暖かくなってきたというか最早暑くなってきた中で行われる学校行事、体育祭。徒競走やリレー、玉入れや綱引き。地域によっては障害物競走や棒倒しなど、多数ある種目を行うものである。
インドア系の者やめんどくさがり屋の者にとっては億劫であるが、運動大好きな者たちにとっては楽しいイベントだろう。
「ちなみに、ボクはイベント大好き人間です! 」
「そりゃそうでしょうね」
「私もイベントとか好きだよー。楽しいしね! 」
「あと、お昼ご飯が楽しみだね! 」
体育祭とかのお昼の弁当は、いつもの違って豪華になるので楽しみの1つである。ちなみに、今日はミカに頼んで弁当を作って貰った。勿論半額負担で。
「それにしても、同じクラスでも紅組白組と分かれるなんて、変わった制度だよね」
「私達は紅組。東郷は白組ね。あと、風と樹も白組よ」
「東郷さんとは別チームなんだよね………」
「勇者部も見事に分かれたね。あっ、だからさっき風先輩達が来てたんだ」
普段は仲良しの勇者部だが、さっきの様子を見てた限り、両者やる気満々のようだった。あと気になる事といえば、ユウちゃんと別々に分かれたせいで、東郷さんが暴走しないかどうかだけど。
「そう、宣戦布告をされたの。いい、狙うのは完全優勝よ!奏も、やるからには情けない結果を出すんじゃないわよ! 」
「サーイエッサー! 」
「その意気よ!…………ところで、朝から東郷の姿を見てないけど……」
「あれ、リンちゃん知らなかったの? 」
「東郷さんね、凄いんだよ!司会進行役に抜擢されたの! 」
「え、そうだったの? 」
噂をすればなんとやら、ちょうど軽快な音と共に放送が流れてくる。
『えぇー、おほん。此度の体育祭、司会進行役を務めさせて頂きます。東郷美森と申します』
「わー!東郷さんだ!早速、頑張ってるんだね」
「なんか嫌な予感がするんだけど」
「暴走しないといいけどねー」
『それではまず、戦地に赴かれる皆様を鼓舞すべく、祖国の成り立ちからお話しさせて頂ければと思います』
「あ……うん。東郷さんらしい進行だね」
「うん、良かった。いつもの東郷さんだ」
「駄目でしょ、これ! 」
『え、なんですか?もっと柔らかい感じで?体育祭らしく??
放送を切り忘れたせいか、注意されたような会話が流れる。会場がざわめく中、3人はあちゃぁ……といった様子で成り行きを見届ける。
『って………えぇ!?今のも流れ───』
「いきなり放送事故じゃない………先行きが不安なんだけど」
「まあまあ、最初は誰でも緊張しちゃうから」
「あれは緊張じゃなくて、多分嬉々として語りたかったんだと思うよ……」
『えぇー、先程はお聞き苦しい放送となり申し訳ございませんでした。………祖国の成り立ちに関しましては、後日東郷まで。
おほん!では、只今より………讃州中学校体育祭を始めます! 』
「さぁ、紅組が絶対に優勝するわよ! 」
「うん、絶対優勝だーっ! 」
「おーっ! 」
─────
「次は男子の100m走かー。おっ、ミカも走るんだ」
応援席から観戦していると、ミカがレーンに並んでる姿を確認する。どうやら走るのは次のようで、すぐに出番が回ってくる。
開始のピストルが鳴り、一気に飛び出す。料理部の癖に2位で走り進めているが、3位の男子も追い上げてきて、1位との差も開こうとしている。
「まだだ───っ!このままじゃ………こんなところじゃ………!終われない!!だろ?ミカァァっ!!! 」
「うっせぇぇぇっ!!! 」
などと言いつつ、ミカも速度を追い上げていく。ゴールは目の前。1位の男子と並んで最後まで走りきる。結果は僅差で、ミカが1着でゴールしたようだ。
「なんだよ………結構いけるじゃないか……」
「お前メイスで殴ってやろうか? 」
その後、ミカは50m走も走ったのだが、結果は3位だった。そして奏は叫んだ。「何やってんだミカァァァッ!!」と。そしてミカは殴りながら言った。「ごちゃごちゃうるさいな」と。
次の競技は女子100m走。これには奏も参加するのだが、相手にするのはスポーツの申し子古橋さん、女子バレー部エース堀北さん、ハーフである朝比奈さんだった。
「いや、単発キャラなのになんでそんな高スペックなの?こんなの絶対おかしいよ」
気分は女豹の群れの中に放り込まれたマルチーズだ。こちとら文化系の人間だよ?ごめんねリンちゃん。やるからには勝ちに行くけど、相当厳しいよ?
