今日は君と夢を見る
「トレーナーさん、最近あんまり休んでないですよね?」
開けた窓から涼しい秋風が吹くトレーナー室。パソコンの前でキーボードを叩く私の顔を覗き込みながら、セイウンスカイはそう言った。
「いやいや、大丈夫だよ」
笑って私は答えるが、スカイはそうは思わなかったようで、
「そんな事ないですよ。毎日あんなオーバーワーク、セイちゃんだったらとっくに倒れちゃってますよ?」
と、やれやれと言いたげなポーズと表情をする。
しかし、本当にそう言われても仕方ないほど、最近は残業続きだった。書類仕事を片付けて、他のウマ娘のデータを集めて、それをまとめて。その大変さは、デスク上、大量に置かれた空っぽの栄養ドリンクの瓶が物語っている。
「セイちゃん的には、無理したっていい事ないと思うんですよ。……ほら、ここ見てください」
そう言って、スカイはパソコンの一部分を指す。そこには、私が今日作った、1人のウマ娘のデータが写っている。
「これがどうかしたの……って、あ」
指摘されてようやく気付いた。その記事の誤字脱字の多さ。
「これは……疲れてるな、私」
「ほらねー。セイちゃんの目を誤魔化せると思ったら、大間違いですよ。だから、今日は一日、のんびりしませんか?」
楽しげなスカイに、何となく彼女の真意を理解しながら、そうしようかな、と答える。
「さっすがトレーナーさん!話がわかる!そしたら早速、今日はトレーニングもお休みして、いっしょにのんびりしちゃいましょう!」
笑顔で、えいえいおーと右手を上げるスカイ。やっぱり彼女の目的はトレーニングの休暇らしい。
けれど、私の体を案じているのも、本心なのだろう。スカイの事を横目で見ると、さっきの嬉しそうな顔から安心した顔に変わっていたから、すぐに分かった。
そのままスカイを見ていると彼女と目が合った。するとスカイは笑って、
「トレーナーさん、今日はこのソファー、使っていいですよ」
と、いつもスカイが寝ているソファーを指さした。
「いつもはセイちゃん専用のお昼寝スポットなんですけど、今日くらいは、お疲れのトレーナーさんに使わせてあげようかなと思いまして」
スカイは楽しそうに笑う。けれど、私は少し困っていた。
「ありがとう、でも……どうしよう」
「トレーナーさん、どうかしたんですか?」
不思議そうにこちらを見つめるスカイ。正直に話すのは恥ずかしいけれど、それ以外に方法もない。
「その……前にスカイ、ぬいぐるみと一緒に寝てるって話をしたでしょ?それを聞いて、私も君のぬいぐるみと一緒に寝る様にしたんだけど……そしたら」
「それが無いと、寝れなくなっちゃったと?」
内容を看破されて、心の中で恥ずかしさに悶えながら、
「……うん、そう」
と答えた。
本当は、それでスカイのことを夢に見られたら、と思っていたのは流石に秘密にしておいた。
このままでは寝れない。でも、横になるぐらいなら、良いかもしれないと思った矢先。
「……へぇ」
スカイが少しムッとした顔をしてすぐ。
「気まぐれセイちゃん、気分が変わりました。ソファー、使ってもいいですけど、条件付きです」
そう、セイウンスカイに言われた。
「条件?」
一体なんだろう、何か対価にプレゼントを買う、とかだろうか。
そう考える私に出された条件は、
「セイちゃんと一緒に寝てください」
というものだった。
「え!?」
私の驚きは意に介さないと言うように、
「一緒に寝ないと、使わせませ〜ん☆ うにゃ〜ん♪」
スカイは猫の鳴き真似をして、そのままソファーに寝転び、背もたれのある方を占領した。
スカイと一緒に寝る……というのは全然嫌では無いし、むしろ魅力的だ。でも、トレーナーとして、思う所がないというのは嘘になる。
スカイが考えを改めてくれないか、そう考えて何とか良い方法を探してみる。
「制服で寝たら、シワが着くんじゃない?」
そうは言ってみるが、
「大丈夫ですよ、セイちゃん、寝相は良いですから〜」
と、言いくるめられてしまう。
「ほらほら、ぬいぐるみより本物の私の方が、抱き心地、いいかもしれませんよ?」
そんな内に、聞く人によっては洒落にならない冗談を言って彼女は笑っている。
「……スカイ、本気なんだね」
「ええ、セイちゃんいつでも本気です」
スカイの目を見ると、確かに本気の目をしていた。
こういう時のスカイは、譲らないだろうし、たとえ譲ったとしても、私が寝た後に入り込むだろう。
そう考えてしまったら、理性はどこかへ飛んでってしまった。
「分かった、一緒に寝よう」
ソファーの上に体を乗せて、スカイと顔を向き合わせる。
隣に来た私を見て、一瞬驚いた顔をしたスカイだったが、彼女はすぐに笑顔になった。優しい笑顔でスカイは話す。
「うん、やっぱり私、トレーナーさんの隣が、一番落ち着くんだ」
いつもの飄々としたスカイとは変わって、落ち着いた声で静かに話すスカイ。
そんな彼女を見れるだけでも価値があったのだが、少し意地悪がしたくなった。
「ちょっ、え!?」
スカイの背中に手を回して、少し体を寄せてみる。耳元で、彼女の髪が擦れる音。
「本当だ。本物の方が、抱き心地いいね」
「うぅ〜……」
スカイは甘える様に腕に額を当ててくる。心地良い熱を持つ彼女の肌が気になって、少し見るとその頬は紅く染まっていた。
「私の隣、落ち着くんじゃなかったの?」
「……ずる」
そう呟いたと思うと、スカイも背中に手を回してきた。ギューッと抱きしめられただけでは足らず、カバーを着けてない耳でペシペシと首の辺りを叩いてきた。
怒らせてしまったかな、そう考えてスカイを抱きしめていた右手を離してその手で彼女の頭を撫でた。
「うにゃ」
一撫でした時点で、スカイはそう発した。
それが堪らなく可愛くて、綿のようにふわふわの芦毛の髪を梳かすように、何度も彼女の頭を撫でた。
「ちょ、ちょっ……トレーナーさぁん……」
「どうしたの?」
「もう、セイちゃん耐えられません……」
余裕の無さそうな声で、スカイは私の胸に顔を埋める。
「あはは、ごめんね、スカイ」
もう一度、スカイを優しく抱きしめて、目を瞑った。
「……おやすみ、スカイ」
「……うん、おやすみ」
そう、恥ずかしそうに呟く君が、愛おしくて堪らない。
今日は、君と夢を見よう。