閉所恐怖症モクロス   作:宇宮 祐樹

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 冬になった。

 

「…………」

「…………」

 

 結局、タマモクロスの症状が治ることは、なかった。

 悪化しているわけではなかった。かといって、レースに出られるほど回復したわけでもなかった。八月の中旬に菊花賞を見送ることを決め、秋から通院を始めた。今は主治医によるカウンセリングを受けているが、有への出走も見送るべきだと言われた。最短でも春の天皇賞まではかかるだろう、とも言われた。

 落ち着くべき期間だと伝えた。治療に専念するべきだ、と納得させることしかできなかった。苦渋の決断だったと思う。けれど、彼女は何も言わずに頷いてくれた。そのすんなりとした肯定が、重く伸し掛かってきた。

 回した腕から、彼女の温もりが伝わってくる。かじかんでいた指先が、じんわりと熱を帯びていた。

 

「……どうすれば、よかったんやろな」

 

 くぐもった彼女の声が、聞こえてくる。

 

「こうするしかなかったと、思う」

 

 そう答えることしか、今の俺にはできなかった。

 

「きっと、高望みしすぎたんやろな、ウチ」

「……そんなことは」

「だってそうやろ。地方から出てきた落ちこぼれが、皐月賞で一着になっただけでも大金星やったのに。ダービーでも勝ちたいって、あわよくば三冠も制覇したいって思った矢先にこれや。我慢、するべきやった……得意やったハズなんやけどなあ。どうしても……まだ勝ちたいとか、思ったから……」

 

 小さな掌が、俺の服を握り締める。震える彼女の背中を、優しく撫でた。

 

「あまり自分を責めるな。高望みなんて、誰でもするだろ」

「せやけど」

「それにまだ、走れなくなったわけじゃない。上手くいけば春の天皇賞にも出られるって言われただろ。それでもダメだったら、宝塚とか秋の天皇賞、来年の有を目標にするでもいい。まだ、お前は終わってないんだ」

 

 慰めかもしれないが、本心だった。回復の見込みはある。なら、それが済んでから話を進めればいい。一つ一つ、確実に進んでいけば、きっとレース場に戻れる。長い道のりにはなるが、そこは耐えてもらうしかない。

 そうやって話したところで、ふと彼女が、軽く笑う。

 

「……まだ、ウチのこと担当する気なん?」

「ああ。契約だからな」

「こんなロクでもない病人でもか?」

「そうだ」

 

 きっと、こうなることが分かっていたとしても、俺は彼女を担当していたんだと思う。

 何か約束をしたわけでもない。彼女の掲げた目標――家族に楽をさせたい、という気持ちに共感こそすれど、それ以上に何かがあるわけでもない。走りにセンスや才能を感じたが、それが目当てだったというわけでもない。

 では、どうして俺は彼女を担当をしているのか。

 ……そんなもの、改めて自分に問うまでもなかった。

 

「また、腑抜けた連中を見返してくれ」

「……見返す?」

「地方だからとか、身体的に恵まれていないからとか。そうやって見下していたヤツらを、走りで黙らせる。そんなお前を見ていて、勇気づけられた。タマモクロス、お前は俺の恩人なんだ。だから俺は、お前を担当している」

 

 正直、表に出せる理由ではないのだろう。卑屈だと思う。聞かされて、心地の良いものではないと思う。後ろ向きな理由だという自覚もある。トレーナーとしての資格を疑われても、おかしくはない。

 けれど、それこそが彼女を――タマモクロスというウマ娘を担当する、ただ一つの理由だった。

 

「ウチが? トレーナーを勇気づける? なんで、そないなこと……」

「俺の実家はな、そこそこ名のあるトレーナーの一家だったんだよ」

 

 身の上話なんて無為なものだし、調べれば誰でも分かることだが。

 今この場においては、俺の口から伝える必要があると、そう思った。

 