そう思っていた時期が、ボクにもありました。まさかまさかのボクが1位。理由は堀北さんがスタート直後に転倒、朝比奈さんがコーナーで転び、それに古橋さんがつまづいたのだ。まるでF1みたいな事故だった。
「番狂わせにも程があるでしょ……」
「結果良ければ全てヨシっ! 」
この後、リンちゃんと風先輩が50m走で対決する事になった。結果だけ言うと、リンちゃんの1位。オマケに短距離系は全て1位による完全制覇をしていた。
『では、ここで中間結果の発表です。紅組269点。白組167点で……紅組が圧倒的に優勢です! 』
「100点差っ!? 」
「す、凄い!きっと、夏凜ちゃんの連続優勝のおかげだね! 」
「まぁ、予想通りの展開だけどね」
「うぅ、点が開いちゃったね……」
「気にする事ないわ、樹!なんたって次の競技には東郷も出るんだし! 」
「そ、そっか!東郷先輩、自信満々だったし、逆転出来るかもだね! 」
「?次の競技ってなんだっけ? 」
「えっと、確か………」
「お待たせしました。風先輩、樹ちゃん。東郷美森、遅ればせながら白組に参戦させて頂きます! 」
思い出そうとしたところで、東郷さんが現れた。
「待ってたわよ東郷! 」
「東郷先輩、よろしくお願いします! 」
「さぁ、東郷も加わって、次は我らが白組の最大の見せ場───」
「………見せ場? 」
眉唾を呑み込み、風先輩の続きの言葉を待つ。
「ズバリ、玉入れよ!! 」
「ぷふっ………玉入れが……白組最大の見せ場」
「むっ……」
思わず吹き出したリンちゃんに、東郷さんは目を細める。
「玉入れ………東郷さん………何か忘れてるような気がするけど、なんだったっけ……? 」
思い出せないという事は、大したことではないかもしれない。でも、嫌な予感がする。これを思い出さないと、痛い目を見ることになると。
「まあ、そんな風に呑気に笑っていられるのもここまでよ」
「ですよっ! 」
「玉入れを笑う者は、玉入れに泣く………夏凜ちゃん、奏ちゃん、友奈ちゃん!あなた方紅組の勢い、私が撃墜します! 」
「いいわ、受けて立とうじゃない!ムフフフッ!玉入れ……ムフフフッ! 」
笑いを堪えきれない様子で玉入れに望んだ紅組。しかし、風先輩の言った通り、笑っていられたのはその時までだった。
「あら、どうしましょ。籠がいっぱいで、もう入りそうにないんだけど………」
「「「えぇー!!?」」」
東郷さんの抜群のコントロール力で投げられた玉が、白組の籠をいっぱいにしたのだった。その時、奏は思い出した。東郷さんのコントロール力を。遠距離から一方的に制圧された恐怖を。
「試合終了ね。東郷 美森、玉入れ……完・遂! 」
「ちょ、ちょっと!私っぽい台詞言わないでよ! 」
「でも夏凜ちゃん。今の状況で、私以外に言える人はいるかしら? 」
「むむぅ!………完・敗」
「あはは………(と、東郷さん。玉入れを笑った事、怒ってるよね?)」
「あはは………(怒ってるね………あまり触れないでおこう)」
そこで話が終われば良かったのだが、東郷さんの進撃は終わらなかった。出られる競技も少ないという事もあり、残りの2戦の玉入れにも出場出来るのだった。
奏は後に語った。一方的な蹂躙。一切の慈悲もなく、我ら紅組を葬った国防の戦士が居た事を。
「次は綱引きだね」
「男子と女子で分かれてやるのはいい事ね。けど、相手には馬鹿力の風が居るわ。気を引き締めなさい! 」
「誰が馬鹿力よっ! 」
「この距離で聞こえてた!? 」
開始のホイッスルが鳴ると、両組は掛け声と共に綱を引っ張り合う。
『オーエス!オーエス! 』
「オーエスオーエス!………ところでオーエスってなんだろ? 」
『オーエス!オーエス! 』
「オーエスってなにー!? 」
「いいから引っ張りなさいっ!! 」
─────
「待ちに待ったお昼ご飯!というわけでミカ!弁当を受け取りに、ボクが来たっ! 」
「後で絶対半額返せよ?絶っっ対だかんな?」
「分かってる分かってる!ほらほら、早く弁当ちょうだいな? 」
話を聞いてないなコイツと顔を歪めながらも、弁当を渡してくる。だが、おにぎり2個分がせいぜいのサイズで、首を傾げる。
「しかし、お前にしては珍しい物を頼んで来たな」
「あれ?そんなに珍しい物を頼んだっけ? 」
思い出せないなら実際に確かめればいい。弁当を受け取って開けると、綺麗に焼かれた焼き鯖だけが入っていた。
「…………ねえミカ。ボクが頼んだのってなんだっけ? 」
「は?焼き鯖だろ? 」
「焼きそばだよっ!!! 」
焼き鯖を見た事で頼んだ物を思い出し、全力で叫んだ。
「あー、もしかして聞き間違えたか?すまんかった」
「そんなため○ならない問題じゃないよ!由々しき問題だよ! 」
「そうか?でも似てるじゃん。だって一文字しか違わないし」
「そういう問題じゃ…………はあ、もういいよ。で、ご飯は? 」
この際、勿体ないしお腹も空いたから焼き鯖は食べるとしても、せめてご飯は欲しい。あと他のおかずも欲しい。
「ん?どゆこと? 」
「白飯だよぉぉぉ!!」
「え?いや、そんだけだけど」
「単品でどうやって食べろっていうの!? 」
「いやだって、お前が焼き鯖って言ったから」
「焼きそばだよおおおぉぉぉ!!!
