「えーっと、あと買う物は」
買い物メモとカゴの中を交互に確認し、スーパーを散策する。生活用品や消耗品が無くなってきたので、こうして買い出しに来ている。
「これでメモのやつは大丈夫っと。あと必要な物は無かった様な気がするし、こんなものかな? 」
レジに向かおうとすると、弁当コーナーが視界に入る。そういえば、今日のご飯をどうするか決めてなかったっけ。
「夕飯に弁当はありだと思いませんか?思いますよね?そう、思うんですよ。なので弁当にしようと思います。唐揚げ弁当が残ってるといいなー! 」
誰かに言い聞かせるように、ため○ならない論法を活用して早足で弁当コーナーへと向かう。
夕方という時間帯は、ほとんど弁当が残ってはいない。しかし、神は言っている。ここで死ぬ運命じゃあないと。目的の唐揚げ弁当が、残っているじゃあないかと。
嬉々として唐揚げ弁当に手を伸ばすと、隣からも別の手が伸びてくる。
「あっ」
「あっ」
お互い間抜けな声を出しながら、ツインテの女の子と顔を見合う。
「えっと、どうぞ」
「えっと、どうぞ」
1字1句同じ発言をし、沈黙が流れる。日本人特有の、そして変な所で発揮される譲り合いの精神。
「ボクはいいから、良かったらどうぞ」
「いいわよ。アンタが買っていきなさい」
「いいよいいよ。家に帰ったらパンあるから」
「ドヤ顔で何を言ってるのよ。なおさら食べなさいよ。私は別のやつを買うから」
そう言って唐揚げ弁当をこちらへ移動させ、女の子は別の弁当を手に取る。
「えっと、ありが………って、もう行っちゃった。なんだかカッコイイ感じの女の子だったなぁ」
買い物カゴは、煮干しの袋でいっぱいだったけど。美味しいけどね、煮干し。
後日。再びスーパーでツインテの女の子と遭遇した。ご近所さんだったのかな?それにしては今まで見かけた事なかったけど。まあ何はともあれ、言いたい事があったからヨシ!
「言いそびれちゃったけど、昨日はありがとうね」
「別にいいわよ。他にも弁当はあったんだし」
「それもそうだけどね。でも唐揚げ弁当も美味しいよ?格別だよ?食ってみな、飛ぶぞ」
「相○食堂か!はぁ……言っとくけど、今日はもう売ってなかったわよ」
「ダニィっ!?やはり売り切れるのが早い………って、今日も弁当なの? 」
「悪い?そう言うあんたも、今日も弁当っていう口ぶりだったけど? 」
「唐揚げ弁当が残ってたらそうしようと思ったんだけどね。今日は昨日の買い忘れを済ませに来たんだ」
メモしたものを全部買ったとしても、そもそもメモに書いてなければ意味が無い。そう学びました。相田み○を。
「ふーん、そう」
興味無さそうな返事をし、女の子は去っていった。弁当と煮干しの袋が入った買い物カゴを手に。………昨日も煮干しを買ってなかったっけ?
