前話を投稿してから2週間もたってしまいました。
申し訳ありません。
さて、みどりラブストーリ第5話、やっと半分ぐらい行った感じでしょうか。
それでは。
pixivとマルチ投稿しております。
…………そう、か。
大路の野郎、ついに言っちゃったのか。
奇妙な走り方で教室に向かって駆けていくたまこの後姿を、他人事のように見送りながら私は心の中で呟く。
それは、これまでの私たちを包んできたぬるま湯のような関係の終わりを意味していて。
「は、はは…………こりゃ、まいったね」
そう呟く自分の声がどこか遠くに聞こえる。
暫くは胸の奥から湧き上がってくる落ち込みとも何とも言えない気持ちに立ち尽くしていた私であったが、それでも悲観の海に沈まずにいられたのはバトン部部長としての矜持であった。
とりあえずいろいろ考えるのは後だ。
今はマーチングフェスティバルに向けて練習をしなくては。
私はそう思い直し、鞄を肩にかけなおすと歩き出した。
「たまちゃん!」
「は、はいっ!?」
朝練が始まると同時に、かんながたまこに話しかける。
「たまちゃんのために不肖私、考えてきました!」
「え?な、何のこと?」
唐突なかんなの言動に、たまこは戸惑っている。
……どうやらかんなもほかの部員たちも、いつもと違うたまこの様子には気づいていないようだ。
「たまちゃんにバランスポイントを意識してもらうために、ほれここ、ここに印をつけました」
そう言ってかんなはバトンの中ほどに張られたピンク色の絆創膏を指さした。
「ここ、ここですよたまちゃん」
「う、うん…………ありがと」
たまこは少し戸惑いながらもかんなからバトンを受け取る。
そして曲が始まった。
「1,2,3,4,2,2,3,4,3,2,3,4……」
まずは曲無しで動きだけをおさらいすることにした。
人気のない体育館に合わせて私の号令が響く。
「ターンして……トス!」
その号令とともに5本のバトンが宙を舞う。
そして――――
「あいたっ」
からん、からんからん。
そんな金属音を立てて床に転がるバトンの持ち主はもちろんたまこであった。
「ご、ごめんねみどりちゃん」
そう言ってバトンを拾うたまこ。
しかし、たまこはそのまま手の中のバトンを見つめ続けている。
(うまく……受け止められないな…………)
「…………!」
ぽつりと呟いたたまこの言葉。
私はその言葉に思わずバトンを取り落しそうになる。
事ここに至り流石にかんなたちもたまこの様子がいつもと違うのに気付いたのだろう、たまこに心配そうな視線を向け始めた。
「どうしたんですかたまちゃん?」
「……ちょ、ちょっとね…………ボールとティップがお餅に見えてきちゃって」
かんなの言葉に、たまこはそう言って一瞬困ったように微笑んだ。
…………いけない。
これは良く無い兆候だ。
たまこと10年近く付き合ってきたが、こんな表情をするたまこを見たのは初めてだ。
「なんと…………さすがは変態もち娘。これがお餅に見えるのは世界広しと言えどもたまちゃんだけですよ」
かんなはたまこの言葉を額面通り受け取ったようで、少し驚いたように言う。
しかし、私はそんなたまこの表情に別の思いを抱いていた。
それは端的に言うと、大路へのもやもやした屈託。
…………おい、大路。
お前が余計なことをしたせいで、たまこが困ってるぞ。
お前がたまこを困らせてどうする。
ほらみろ。
私の言った通りになったじゃないか。
「……はーい、手首意識してねー」
たまこから視線をそらし、後輩たちに指導するべく大声をあげる。
放課後、大路の奴に何と文句を言ってやろうかと考えながら。
朝練が終わると私は後片付けもそこそこに教室へとやや早歩き気味に歩き出した。
教室へはいると、大路の姿を探す。
―――いた。
最後列の窓から2番目の場所で、どこか呆けたような表情で外を眺める大路。
おあつらえ向きに、その周りにいま人はいない。
私は自分の机にかばんを置くと、そのまま一直線に大路の席へと向かう。
「ちょっと」
「と、常盤?」
近づいてくる私の姿に、不意を突かれた大路は逃げ出そうとでもいうように腰を浮かしかける。
しかし私はそんな大路の両肩を抑えて無理矢理に着席させる。
すると今度は視線をそらそうとするが、私はそんな大路の頭をつかんで無理やりこちらを向かせた。
そして大路に口を挟むすきを与えず、私は大路の耳元に顔を近づけると、大路にだけ聞こえるように抑えた声で用件のみを簡潔に述べる。
「放課後、私と一緒に帰りなさい」
「え?え?ときわ?」
「じゃ」
その一言だけを言い残すと、キツネにつままれたような表情をした大路を残して、私は席に着いた。
―――や、やっちゃった……!
