少し曇り始めます。
ずっと貴方と夢を見れたら
「トレーナーさん、私、実はウマ娘じゃなかったんですよ」
日の当たらない暗いトレーナー室。私はトレーナーさんに迫っていた。
きっと。いや、違う。絶対に、トレーナーさんは知っていた。だから私も伝えられた。その証拠に、私の正体を教えても、近づいても、彼は一向に怖がらない。
逃げないと分かっていながら、逃げない様に、冷たい手で身体をしっかり抱きしめた。
少し背伸びもしたりして。トレーナーさんの首筋に、軽く唇を添える。
「ねぇ、トレーナーさん。私と、永遠の時間、歩んでくれますか?」
いつもは恥ずかしくて言えなかった告白の言葉も、今なら流れるように口から出てきた。
トレーナーさんは優しく首を縦に振って、私の事を抱き返してくれた。
「ありがとうございます。……死なないように、優しくしますから」
開けた私の口の中には、鋭く長い牙がある。
「……トレーナーさん」
まるで、彼を殺してしまうから、その前に全部伝えておくとでも言うみたいに。もう一度彼を呼んで、
「大好きです」
そう伝えた。
もう、太陽も何も要らない。トレーナーさんと、いつまでも一緒に居られれば、それで良い。
大丈夫。失敗しない。
そう思いながら、私の牙を、彼の首に突き立てた。
*
「……ん」
目を覚ましたのは、夕日が降り注ぐトレーナー室。私はソファーの上で眠っていたらしい。
隣には、私を片手で抱き寄せたまま眠っている、トレーナーさん。
(あぁ、夢か)
先程まで見ていた景色が、夢だと気付き落胆する。
(私なら、きっと……)
失敗しなかった。そんなことを考える。
横を向くと、安らかな寝顔のトレーナーさんが見えた。お昼寝好きのセイちゃんには分かる。
トレーナーさんは、深い眠りについている。
きっと今なら、多少揺れたりしても、起きないだろう。
気付いた時には、トレーナーさんを押し倒すようにして、彼の首に、顔を近づけていた。
夢の中でやった様に、言葉を連ねる。
「ねぇ、トレーナーさん……」
夢の中では出た言葉は、出なかった。
気を取り直して、首に牙を突き立てようとしてみる。
牙は、無かった。
「……はぁ」
結局、彼の首に当たったのは、私のため息だけ。
(……トレーナーさん)
倒れ込んで、自分の身体を横に戻す。
(夢の中なら、セイちゃん、失敗しませんから)
熱を持った左手で、トレーナーさんの首に触れた。噛まれた跡は、無かった。
(だから、ずっと私と夢の中で)
これが“逃げ”なのは、分かっている。
それでも、失敗しない自分になりたくて、夢を見たくて。
もう一度、貴方の腕に収まって、目を瞑った。
(……また、私と夢を見てください)
明日も明後日も、こうやって。
ずっと貴方と夢を見れたら良いのに。