秋月 奏は勇者でない   作:結城 颯

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 最近配信の方でスケジュール過多になって中々投稿出来ませんが、頑張っていきたいと思います

あと、滅茶苦茶暑くなってきたので水分塩分栄養補給をしっかりし、冷房も稼働させて体調管理に気をつけてくださいね


16.ステネコ

「あっ!東郷さん、かなちゃん、猫ちゃんだ! 」

 

「えっ」

 

「あら、捨て猫………なのかしら?首輪はしているようだけど」

 

 3人でお出かけしていると、拾ってくださいと書かれた段ボールの中に、猫が寝ていたのを発見する。近くまで行くと目を覚まし、大きな欠伸をしてこちらを見上げてくる。

 

「可愛いね〜。ねえ、このままだも可哀想だし、私達で引き取り手を探してみない? 」

 

「友奈ちゃんは優しいわね。勿論いいわよ」

 

「ありがとう、東郷さん! 」

 

「そうと決まれば、まずは声掛けだけど………なんで奏ちゃんは、遠くの物陰に隠れているの?しかも逆よそれ」

 

 チョッ○ーみたいな隠れ方をしていた所をツッコミを入れられるが、何も言わず首を横に振る。それに首を傾げられるが、ユウちゃんが苦笑いしながら東郷さんに説明する。

 

「かなちゃん、動物に避けられてるっぽいの。近付くとすぐに逃げられるから、自分から距離を取ってるんだって」

 

「それは………難儀な事ね」

 

「大丈夫、ボクは猫が好きだから問題ないです! 」

 

「聞いてるこっちが切なくなるわ……」

 

「でもほら。この子のんびりしてそうだし、意外と逃げないんじゃ────」

 

 そう言いながら段ボールごと抱えて近寄ってくると、中にいた猫は即座に飛び降りて、東郷さんの所へと逃げていった。

 

「だ、大丈夫大丈夫。遠くから猫を見つめられているだけでボクはいいんです………」

 

「切な過ぎて胸が痛いわ……」

 

「ごめんねかなちゃん……」

 

 不安な出だしではあるが、こうして猫の引き取り手を探す事になった。まずは知り合いから電話をし、誰か飼ってくれないかと聞いてみる。

 

「という訳でミカ。猫飼わない? 」

 

『悪い、一応聞いてみたけど駄目っぽい。それより、お前が猫拾えたの?逃げられずに?エイプリルフールはもう過ぎたぞ? 』

 

「うるさいなぁっ!!逃げられるから、ユウちゃんと東郷さんの手の中に元気で居るよっ!! 」

 

 涙目になりながら電話を切り、次会ったらドラゴンスクリューをかける事を誓う。

 

「こっちは駄目だったよ。かなちゃん達は? 」

 

「こっちもよ。幸い人通りが多い所に出るし、そこでも声をかけていきましょう。それでも駄目なら、保健所に連絡を入れるって事でいい? 」

 

「賛成ー! 」

 

 ユウちゃんが同意すると、猫も鳴いて返事をする。

 

「おおー!この子もいいって返事したよ! 」

 

「可愛いな〜。誰か引き取ってくれるといいんだけど……」

 

 街中に出て、手当り次第声をかけていく。だが、猫を引き取るという事は、命を預かるという事。すぐに頷いてくれる人はおらず、時間はお昼を回ってしまう。

 

 猫もお腹が空いたのか、何度か小さく鳴いてくる。ついでにと言わんなばかりに奏とユウちゃんもお腹の音を鳴らす。

 

「一旦お昼ご飯にしましょう。餌付けするのは良くないけど、この子にも栄養を上げないと」

 

「あそこの喫茶店とかどう?テラス席なら猫ちゃんも同行可能だよ」

 

「じゃあそこにしよっか。猫のご飯はボクが買ってくるから、席確保しといてー」

 

「はーい! 」

 

 嬉々として猫のご飯を買いに行くが、想定外………ではなく、もはや予定調和と言わんばかりの事が起きる。

 

 同席しようとすると猫が逃げ出そうとしたり、チュールで仲良くなろう作戦を実行するも、近付いてはくれたが袋ごとチュールを奪い、ユウちゃんの元へと逃げていったのだ。

 

 ご飯を食べた後は、放心状態で使い物にならなくなった奏をそっとして声掛けを再開する。しかし、引き取り手は見つからず、日が暮れてきた。

 

 これ以上は成果は得られないと判断し、東郷さんは保健所に連絡を入れる。その間、猫を抱えたままのユウちゃんに慰められていた。

 

「ほ、ほら?お腹が空いて警戒してただけだよ、きっと! 」

 

「そうかなぁ……?その前から逃げられてた気がするよ……? 」

 

「だ、大丈夫だよ!ほら、この距離でも逃げようとしないよ! 」

 

「ぐっすりお眠だからだけど、多分あと少し近付いたら逃げるって、経験上分かってるんだよぉ!!」

 

「かなちゃ〜ん……」

 