「でも、俺はあまりトレーナーには向いてなくてな。……たぶん、タマモも分かると思うが、俺は人の気持ちを汲み取るのが苦手なんだ。そのせいで何度も失敗したし、色々なものを失った。後ろ指をさされて、家族からも見放された。お前はこの家に生まれるべきではなかった、って言われたよ。実の父にな」

「そんな……」

「酷い話だろ? ただ、俺にも意地があったんだ。トレーナーとしての意地もそうだが……何より、俺のことをバカにしていた奴らを、見返してやりたかった。だから俺は中央(ここ)に来た。そして、お前に出会ったんだ。何と言われようと、どんな視線を向けられようと、走り一つでそいつらを黙らせるお前に」

 

 思っていたよりも遥かに多くの言葉が、俺の口から溢れていた。

 やがてその言葉を受け止めてくれた彼女が、呆れたような息を一つ吐いてから、

 

「……前々から物好きやとは思ってたけど。ここまで来たら悪趣味やで、トレーナー」

「かも、しれないな。……失望したか?」

「まさか」

 

 胸の中で、タマモクロスが笑う。

 

「……なあ、トレーナー」

「どうした?」

「また、見せたるわ。ウチの走りで、みんなの度肝抜いたるところ。絶対に」

「楽しみにしてる」

「だから、それまでどっこも行かんどいてや?」

「……約束しよう」

 

 彼女の頭を撫でながら、そう口にする。

 それが、初めて彼女と交わした約束だった。

 

 

 年も明けて、二月になった。

 タマモクロスの症状は、だいぶ軽くなった。日常生活に支障が出ることはほとんどなくなって、普段通り過ごせるようになった。トレーニングに関しても、他の生徒と問題なく行えるようになった。通院先の医師からも、順調に回復していると言われた。彼女の頑張りは、着実に表れていた。

 ただ、どうしても走るのはダメだった。具体的には日常生活における集団はもう気にならなくなっていたが、併走やレース中のバ群に関してだけ、まだ怯えてしまうような状態だった。それさえ何とかなれば、レースにも出走できるのだと思う。タマモクロス自身も、それは理解しているようだった。

 

「アカンな……やっぱ、レースになるとビビってまうわ」

 

 前よりも快活に――あるいは、元のように笑うようになった彼女が、言葉を漏らす。

 どうしてもバ群を抜けない。先程の模擬レースも、十人中七着だった。走れないというわけではないが、これでは勝つこともできない。難しいところだった。

 

「……あまり、焦る必要はない。じきに元通り走れるようになるさ」

「ん」

 

 慰めの言葉しかかけられない。けれど、彼女は気にすることもなく、返事をしてくれる。

 あと何か、きっかえさえあれば元通りになるはずなのに。

 もどかしくなる気持ちを抑えながら、またタマモクロスへ声をかける。

 

「タマモ、今日はもう……」

「少し、いいか?」

 

 被せるように聞こえてきたその言葉に、首を傾げながら振り帰る。

 果たしてそこに立っていたのは、彼女の友人であるオグリキャップだった。

 

「オグリ? 何しにきたん?」

「いや……休憩時間になったから、タマの様子でも見に行こうかなと」

「ウチは猫か!」

 

 いつも通りに返すタマモクロスに、彼女は眉を下げた、少し心配そうな笑みで返す。

 

「調子はどうなんだ?」

「そこそこやな。このまま行けば、春天には出れるで」

「……そうか。それは良かった」

 

 ちらり、とオグリキャップの視線が一瞬、俺の方へ向けられる。

 嘘ではない。このまま回復していけば、医師が言っていた通り春の天皇賞には出られるだろう。ただ、あと一つ何かきっかけさえあれば、完璧に回復するはずだ。そのきっかけが見つからないから、困っているわけだが。

 それも含めて頷くと、彼女は安心したように胸を撫で下ろした。

 

「じゃあ、私はもう戻る。タマがまた走るところ、楽しみにしてるぞ」

「おう、また後でな!」

 

