夜 グッバイヘイロー宅 リビング
「病気の事か?」
あれからおせちを食べてからおとう様に訪ねてみたらあっさりと白状した。
「遺伝性の病気で脚の病気ってことになってるがな、正直解らん」
「分からない?」
「新型だからな、罹った後急に足が使い物にならなくなったと思ったらまた元に戻った。
今もなりを広めてる。そのことは医者もわからんが遺伝性はない事はわかった」
「他には?」
「医者の見立てでは悪化しても悪い病気と併発しない限り生死に関わる事はないだそうだ」
「それ……殆どないじゃないの!」
「そうだな」
「もうっ! 心配したのよ!」
「ありがとな」
「当然じゃないの、おとう様の娘なんだから」
「そうか……そうだよなぁ」
「なによ、しんみりしちゃって」
「いやな、娘と嫁がいるのはいいなと思ってな」
「そんなものかしら?」
「そんなもんだよ。今後の話だが」
「ええ」
「まず脚質、バ場適正、芝にダートの適正を全部解析する」
「ぜ、全部なんて解析なんてできるの?」
「おう、手間はかかるし変動するから定期的に解析は必要だがな」
「解析……体重も?」
「勿論だ。乙女的なパーソナルデータは秘書に任せる」
「秘書? お父様はトレセン学園のトレーナーでいいのよね?」
「トレーナーじゃないぞ?」
「でも、トレーナーの仕事はできるのよね?」
「ライセンスもバッジもあるからな」
「……ますます。わからなくなったわ」
「もう勇さん、キングさんをからかわないで」
「わかったよ。所謂幹部職員だUSのトレセン学園からの出向ってことでな」
「そうなのね……幹部職員?」
「所謂理事だな」
「聞いてないわよ!」
「そりゃ言ってないからなぁ、それに理事って言っても下っ端の使い走りだぞ?」
「そうなの?」
「学園の外で生徒がトラブル起こしたら一番最初に呼ばれる理事は俺」
「え?」
「部下のスカウトがトラブって頭下げに行くのも俺、他にも沢山あるけどな」
「おとう様の仕事って割と大変?」
「癖が多い娘が多いからなぁ、あと留学生や地方のスカウトも俺の仕事だな」
「……おとう様って何者なの? 自分の顔が前に出る仕事ばっかりのような気がするけど」
「元アスリートだよ。ワールドレコードを持っているな」
「せかいきろくほじしゃ?」
「人間のね。100m58秒35は未だに破られたことはないわ」
「それって早いの?」
「芝1000mで50秒切るほどだと思いなさい」
「……とても早いじゃないの!」
「だから勇さんは便利なのよ『世界最速の男』が謝りに来たら、最低でも話を聞く気になるじゃない」
「トレセン学園の闇を垣間見た気分よ」
「で、本題に戻すが明日は空いてるか?」
「ええ、空いてるけど」
「なら明日基本的なところのデータは取るぞ、奥多摩の家で別のウマ娘が来るからその子と一緒にな」
「……理事って休みないかしら?」
「この件は俺が発案だから仕方ないんだ」
「そうなの、ところでその別のウマ娘ってどんな子なのかしら?」
「ちょいと特殊な事情がある子でな、高知でうちの秘書が拾ってきた」
「特殊な事情?」
「ただ特殊な才能がある子だ。本人に聞いてみな」
「勇さんは今日はどうするの? 明日の予定が遅ければここで泊まっていけばいいわ、私は仕事になるけれど」
「そうだなぁ、どっちにしろトレセンで3人ほど拾っていかないといけないから」
「3人?」
「癖と個性と才能がある学生が2人とさっき話してた秘書だな」
「秘書ってどんな人なの、ウマ娘なの?」
「ヨーロッパでトレーナーしてた時に担当していた引退したウマ娘だ。トレーナーと兼業だけどな」
「その人速いの?」
「ああ、速いぞ。欧州のダービーでコースレコード持ってるし、担当した子もG1取ってる」
「へぇ……それはすごいわね」
「俺が忙しい時のトレーニングは任せるつもりだから仲良くな」
「ふうぅん、で二人の学生って?」
「義理の妹、お前から見たら叔母が担任をしてるやつだな……癖があるが将来有望な2人だ」
「えっ、サンデーがトレセンで先生してるの?」
「意外と好評だぞ。教え方がすごく感覚的みたいだが」
「うそでしょ?! お母様の全盛期一番気性が近いって言われてたあの子が?」
そのおばあ様が気性大変荒いみたいな言い方はどうなのかしら?