だよおおおおおおおおおおおお!! 」
楽しみにしていた体育祭によるお昼ご飯。それが焼き鯖単品のみ。奏は決意した。かの邪智暴虐のミカを許してはいけないと。
「これだけでどうしろって言うの!?ならミカの弁当を分けてよっ!? 」
「残念だ、かな。実を隠そう、他の連中にも目を付けられてて俺の弁当も危ういんだ。下手したら軒並み持っていかれる」
「この料理上手がぁぁっ!じゃあボクのご飯はどうなるのさ!? 」
「唯一死守した鯖があるだろ? 」
「鯖ぁぁぁぁぁっ! 」
「聞き間違いぐらいは誰でもあるって。お前の友達にご飯も分けてもらえよ。元気玉みたいにさ」
「それは被害者側が言うセリフだよアホー! 」
「普段からアホみたいな事をしているお前が言うか!ほら!お前が頼んだ焼き鯖だっ!とっとと食えっ!! 」
「焼きそばでしょうが!!! 」
何度目か分からない叫びをし、頭を抱える。そんな奏に、ミカは笑いを堪えながら肩に手を置いてくる。
「安心しろ、かな。本当の弁当はこっちだ」
そう言って大きめな弁当を渡してくる。ミカと弁当、そして焼き鯖を交互見て、深呼吸する。
「最初から渡してよ!無駄に文字数使ったじゃん!ミカがボケに回るとろくな事がないよ! 」
「お前もノリノリだったろうが。それより、白飯も焼きそばも唐揚げも入れてるから、焼き鯖もきちんと食えよ」
「わざわざこのネタをやる為に焼き鯖を作ったんだ………」
呆れながらも弁当を受け取り、早速弁当を開ける。玉子焼きにタコさんウインナー、その他奏の好きな物でいっぱいだった。
「何はともあれ、ありがとうミカ!すっごい美味しそうー! 」
「食うならさっさと食ってこい。昼休みも長い訳じゃないんだからな」
「なら一緒に食べよっか。ついでにミカの弁当もつまみ食いさせて貰います! 」
「絶っっっ対食わせん」
そう言ったミカだが、結局おかずを少しだけ分けてくれた。というか焼き鯖も美味しかった。これは他の人も弁当狙うよ。ボクも狙うもん。美味しいもん。
昼休みを終え、午後の競技が始まる。内容は「借り人競走」で、紙に書かれたお題に合った人を連れてくるというものだ。先輩、後輩、先生。○○部の人や、眼鏡をかけてる人と様々なお題が出される。
ユウちゃんといっちゃんも出場したのだが────
「私の方がお姉ちゃんの事が好きなんです! 」
「わ、私だって、いつも頼りがいがあって、励ましてくれる風先輩のことが……! 」
「アタシのためにケンカしないで! 」
お互いお題の人物が同じだったようで、風先輩を取り合っていたのだった。
「これって競技よね?…………って、なんなのこの昼ドラ音楽は!? 」
「アハハハハハハ!ま、待って、面白い事になったよ!ひー! 」
観戦していたリンちゃんは呆れながらもツッコミをし、奏はお腹を抱えて爆笑していた。更に昼ドラ音楽と東郷さんのナレーションにより、笑いに拍車がかかったのだった。
『犬吠埼風────彼女へと突然突きつけられた2人の女の想い』
「風先輩、お願いします!………私には、他に頼れる人がいないんですっ! 」
『大切な仲間────確かに……この時まではそう思っていた』
「友奈、貴方…………くっ」
『しかし、犬吠埼風には樹という心に決めた相手がいた』
「お姉ちゃん……好きなのっ! 」
「分かってるっ……分かってるのよ………! 」
「風先輩!私と、樹ちゃん………どっちを選ぶんですか!? 」
「お姉ちゃん!! 」
『果たして、2人の女の前に、犬吠埼風の出す答え。それは────』
観戦席から、息を飲む音が聞こえる。一同に静寂が流れる。その為、奏も声を殺しているが、笑いで身体が震えていた。
「うぅ…………………駄目よ………アタシには、選べないっ! 」
「白旗挙げた!?ってことは、ドローなの!? 」
「ひー!お、お腹痛い!アハハハハハハ!! 」
『この勝負、引き分けです! 』
「ホント、何やってんだが………」
勇者部メンツによる茶番じみた光景と、笑い過ぎて動けなくなってる奏を見て、リンちゃんは大きくため息を吐いたのだった。
後編はまだ書き終わってないので、出来上がり次第投稿します。ネタが止まらないんだこれが。