みどりラブストーリー   作:坂本圭助

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こんにちは。
またしても遅くなってしまいすいません。
第13話です。

なんとなく終わりが見えてきた感じでしょうか。
遅くとも今年中には終わらせることができればと考えております。




13 常盤みどりはお節介を焼く

「……え?インフルエンザで?明日から臨時休校?ふーん。…………そう。ありがと。じゃ、次にまわすね」

 

そう答えると、私は受話器を置く。

……インフルエンザ、か。

そういえば、最近休んでいる子が多かったように思う。

先生も、いつもの面白くもないのろけ話に絡めてインフルエンザについての注意を促していた。

しかし…………どうしたものか。

学校が臨時に休みになるのだからもっと喜んでしかるべきかもしれないが、この流行性の病気による休校という奴はいささか事情が異なる。

感染者かもしれない生徒同士、生徒と教師を接触させないために設けられるのだから、当然のことながらこの期間中は自宅待機が命じられる。

もちろんそんな指示を律儀に守る生徒など今日日いないが、当然生徒たちが行きそうな場所への見回りは強化される。

暢気に遊び呆けている所を見つかりでもすれば面倒な事態になるのは避けられない。

結局。

こういう場合の休校というのは「学校が休みであるのに出かけられない、出かけるにしても先生の見回りに怯えながら」という、我々生徒にとってはなんとも厄介な代物でもあるのだ。

 

 

連絡網の次の子に連絡をまわすと、私は自室に戻った。

一大イベントであったマーチングフェスティバルも終わり、今の私はプチ燃え尽き症候群といってもいい状態の中にある。

これから夏が来て、受験勉強でも始まれば燃え尽きている暇などなくなるのだろうが、この1ヶ月ぐらいでいろいろなことがありすぎた。

…………そういえば、大路とたまこはどうなったのだろう。

たまこが受け止められなかった、と言った2つのもの。

そのうちバトンのほうは先日見事に受け止めることができた。

そしてもうひとつのほうも、近いうちに結論を出すつもりだろう。

……ちょっと、たまこの家に行ってみようか。

先生に見つかったら、それはその時で。

 

 

 

「え?お姉ちゃん?普通に学校行ったけど」

「へ?」

「…………みどりちゃん?」

 

しかし、たまこの家に行くととうのたまこは不在であり、

出迎えてくれたあんこの言葉に私は首をかしげる。

 

「いや、だってインフルエンザで学級閉鎖で」

「あ、そっちもそうなんだ」

「そりゃそうでしょ」

「じゃあお姉ちゃん…………何しに行ったんだろ」

 

不思議そうなあんこ。

私もたまこの行動に納得できないものを感じ、さらに尋ねてみる。

 

「たまこ、何かおかしなとこなかった?」

「おかしなとこねぇ……お姉ちゃんはいつでもおかしいけど…………」

「うわー辛辣」

 

私の言葉を聞こえなかった振りをして、あんこは考え込んだ。

やがて何か思い当たることがあったのか、視線を私のほうへと向けてくる。

 

「そういえば……昨日お姉ちゃんに変なこと聞かれた」

「変なこと?」

「うん。えっと確か……『連絡網って回さなかったらどうなるのかな』って。今から考えたらあの時休校って連絡受けたってことだよね……じゃあ何で今日学校行ったんだろ」

「で、なんて答えたの?」

「次の人知らないままじゃないの?とかそんな感じの事」

「連絡網のたまこの次って誰?」

「もっちーだよ。それで最後」

「…………へぇ」

 

あんこの言葉に、私の鼓動が小さく跳ねる。

「もっちー」とは、あんこが大路を呼ぶときの呼び名である。

 

「だから、いつもの糸電話で伝えるんだろうって思って気にしてなかったけど」

「そ、そうだよね」

 

家が隣同士の幼馴染である二人は、携帯電話を持っているというのにいまだにお互いのやり取りには糸電話を使っているという。

 

「あ、もっちーと言えば」

「な、何?」

 

思わず聞き返す声がどもってしまう。

しかしあんこの方は私の態度に不審を感じた様子もなく、言葉を続ける。

 

「この前もっちーと一緒に学校行く途中、もっちーってばいきなり河原に走り出して大声出したんだよ。びっくりしちゃった」

「大声?」

「うん。橋の上歩いてたらいきなり河原に下りていって、わーっ!て」

「ふぅん」

「何かあったのかな、お姉ちゃんともっちー」

 

あんこの眉が心配そうに垂れ下がる。

どうやら彼女なりに姉の異変には感づいているようだ。

それが大路絡みであることも。

私は、あんこの持つ疑問への答えを知っている。

しかしそのことを私の口からあんこに伝えることは、やはり躊躇われた。

妹(と将来の義妹)にぐらい自分の口で伝えてみやがれ、と少々意地の悪い気分にもなってくる。

 

「分かった。ありがと」

 

あんこにそう答えながら、私は考えを巡らせる。

しかし、あんこから聞いた昨日のたまこの言葉からして、たまこが意図的に休校の事を大路に隠そうとした、ということなのだろうか。これは。

だとすれば、そんなことをするたまこの意図は奈辺にあるのか。

このままではうさぎ山高校全校生徒のうち、たまこと大路、二人だけが学校に登校するという間抜けな事態に…………

間抜けな……事態?