「みたいだぞ『イージーの奴には負けたくねぇ』って口癖みたいに言ってるからな」
「ああ、そういう事ね。あの子負けず嫌いだから」
おかあ様の納得したわよといわんばかりの表情だった。
それはつまり、トウショウボーイやテンポイントのような関係であるという事なのだろう。
「そんなにおば様は……その個性的なの?」
「本人曰く『あら、サンデーさんは日本に行く癖に日本語も喋れないの?』みたいな煽りを受けて一か月でマスターするぐらい」
「そうね、イージーさんに煽られたそうなるわね」
「気性難で負けず嫌いだが身内認定した奴にはとことん面倒を見るやつだからな、まぁ悪いやつではないさ」
「そ、そうなのね。ところでおとう様は……」
このあと学校の事、おとう様とおかあ様の職場の事、私が知らなかったこと、二人が知らなかったこと沢山話をした。
次の日 トレセン学園前
「ほう……この子がパトロン君の娘さんかね、実に興味深いよ」
次の日私が出会ったのは目の色が違うウマ娘と
「マジかよ……うわっ似てねェ」
私とおとう様を見比べて腹を抱えて大爆笑している見た目ガラが悪いウマ娘だった。
「そりゃ、俺とウマ娘が似てたらそれはそれで問題だろうがシャカール」
「そりゃそうか、んでお前の名前は?」
「キング、キングヘイローよ」
キッ、と睨んで言い返した。
人のおとう様を笑う人なんて丁寧に返してやらないんだから
「キングヘイローねぇ……まさか先公との間にできた」
「いや、それは100%ない」
私のおば様はそういう扱いなのか正直なところかなり残念な人なのだろうと思った。
「だよなぁ……アンタがこの嬢ちゃん連れてきたのは」
「解析だ。電話した通り一人追加したのがこの子だ」
「へェ、俺に意味のあるデータが出せるのかよ? ノイズにしかならねぇのはゴメンだゼ」
「入学前のウマ娘のデータが手に入るんだ。悪くないと思うがな」
「チッ、そういう事にしてやるヨ、エアシャカールだ」
そう言ってシャカールさんは車に残りこんだ。
「あのようなナリで口は悪いけど弁えてはいるし常識的なウマ娘だよ」
「でも自分の父をいじられて嫌な気分になるのは当然です」
「そうだねぇ、だがそこまで気安い関係なのだと思いたまえよ」
そういいながらもう一人のウマ娘は私を色々な角度で見ながら雑に答えてくれた。
「パトロン君の奥方はサンデー先生の身内と推察するけどそこのところはどうなんだい?」
「今のところはコメントを控えさせてもらう」
「おや、随分と受け身だねぇ、ところで彼女、君の見方だとどこまで行くと思うんだい?」
「国内のG1なら1つか2つぐらいは確実に行ける」
「ずいぶん大きく出たねぇ、『国内』ねぇ……相変わらず視点が広い」
「他の連中が狭いんだよ」
「パトロン君は面白い事を言う。ああ、紹介が遅れたねぇアグネスタキオンだ」
ククッと笑いながら彼女はそう自己紹介をした。
まさに目の色が違うしアニメや小説出てくるようなマッドなサイエンティストような人だ。
「キングヘイローです」
「うんうん、今後ともよろしく頼むよ。パトロン君とG1を7勝した彼女の娘だ。実に興味深い対象だからね」
彼女もそういって車に乗り込んでいった。
さらりとおかあ様の正体がばれているのが恐ろしいところだと思った。
「言った通り、癖と個性があふれてる人達ね」
「だろ?」
「で秘書さんはどうなってるのかしら?」
「ああ、荷物移すみたいだから少し遅くなるみたいだな」
「秘書の人ってどんな人なの?」
「秘書とはどういうものかを体現してるデキる女だよ」
「お待たせしました。理事」
「いや、それほど待ってねぇよ。キング紹介する。ホワイトマズルだ」
その女性は確かにお父様が言ったように秘書を絵にかいたような人だった。
きっちりとした服装のウマ娘だ。
「キングヘイローです」
「ホワイトマズルです。ところで理事」
「ん? どうかしたか」
「結婚式や籍の話ですが」
「それか、その話は立ち話するような内容じゃないから後だ」
「確かに、後おめでとうございます」
「お、おう。ありがとな」
「お嬢様は私の車に乗せますね。聞きたい事がありますので」
「程々にな」
そういっておとう様は車に乗って出ていってしまった。
「大丈夫です。理事ほどいじりませんから」
そういいながら、秘書さんはこちらです。と私を車のところに案内しながら私と秘書さんとの話は続いていく。
「そ、そのいじるって」
「軽いジョークです。理事はいじりますが」
「秘書が理事をいじっていいの?!」
「非公式の場でなら」
「非公式?!」
「大体理事も相当ハジケてる方なので」
「そんなに?」
「仕事中にロックを聴きながら書類仕事をしています。この車です」
案内された駐車場にある車のロックが解除される。
ちなみにこの車どう見ても学校に置くべきサイズではないとは明言しておく。
「あの、この車随分大きくないですか?」
「ええ、私の趣味用です。あと猟銃も積みこんであるので触らないでくださいね」
「猟銃……なんで?!」
「趣味と実用です。おいしいですよ? イノシシとかシカ」
自分で血抜きも解体も完璧にできますよ。とかいらない情報ではないかしら?
