帝国VS少女一人 作:にーむ
「貴様一人か」
ザッ、と地面を削る音がした。小柄な影が世界に映る。
血に濡れた地面が、荒廃した土地が見渡す限りに広がる中、その影と対峙するのは軍服を纏った一人の黒髪の女だった。
「……不服?」
「いや。しかし、意外ではある、と言っておこう」
女は向かう影──少女を見据え、目を細める。
「そして、無謀である、ともな」
腰の剣に手を掛け、女は金色の目を細める。それと同時──空気が震えた。
ただ『威圧する』と言う行為が世界に及ぼしたのは、自然現象を思わせる程の轟音と地響き。真っ正面からそれを受けた少女は、そのあまりの『魔力』と押し潰される様な圧迫感の中、息を呑む。
まるで深海にいるかのような錯覚を抱きながら、少女は蒼色の髪を朗々と靡かせ女に対峙する。長い白色のローブがバタバタとはためいていた。
恐怖で体が震える。乾いた唇が擦れるような音をたてる。そして、少女はそれを誤魔化す様に舌で唇を湿らせた。
「そんなの……承知の上」
「そうか。ならば貴様の覚悟を認めよう。
しかし、疑問はある。この場に来るのが『六芒』一人とは……あまりにも拍子抜けだ」
帝国の『
それを拝命する彼女は、『魔術大国』を自称するラスノートが誇る八賢者──その事実上の頂点である『大杯』の賢者、ギル・ロズガードがこの場にて己と相対すると予想していた。もしくは、複数人が来るであろう、と。
だが、対峙したのは三位である『六芒』の賢者、メルア・フィードただ一人。勿論脅威ではある。気を抜いて良い相手ではない。
しかし、それだけだ。
『大杯』を持ってしても蹂躙に近い戦いを演じた彼女からすれば、それは余りにも儚い障壁であった。いや、障壁とすら形容することすら生温い。
かもすれば、紙切れのように片手で、一手間に。瞬きの間で破かれる事すら考えられた。
「ふむ……──おや……あぁ、なるほどな」
そして、彼女はゆっくりと右へ左へと視線を一巡させる。それを認めたメルアは、やがて緊張を推し量るように喉を鳴らす。
「覚悟を決めていたのは貴様だけではない、と言うことか」
「……さぁ、知らない」
彼女が感じ取ったのは、七つの膨大な魔力の胎動。泰然と、傍若無人に。ただそこに存在するそれら。
己のそれと比べれば児戯に値するそれも、しかしこの世界では有数の物であることは確かだった。
故に、結論は一つ。
「私を『六芒』──メルア、貴様が抑え、その間に多方面に散らばった八賢者が我ら帝国軍を圧殺する、か……悪くはない」
考え込む様に顎に手を当て、白剣は嘆息を付く。現状、包囲する側にある帝国軍が有利だ。支援は断った。望みは無い。なら博打に出るのも、あちらからすれば一興ではあろう。そう彼女は思考する。
勿論、メルアが容易く挫ければ他の賢者達も各個撃破され、瞬きの間で戦線は崩壊する。メルアに全てを託す、酷く脆く淡い策であることは確実だった。
だが、それを考慮から抜いてもその作戦には大きな欠点があった。
「──まず、どこから話そうか。我々帝国はこの私だけではない。
我らが臣民は強靭だ。対するが八賢者と言えど、決して容易く折れたりはせん……──そして、更に言うのであればな」
息を吸う。一拍。
──そして湧き上がったのは、信じられないほどの魔力だった。ごうごうと大きな音をたてて噴出するそれは、先の八賢者の物と遜色ない程の輝きを示し──そしてそれは、《白剣》からではない。
ラスノートは小さい。それを囲むように展開されている戦陣は、メルアの位置からでも容易く目に入れられる程だ。
だからこそ見える。遠方に六つ。先程の七つの魔力位置からそう離れていない場所にそれは存在した。
メルアが思わず、ひゅ──と息を呑む。それは、あり得てはならない自体が引き起こされた故に。
「……まさか」
「──我々は貴様らラスノートを欠片も軽視してはいない」
そして、白剣は目を遠方へと向けながら、口の中で吟味するように言葉を転がし、言った。
「故に、皇帝陛下は決断したのだ。陛下の親衛隊たる、《第一騎士団》六名の派遣をな」
「……こんな、小さな国の為に?」
声が震える。大きく目を見開いたメルアは、己を抑えるために拳を強く握りしめた。
「『魔術大国』、『魔術立国』……だったか。その自称は、少なくとも建前だけではないだろう?」
「……さあ。私は知らない」
そして、メルアは。
──