「お待たせ………って、どうしたの2人共? 」

 

 起こさないように声量を落として嘆いたところで、東郷さんが戻ってきた。

 

「ナンデモナイヨ。ソレヨリ、ホケンジョカラハナンテ? 」

 

「奏ちゃんの様子から察したわ………それで、保健所で預かって貰える事になったのだけど、どうやらすぐには無理そうなの」

 

「ええ!?じゃあ、それまでどうしよう!? 」

 

「一時的にだけど、誰かに預かって貰うしかないわ。私の家は駄目だし、友奈ちゃんの家も駄目だったわよね? 」

 

「でも、預ける間だけでも出来ないか相談してみるよ!もし駄目なら、その時にまた考える! 」

 

「ちょっと待って?何で1人暮らしのボクが選択から除外されてるの? 」

 

 挙手すると、2人は無言で顔を逸らす。いや分かってるよ?分かってるけどさ?散々ダメージ負ってるよ?でも、諦めたらそこで試合終了だよ?

 

「確かに、奏ちゃんに預かって貰えるのがいいのだけど…………」

 

「その………大丈夫、かなちゃん? 」

 

「大丈夫!家に置くだけなら大丈夫だし、なんなら猫用の道具も沢山あるから! 」

 

 なんでそんな物を持ってるんだ?と聞かれた事があるが、全ては猫とお近付きになる為に用意したものだった。結果?いずれ成功するよ、きっと。

 

 不安しかないと言わんばかりの2人だが、とりあえず奏の家に預ける事となった。念の為ユウちゃん達も家に上がり、猫と遊ぶための玩具等で猫と戯れていた。

 

 猫じゃらしを片手に奏も試してみたが、見向きもされず逃げられたので、大人しく猫のスペースや寝床を用意していた。だ、大丈夫大丈夫………ボクは元気な子です……。

 

「そろそろ帰らないといけない時間だけど…………奏ちゃん、本当に大丈夫なの? 」

 

「大丈夫だよ。もう何も怖くない────だって、1人ぼっちじゃないもの」

 

「それは不安しか感じないよ!? 」

 

「まあ………猫も疲れたのか大人しくしてるし、なんやかんや用意した玩具で遊んでたし、多分大丈夫だと思うけど………」

 

 1匹で運動出来る物も設置し、それで遊んで疲れたのか、今は眠そうにして寝床で丸まっていた。自分の家に猫が居るというのは初めてである為、避けられる云々を抜いても不安はある。

 

「でもまあ、せめて元気でいられるようにはするよ。幸い明日明後日と休みだし、保健所の人も来るんでしょ?ならなんとかなるよ」

 

「そう………でも、何かあったら連絡してね? 」

 

「すぐに駆けつけるから!かなちゃんもその………無茶しないようね! 」

 

 オブラートに包んで励まそうとしてくれてるのが凄く伝わる。2人を見送ったあと、改めて猫の様子を見る。大きな欠伸をして、毛づくろいをしていた。

 

 ご飯と水を用意して運ぶが、近付くと猫はそそくさと部屋の隅っこに逃げ、奏が食器を置いて離れると、警戒しながら戻ってくる。

 

「やっぱり懐かないかぁ………でもまあ、元気そうならいっか」

 

 遠くでご飯を食べてる猫の姿を眺め、その愛らしさに微笑む。………いや、もしかしたら触れられる機会があるかもしれないし、慌てず待とう、うん。

 

 翌日。なんとか親睦を深めようと色々試すが、全て空振りで終わってしまう。唯一近くまで来てくれたのは、おやつのチュールの時のみだ。しかも昨日と同じく器用に奪っていかれた。

 

「はぁ………前は逃げられるなんて事も無かっただけどなー」

 

 大きくため息を吐き、猫じゃらしを手持ち無沙汰に振りながらソファーでふて寝する。

 

「最後に触れたのは、ばっちゃんの所にいた猫だったっけ………懐かしいなぁ」

 

 腕で目元を覆い、目を瞑ると昔の事を思い出す。ばっちゃん達と過ごした光景。それは鮮明に頭の中に残っており、ボクにとって大事な、思い出の1つ。

 

「本当………懐かしいなぁ」

 

 その呟きを最後に、静けさが家に漂う。1人暮らしなので静かなのは珍しくもないが、感傷的な気持ちになっているせいか、動く気になれない。

 

 しばらくそうしていると、ふと猫じゃらしを持ってる手に違和感を感じる。じっとしていると、急にむず痒くなったり気になったりするやつかなと思って無視に務める。

 

 だが、今度は猫じゃらし伝てに衝撃が伝わり、なんだろうと腕の隙間から視線を向けると、猫が猫じゃらしに向けてパンチをしていたのだった。

 

「なんだ猫か……………………猫ぉっ!? 」

 

 いきなり大声を出したせいで、猫は驚いて離れていった。いやだって、普段から逃げられてるから。気付いたら近くに猫が居て遊んでたら、そりゃあ………驚くでしょ?