─────
「あれ?かなちゃん何食べてるの? 」
おやつとして持ってきた物を摘んでいると、物珍しそうに袋を覗いてきた。
「煮干しだよ。ユウちゃんも食べる? 」
「ありがとうー!いただきまーす」
「奏ちゃんにしては珍しい物を食べてるわね。また何かの影響でも受けたの? 」
「受けたと言えば受けたかなー」
連日煮干しを買い込んでいる女の子を見たせいか、無性に煮干しを食べたくなった。ピーナッツや柿の種と一緒に入ってるのしか食べて来なかったけど、煮干し単品でも美味しいね。
「あっ、そうそう。今日は転入生が来るらしいよ」
「転入生? 」
「朝職員室から聞こえたんだよ。成績優秀の生徒が増えるって。しかもこのクラスに」
「ほへ〜。私なんか小テストでも駄目なのに、凄い子だね」
「勉強苦手だもんねー。ちなみにこの前の結果は? 」
「………ギリ平均です」
「ドンマイっ! 」
「聞いてきてそれはないよっ!? 」
そこでチャイムが鳴り響き、朝のホームルームが始まる。先生が来て挨拶をすると、先程話してた通り、転入生が居ると発表される。
ザワつくクラスをよそに、先生は外で待機している転入生を教室へと招き入れる。入ってきたその人物に目を丸くしていると、黒板に名前が書かれる。
「はい、本日から皆さんのクラスメイトになる、三好夏凜さんです」
スーパーで連日会った、ツインテの女の子。ほへ〜と驚いていると、あちらも気付いたのか目と目が合う。夏凜はあっと口だけ開き、すぐに視線を逸らす。
自己紹介とホームルームが終わると、クラスのみんなに囲まれる。流石に今声をかけるのは難しいと思い、奏は次の休み時間に夏凜の元に訪れた。
「やあやあ。この間ぶりだね。まさか転入生とは思ってなかったよ」
「あんたがこのクラスとは私も思ってもなかったけどね」
「世間の狭さを実感したよ。そういえば自己紹介がまだだったね。ボクの名前はナ○ナゾ博士!何でも知ってる不思議な博士さっ! 」
「どこの魔物のパートナーよっ! 」
「おおー、通じた!ちなみに名前は秋月 奏。親しみを込めて
「あんたは
「すっごい、これも通じたよ。才能あるよ」
「褒められても全然嬉しくもないわよ、それ」
「まあまあ。お近づきの印に、お1つどう? 」
煮干しの袋を差し出すと、夏凜は悩んだ様子で奏と袋を交互に見つめ、結果そっぽを向いた。
「いらないわよ。自分の持ってきてるし」
「そう言わずにどうです旦那?1杯いきません? 」
「おじさんか! 」
─────その日、少女は運命と出会う。そう、ボクはとんでもない子と出会ってしまったかもしれない。打てば響くとはまさにこの事。ボケに対し丁寧にツッコミを入れてくれる。こんなに嬉しい事はない。
「夏凜ちゃん………いやっ!親しみを込めてかっちゃんと呼ばせて貰おう! 」
「かっ……!?嫌よ、そんな変な呼び方っ! 」
「ええー?じゃあリンちゃんは?カッコ可愛い呼び名だと思うよ」
別案としてにぼっしーとか出てきたけど、流石に怒られそうだから口には出さないでおく。でもそう遠くない内に呼ばれるんだろうなと思いました、まる。
「せめて普通に呼んでくれない……? 」
「愛称だと思ってよ。それに、アダ名は仲良くなる為のものでもあるし。それでどう?どう? 」
「…………さっきよりはマシね……」
渋々とだが了承を得て、アンカリング効果って本当に通じるんだなと実感した。ちなみに、アンカリング効果は「○○円の所を、今なら○○円!えー、安い!」というものだってばっちゃんが言ってた。
「それじゃあ、改めてよろしくね、リンちゃん! 」
「はいはい、よろしく」
「うん!じゃあ早速だけど………」
メモ帳とペンを取り出し、笑みを浮かべてリンちゃんに近づく。
「取材をさせて貰ってもいいかな?大丈夫大丈夫、質問に答えて貰うだけでいいから」
1歩、また1歩と近付くと、リンちゃんはそれに合わせて後退る。あっちから見たら黒い笑みに見えたのか、どこか戦慄したような表情を浮かべている。
「い、嫌よ!なんか嫌な予感がするわ! 」
「だいじょーぶだいじょーぶ、何も怖くないよー。次の記事のネタにするだけだから。これでも新聞部なんだ」
更に近づくと、それ以上逃がさないと言わんばかりにリンちゃんは壁にぶつかる。
「逃げてもいいけど、転入生なんていう貴重なネタを見逃す程、ボクはヤワじゃないZE?昭和の起き攻めの如く突撃するZE? 」
実質「答えてくれるまで逃がさない」宣言をし、リンちゃんに迫っていく。
秋月 奏は新聞部所属。基本断られたら諦めるが、絶対に成すと決めた時、後退のネジを外してあるかの如く詰め寄る。