前回の話から少し時間がたってしまいまして申し訳ありません。
4話投稿します。
pixivとマルチ投稿しております。
「俺、卒業したら東京の大学行く」
「……え?」
大路のその言葉を聞いた瞬間、私の周りの時間が止まったように感じた。
何?
大路が?4月から?東京に?
じゃあ4月からこいつはここを離れるってこと?
今迄みたいに会えなくなるってこと?
たまこは?
私はどうすればいいの?
色々な疑問が頭の中をぐるぐる回っている。
そんな私を一応にせよ正気に戻らせてくれたのは、続いて発せられた大路の言葉だった。
「だから…………その前に俺の気持ちを……たまこに」
「いつ言うの?」
「え?」
大路の言葉を遮って、畳み掛けるような私の言葉。
戸惑ったような表情の大路に、考える暇を与えないように私はさらに矢継ぎ早に言葉を投げる。
「だ・か・ら!いつ言うのたまこに?」
「え?い、いつってそんな……べ、別にまだ卒業まで時間あるし…………」
やっと私の言っている言葉の意味が分かったのだろう。
大路が顔を赤くしてうろたえはじめる。
しかし、この時の私は後から考えても少しおかしかった。
次の瞬間、私がとった行動は私自身にとっても驚くべきことで。
「じゃんけん!」
「え……」
いきなりそう言って腕を振りかぶる。
「じゃんけん!」
「あ、は、はい」
「「ぽいっ」」
私、パー。
大路、グー。
不意打ちでジャンケンを仕掛けられると、たいていの人間はグーを出す。
昔どこかで聞いた「ジャンケン必勝法」なるものがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
大路に我に返る暇を与えないよう、私はさらに畳み掛ける。
「いつ言うの?」
「え?あ、えっと…………その」
「いつ言うの?」
「きょ、今日…………?」
「今日言うのね」
「あっ…………それは……」
「今日、言うのね?」
「うぅ…………」
よし、言質はとった。
頭を抱えて蹲る大路を、私は謎の達成感を覚えつつ見下ろす。
かちゃ。
まるでその瞬間を待っていたかのようにトイレのドアが開き、中からたまこが姿を現した。
「おまたせー……ってもち蔵、どうしたの?」
ドアの前にしゃがみこんでいる大路に気づいたたまこが心配そうな声をかける。
「もしかしてトイレ間に合わんかったか…………?」
「い、いや……」
「ドンマイ!」
「…………はあぁ」
見当はずれな励ましの言葉をかけるたまこに、大路がさらに情けない表情になる。
そんな二人のやり取りに思わず笑いそうになるが、私はさらに大路に追い打ちをかけるべくたまこに声をかける。
「たまこ」
「ん?何?みどりちゃん」
「ちょ、と、常盤っ!」
私がたまこに言おうとしたことに気付いたらしい大路が割り込もうと慌てて立ち上がるが、私の言葉の方がコンマの差で早かった。
「部活終わった後、大路がたまこに話があるって」
「え?そうなのもち蔵?」
「常盤ぁ…………」
たまこに無邪気な視線を向けられた大路が、こちらに恨みがましい視線を送ってくる。
しかし今は、その視線がむしろ心地よい。
(カッパみたいな頭しやがって……)
…………何だとこの野郎。
本人は聞こえないように呟いたつもりだろうが、私の耳にははっきり聞こえてきた。
そうかそうか。
そう来るか大路よ。
このあたりで勘弁してやろうと思っていたが、私はさらに追撃を放つことにした。
「さっき言ってたじゃない。大事な話だって」
「そうなんだー」
「え?あ、ちょ」
完全に半泣きになっている大路の縋るような視線を正面から睨み返す。
……あ。目をそらしやがった。
このヘタレめ。
そんな私たちの無言の会話(?)に気付いた様子もなく、たまこは笑顔で大路に話しかける。
「じゃあ、部活終わったら一緒に帰ろうよ。そっちも映研、あるんでしょ?」
「あ、ああ……分かった。待ってる」
たまこの言葉に魂の抜けたような顔で機械的に頷く大路。
「じゃ、たまこ、いこっか」
「うん……もち蔵、あとでねー」
たまこは大路に笑顔で手を振ると、私の後について歩き出した。
「あーあ」
大路の姿が視界から消えると私はそう呟く。
押し寄せてくるのは、後悔と自己嫌悪がないまぜになった複雑な思い。
何故私は、大路の言葉に対して衝動的ともいうべき行動に出てしまったのか。
何故大路の退路を断ち、告白するように仕向けるような真似をしたのか。
