「あれ・・・ここ・・・は?」
見慣れない天井・・・そうか、私・・・。
あの憎っくき特型ラージ級を倒した後、マギを使い果たしてそのまま倒れてしまったらしい。
「目が覚めたみたいね。バカ明日香。みんなに心配かけて・・・」
ベッドの
「そうだよ明日香ちゃん?みんな心配したんだよ?」
「・・・無茶はよくない」
「あたしは別に明日香のことなんかこれっぽっちも心配しなかったけど?」
「その割には医務棟に一目散に駆け込んだのは誰かしら?」
「う・・・それは・・・」
「なんだかんだみどりちゃんって心配性だよね」
「う、うるさいな!いいだろ別に・・・」
言いながらそっぽを向く。
そして約1名───むくれ顔をしてこちらを見るリリィが。
「・・・今回の件、最初から詳しく説明していただけます?わたくしは納得しておりませんわ!」
「ベスちゃん、ここは医務室なんだから大きい声出しちゃダメだよ?」
「京夏お姉様・・・みんな、身勝手な行動をしちゃってごめんなさい・・・」
みんなに謝った上で、
「あのヒュージは・・・私が御台場中等部に入って仕留め損ねたやつなの・・・まさか鎌倉府で敵討ちを取るとは思わなかったけどね・・・」
「それは分かるのですけど・・・仕留め損ねたというのは・・・」
「そのときはまだミドル級だった、って言ったら?」
そう───あのときは間違いなくミドル級だった。
「明日香さん、レストアだとおっしゃってましたわよね?」
「おそらくね・・・それと───」
一呼吸置く。
「御台場の教育方針で、この当時は付き添いで先輩リリィが同伴することはあっても、一切手を出さなかったの。あの時は
「槿様って?」
「LGロネスネスの藤田槿様。お台場迎撃戦は知ってるでしょ?そのときのメンバーよ。それより前の話」
槿様のことを説明したうえで、
「そのとき槿様は私1人でミドル級を駆逐できるって判断だったんでしょうね・・・私も
言葉に詰まってしまった。
あの鳴き声とも甲高い叫び声とも思える、さらに不快な金属が擦れるような複数が混じったあの音。
「最初のうちはミスさえしなければデュエルでも勝てるって思ってた・・・当時から弱点は把握出来ていたし、そこさえ叩けば後は・・・っていうのが浅はかだったわ・・・中央左下は確実に叩けてたし後はとどめだ!ってときに・・・目の前であの音が・・・」
咄嗟に両耳を塞ぎCHARMから手を離してしゃがみ込んでしまったのだ。通常ならありえない行為。
「その場で我慢して刺せればよかったのに耳を塞いじゃって・・・背中からヒュージの攻撃をもらって・・・気が付いたときにはベッドの上・・・」
「・・・」
「頭に思い浮かんだのはあの船田
「明日香さん・・・」
「あのとき私が・・・我慢していればって思ったら・・・悔しくて悔しくて・・・」
「明日香ちゃんにそんな過去が・・・」
最後の方は涙声になっていた。私が今まで語りたくなかった過去。それは自らの過ちでもある。自分の弱さとも言えるか。
「じゃあ、御台場から百合ヶ丘に来たっていうのは・・・」
「その後いろいろあって予備隊には入れたよ?けど、メンバーとは不仲になっちゃってさ・・・ここならみんな優しくしてくれるんじゃないかって。もちろん強くなりたいっていうのはあるよ?けど、ここに来てよかった・・・みんな優しいし、すっごいフレンドリーだし、なによりも
「明日香。これからは一切無茶をしないこと。それと私たちは仲間なんだからみんなを信頼すること・・・ってそれは言わなくてもわかってるか」
「はい。敵討ちはもう済みましたから。それに───」
みんなのほうを向き直し、
「やりたいことはまだまだありますから」
「さて、と・・・まとまったところでお知らせがあります」
改まって京夏お姉様がみんなのほうを向く。
「来週LGの代表会議がお台場であるから私は不在。その間LGのまとめ役は・・・明日香、お願いね」
「えっ!?私!?」
聞いてないんだけど・・・。
「今初めて言ったからね」
とニコニコしながらさらっと言う京夏お姉様。
「今日はもう解散ね。みんな戻っていいわよ。お疲れ様」
「明日香ちゃん。もう平気?」
「多分・・・けど、もう少ししたら戻るから
「じゃ、後でね」
みんな医務室から出ていく。が、
「・・・」
京夏お姉様だけはまだ医務室にいる。
「あの・・・戻らないんですか?」
「・・・」
「・・・お姉様?」
しばしの沈黙。
「明日香。ちょっと時間、いい?」
ようやく口を開く。
「・・・私もいい加減けじめを付けないとね」
「・・・けじめ?」
その場所に行くまでは京夏お姉様の言っている意味がわからなかった。
ついに来てしまった。
意気地なしと呼ばれてもかまわない、そこに行ったらお姉様が蘇ってくるのではないか、そんな幻想を見る気がして、今まで近づかなかった。でも、いつまでもそんなことを言っているわけにはいかなくて───ようやく私にも