時間がたち、少しずつ冷静になっていくと同時に、先ほどの自分の行動を思い出して頭を抱え込みたい想いが湧きあがってきた。
一緒に帰りなさいって…………そもそも、放課後はバトン部の練習だ。
まさか部長の私が「大路と一緒に帰るから練習出られません」などとは口が裂けても言えない。
…………大路は、どう思ったのだろうか。
っていうか絶対引かれた。
変な奴だと思われた。
恐る恐る、ゆっくりと大路の方を振り返る。
「…………っ!」
ちょうどこちらを見ていたらしい大路と目が合ってしまい、慌てて前を向く。
…………まったく、何をやっているんだろうか。
どうも大路がたまこに告白したらしいと認識してより、普段のキャラを保ちがたい自分がいる。
……いけない。
たまこが普段通りでない今、私まで動揺してどうする。
私はわざとらしく両頬をぴしゃりと叩き、何とか平静を取り戻した。
「起立、礼!」
学級委員の号令を待ちわびたように、生徒たちが一斉にざわめき始める。
……結局、あれからいろいろ考えているうちに放課後を迎えてしまった。
あの後、たまこは始業間際になって教室に駆け込んできたが、大路とは視線すら合わせようとしないまま自分の席に座ってしまう。
そんなたまこを見て、大路が泣きそうな表情になっていた。
ああ…………あれは告白したことを後悔してるな。
まぁ、それはそれとして、だ。
私は私で問題を抱えているわけで。
原因は言うまでもなく朝、トチ狂った挙句に大路に言ってしまった一言。
(何が私と一緒に帰りなさい、よ)
一緒に帰ってどうするというのか。なにを話すというのか。
…………とりあえず、癪だが大路に謝っておこう。
どう考えても朝の私はどうかしていた、と。
そう思って立ち上がりかけたところに。
「常盤」
「うひゃっ!……お、大路?」
不意に当人である大路から声を掛けられ、私は思わず小さく飛び上がる。
私の反応は大路にとっても予想外だったようで、こちらに手を伸ばしたまま固まっている大路の姿があった。
「常盤?ど、どうした?」
「何でもないわよ。それより、どうしたの?」
微かに声が尖るのが自分でもわかる。
そんな私の表情に大路は一瞬怯みかけるものの、気を取り直したように言葉を続けてきた。
「いや、今日一緒に帰ろうって言ったじゃん」
「あ、そのことなら……」
「そっちもバトン部あるんだろ?終わったら教室で待っててくれよ」
「え…………?」
今度は私が驚く番であった。
あんな、私が一方的に言っただけの事、全く無視しても構わなかったのに。
しかし私の驚きの理由を大路は勘違いしたようで、顔の前で謝るように手を立てる。
「ちょっとな……今はたまこと顔合わせたくないんだ。だから、面倒をかけることになると思うけど、頼む」
「あ、うん、分かった」
思わず素直に頷いてしまう私。
「じゃ、あとでな」
「…………」
そう言って教室から出ていく大路の後姿を、私は黙って見送ることしかできなかった。
「……みどちゃん、どうしちゃったんですか?」
そしてその日の練習でミスをしまくり、かんなに心配そうな表情を向けられることになる。
「……よう」
「ん」
練習が終わった後教室に入ると、大路はすでに自分の席について待っていた。
まぁ映像研究会なんてまともに活動しているかどうかも怪しいような部活だから予想通りと言えなくもないが。
一度活動中の部室を覗いてみたことがあるが、パソコンで古い映画を見ながら好き勝手にだべっているだけであった。
「ごめん、待った?」
「いや、そんなに」
「あっそ」
「じゃ、帰るか」
そんな短い言葉のやり取りの後、大路は帰り支度を始める。
…………って、ちょっと待て。
何だこの会話。
デートの待ち合わせしてる男女じゃないんだぞ。
だいたい大路が好きなのはたまこであって、私は大路のことなんぞ何とも…………
「…………常盤?」
「うひゃぅ!」
考え込んでいるところに急に声をかけられて私は妙な声を上げつつ大路から飛び退る。
……なにを考えてるんだ、私。
そんな私の態度に、大路は戸惑ったように声をかけてくる。
「ど、どうした常盤?今日はなんかおかしいぞ」
「何でもない」
「そうなのか?」
「しつこい」
「あ、おい、ちょっと待てってば!」
私はそう言い残すと鞄を乱暴に掴み、何やら言っている大路に背を向けて教室の出口へと歩き始めた。
「…………」
「…………」
ただひたすらの、無言。
私の家と大路の家はともに同じうさぎ山商店街にあるため、学校から家までの経路もほぼ同じになる。
その通学路のおよそ3分の1を過ぎたあたりになっても、私も大路も一言も発しようとしない。
そんな沈黙が私たちの間に蟠っている。
いや、私が誘ったのだから私が口火を切らねばならないのは分かっているのだが、いざこうして二人っきりになると何を言っていいのか分からないでいた。
