みどりラブストーリー   作:坂本圭助

14 / 14
どうも。
こんばんは。

やっと最終話です。

思えばたまこラブストーリーの内容に感動して衝動のままに書き始めたストーリーでしたが、いざ書き始めると思うように進まず、結局かなり時間がかかってしまいました。

それでも何とか完結させることができたのも、読んで下さる皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。

それでは「みどりラブストーリー」最終話です。



14 常盤みどりと2人の幼馴染

人気のない廊下を歩く。

普段人であふれ返っている建物に人が居ない光景というのは、想像以上に寂寥とした印象を与える。

特に日常的に目にしている学校という建物であればなおさらのこと。

そんな人気のない廊下を、私は心持ち早足気味に歩いていた。

目指すは私たちの教室。

そこにたまこが居るはずだ。

 

 

から。

 

そんな音を立てて教室のドアを開けた私に、1対の視線が向けられる。

予想通り、窓際の席にたまこは居た。

 

「…………みどりちゃん?」

 

私の姿に気づき、驚いたようにそう聞いてくるたまこの顔は隠し切れない軽い失望に彩られており、私がたまこの待ち人でなかったと無言のうちに語りかけてくる。

数秒間の沈黙。

私は口を開く。

 

「たまこの家に寄ったらあんこにここだって言われた」

「そう」

「大路に……連絡網回さなかったんだって?」

「…………うん」

 

少しのためらいの後、たまこが頷く。

やはりそうか。

私は内心で小さく息をつく。

何でこの二人は。

こんなにお互いを大事にしてるのに肝心なところですれ違うのか。

 

「大路は来ないよ」

「えっ?」

 

私の言葉に、たまこが初めて私のほうを向く。

 

「さっき大路に会ったんだけど、東京に行くって言ってた」

「え」

「いきなり転校だなんて、思い切ったことするよね」

「て、転校?」

 

少し嘘をつく。

驚いたようなたまこの表情。

それはそうだ。

少し冷静に考えればこんなタイミングでの転校などありえないことに気づくだろうが、その判断の暇を与えないかのように畳み掛ける。

 

「ま、東京の大学行くんなら早いほうがいいのかもね」

「そんな…………」

 

言葉を失った様子のたまこ。

私に救いを求めるような視線を送ってくる。

私は言葉を続けた。

 

「9時の新幹線。京都駅からだって。急げば間に合うかも」

「…………みどりちゃん」

 

そういって顔を上げたたまこにはもはや迷いの影はない。

うん。

それでこそたまこだ。

 

「みどりちゃん、ありがと!」

 

その言葉を残し、たまこは私の横を風のように走り抜けて行った。

がんばれ、たまこ。

心の中でそう呟き、私はたまこの姿が見えなくなるまでその後姿に視線を送り続けた。

 

 

 

それからなんとなく、たまこの座っていた席に座ってみる。

窓からはグランドがよく見えた。

グラウンドを横切って走っていくたまこの姿に視線を送っていたとき、不意に声をかけられる。

 

「みどちゃん?」

 

振り向くと、手に金槌と板切れを持ったかんなが入り口に立っていた。

 

「どしたの?」

「誰も居ないうちに教室に新しく棚を作ろうと思いまして」

「何それ」

 

思わず笑ってしまう。

かんなは相変わらずかんなだった。

 

「たまちゃん、どうしたんですか?さっきものすごい勢いで走っていきましたけど」

 

廊下ですれ違ったようだ。

まぁ、別に隠すことでもないか。

 

「ちょっと嘘ついた」

「はい?」

「大路、転校するって。本当は受験する大学の見学に行くだけなんだけど」

 

それだけでかんなは私の意図するところに気づいたようだ。

人の悪そうな笑みをひらめかせる。

 

「策士ですね。……でも、嫌いじゃないですよ」

 

そういってかんなは私のほうに近づいてきた。

 

「みどちゃん、今いい顔してます」

「そ、そうかな」

 

相変わらず突拍子もないかんなの言葉に、思わず視線をそらす。

 

「私が男の子だったら間違いなく惚れてますね」

「ありがと」

 

かんなは私の返事を聞くと、少し考え込んだあとにおもむろに言い出した。

 

「ねえみどちゃん、私も高いところに上ってみようかと思うんです」

 

そしてかんなは私の手をとると、教室から出て行った。

 

 

 

「あははははは!」

 

学校の裏にある小さな山。

私たち二人はそこに来ていた。

山頂にある草原を笑い声を上げつつかんなと二人で走る。

 

「いやー気持ちいいものですな」

「大丈夫なの?」

「下さえ見なければ」

「なるほどね」

 

かんなの言葉に頷きながら、私はある衝動に耐えかねたように口を開く。

 

「わーーーーーーーっ!」

 

腹の底の空気をすべて搾り出すような大声。

あんこと一緒に登校しているときに突然叫びだしたという大路もこんな気持ちだったのだろうか。

大声と一緒に胸の中のもやもやが大空に昇華していくような錯覚にとらわれる。

 

「ヒロインですなーーー!」

 

かんなの言葉。

もしかしたらかんなはすべて分かっているのかもしれない。

私の大路に対する気持ちも、そして私と大路の間に何があったのかも。

とぼけているようで妙に鋭いこの子のことだから、十分ありえる話だ。

このままかんなの思い通りというのも少し癪だ。

少し意地悪をしてやろうか。

 

「かんな」

「はい?」

「高いとこ、登ってみよ」

 

そういって私は背後にある大きな木を指差した。

かんなの表情が覿面に引きつる。

なんせ体育館のステージに上るだけで気分の悪くなる筋金入りの高所恐怖症だ。

 

「みどちゃん……い、いきなりあの木は少しレベルが高すぎる気が」

「木だけに?」

「誰が上手いこと言えと」

 