心の中ではそう呟きながら助手席に座ってシートベルトをしたことを確認したら秘書さんはエンジンをかけて走り出した。
車の内装はとても広く荷物スペースが広く、全部で4つしかなかった。
「……私、レジャーに行く予定だったかしら?」
「いいえ、理事の家に行くところですよ。あそこは狩ってもいい野生動物もいますけど」
そうね……確かに山奥だったし、ではなくて!
「あの、聞きたい事って」
「理事の事をどう思っているのですか?」
「おとう様の事?」
「ええ、割とあっさりと受け入れていたから、あなたも勇さんもあなたのお母様も」
「きれいに収まった。って感じがしたんです」
「収まった?」
「二日前おとう様を生で初めて見たとき『この人が私の半分なんだって』すんなり受け入れられたんです」
「成程『縁を感じた』という事ですね。私は奥様がお相手だと思っていなかったので」
「おかあ様ではない?」
「ええ『2代目欧州筆頭』ともいわれているあの方が一番近い方だと思っていましたから」
「2代目欧州筆頭?!」
欧州で最強を上げるとすればその名前が挙がるウマ娘だ。
世界で一番早いウマ娘で代表的な勝利は欧州三冠無敗を取っている。
今では欧州のウマ娘組織の幹部をしていたはずだ。
「理事が最初に担当したウマ娘ですよ」
「おとう様が?!」
「事情があって世には出ていませんがね」
「おとう様、いろいろやってるのね」
「そうですね。お嬢様、奥様の事を聞かせてください。理事だと惚気話になるので使い物になりません」
「あ、やっぱりそうなのね。私の前ではまともに見えるけど」
「ええ、隙あらば惚気話をしてきます」
とそんな感じでおかあ様の話をして秘書さんの現役時代の話を聞かせてもらった。
ダービーの話を聞いてたらものすごく曖昧な笑顔をしていたの何故だろうか?
そんな話をしながら気が付くとおとう様の家についていた。
勇の家
「そろそろ時間か」
おとう様は車を車庫に入れたり、全員で準備をしていた時だった。
「時間? 話をしていた子の事かしら?」
「おう、最後の連絡から10分ぐらいだから、そろそろだな」
それと同時におとう様のスマホが振動する。
「噂をすれば……って処だな」
着いてくるか? と目線を合わせてくるので私はうなずきついていった。
玄関に着くと、とても大きなリュックを背負ったウマ娘がいた。
きれいな桜色の髪にふた昔も古い猟師の恰好をしていた。
「おじちゃん! おまたせ、ちょっとおそくなったかな?」
「いや、想定内時間だ。自分で走るって聞いた時は驚いたがここまでできるとは十分だ」
「えへへ、わたしはやいでしょー?」
「そうだな長距離ならめっちゃ早いな」
「おじちゃん、となりにいるこってだれかな?」
「そうだな、紹介しておこう。娘のキングヘイローだ」
「キングちゃんだね! わたしはハルウララよろしくねー!」
それが私とウララさんとの長い付き合いの始まりだった。
欧州筆頭一体なにブレーブなんだ?