二人だけ…………?

 

まさか、たまこは。

私はある一つの可能性に思い至る。

 

「ちょっと学校行ってみるね」

「あ、う、うん」

 

そう言い残すと、また一人変人が増えた、とでも言いたげな表情のあんこを残し私は北白川家を後にした。

 

 

 

 

人が多く行きかう商店街を、私は速足で歩く。

すれ違う人が目を丸くしているのが見えるが、私は構わずに歩いていた。

連絡網を大路の家に回さなければどうなるか。

あんこの言った通り、回さなかった相手はインフルエンザで休校になることを知らないままという事になる。

そしてたまこの次の相手というのがまさに大路であったこと。

その大路が連絡網の最後であったこと。

たまこ自身は休校の連絡を受け取っているにもかかわらず今日の朝普通通りに学校に行ったこと。、

これらの状況を考え合わせると、一つの状況が見えてくる。

 

つまり今日、学校に行っているのは全校でたまこと大路だけであるという状況だ。

 

もちろん、何らかの手違いで伝わらなかった人間が登校する可能性もあるし、大路自身が別の伝手から話を聞いて学校に行かない可能性もある。

いや、たまこの考え通り学校で大路と二人で会える可能性はかなり低いと思う。

いくら連絡がないとはいえ学校に行っても誰一人登校していない状況を疑問に思わぬ大路ではないだろう。

だが、そんな考えの甘さが、かえってたまこらしいと思えてしまう。

そんなことを考えならが早足で歩いていた時であった。

 

とん

 

頭に感じる軽い衝撃。

 

「あ、すいま――――って大路?」

「と、常盤?」

 

誰かにぶつかったのだと思い謝罪のため相手の顔を見た瞬間、私は運命の神とやらを呪いたくなる衝動にかられた。

私の目の前で、おそらく私と同じ間抜け面を晒しているこの男は、間違いなく今私が会いたくない人間トップ3には必ず入る男、大路もち蔵であった。

 

 

 

「……あれ?」

 

しかし、大路の格好に違和感を覚えたことで、私は一瞬の自失から立ち直る精神的余裕を持つことができた。

あんこの言葉を信じるなら、大路はたまこより休校の連絡網を回されていないはずだ。

ならば、一応にしても学校に向かわねばならないはずだが、目の前の大路は私服であり、学校に行く途中とはとても思えない。

 

「あんたその格好、どしたの」

 

そう問いかける私に、大路は照れたように頬を掻く。

 

「いや、今日急に休みになっただろ?そんで、前に話した東京の大学、一回見に行ってみようと思ってさ。

平日に学校休んで大学見に行くとか出来ないし、こう言っちゃなんだがタイミング良かったよ」

 

そう言って大路は能天気にははは、と笑う。

やっぱり大路に休校の話は伝わっていたようだ。

…………たまこよ、あんたの作戦(?)、いきなり破綻してるぞ。

しかし。

 

「ずいぶん唐突なのね」

「ま、まぁそうだな……でも、なんかお前たちがマーチングフェスティバルだなんだって頑張ってるのを見たら、俺もなんか頑張りたいって居ても立ってもいられなくなってな」

「ふーん」

 

それはまた、大路にしては思いきったものだ。

やはり、たまこに告白したことで少しはヘタレが直ったのだろうか。

私は質問を続ける。

 

「たまこには言ったの?」

「た、たまこには…………」

 

そこまで言って目をそらす大路。

なるほど。

まだ話しかけづらいと見える。

…………訂正。

相変わらずのヘタレのようだ。

私はわざとらしく大きくため息をついてみせる。

 

「あのね。惚れた腫れたのごたごたに白黒つけんのは男の役目。分かってる?」

「わ、分かってるよ……」

「たまことちゃんと向き合ってあげなさい。そのためにあたしを…………振ったんでしょ」

「ふ、振ったって…………」

「何?いまさら違うとか言うつもり?」

「そうじゃねーけど…………」

 

あの夜のことを思い出したのか、気まずそうに大路が答える。

事ここに至って未だに何をうじうじと悩んでいるのかこの男は。

仕方ない…………ここは乗りかかった何とやらだ。

ひとつ、私が一肌脱ぐしかないか。

私は小さく息をつくと、最後の質問を投げた。

 

「何時に出るの?」

「え?」

「新幹線。日帰りなんでしょ?」

「あ、ああ」

 

そういうと大路は京都駅を出る新幹線の時刻を口にする。

なるほど。

私は頭の中でうさぎ山高校から京都駅までの所要時間を弾く。

たまこの鈍足でも、何とか間に合いそうだ。

そこまで確認すると、私は大路に背を向けた。

 

「そ。じゃあ頑張ってね」

「ああ」

 

大路の短い返事を背中に聴きながら、私は通いなれたうさぎ山高校への道を辿り始めた。

 




如何でしたでしょうか。

では、また2週間後ぐらいに。
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