帝国VS少女一人 作:にーむ
「──ッ!!」
バグン、と地面が大きくひび割れる音が鳴る。その音と弾ける閃光が広がる中、メルアは目を凝らす。
いや、それだけではない。戦場で敵を見失うのは致死であると理解している故、彼女は五感全てを尖らせ目の前の敵に集中していた。
そして、光が止んだ先、段々と影がしっかりと形作られ。そして──絶望は存在した。
「──ふうっ……なるほどな」
──無傷。冷や汗が垂れているが、最早それは誤差のようなものだろう。メルアの渾身の魔術は、《白剣》になんの痛痒も与えることは出来なかっのだ。
これは決してメルアの魔術が弱かったなどではない。仮にも《八賢者》の一人である彼女だ。地面に出来た大きな窪みと、大きく後退した《白剣》がメルアの魔術の強力さを明確に示している。
至近距離での睨み合いの中、《白剣》はふっ、と頬を緩めた。
「──素晴らしい。《六芒》のメルア・フィード。全てがブラフだった訳だな
私を義憤に陥らせ、更にありもしない魔力の流れを断ち切らせる事で疑いを無くし、完全に油断させる。そしてゼロ距離で渾身の魔術を撃ち込むか……その肉体の異様な軽さは重力魔術か?」
剣を構えながらも、彼女は嬉しそうに笑っていた。だがメルアは警戒を解かない。
「ふむ……メルア。今更であるが、名乗ろう。
──我が名はシストラ・ラード・リア・テステイル。帝国の唯一にして絶対の剣であり、そして何者にも屈さぬ刃」
そして、メルアは警戒をありありと瞳に写しながらも、ゆっくりと口を開く。
「『魔術大国』ラスノート、《八賢者》所属……メルア・フィード」
それに軽く笑みを返すと、まるで軽い雑談かのような声をシストラは漏らした。
「お前も皮肉を言うのだな……なかなかに面白かったぞ?」
「……冗談」
「む、今のは冗談だったか?」
「…………それこそ冗談」
メルアの喋り方は人とのコミュニケーションにはあまり向いていない。故に起こったこのすれ違いと、醸し出されるほんわかした雰囲気だが、
どうにか時間を延ばそうと回らない口を開く。
「仮にも国家所属の魔術師……他人の命を使うなんて真似は、しない」
「それについてはそう思考するように誘導したそちらにも非があると思うが?」
「……む。それは、そう」
シストラは軽く破顔する。話していて楽しい。これに勝る関係はない。
「ふむ……メルア、帝国に来ないか?帝国はお前を歓迎しよう。座る席も用意する。お前の研究もこれまで以上に進むと思うが?」
そして、ジリジリと下がっていたメルアに提案をすると、彼女は数秒の硬直の後、ふるふると首をふった。それにシストラは怪訝そうに眉をひそめる。
「何故だ?権利は十分に保障する。なにより、お前の目的の手助けにもなるだろう」
「……すぐに、分かる」
悲痛な、と形容出来よう。そんな儚げな笑みをメルアが浮かべると、そして。彼女が言う通り、それはすぐに分かった。
──立ち上る十字の光が遠方に現れた。
それは一つ二つではない。段々と数を増してゆき、それは六つまで至る。轟々と立ち上るのは莫大な魔力の噴出。
そして、それに一番の驚きを見せたのはシストラであった。
「これは……《八賢者》に勝利したときの合図?馬鹿な、流石の第一騎士団でも早すぎる……しかもここまでタイミングが一致するなど……」
そして、ハッとした様子でシストラはラスノートに視線を向ける。そこに存在していた物は、既に消え去っていた。
「……魔術防壁の消失──まて。お前から切り裂いた魔力の流れは確か……──七つ」
驚愕に相貌が染められる。そして次の瞬間、怒りにそれは塗り替えられた。
「メルア、貴様まさか七体もの人体錬成を」
「違う」
だが、頭に
「ならば何故、貴様の魔力を断ち切ったと同時に《八賢者》打倒が起きた。魔術防壁を展開しながら私との戦闘を行った事は感嘆に値するが……先に言っていたはずだ。他人の命を使うなどしていない、と」
そして、メルアは。《八賢者》の一人、《六芒》のメルアは、凄惨な笑みを浮かべて笑った。
おかしな事に、それはどこか泣いているようにもシストラには見えた。
静かに口が開かれる。
「