みどりラブストーリー   作:坂本圭助

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おはようございます。
こんな時間ですが6話目を投稿します。

今回は少し短いです。
申し訳ありません。


6 常盤みどりは相談を受ける

私、常盤みどりの朝は早い。

…………などと格好つけてみたが、マーチングフェスティバルに出ると決めてから私たちバトン部は朝練を行っていただけの話だ。

学校に向かう道すがら、昨日の大路との会話を思い出す。

 

 

――――常盤には感謝してるんだ。ありがとう。

 

 

そんな大路の言葉。

それは私の欲しかった言葉じゃないけど。

それでも、大路に感じていたもやもやした屈託は幾分か軽減されたと言っていい。

学校に向かう足取りも自然に軽くなろうというものだ。

そんな気分のまま、私は体育館の扉を開ける。

この時間には、まだ部員は誰も来ていないはず――――

 

 

(…………たまこ?)

 

 

誰もいないはずの体育館には、一つの人影があった。

その人影は何度もバトンを投げあげては受け止め損ねて落とす。

その繰り返し。

それは、私のよく知る私の親友、北白川たまこの姿であった。

近づいていく私にも気づかない様子で、たまこは熱心に同じ動作を繰り返している。

 

「たまこ」

「あ、みどりちゃん」

「……早いのね」

「うん。私だけうまくできないからね」

「そ」

 

そう言うたまこの態度はどこかそわそわして落ち着きがなさそうだ。

やはり大路のこと、まだ結論を出せていないのだろう。

何とか力になりたいとは思うものの、このことに関しては私も当事者のようなものだ。

迂闊に余計なことを言ってしまわないとも限らない。

そもそもたまこは大路がたまこに告白したことを、私は知らないと思っているのだ。

私はたまこに声をかける代わりにバックよりバトンを取り出した。

 

「よし、じゃちょっと早いけど朝練始めようか」

「……うん」

 

私の言葉に頷くたまこ。

 

 

「1,2,3,4,2,2,3,4,3,2,3,4……」

 

人気のない体育館に私の声が響く。

私の隣で真剣な表情をしてバトンを操るたまこ。

 

「4,2,3,4,ターンして、トス!」

 

私の号令とともに2本のバトンが宙に投げ上げられる。

そして。

 

「…………」

 

投げ上げたバトンを追うそぶりすら見せず、たまこはどこか呆けたような表情のまま地に落下するバトンを眺めている。

 

からんからん。

 

バトンが床に落ちる音が響く。

 

「…………たまこ」

「やっぱり、上手く受け止められない……」

 

床に落ちたバトンに視線を注ぎながらのたまこの言葉。

それは先日の練習でたまこが無意識に呟いたのと同じものであった。

……はぁ。

これは重症だな。

私はたまこに向け一歩を踏み出す。

それがたとえ、誰にも言えずにいる私の気持ちをさらにかき乱す結果になろうとも、たまこがこれ以上悩む姿は見たくない。

 

「…………大路の事?」

「っ!」

 

私の発した一言の効果は覿面であった。

驚いたように私に視線を送るたまこ。

しかしその表情は次第に迷いに変わっていき、そして何かを決心したかのように小さく頷くと私に視線を向けてきた。

 

「みどりちゃん、聞いてくれる?」

「うん」

 

一秒の間すらおかず私は頷く。

 

 

 

 

「もち蔵にね、好きって言われた。…………めちゃくちゃ好きって」

「…………うん」

 

もちろんそれは当の大路自身から聞いて知っている。

でも、やはりたまこの口から聞かされると私の中をいろいろな感情が走るのを自覚する。

「うん」と短い言葉を返すのにも少なからぬ努力が必要だった。

 

「それでね、高校卒業したら、東京の大学に行きたいんだって」

「……うん」

 

これも想定の内の言葉。

今度はさっきよりは動揺せずに答えられた…………と思う。

 

「私ね、なんとなく思ってたんだ。このまま高校卒業して、大学行って、就職して」

「うん」

「それでも、みどりちゃんやかんな、史織ちゃんやこのうさぎ山商店街のみんな、…………それと、もち蔵。みんなとの日常は変わらずに続いてくんだって」

「うん」

「丸くて白くて柔らかいお餅みたいな、温かい日々が続くんだって思ってた」

「うん」

 

…………さっきから「うん」としか言ってないような気がするが、私自身もたまこにどう言葉をかけていいか分からないでいた。

 

「でも、違った。みんな自分のやりたいことがあって、その為にいろいろ努力してる」

「うん」

 

「実家の大工をつくため」に建築科を目指すかんな。

「ホームステイとかしてみたい」と言っていた史織。

そして…………映像の勉強をするために東京へ行くという大路。

そんなみんなの顔がフラッシュバックしてくる。

 

「なんだか、私一人だけ取り残されちゃったみたいで。私って、こうなればいいなって思うことはあっても、それ以上何にも考えてなかったんだなーって思い知らされた」

「うん」

 

それは私も同じだ。

進路調査のことを話すかんなや史織の姿に、どこか疎外感を感じていた。

もちろんそんなのは自分の手前勝手な感情だというのは分かっている。

しかし、将来に明確に「やりたいこと」をもっていない自分を認めるというのは高校3年生、18歳でしかないこの身にはいささか荷が勝ちすぎた。

 

「もち蔵のことだってそう」

「…………うん」

 

大路の名前が出た瞬間に、鼓動が少し早くなるのを実感する。

思わず「うん」の返事が一瞬遅れてしまったが、たまこは気にした様子もない。

 

「もち蔵が好きって言ってくれて、ああ、もち蔵って私の事そう言う風に考えてたんだって。……私、もち蔵のことそんな風に見たこともなかったのに」

「……うん」

 

たまこの事だから皮肉や自嘲で言っているのではないと分かっているが、さすがに少し大路が哀れになってくる。

脈なしってレベルじゃねーぞ。

 

「私より小さいあんこがあの……柚季君だっけ?のことでいろいろ悩んだりあわあわしたり、そんなのを見てるのに、それでも私には全く関係ない世界の話だって思ってた」

「うん」

 

柚季君というのはたまこの妹、あんこの同級生で、あんこが思いを寄せる男の子……らしい。

最近の小学生は侮れない。

 

「でももち蔵は自分の将来の事、ちゃんと考えて、私との関係もどうしたいのか、もち蔵なりに考えて、それで私に言葉を投げてくれた」

「うん」

「でも、やっぱり上手く受け止められないんだ」

 

そこで言葉を切って黙り込む。

 

「あー……どうすればいいのかな、私」

 

そう言って膝頭に頭を押し付ける。

私は少し考えた後に、口を開いた。

 

「たまこはさ、どう思ってるの…………その、大路の事」

「それは…………もちろん好きだよ」

 

何のためらいもなく言ってのける。

その「好き」の意味が私の考える「好き」でないことは分かっていても些か心臓に悪い。

 

「でも、もち蔵の言ってる『好き』が、そう言う意味じゃないってことぐらい私にもわかる」

「まぁ、そうよね」

 

そう相槌をうつと、私もたまこに習って目の前のだだっ広い体育館に目を向ける。

話を聞いてあげる、などと意気込んでみたものの私も半当事者と言っていい立場だ。

無責任に「たまこのしたいようにすれば?」などと言葉をかけることもできない。

 

結局のところ。

 

「どうしようか」

「……うん」

 

かんなと部員たちが来るまで、そんな内容のない会話を交わすことしかできなかった。

 




短くてすいません。
夏コミの本が完成したので次からはもう少し早く書けるかと。

それでは。
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