『始まりがあれば終わりもある。皆さん、お待たせしました。両者僅差で迎える体育祭最後の競技………「騎馬戦」の開始です!騎馬!用〜意っ! 』
「友奈、奏。泣いても笑ってもこれが最後。悔いのないよう思う存分戦い………そして、優勝をもぎ取るわよ!」
「泥舟に乗ったつもりで任せてよ! 」
「せめて普通の船にしなさいよ! 」
「これって、鉢巻を先に取った方が勝ちだよね?頑張るよ! 」
気合いを入れていると、相手も騎馬を組み終えたのか、開始地点に並んでいく。
「どうやら、白組も準備が出来たみたいね」
「勇者部は全員、騎手だね。うぅ〜、緊張してきた〜! 」
「ふふっ、役者は揃ったわね!」
「犬吠埼風!あんたとは白黒つけようと思っていたのよ。いい機会だわ! 」
「先輩に対する口の聞き方がなってないわね。体に教えてあげる! 」
『それでは、両者準備が出来た様なので、宣誓を頂きます。まずは紅組から』
「って、人が意気込んだ後なんだから始めなさいよ!」
「そういえば、かなちゃんが運営に提案して承諾して貰ったって言ってたよ。そして、かなちゃんがその宣誓に抜擢されたんだって!凄いよね! 」
「人選ミスじゃない?奏がやるって事は、きっと何かやらかすつもりよ。上級生も奏で納得したの? 」
そんなリンちゃんの心配をよそに、奏にマイクを渡される。だが、首を横に振って断り、代わりに大きな旗を要求する。困惑されながらも用意して貰った旗を頭上高くに掲げ、声高らかに宣誓する。
恐らく上級生、そして運営側は奏の提案と立候補で、こう思ったのだろう。「次はどんな寸劇を楽しませてくれるのか」と。だからこそ、その期待に応えよう。
「聞け!この領域に集いし、一騎当千、万夫不倒の紅組達よ!本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬクラスの者であっても、今は互いに背中を預けよ!
我が真名は秋月 奏!神樹様の御名のもとに、貴公らの盾となろう!」
旗を振り回したあと地面に突き立て、顔を上げて前口上を口にする。
「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!
『えー、では白組からの意気込みも聞いてみましょう』
「せめて最後まで言わせてよぉっ! 」
嘆いてるところを無視するようにマイクが白組に渡される。一息吸う音が聞こえ、音割れ寸前の大声で白組も宣誓する。
『クッ────クハハハハハハ!いいだろう!総力戦を望むというのなら、答えてやる!』
「ノリが大変宜しいようで! 」
「もう滅茶苦茶よ! 」
『それでは、よーい………始めっ!! 』
開始の狼煙が上がると同時に、両者相手へと突撃していく。
「おりゃー!犬吠埼風に向かって前進よ! 」
「ところがギッチョン! 」
リンちゃんの騎馬の前に阻まるように、3組の騎馬が立ちはだかる。
「オレの見立てでは、お前の実力は戦闘力は60000程と見た………故に、先に潰させて貰おう」
「ここから先は通さないと言っておこう」
「行きますよ、ダー○ンさん、ド○リアさん」
「あ、あれは!?讃州中学のギ○ュー特戦隊!トラ○アルシステムの兵藤さん!そして、単発キャラだと思っていたフ○ーザ………じゃなくて、古橋さんだ!」
「なによそれ!?というか、なんで兵藤って奴は上半身裸なのよ!? 」
リンちゃんの疑問に、奏は過去に兵藤に取材した事を思い出す。「何故放課後になると、服を脱ぐんですか?」と聞いた事を。兵藤は答えた。「お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」と。