 手を振って、去っていく彼女の背中を眺めながら、タマモクロスがぽつりと。

 

「楽しみにしてる、か」

 

 噛み締めるような、どこか泣きそうなその横顔を眺めていると、俺の視線に気づいた彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。

 

「どしたん? ウチの顔に、何か変なモンでもついてたか?」

「俺も、楽しみにしてるからな」

「……そか」

 

 照れ臭そうに頬を掻いて、彼女はそう答えてくれた。

 

 

「きっかけ、と言われてもね」

 

 翌日、旧理科準備室にて。

 俺の話に、アグネスタキオンはそう呟いてから語り始めた。

 

「生憎と私は神様ではないんだ。科学や薬学であれば協力できるが、因果の相談をされても困る。というより、そんな相談をされても答えられる者なんてそれこそ、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)くらいじゃないのかい? この世界に神の役者(デウス)クレーン(マキナ)が存在すれば、の話だが」

「……たまに、お前が何を言っているのか分からなくなる」

「あるいは、オペラオー君なら何かの間違いで知っているんじゃないかな」

 

 ともあれ、と言葉を置いてから、彼女が続ける。

 

「誰にもどうすることもできない。待つしかないのさ。その時が来るまで」

「……それでいいのか?」

「君がタマモクロス君の傍にいれば、彼女のためにはなるさ」

 

 至極尤もな意見だった。否定する理由もない。同情も憐憫もない、正しい意見だ。

 けれど俺は、彼女の言葉に頷くことができなかった。

 

「君はたまに強情になるねえ」

「悪いか」

「いいと思うよ。そうしている時の君がいちばん、人間らしい」

 

 それは、普段が人間らしくないという意味なのだろうか。終ぞ答えを聴くのが怖くなって、聞けずにいると、アグネスタキオンは耐えかねたように言葉を投げてきた。

 

「無力な自分を憐れんでいるのかい?」

「そんな後ろ向きな考えはしてない」

 

 俺は、ただ。

 

「もう、彼女が苦しんでいる姿を見たくないんだ」

「……苦しんでいる、かい?」

「だって、そうだろ。彼女はあんな笑い方しなかった」

 

 俺が憧れていたのは、あんな力のない、廃れた笑みを浮かべるタマモクロスじゃない。

 もっと皆に勇気を与えるような、溢れるような笑い方をするタマモクロスなんだ。

 俺が望むのは、そんな彼女がまた戻ってきて、昔のように笑いかけてくれること。

 それだけだった。

 

「あの頃の彼女に戻ってくれるのなら、俺は……死んでもいい、とさえ思える」

「元、担当されていた者として言わせてもらうけども」

「なんだ」

「その利他的なところが、人間らしくないんだよ」

 

 呆れたような息を吐きながら、アグネスタキオンが告げる。

 ……自分よりも誰かを優先することこそ、いちばん人間らしい行動だと俺は思う。

 だって、それは人間にしかできないことだから。

 

「今日もトレーニングはするのかい?」

「ああ」

「時間も場所も、私を担当していたころと同じ?」

「……変えてないな。その方が楽だから」

「ふゥん」

 

 こつこつ、と指で机を叩きながら、アグネスタキオンが俺と言葉を交わす。

 

「恐怖症の治療には、もしかすると思い切りというのも必要かもしれないね」

「……何をするつもりだ?」

 

 俺の問いかけに、彼女は自らの脚へ手を伸ばしながら、

 

「賭けだよ」

 

 あるいは一番、彼女らしくない言葉を放ったのだった。

 

 

 それからしばらくの時間が経ち、トレーニングの時間になったころ。

 

「初めましてだね、タマモクロス君。君のことは彼からよく聴いているよ」

 

 ぶんぶんと握手した腕をアグネスタキオンに振られたまま、タマモクロスは助けを求めるようにこちらへ視線を送ってきた。ツッコミを放棄して此方へ縋ってくる、何気に珍しい彼女の姿であった。

