揺れる熱
私がトレーナーさんと担当契約を結んで、一年。
風鈴が微かに鳴る、夏の終わり。
「花火、ですか?」
「ああ、夏の終わりに、良いかなと思って」
トレーナーさんが、花火に誘ってきた。
花火と言っても、打ち上げ花火のお祭りじゃなくて、手持ち花火で楽しむ感じのやつを。
「最近はトレーニング続きだったし、夏の思い出と息抜きにちょうど良いかなと思ってさ」
そう言って、トレーナーさんは手に持った袋を見せてきた。
様々な花火があって、ある程度の長さ楽しめそうな、パーティタイプの花火だった。
「トレーナーさん、今日、二人でやるつもりなんですよね?」
「うん、そうだけど」
「ならなんで、こんなに長そうなのを買ってきたんです?」
確かに、夏の終わりに花火をするというのは、よく分かる。でも、こんなパーティタイプを買う必要はなかったんじゃないだろうか。
「あー、確かにね。でもさ、」
トレーナーさんは笑って、
「楽しい時間は、長い方が良いでしょ?」
そう言った。
「なるほどなるほど、セイちゃん納得です」
それならさっそくやりに行こう、と私たちは、トレーナー室を出ていった。
外は暗くなっているけど、門限にはまだ時間があった。吹き出し花火、置き花火。私とトレーナーさんは、二人で花火を楽しんだ。
スペちゃん達とやる花火も楽しかったけれど、こうしてトレーナーさんと二人で楽しむのも、悪くないな、と感じた。
「……あと少ししか残ってない、よね」
一本の吹き出し花火の灯火が消えて、トレーナーさんはそう言った。
「だね、後残ってるのは〜……」
トレーナーさんがバケツに燃えカスを入れてる間に、私は袋に入った残りの花火を探す。
「おっと、これは……?」
その結果見つかったのは、数本の線香花火だった。
「えーっと、いち、に……全部で六本ですね」
「六本……なるほど」
いつの間にかこちらに来ていたトレーナーさんが、なにか考えるように言った。
それから少し考えた後、トレーナーさんはこう提案した。
「ねぇスカイ、最後に、私と勝負しない?」
六本の線香花火を持ちながら、私はトレーナーさんの方を向いた。
「ほほーう?このセイちゃんに勝負を挑むとは、中々トレーナーさんも身の程知らずだな〜♪……一体、どんな勝負なんです?」
私が聞くと、トレーナーさんは「三本貰うね」と私の手から線香花火を取った。
「三回勝負。一本ずつ線香花火をやって、長く火が灯ってた方が勝ち。簡単でしょ?」
シンプルなルール。でも、夏の終わりの思い出作りとして、いい働きをしてくれそうだった。
「あ、もしスカイが勝ったら、ご褒美、買ってあげるよ」
「本当!?……でも、トレーナーさんがそう言うって事は、結構自信、あるんでしょ?」
「うん、負けないよ」
これは負ける訳にはいかないな、と思いながら、私はトレーナーさんと向き合った。
二人は、同時に持ち手の紙を持って。
「それじゃあ、一本目」
ほぼ同時に、花火に火をつけた。
火種が生まれて、パチパチと音を立てる。
「トレーナーさんの、安定してるね」
トレーナーさんの持つそれは、少しも揺れずにそこに佇んでいる。
「昔から、結構得意だったんだ」
そう言って、笑う。
芯の通った優しい声だった。きっと本当の事なんだろうな。
そう思っていると、私の眼前の光が落ちた。
「う……」
「これで、私の一勝だね」
彼の火種も今落ちた。
これで、後二回、連続で勝たないとご褒美を買って貰えなくなってしまった。
さっきのトレーナーさんの腕を見る限り、そのままやっても負けてしまうだろう。
ならばどうするか。
(セイちゃんはセイちゃんの武器を、使わせてもらおうかな〜☆)
そう考えながら、二戦目。
二人の花火に火が灯った。
少しの沈黙。私が口を開いた。
「あ、トレーナーさん。アレ、なんですか?」
トレーナーさんの向こうを見ながら、私は言う。
「え、どれ?」
と、トレーナーさんは少し首を動かそうとして……
「あっ……」
揺れた彼の手から、火種は落ちた。
「あはは、トレーナーさん、単純すぎません?」
策にピッタリハマったトレーナーさんが面白くて、思わず笑ってしまう。
「なるほどね……大丈夫、次は負けないから」
トレーナーさんはもう動じない、と言ったように不敵に笑った。
次で勝てば、私の大勝利。負ける訳にはいかない。
「それじゃあ、最後」
「「せーの」」
二人の花火に火がついた。
ぱちぱち、と二人の花火が音を立てる。
勝負に出なきゃ、私は負ける。
「トレーナーさん」
勝つために、トレーナーさんに向けて呟いてみた。
「私、トレーナーさんのこと好きですよ?」
トレーナーさんを動揺させるための一番の作戦。
無視しようとしても、トレーナーさんが反応してしまうような、言葉。
無視しようとしても、身体が揺れて、花火を落としてしまうような、言葉。
そんな私の、作戦。
それを聞いたトレーナーさんは……
「私もだよ」
動揺する気配もなく、芯の通った優しい声で、そう返した。
それを聞いた私が、声を発したかどうか。それはもう覚えてない。
でも、私の身体が揺れて。
線香花火が落ちる音が聞こえて。
それと一緒にもうひとつ。
音が聞こえたのを、覚えている。
夏の終わりに確かに聞いた。
それは私の胸の音。
始まりを告げる胸の音。
恋に落ちた音だった。