいです」

「そうかい」

 

私の、返事になってるんだかなってないんだか分からない言葉に、マスターは一言だけ答える。

曲は、まだ鳴り続けていた。

 

 

 

そして明けて翌日。

うさぎ山マーチングフェスティバルの日がやってくる。

遅刻常習犯のたまこも今日ばかりは目が覚めてしまったようで集合時間の30分前に現れて私たちを驚かせた。

 

「いよいよだね」

「だね」

「がんばりましょう」

 

たまこ、私、かんなの3人で気合を入れる。

隣では下級生の3人が私たちと同じように緊張した面持ちで言葉を交わしていた。

会場には、もうすでに多くの人たちが集まっている。

史織が私たちに気づくと小さく手を振ってくれた。

他にもあんこや福さん、商店街のみんな、映像研究会の犬山君と桃太郎君の姿もある。

……しかし、そんな中に私とたまこ、双方にとって馴染み深いひとつの顔がない。

 

「大路は?」

「…………どうしても店番抜けられなかったって死にそうな顔で謝られたよ」

 

問いかける私の声は、いつもどおりだっただろうか。

たまこも少しつらそうな表情を見せるものの、すぐにいつもの笑顔に戻って答える。

しかし、まぁ。

こういう時に来られないというのがいかにも大路らしくて少し笑いそうになった。

 

「犬山君たちがビデオ撮っててくれるみたいだから、って慰めといたけど」

「ふーん…………じゃあ、ますます失敗できないね。もし失敗したらそのビデオがずっと残るってわけだ」

「あぅ……」

 

少し意地の悪い言い方に、たまこが泣きそうな表情になる。

自分で言っておいてなんだが、さすがにたまこのそんな表情は見ていたくない。

 

「大丈夫!たまこは決めたんでしょ!自分で受け止めるって。だったらきっとうまくいくよ。私が断言してあげる」

「……みどりちゃん、ありがと」

 

今泣いたたまこがもう笑った。

こういう切り替えの早さというか憂鬱さを引きずらないのはまぎれもなくたまこの長所だと思う。

 

「うさぎ山高校バトン部の皆さん、準備をお願いします」

 

舞台の係員の人のそんな言葉に私たち6人は顔を合わせて頷く。

ではバトン部恒例の「あれ」行きますか。

私たちは円になると、部長である私がまず発言する。

 

「思いっきり、悔いのない演技をしよう」

「はい!」

「じゃあ…………好きなものコール!」

 

私の言葉に反応して、双子ちゃんの片方がまず口火を切った。

 

「パンケーキ!」

「卵焼き!」

「先輩!」

 

そう言いながら次々に手を差し出す後輩たち。

次はかんなの番だ。

 

「直角!」

 

…………まぁ、なんというか、かんならしい。

そして私。

 

「くま!」

 

最後はたまこ。

5対の目が、一斉にたまこへと向けられる。

たまこは少し恥ずかしそうに顔を赤らめるが、すぐに笑顔に戻って高らかに宣言した。

 

「おもち!」

 

それを確認した私が最後を締めくくる。

 

「せーの!」

「「「「おー!」」」」

 

握りこぶしを振り上げつつ、6つの声が綺麗に唱和して青空に響いた。

 

 

 

 

「次は、うさぎ山高校バトン部の皆さんです」

 

アナウンスの声に続いて、ステージへと駆け昇る。

曲が始まる前の少しの時間で、ざっと観客席を眺めてみた。

 

商店街のみんながいる。

史織がいる。

あんこと福さんがいる。

犬山君と桃太郎君の姿もあった。

 

最後に、後ろに立つ部員たちに視線を送る。

みんなが笑顔でうなずいてくれたところで、「上を向いて歩こう」のイントロが流れ始めた。

 

何度も練習を繰り返し、もはや考えなくても体が動くまでに染みついた振付。

他の部員のみんなもそれは同じようで、一度のミスもなく演技は進んでいった。

そしてプログラムは進み、最後のエーリアルの時が来る。

私たち6人が一斉にバトンを上空へと投げ上げた。

 

そして。

 

「やった…………」

 

聞こえる小さな呟き。

振り返ってみると、その手にしっかりとバトンを掴んだたまこが驚いたような表情を浮かべていた。

思わず振付だの段取りだのを無視してサムズアップを送る。

隣のかんなも同じようにサムズアップを送っていた。

 

「いくよ、最後のイリュージョン!」

 

かんなとたまこ、そして後輩たちを見回して小さく呟く。

私たちの3年間の活動の集大成。

それがこのイリュージョンだ。

たまこは見事にエーリアルを成功させてくれた。

ならば最後のイリュージョンを成功させるのは私の仕事だ。

 

 

 

曲が最後の盛り上がりを見せ、そしてフィニッシュのイリュージョンを決める。

 

 

 

「はぁ……はぁ…………」

 

小さく肩で息をしながら客席へと視線を向ける。

史織が、あんこが、福さんが、満村さんが。

みんな嬉しそうに拍手をしてくれているのが見えた。

 

こうして、私たちのバトン部としての活動は、終わりを告げた。




以上です。

あ、関係ありませんがC87落ちてました。
残念ですが、3日目東2、Q-53b「永字八法」さんで委託していただきます。

それでは。
また次話で。
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