――――そう言うの、たまこは困ると思う。
それはほんの数分前、他ならぬ私が言った言葉ではないのか。
どうせ告る告る詐欺を続けてきた大路のことだ。
今回も尤もらしいことを言っているが結局告れずに終わるはずだ。
しかし私は、大路の退路を断ち、告白を煽るような真似をしてしまった。
「どしたのみどりちゃん?」
「…………ちょっとね、自己嫌悪」
「へ?」
ぽつりとつぶやいた私の言葉の意味をいまいち分かっていない様子のたまこ。
たまこ、貴女はいつまでもそのままのたまこでいてね。
「いや、ちょっと私って嫌な女だなーって」
そう。
口では、たまこのことを親友だと言いながら、たまこが困るであろうことを分かっていて大路の告白を煽ってしまうような。
決してかなわない想いを抱えながら、あきらめることもできずにずるずる引きずってしまうような。
「大丈夫だよ」
しかし、そんな私の屈託をたまこの言葉はたやすく吹き飛ばしてくれた。
「みどりちゃんの分まで、私はみどりちゃんの事、好きだから」
まったくこの子は…………
ボケボケしているようでいながら、ここぞというときには的確に人の心をつかんでくる。
たまこが男の子だったら間違いなく今の一言で落ちてるね、私。
「…………ん。ありがと」
「いえいえ。どういたしまして」
私の感謝の言葉に、たまこは笑顔で答える。
もう、こうなったらなるようにしかならない、と私は覚悟を決めた。
大路が告白して玉砕するにせよ、告白できずにヘタレるにせよ、そして…………上手くいくにせよ。
「じゃあ、今日も練習頑張ろうか」
「うんっ」
そんなことを言い合いながら私とたまこは体育館へと駆けだしていった。
「1、2、3、4、2、2、3、4…………」
私の号令に合わせて、部員たちがバトンを操る。
マーチングフェスティバルに向けて、私が選んだ曲は「上を向いて歩こう」
何故かこの歌の歌詞が私の心に驚くほどにフィットした。
少し私情を挟み過ぎな気もしなくはないが、部長の特権という事で見逃してほしい。
「3、2、3、4でターンして……トス!」
私の言葉で、一斉にバトンを宙に投げ上げる。
そして。
「…………あいてっ」
いつもの通りたまこはバトンを受け止め損ね、落ちてきたバトンが彼女の頭を直撃する。
そんな彼女の姿はもはやこのバトン部ではおなじみの光景であった。
他のアクションはそれなりにこなすのに、何故かたまこはバトンを空中に投げて受け止める「エーリアル」だけが壊滅的に下手であった。
投げたバトンをちゃんと受け止められたのは、おそらく比喩表現でなく100回に1回ぐらいだ。
「たまちゃんたまちゃん」
そんなたまこに、かんなが話しかけに行く。
たまことは逆に、かんなはエーリアルを一度も失敗したことがない。
「たまちゃんのキャッチがぶれるのは、バランスポイントを意識していないからだと思われます。
かんなの言うバランスポイントとは、バトンをちょうどつりあわせる重心のことだ。
「ボールとティップの中間…………よりちょっとボールより、ここです」
ボールとティップはバトンの両端にはまっているゴムの部分。
同じ大きさではなくボールの方がやや大きくて重い。
その為バランスポイントも正確に真ん中ではなく少しボールに寄った個所になる。
…………って、バトンをやる人間なら一番最初に習う事なんだけどね、これ。
「ここをちゃんと意識することで…………ほら」
そう言いながらかんなは投げ上げたバトンをこともなげにキャッチする。
相変わらず惚れ惚れするほどに自然な動作だ。
後輩たちもかんなに賞賛の視線を送っている。
「あはは……そう言えば、もち蔵が部屋から投げてくれる糸電話も、いつも取り損ねちゃうんだよね」
照れたように笑うたまこ。
…………また、大路か。
この携帯電話全盛の時代に、たまこと大路の二人はお互いの部屋から糸電話で話をしている、らしい。
どうしてそんなことをしているのか。
一度大路の母親の道子さんに聞いて見たが、言葉を濁すだけで教えてくれなかった。
…………別に、気にもならないけど。
「はーい!じゃあ最初っから通してやるよ!」
手を大きく一つたたいて、私は部員たちに呼びかけた。
たまこの言葉を、それ以上聞きたくなかったから。
…………やっぱり、嫌な女だな、私。
「じゃ、私は映研の部室に行ってもち蔵と一緒に帰るね」
「うん」
練習が終わった後、私はそう言って帰るたまこの後姿を見送った。