流石の奏も「この人は何を言ってるんだ?」と理解が追いつかなかったが、何か面白かったので採用した。
『おおーっと!こんな事があっていいのでしょうか!開始早々に、見事な
「樹〜〜!!くっ、許さないわよ紅組! 」
「今のは自滅でしょうが! 」
「隙を見せたな!貰ったっ! 」
「しまっ───! 」
ギ○ュー特戦隊がリンちゃんの鉢巻へと手を伸ばそうとするが、その間に奏の騎馬が割り込む形で相手の鉢巻を奪い取る。
「ここは、ボク達にお任せを! 」
「あんたはいつまでジャ○ヌをやってるのよ!でも助かったわ、行くわよ友奈!────って、何処に行くの!? 」
「えぇ、ありゃ………バランスが上手く取れなくって!?あわわわわ………」
『そんな、有り得ません!見事な意思不通!紅組、結城友奈の乗る騎馬が運動場から飛び出し………学校の外へ! 』
「なんでそうなるのよ!? 」
ツッコミながらも、リンちゃんの騎馬は前線へと向かっていく。その間、奏は残りの2組の騎馬と対峙する。
「秋月 奏さん。短距離走では遅れを取りましたが、ここで貴女とのケリをつけさせて貰いましょう」
「いや、あれはF1並の事故が起きただけだったから」
「だが、敗北は敗北だ。彼女の汚名を晴らす為にも、ここで消えて貰おう」
「物騒過ぎないですか!?でも、ボクもそう簡単にやられる程ヤワじゃない。押し通らせて貰いますよ」
啖呵を切ったはいいものも、数的不利なのには変わりない。何か手を考えないとすぐに取られてしまうだろう。周囲を見ると乱戦状態でもある。助っ人は望み薄かもしれない。
「なら、まずは古橋さんから行こう!前進前進ー! 」
「私からですか。ですが、それは浅はかというもの」
そう言って指を鳴らすと、兵藤さんがサラダ油を手に構える。いったい何をする気だと警戒すると、蓋を開けて自分の身体にぶっかけ始めたのだ。
「えぇ………」
珍しくガチ引きしていると、その間に古橋さんがこちらに詰め寄ってきていた。鉢巻を取られないように避けると、古橋さんの背後から兵藤さんの姿が映る。
「ナ○レっ!!! 」
ポージングを取りながら叫ぶと、サラダ油でテッカテカになった身体が、太陽の光を反射して目眩しをしてきたのだった。突然の事で目がやられてしまい、騎馬も崩れそうになる。
「見たか!これがガ○ダムマイスターにのみ与えられた、トラ○アルシステムだ! 」
「素直に言って阿呆ですよそれ! 」
「ほっほっほっ。よくやりました兵藤さん。では、トドメは私自らしてあげましょう」
まだ目が治っていないが、こちらに近づいてきている足音だけは聞こえる。抵抗したいところだが、下手にすれば怪我をさせるかもしれない。
ここまでかと思ったが、近づいてくる足音は古橋さんだけじゃなかった。兵藤さんの騎馬だと思うが、もしかしたらと不敵な笑みを浮かべる。
「まだだ───っ!このままじゃ………こんなところじゃ………!終われない!!だろ?ミカァァっ!!! 」
叫び声を上げた瞬間、古橋さんの短い悲鳴が聞こえた。ようやく見え始めた目を開くと、ミカが古橋さんの鉢巻を奪っていた。
「お前はいちいちうっせぇんだよ。ところで…………あの変態はなんだ? 」
引き攣った顔で、腕を組んで堂々としている兵藤さんを指差す。
「不意打ちとは卑怯な事を。何者だ?ちなみに、俺は3年の兵藤だ」
「これで先輩なのかよ………望月っすけど。騎馬戦中に呑気に話してる場合じゃないでしょ」
極力触らずに鉢巻を取ろうと構えるが、兵藤さんは意に返さず話を続ける。
「そうか、望月か。お前に聞きたい事がある」
「無視かよ」
「どんな女がタイプだ? 」
この場にいた全員に、静寂が流れる。何を言ってるんだこの人は?とまた理解が追いつかなかった。どこの葵さんよ?
