レッドリスト   作:ハレル家

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 遅れてスマナイ……スマナイ……


第一血:波乱の入学式

 

 ――『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である』

 

 これは有名な『世界の三大喜劇王』がひとり、チャーリー・チャップリンの名言である。

 悲劇と思ったことが、実はその後の人生を好転させるためには必要不可欠な出来事だったということは往々にしてある…… この言葉が意味するのは『大切なのは起こった出来事をどう次につなげていくか』ということ。

 

 これから語る物語はまさしくそれだ。

 

 

 ――■□■――

 

 

 朱い月が太陽のように浮かぶ空が一つの島を照らす。

 

 赭養成教育機関人工島『アカツキ』

 

 島全体が学園であり、生活区域であるここで学生に血闘術(ブラッドアーツ)や知識を学び、一人前のハンターに成長させるのが目的の教育機関。同時に研究機関でもあり、学生は在学中に依頼を受け、見習いハンターとして吸血鬼の退治ならびに捕獲を受ける。

 昔は人間と人と吸血鬼のハーフ――ダンピールの二つだけ学べていたが、最近では穏健派の吸血鬼も学べる場を広げた。しかし、一部の人間からの視線には敵意が混ざっていた。

 

『……えー、今年度に入学してきたハンターの卵達……君達は敵対する吸血鬼である過激派から人々を守る仕事をするが、同時に穏健派の吸血鬼を守る事に繋がる。手を取り合う事は無理でも、目指す先は同じだと思う』

 

 講堂のような建物に新入生と見える少年少女が整列されたパイプ椅子に座り、壇上にてガスマスクを着けた初老の男性が新入生に対して語っている。しかし、多数のハンターは自身の近くにいる吸血鬼に対して敵意を向け、向けられてる吸血鬼は知らぬ存じぬのような態度でスルーする者もいれば、居心地悪そうにする者もいる。

 

『……えー……つまり……』

 

 ガスマスクを着けた初老の男性が続きを語ろうにも、新入生の殆どが吸血鬼に対して敵意を向けて話を聞いておらず、その様子にダンピールは鬱陶しそうに眉を潜める。一部の人は真面目に聞いている人が少数だった。

 

『…………』

 

 その様子にガスマスクを着けた初老の男性はおもむろに設置されたマイクを取り外し、少し右に移動する。そしてマイクを大きく上に振りかぶって――

 

『『『……!?』』』

 

 ――床に力強く叩きつけた。

 マイクのスイッチが入っていたのか狂ったような大音量のノイズとハウリングが響き、全員の体が硬直し、敵意を向けていた新入生は突然の事に驚いた。

 ガスマスクを着けた初老の男性が床に叩きつけたマイクを拾い、新入生に向けて指を指して言った。

 

『いま驚いたヤツ、死んだぞ』

 

 ガスマスクを着けた初老の男性の言葉に疑問を浮かべる者、意図を理解する者、不満を見せる者に分かれ、初老の男性が続けて言う。

 

『過激派の吸血鬼は人間社会に溶け込み、平然と命を奪う……味方である吸血鬼を警戒して、真に警戒しなければいけない者に警戒しないのは愚民以下だ』

 

 先程まで話が長い校長先生のような話し方をしていた人物とは思えない言動に驚きながらも大多数は耳を傾ける。

 

『いいか、この三年間で貴様達が身に付けるのは基礎だ。応用や発展は個人でやれ。できなければ死ぬだけだ……それならば、この俺様の実験動物(モルモット)として活動すれば有意義だ。まず最初にこの吸血鬼の超能力を科学的に解析して薬物にした【ディープドラップ2001】の臨床試験を……めんどくさい。片っ端から刺してい……』

「ストップだ! ストップ!!」

 

 途中までは真剣に聞いていたが、懐からショッキングピンクの液体が入れられている注射器を見て逃げようとする新入生。ガスマスクを着けた初老の男性が動く前に、いつの間にか初老の男性の後ろにいた忍者のような服装の男性が羽交い締めにする。

 

『クッ!? 何をする離せ! 実験の為なら多少の犠牲は仕方ないだろ!!』

「仕方なくないだろじゃありませんよ!? 新入生を実験動物(モルモット)と呼ぶ教職員がどこにいますか!?」

「クソ! 離せ! これだから脳まで筋肉の愚民は!!」

「鉄血殿! 手伝ってくだされ!」

「よしわかった! 大人しくしてい――」

『来るな顔面凶器。大人しくすみっこぐらししていろ』

「――私はゴミです」

「鉄血殿ォ!?」

 

 一言で言うなら、混沌。

 ギャーギャーと暴れるガスマスクを着けた初老の男性、初老の男性を羽交い締めで押さえる忍者のような服装の男性、出てきたと思ったら膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れる黒スーツのスカーフェイスな男性、何故か準備体操しながらゆっくり現れた中世のフランスを彷彿させる白いドレスを着た女性、その様子に頭を抱える今時の若者のような服装をした少年。

 壇上の様子に新入生全員が唖然としていた。

 

「さぁ、決めるわよ!」

『ま、待てマリー! その技は俺様に対し――』

「ヴィヴ・ラ・フラーンス!」

『ぐがぁ!?」

 

 マスク越しにゴッ、という固いモノがぶつかる音が聞こえ、ガスマスクを着けた初老の男性は倒れた。その様子に中世のフランスを彷彿させる白いドレスを着た女性――マリーと呼ばれた女性は新入生に向けて手を振り、まるでアイドルのようにウィンクと投げキッスをして去っていった。その様子に一部の生徒がまるでアイドルファンやオタクのように熱狂的な声をあげ、その様子を見た一部の新入生が引いた目で見ていた。

 

『あー、あー、マイクのテスト中、マイクのテスト中……問題なしだね』

 

 忍者のような服装の男性が初老の男性と黒スーツの男性を持ち上げて消えると、今時の若者のような服装をした少年がマイクで話しかける。

 

『さて、君達にはこれから入学案内を渡したいけど、緊急事態(・・・・)により、予定を大幅に変更だ』

 

 少年の言葉に新入生に緊張が走る。その様子に少年は口を開いた。

 

『これからキーン達には、キュイーン。キーンとキュイーンとでっでいうを巻きキーンキーンたままキュイーン。すぐにキュイーンしてほしい』

 

 マイクのノイズとハウリングで台無しになった。

 そして、新入生達にとって長い一日の始まりだと、この時はまだ知るよしもなかった。

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