 

 上体を起こし、警戒しながらも一定の距離を保ってくる猫を見つめる。もしかしたらと猫じゃらしを突き出し、軽く振りながら猫が届く高さまで下ろす。

 

 すると、猫はゆっくりと歩いてきて、猫じゃらしの前で止まる。遊ぶのかと思ったが、じっと見つめてくるだけで動こうとしない。なんだろうと小首を傾げると、猫はニャーと鳴いたあと、寝床へと戻って行った。

 

「えぇ…………」

 

 何がしたかったのか分からず、困惑の声を洩らす。丸まってお昼寝の体勢に入った猫は、こちらを一瞥したあと、もう一度鳴いて瞼を閉じる。

 

「………もしかして、元気付けようとしてくれてたのかな? 」

 

 それだったらいいなぁと、頬杖を付いて眠りについた猫を眺める。保健所の受け入れ準備が整うまでの世話には不安があったが、これなら多分、大丈夫そうだ。

 

 それから2日間。相変わらず距離が縮まる事もなかった。でも、近付くだけで逃げられる事はなくなり、凄く嬉しかった。流石に触れられる距離は逃げられるけど。

 

 そして、約束の時が来た。ユウちゃんと東郷さんと一緒に、待ち合わせ場所の公園で迎えが来るのを待っていた。

 

「連絡とか無かったけど、結局大丈夫だったの、かなちゃん? 」

 

「うん、思ったよりも大丈夫だったよ。猫も大人しかったし。まあ、懐く事は無かったけど。でも遠くから眺めていられるだけでボクは幸せです」

 

「もはや悟りの域に達したみたいな言い方で、かける言葉が出てこないわ……」

 

「もはや半ば諦めてる節はあるよ。フフフ………」

 

 生気の無い目で笑っていると、公園にお婆ちゃんが現れた。迎えの人かなと思うが、何かを探すように辺りをキョロキョロしている。

 

「お婆ちゃん、どうかしたのかな?」

 

「何か探し物をしている様だし、声をかけま───」

 

 東郷さんが言い切る前に、既にユウちゃんはお婆ちゃんの元に向かっていた。

 

「流石友奈ちゃんね。行動が早いわ」

 

「あっ、そしてお婆ちゃん連れて戻ってきたよ」

 

「東郷さーん!かなちゃーん!猫ちゃんの飼い主さん、見つかったよー! 」

 

「え? 」

「え? 」

 

 詳しく話を聞くと、どうやら猫は捨てられたのではなく、偶然段ボールの中に入っていたらしい。家を抜け出す事はあってもちゃんと戻ってくるらしいのだが、入ってるところを奏達が見つけたというところだ。

 

 些細なすれ違いで起きてしまった出来事。ちょうど保健所の人も来たので、ユウちゃん達は事情を説明しに行き、奏はお婆ちゃんに猫を受け渡す。

 

「ありがとうねぇ、お嬢ちゃん。ミケの世話をしてくれて」

 

「いえいえ。その子も大人しかったから何とかなっただけですよ。猫………ミケも良かったねー。お婆ちゃんの所に帰れて」

 

 お婆ちゃんの腕の中で大人しくしているミケに声をかけるも、そっぽを向かれる。

 

「あらあら、この子ったら。ごめんなさいねぇ」

 

「あはは……だ、大丈夫です。慣れていますので………」

 

「あらあら。でも、心配いらないよ。優しいお嬢ちゃんなら、きっと懐いてくれる子もいるよ。それじゃあ、わたしはここでお暇させてもらうねぇ」

 

「あ、ありがとうございます。お婆ちゃんもミケも、お元気で」

 

 そう言ってお婆ちゃんを見送ってると、途中でお婆ちゃんの腕からミケが飛び降りる。まさかの事で2人は驚いていると、ミケはこちらの方へと駆け寄り、奏の前で止まる。

 

「ど、どうしたの……? 」

 

 じっと見つめてくるミケに、困惑しながらも尋ねる。数秒の沈黙が流れると、ミケは足元まで近寄ってきて、顔を擦りつけてきた。

 

 突然の事でフリーズしていると、ミケはニャーと鳴いたあと、すぐにお婆ちゃんの元へと戻って行った。その様子を見ていたお婆ちゃんは、笑って言った。

 

「ほらねぇ。懐いてくれる子もいたでしょう?それじゃあ、元気でねぇ」

 

「─────はい!お元気で! 」

 

 半泣きになりながらもお婆ちゃん達を見送り、後ろで様子を見ていたであろうユウちゃん達も、良かったねぇと笑っていた。

 奏はこの感触と温もりを忘れないよう、そっと足元を触れたのだった。

 

 数日後。もしかしたら他の猫とも触れ合えるのでは?と試みたが、見事玉砕したのは言うまでもなかった。




 次回のお話は滅茶苦茶真面目に仕上げたやつです。なんだったら1番頑張りました。近い内に投稿出来ると思いますので、お待ちしてください
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