 

「……どういうコトや?」

「賭けをしたい、と」

「いや、意味わからんて……」

 

 呆れたようにタマモクロスが息を吐く。そうしていい加減鬱陶しくなったのか、握手したままのアグネスタキオンから腕を無理やり引き剥がして、その手のひらをジャージで拭った。

 

「初対面のはずなのに、かなり失礼なことをされてる気がするね」

「いや……だって、何ついてるか分からんやん」

「心外だね、ちゃんと研究する前と後で手は洗っているよ? これでも科学者の端くれだからね」

「あっそ。……で? その端くれがどうしてウチのトレーナーと知り合いやねん?」

「言ってなかったか?」

 

 まあ、確かに言う機会もないし、どうせ調べれば分かることだが。

 

「前に担当していたんだよ」

「彼とは遠縁の親戚でね」

 

 ……ん?

 

「そっちか?」

「むしろ、だから私を担当したんじゃないのかい?」

「まあ、間違いではないが」

「だろう? ……いや、そんなことはどうでもいいんだ。今、改めて確認することじゃない」

 

 言うとアグネスタキオンはその場に屈みこんで、左脚に着けていた矯正器具の留め具を外し始める。かちゃかちゃと細かな金属音を立てる彼女に、タマモクロスはどうしていいか分からず、また助けを求めるように俺へ視線を送ってきた。

 とはいえ、俺も彼女から具体的に何をするかは聞いていない。流れる沈黙を察したのか、あるいは驚いている俺たちを揶揄っているのか、くすりとまたあの笑顔を浮かべながら、アグネスタキオンが口を開いた。

 

「タマモクロス君、今から私と併走しようじゃないか」

「へ、併走って……そんな脚で、大丈夫なんか?」

「ある程度なら平気さ。ほとんど回復しているようなものだから」

 

 ただ、と矯正器具を外し終えた彼女が、改めてタマモクロスと向き直ってから、

 

「もしも、あの時のような事故でも起きてしまえば、私は一生走れなくなるだろうね」

「……は」

「ああ、それと私が勝ったら彼を実家へ引き戻させてもらうよ。以前ならまだしも、今の彼にはそこそこの利用価値があるだろうしね。私もいくらかの謝礼が貰えるだろうから、研究費用に充てさせてもらおう」

 

 言葉を詰まらせたのは、彼女だけではなかった。

 思わずアグネスタキオンの肩を掴んで、無理やりこちらへ振り向かせる。

 

「何考えてるんだ、お前。今すぐやめろ」

「なんだ、今更泣き言かい?」

「俺のことはどうだっていい。それより、お前の脚だ。走らせるわけにはいかない」

「私はもう君の担当ではないよ。指示される道理はない」

「だとしても、ウマ娘を指導するトレーナーとして許可はできない」

「顔見知りなのを理由に縋ってきたのは君だろ? ほとんど血の繋がりもないくせに」

「だからって、ここまでしろとは誰も言ってないだろ」

「ここまでのことをしようとしている人にだけは言われたくないよ。それとも、アレか。したくてもできないから、私が羨ましいのかい? だとしたらやっぱり、無力な自分を憐れんでいるだけだよ、君は」

「……利他的なところが人間らしくない、って言ったのは誰だ?」

「生憎と私はウマ娘でね」

 

 へらへらとこちらを揶揄うように、アグネスタキオンが笑う。

 ……そうだ。多少の血の繋がりはあると言えど、こいつとはソリが合わないんだ。それさえなければ俺は一生、こいつと関わることはなかっただろう。そしてそれはきっと、向こうも同じだった。

 睨み合う。光のない鬼灯の色をした瞳が、じっとこちらを見つめていた。

 