「どんな女がタイプだ? 」
「いや聞こえなかった訳じゃないんで。それに別にいいでしょそんなの」
「答えなければ、お前もサラダ油まみれにするぞ? 」
「テッカテカな理由はそれかよ。油の無駄使いすんな、燃やすぞ変態(家庭部)」
「気をつけてミカ!兵藤さんにはトラ○アルシステムが搭載されてるよ! 」
「さっきから頭が追いつかないから、情報量を増やさないでくれ! 」
「答えろ!どんな女がタイプだっ!? 」
「あーもうめんどくせぇ!いいから取らせてもらうぞ! 」
痺れを切らしたのか、兵藤さんに前進する。それを迎え撃つ為に構えるが、兵藤さんの騎馬は一向に動こうとしない。
「どうした、お前達!?動け、お前達!!何故動かん!? 」
「いい加減にしろよ、この変態野郎……」
油まみれになっている騎馬の人が呟くと、ライターを取り出す。
「よ、よせ………やめろっ! 」
「グッバイ、変態野郎」
「そうはさせねぇから安心しろ」
ライターに火が点いた瞬間、ミカは殴り飛ばす様に鉢巻を奪い取る。騎馬から離れた場所に落ちたおかげか、兵藤さんは燃やされる事はなく、無事鉢巻も奪い取れた。
「たくっ。なんでこう、変人ばかりの相手をしなきゃいけないんだ」
「いやー、助かったよ。ところでミカよ」
「なんだよ」
「どんな女がタイプだ? 」
兵藤さんの真似をしながら聞いたが、ミカは表情を変えずに、奪った鉢巻と奏を交互に見つめる。
「そうだな。この鉢巻を受け取ったら言ってやるよ」
「あれ?絶対答えないと思ったんだけど?まあそれでいいなら受け取───」
差し出された鉢巻を見ると、大事な事を失念していた。兵藤さんの鉢巻は、サラダ油まみれになっている事。そして、ミカの手もサラダ油まみれになってることを。
「ごめん前言撤回。やっぱり要らない」
「いいから受け取れ。聞きたいんだろ?俺もこれ以上持ってたくないし、win-winの取引じゃねぇか」
「ボクも持ちたくないよ!後退後退!あの鉢巻を持ってる騎馬から全力で逃げるんだっ! 」
「逃がす訳ないだろ……! 」
『なんということでしょう!紅組、味方同士で争いが起きています!いったい誰がこんな事を予想したでしょう! 』
「なにやってんのよあんた達っ!? 」
リンちゃんのツッコミが聞こえた気がするが、今はそれどころではない。なんとか騎馬の群れを掻い潜って逃げているが、ミカの騎馬も負けずと追いかけてくる。
いつまでこの不毛な争いを続けるのか?と両者の騎馬は思っているだろうが、その思いが仇となった。兵藤さんの残した、サラダ油まみれの地面。そこに踏み込んでしまったのだ。
1人が滑ると、他の人も巻き込まれて滑る。その結果、両者の騎馬は崩れ、サラダ油の上へと落ちていったのだった。
『残ったのは、白組 犬吠埼風と紅組 三好夏凜!一騎打ちです! 』
そのアナウンスに、油まみれになった2人は顔を見合わせる。
「…………ミカ。その鉢巻を受け取るよ」
「いや、もう落馬した後だから駄目だろ」
「だよね…………不幸だぁ」
大きくため息を吐き、ひとまず油まみれの地面から退散する。幸いシャワーを借りる事が出来たが、その間に騎馬戦は終了。同時に、体育祭の幕が下ろされたのだった。
結果を聞くと、近年稀に見る同点ドロー引き分け。熱い勝負が繰り広げられていた体育祭だったと思うが、最後の最後で不毛な争いそのものをしてしまった。
「ボク達は、どうして…………こんな所まで、来てしまったんだろう」
「お前が受け取るって言ったからだろ」
「ミカのせいでもあるでしょうが!いいじゃん別に!女の子のタイプぐらい!減るもんじゃないし! 」
打ち上げでうどん屋でうどんを食べながら、ヤケクソ気味に言い放つ。油でベトベトになって散々な目にあったのを、まだ引きずっているのだ。
ちなみに元凶である兵藤さんは、これに懲りたら服を着なさない。そしてサラダ油を変な使い方するなと先生に注意されていた。
「そう言うお前は、男のタイプとか聞かれて答えられんのかよ? 」
「あっ、いや〜…………そういうのはボクにはよく分かんないからな〜………」
「お子様が」
「うっさいなぁ!ミカだって答えられなかったんだからお子様でしょ! 」
うどんを一気に口にすすり、無理矢理一息つく。うどんうっま!香川のうどんは世界一ぃ!!
そんなくだらない事を考えていると、ふとミカは食べる手を止めてこちらを見つめている事に気が付く。
「なに、どうしたの?お腹いっぱいなの?それとも、ボクの顔になんか付いてる? 」
「…………いや、やっぱりお子様だなって思っただけ」
「さっきからなんなのさ!?喧嘩売ってる!? 」
奏の文句に意を介さず、ミカは食べる手を再開させる。結局好みのタイプについては話されることはなかったが、代わりにうどん代を奢って貰えたのだった。珍しく、文句も言わずにだ。訳が分からないよ。
やりたいパロディネタが無いと書けない病を患っています。如何せんパロディネタの引き出しが少ないので、のんびりやっていこうと思います