おお。

かんなに突っ込みを入れられるなど付き合いの長い私でも初めてのことだ。

少し感動。

 

「でも、大工を目指すなら絶対克服しないとダメだって自分でも言ってたよね」

「それは…………そうですけど」

 

そういって考え込むかんな。

たまこと大路はお互いの関係を一歩進めることを選んだ。

私も大路への思いを告げることができた。

ならばかんなも、少しは努力すべきではないのか。

ややあって、かんなは顔を上げる。

 

「……やってみます」

 

かんなにしては珍しいまじめな表情で、彼女は頷いた。

 

 

 

「うっ……く…………」

「がんばれかんな!」

「よいしょ……っと」

「いけーーーっ!」

 

木の一番下の枝に取り付き、何とかあがろうとするかんな。

私はそんなかんなの背中を力いっぱい押し上げる。

そんな悪戦苦闘が数分間続いた後、不意に両手にかかっていた重みが消滅した。

 

「かんな?」

「おお…………」

 

上を見ると、枝に両腕を載せてぶら下がるような格好のかんながいる。

 

「……どう?」

「な、なかなか……い、いいものですな」

 

声は震えているし、どもりまくってはいるがそれでも視線は目の前の光景に注がれたままだ。

 

「そ」

 

私はそう短く答えると、木に凭れるようにしてかんなと同じ方向へと視線を送る。

視界に入る木々は緑に色づき、これから訪れる季節を祝福しているようだ。

 

「もうすぐ、夏だね」

「はい」

 

かんなの短い返答を聞きながら、私は目を閉じる。

髪を揺らしながら吹き抜けていく風が、心地よかった。

 

 

 

私とかんながうさぎ山商店街に帰ってくると、なにやら騒がしい一角があるのに気づいた。

 

「何でしょう?」

「たまこと大路の家のあたりだね」

 

見るとたまこと大路の家のあたりになにやら人が集まっている。

福さんの事件のことを思い出して一瞬肝を冷やしかけるものの、あの時と違って緊迫したような空気はない。

もしかして……

私は少し小走り気味に騒ぎのほうへと駆け出した。

 

「おめでとう!よかったね」

「いやーあのヘタレがよく勇気を出したもんだ」

 

そんな言葉の中心で照れたように顔を赤らめつつ下を向いているのは―――

 

「たまこ、大路!」

 

紛れもなく私の幼馴染二人、北白川たまこと大路もち蔵であった。

 

「あ、みどりちゃん!」

 

私の姿を見かけたあんこが駆け寄ってくる。

あんこは当人以上に顔を赤くしていた。

 

「あの…………ね、学校に行ったはずのお姉ちゃんがもっちーと一緒に帰ってきて……で、なんだかいつもと雰囲気が違くて……それに、て、手を…………つ、繋いでたから、

その、えっと、二人に聞いてみたんだけど…………」

「付き合いだしたって言うんでしょ」

「え?知ってたの?」

「まぁね」

 

驚いたようなあんこに対し、少しドヤ顔で返す。

知ってたも何も半分関係者といっていい立場なのだが、余計なことは言わない。

ただ、たまこから大路の告白について相談を受けていたことのみを答える。

 

「そうなんだ……お姉ちゃんともっちーが…………そうか」

「複雑?」

 

私の言葉にあんこは少し笑って答える。

 

「ま、まあね。でも、お姉ちゃんももっちーも嬉しそうだし、二人が嬉しそうだと私も嬉しいよ」

「大路のこと『お兄ちゃん』って呼んでみる?」

 

ちょっとからかうような私の言葉に、あんこは再び顔を赤くする。

 

「え?あ、あ、そ、それは…………でも、お兄ちゃんってちょっといいかも」

「そう?」

「うん。もっちーはお兄ちゃんって言うにはちょっと頼りないけど、でもやっぱりお似合いだよ」

 

心の底から喜んでいる様子のその横顔に、思わず笑みが漏れる。

彼女と、彼女が好きだという柚季君という男の子の存在も、たまこを後押しした要因のひとつではあるのだから。

 

「今度はあんこの番かな?」

「え……ええーーっ!」

 

私の言葉の意味を理解したあんこが今度こそ顔を真っ赤にしてわたわたと暴れだす。

 

「そ、そんな、わ、わたし……ゆ、柚季くんとは、そ、そんなんじゃ…………」

 

完全にフリーズしてしまったあんこを置いて、私は二人に近づいていく。

私の姿に気づいた大路が、気まずそうな表情になった。

…………このヘタレめ。

かまわず私は声をかける。

 

「大路」

「な、何だよ」

「よかったじゃん」

「あ、ああ。これも常盤の」

「シャラップ」

 

余計なことを口走りそうになった大路の口を人差し指で塞ぎ、笑顔のままで私は大路に言葉を投げる。

色々な思いを、全部ひっくるめて。

 

「もしたまこ泣かせたらここには二度と戻ってこれないと思いなさい」

「は、はい…………」

 

死にそうな表情で一言だけ答える大路。

 

「よく言った!」

「結婚式は商店街挙げて盛大にやんなきゃな!」

 

周りの無責任な野次に、たまこと大路が顔を見合わせて苦笑する。

 

「たまこも、おめでとう」

「みどりちゃん、ありがと」

 

大路の隣に立つたまこは本当に幸せそうで、あるべきパーツがあるべき場所に収まったような、そんな座りの良さを感じる。

 

(おめでとう…………たまこ、大路)

 

そんなことを考えながら、晴れた空を見上げる。

空は、どこまでも青かった。

 




と言う所で完結です。

どうも私は幼馴染という属性に弱いようです。
たまこまーけっと本編の時ももち蔵に必要以上に感情移入してしまいました(笑)

ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。