「……タマモが勝ったら、どうするつもりだ?」

「彼女がレースを引退するまで、最大限のサポートをすると約束しよう」

「足りない。実家に掛け合って金を出させろ。これまでの療養にかかった費用と、これから必要になる育成費用。それと、お前の脚の治療費も。タマモクロスが最後まで走り続けられるよう、最大限の支援を」

「欲張るねえ。ただまあ、その方が面白いか」

「ちょ、ちょっと! ちょっと待ちや二人とも!」

 

 どこが面白いんだ、という苦言を呈そうとしたところで、タマモクロスが俺と彼女の間に割って入る。

 

「知らんうちに話がどんどんデッカくなっとるし、ワケわからんわ! 第一ウチは走るとは一言も……」

「……なに?」

「あまりよく聞こえなかったな。悪いけどもう一度言ってくれるかい? 言えるものなら」

「なんでそんな息ピッタリやねん! さっきまでドギツい喧嘩しとったやろ!」

 

 なんて彼女の叫びが響く中、睨み合いを続けること、しばらく。

 

「すまない、少し遅れてしまって……」

 

 足音と共に聞こえてきたそんな声に、誰よりも先に声を上げたのはタマモクロスだった。

 

「お、オグリ! またアンタは何しに来たんや!?」

「いや、私も事情は聴かされていないが……」

「やあオグリキャップ君! 来てくれて非常に助かるよ!」

「あーもう、話がこんがらがってきた!」

 

 事情を何も知らない彼女の手を、アグネスタキオンが両手で掴む。そうして、先程タマモクロスにしたようにぶんぶんとその腕を縦に振りながら、首を傾げるオグリキャップへと言葉を並べた。

 

「ところで今、とある実験をしようと思っていてね。どうだい、君も参加しないかい?」

「実験……?」

「なに、一本だけ併走してくれるだけでいいさ。報酬はこの前作った満腹中枢が刺激される薬でどうかな?」

「満腹中枢が? 刺激?」

「……ちょっと飲むだけでお腹が膨れるジュースをあげるから、一緒に併走してくれないかな?」

「やろう、今すぐ」

「もうちょい警戒せえ! んなウマい話があるか!」

「ウマいかどうかは飲んでから決めよう」

「そういう話じゃないっちゅーねん!」

 

 などと、いつものようなやり取りをする二人の前で、アグネスタキオンがこちらへ振り返る。

 

「では、私たちはスタート位置で準備しておくよ」

「いやちょ、だからホントにウチは……!」

「さあ、行こうかオグリキャップくん。それと、少し打ち合わせを……」

 

 そうして彼女はオグリキャップの手を引いたまま、スタート位置に着いていた。隣へ視線を投げると、困ったような、呆れたような――そして、少し怯えているようなタマモクロスと目が合った。

 

「……確か、賭けっつったな? あンのタキオン(端くれ)は」

「ああ。らしくない、とは思っていたがまさか、こんなことになるとは……」

「正直ウチが一番驚いたのは、端くれとアンタが顔見知りだったってことやけどな」

「特別話すようなことでもなかったからな」

「そーかい」

 

 そこで息を一つ吐くと、タマモクロスがうん、と身体を伸ばす。

 

「ウチが勝ったらどうなるって?」

「金が出る。……正確には、彼女と実家に出させる、だが」

「負けたら?」

「俺が実家に帰る。お前とももう二度と会えなくなるし、走る姿も見られなくなるだろう」

「……ホンマ、一世一代の大勝負になってしもうたな」

 

 呟いてから一度、彼女が空を仰いでから、告げる。

 

「やってみるわ」

「ああ」

 

 ぱん、と手を叩いたタマモクロスがスタート位置へと向かい、二人の隣に並ぶ。合図用の電子ホイッスルを構えると、三人がそれぞれ脚を構えて、視線をずっと先へと見据え始めた。紙縒のような緊張が、その場を駆け巡る。

 そして。

 

「行ってこい」

 

 甲高い電子音が鳴り響くと共に、三人のウマ娘が大地を蹴った。

 

 

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