正直、あのヘタレの大路が私の煽り程度でたまこに告白できるとはとても思えないのだが。
…………まぁ、お手並み拝見、と行こう。
もし。
もし、告白して……上手くいかなかったとしたら。
その時は…………まぁ私にも煽った責任はある訳だし、無責任な慰めの言葉でもかけてやるとしよう。
全く……ヘタレ男を幼馴染に持つと苦労する。
「あの、部長」
「ん?」
そんなことを考えている時に不意に声をかけられ振り向くと、そこにはバトン部の三人いる後輩部員のうち2人、双子の姉妹の姿があった。
この二人、まるでクローン人間のようにそっくりな双子であり、私ですら1年間付き合ってやっと見分けがつくようになった程である。
その二人が、何故か興味津々といった表情を私に向けてきている。
「北白川先輩がたまに口にする『もち蔵』って、時々ここに来る大路先輩のことですよね」
「う、うん」
大路はたまに、用もないのに体育館で練習する私たちバトン部(というか、たまこ)のところにフラフラとやってくることがある。
そんな関係で、大路の顔と名前ぐらいはこの後輩たちも知っているのである。
一度、無断でカメラを向けてきたときは流石に私が叱り飛ばしてやったが。
そんなわけで、この後輩たちにも大路は「北白川先輩と仲のいい男の先輩」程度には認識されているのである。
私が頷くと、二人はその表情を一層輝かせる。
「じゃ、じゃあ、やっぱり北白川先輩と大路先輩って…………付き合ったりしてるんですか?」
…………なるほど。
まぁ確かに彼女たちも花の高校2年生だ。
他人の惚れた腫れたが気になるお年頃、という奴であろう。
しかし……実際大路とたまこの関係と言うのは中々にして一言では説明しづらいものである。
付き合っていないのは確かだ。
それは間違いない。
だが、あの二人の関係が通常の幼馴染関係に収まるのか、と言われれば首をかしげたくなる。
結局、私が選択したのはあいまいな言い方でお茶を濁すという方法であった。
「ずっと一緒にいる幼馴染みたいな関係だけど、付き合ってはいないみたいだよ」
「へー。そうなんですか」
……清々しい程の棒読みだ。
2対4つの目がもっと詳しく話せ、と暗に圧力をかけてきている。
しかしここは、部長としての権限をフルに活用させてもらうことにしよう。
「ほら、そんな人の事気にしてる暇があったらさっさと帰りなさい」
「「えー」」
双子はあからさまに不満の意を表すが、私の態度にそれ以上突っ込んでほしくない空気を感じ取ったのか、意外なほどにあっさりと引き下がってくれた。
後輩にまで気を遣わせてしまうとは、部長失格もいいところだ。
しかし、この時ばかりはその気遣いが有難かった。
あのままあの二人に根掘り葉掘り聞かれていたら、うっかり余計なことまで口走ってしまいそうだった。
そう、余計なことを、だ。
――――まったく、私って奴は…………
私は大きく息を吐くと、帰り支度をするべく荷物を置いたステージ下に向けて歩き出した。
そして明けて次の日。
「ふぁ…………」
朝練のために学校に向かいながら、私は一つ大あくび。
結局昨日はいろいろ妙な連想が頭を飛び交い、碌に眠れなかった。
これと言うのもあのヘタレのせいだ。
あのヘタレが珍しく…………その……か、かっこいい顔をするもんだからこちらも調子を狂わされてしまったのだ。
教室で会ったら「それで、たまこには言えた?」と嫌味ったらしく声をかけてやらねば。
「お、おはよう」
ふいに背後から聞こえてきたたまこの声。
私はそれに返事をすべく振り向いて――――
「みどりちゃん、きょ、今日も早えぇなこんちくしょうめ」
「…………たまこ?」
「そ、そんじゃあっしは朝練があるんで失礼させていただくでござんす」
「…………」
それだけを言い残すと、私の返事も待たずにたまこは私の脇を風のように駆け抜けていった。
……同じ側の手と足を同時に動かしながら。
私にはたまこの、その態度だけで十分であった。
あー。
あーあーあー。
なるほど。
分かった分かった。
そうかそうか。
…………大路の野郎、やりやがったな。
と言う所で以上です。
あのトイレの前でのみどりともち蔵のやりとりがすごく好きですw
上手く書けてるか不安ですが。
関係ないですが夏コミ当選しました。
3日目東Q60a「海の漢」です。
内容は海上自衛隊本。
良かったら来てください。