大路の方もちらちらとこちらを伺うようなそぶりを見せるものの、自分から口を開こうとはしない。
そんな沈黙が続き、やっと帰り道の半ばに達しようかと言う所で大路が意を決したように口を開いた。
「常盤」
「ん」
小さく頷きを返す。
「昨日、たまこに言った」
「…………」
「卒業したら、東京の大学に行きたいってこと。それと、たまこのことが…………好きだ、って」
「…………そ」
返答は短いが、その言葉を発するために私は少なからぬ努力をする必要に迫られた。
大路はそんな私に気付くことなく、言葉を続ける。
「そしたらたまこ、すっごい慌てて川に落ちちゃってさ」
…………アホか。
何やってんだ二人とも。
「それで、そのまま家に走って帰っちまった」
「…………そ」
「それで……今日の朝、常盤も見ただろ?あんな感じで何か気まずくてさ」
そりゃそうだ。
大路の話を聞く限り、たまこは大路の告白に何らリアクションを返していない。
その状態でいつも通りに会話ができるほどたまこは器用でない。
「…………で?」
思いっきり不機嫌そうな声で返答する。
自分から帰ろうと誘っておいて、我ながら勝手な態度だとは思うが、自分で分かっていても抑えきれなかった。
「い、いや、それで常盤に言っときたいことがあったからさ。常盤から帰ろうって言ってくれてありがたかった」
「……そう」
私は短く返答する。
どうせ文句でも言いたいのだろう。
またはどうしようどうしよう、と延々と愚痴に付き合わされるか。
…………まぁ、私にも責任の一端があるのは確かだ。
無責任な慰めの言葉のひとつもかけてやるのは吝かでない。
もちろんたまこを困らせたことについてはきっちり落とし前をつけてもらうが。
しかし、次に大路の口から出た言葉は私の予想を裏切るものであった。
「ありがとうな……常盤」
「へ?」
思わず立ちどまり、振り返ってって少し高い位置にある大路の顔に視線を向ける。
少し微笑んだその表情に、訳もなく頬が熱くなってきた。
「常盤が俺の背中を押してくれたんだ。お前の言うとおり、たまこの周りをぐるぐるしてばっかりだった俺の背中を。お前があそこまで強引に逃げ道を断ってくれたから、とにかくにも俺はたまこに気持ちを伝えられたんだ。…………まぁ、結果はご覧のとおりだったけどさ」
「う、うん……」
「常盤に言われなかったら、たぶん俺はまたぐずぐず先延ばしにしてたと思う。だから、常盤には感謝してるんだ。ありがとう」
「べ、べつにそんなつもりで…………」
そう言って頭を下げる大路から視線をそらす。
予想外の感謝の言葉に、さっきから胸の鼓動が収まらない。
…………やばい。
こんなの私のキャラじゃない。
大路のほうも恥ずかしいことを言っているのは自覚しているようで、頭を上げた後は微妙に私から視線をそらしている。
……なんだこれ。
どこの少女マンガだ。
そんな居心地の悪い沈黙を破ったのは、またしても大路であった。
「そ、そういえば常盤……お前も何か話があるんだろ?」
「うえっ?」
大路の言葉に、思わず頓狂な声を上げてしまう。
私はやっと自分が大路とこんなところにいる理由を思い出した。
しかし、もはや大路を問い詰めるどころではない。
このまま大路と話していたら私は何をするかわからない。
「あ、いや、いい」
「…………そうなのか?」
そう問いかける大路の表情は、私のことを心配する気持ちにあふれていて。
なぜか私はその顔を正面から見ることができなかった。
「まぁいいや。なんかあったら言えよ。俺じゃ頼りないかも知れんが」
そういってあはは、と小さく笑う。
そんな大路の態度に、私も少し落ち着きを取り戻すことができた。
「そうね」
「ひどくない!?」
大路がショックを受けたように後ずさる。
…………そうだ。
これが私と……大路の関係なんだ。
そう思うと今までのもやもやがすっと出て行くような感じがした。
「あれ、いつの間にか帰って来てたのか」
「ほんとね」
大路の言葉にやっと落ち着いて周囲を見回すと、いつのまにか私たちは見慣れたうさぎ山商店街に帰り着いていた。
私の家の前まで無言で歩き、そして大路と私は小さく手を振って別れる。
「じゃ、また明日。たまこ泣かせたら一生呪うからね」
「こえー事いうなよ」
そういいながらも大路の表情は笑っていて。
だから、その言葉も自然に口にすることができた。
「大路」
「何だ?」
「ありがと」
「…………え?」
狐につままれた、と言うか鳩が豆鉄砲を食らったような表情の大路に背を向けて、私は家の玄関をくぐった。
如何でしたでしょうか。
ちょっとみどりがキャラ違いすぎるかもしれませんねww
次話もなるべく早く書きたいと思います。
P.S
くどいですが宣伝
夏コミ受かりました。
評論の海上自衛隊本。3日目Q-60aです。
それでは。