「あの・・・京夏お姉様大丈夫ですか?顔色が・・・」
「ううん・・・なんでもない。ここへは前に迷子になって来たことがあるのよね?」
「はい。あのときはベスと琴乃様にいろいろ言われましたから。でも今はこうやってお姉様と一緒になれて・・・よかったと思っています」
私の
「実は・・・ちゃんと来るのは初めてなのよね。まあ、勇気が出せなかったのが正解かな・・・」
海のほうを眺めながらぽつりとつぶやいた。
「あの・・・今まで黙ったんですけど・・・お姉様に守護天使がいた、って」
「ええ。だからその墓参り。その前に───」
明日香と向き合い、
「今までちゃんと話したことはなかったわね・・・初代エリューズニルのこと」
LG初代エリューズニル。対ヒュージ外征戦を活動拠点としていた。
「元々はね、高等部の人不足を補うために作った即席混成LGだったのよ」
「それは・・・咲良ちゃんから聞きました。お台場迎撃戦で百合ヶ丘の主戦力がいないから、今いるリリィで補うためだって」
「そう。じゃあ日の出町の惨劇は知ってる?」
日の出町の惨劇───エレンスゲ女学院のLGヘルヴォル主導の対ヒュージ殲滅作戦・・・であったのだが、当時のヘルヴォルは戦力重視の、結束力のないLGだった。そのため判断を誤った作戦が遂行、結果───多くのリリィが犠牲となる。甲州撤退戦と並ぶ近年の二大惨劇とされている。
「はい。というか、私も実は参加していました」
「えっ!?」
「って言っても最前線にいたわけじゃないです。あのときは、まだ中等部に入ったばかりで右も左もわからない状態なのに突然、日の出町で住民の避難誘導しろ!って言われて・・・」
所謂小間使いの扱いだ。
「そう・・・その日の出町に結成して間もない私たち9人のうちの4人が外征したわ」
「全員じゃなかったんですか?」
「ええ。なぜか上級生の4人だけ、ね。もし全員だったとしたら今私はここにはいないかもね」
「・・・」
「それぐらいの戦いよ。まあ運が良かった、と言ってしまえばそれまでだけど」
期間中は留守番という形で百合ヶ丘に残っていることが心残りだった。できることならお姉様と一緒に戦いたい───司令を無視して参加してもよかったのだろうけど、居場所がなくなるのは間違いなかった。
「その4人は・・・結局帰って来なかったわ。これだけなら良くある話・・・」
落ち着け・・・落ち着け私・・・そう自分に言い聞かせながらも話を続ける。
「LGができる以前から私は・・・高等部によく遊びに行ってたの。そこで1人のリリィと仲良くなった」
「それが・・・」
「ええ。私の守護天使───鹿野
と、首にかけているペンダントの中を開き、明日香に見せる。
「鹿野・・・洲檸美様・・・どういう理由で・・・」
「自殺よ」
「えっ・・・」
「私だって・・・今でも信じたくないわ・・・けど事実・・・」
「お姉様・・・」
平静を装いつつも続ける。
「同じLGになった私たちと洲檸美お姉様と亡くなった4人・・・」
「あの・・・私たちって・・・」
「私と初花は初等科からの幼なじみ、灯音と琴乃は中等部から仲良くなった友達・・・たまたまLGが一緒になって・・・その関係が今でも続いているのよ」
「・・・」
「日の出町の前から私と洲檸美お姉様は守護天使の契りを結んでいた。4人が亡くなったって連絡が入って、リーダーでもあるお姉様から何か話があるんじゃないかって思って、私はLG控え室で待機してた。けど・・・」
「けど?」
「3日経っても・・・一週間過ぎても洲檸美お姉様は控え室に来ることはなかったわ」
「これはお姉様になにかあったんじゃ・・・そう思って中等部の寮からわざわざ高等部の旧館に行こうとした・・・ときに・・・」
ここで言葉が詰まってしまう。
「・・・お姉様?」
だめだ。ここで躓いてしまっては守護天使───姉として示しがつかないではないか。一旦ここで深呼吸。
「当時の高等部生徒会から携帯端末に連絡をもらったわ。洲檸美お姉様が自室で倒れている・・・ってね」
「・・・」
「もちろんすぐに旧館の、お姉様の部屋に飛んでいったわ。けど、周りの様子がおかしかった。部屋に荒らされた形跡もない、ヒュージに襲われたときにたまにルーンの後が残ったりすことがあるけど、それもない。とにかく不自然だった」
「じゃあ・・・」
「洲檸美お姉様の机を見ると・・・そこに・・・」
しばらく黙ってしまう。乗り越えろ私。
「お姉様がいて、頭から白い布がかけられていたわ・・・生徒会に話を聞いたら・・・昨日までは・・・講義と演習には出ていたって・・・」
「・・・」
「なんで!?どうして!?私はわけが分からなくなって部屋を飛び出したわ・・・だってそうでしょ?こんなの・・・納得できる・・・わけ・・・ないじゃ・・・ない・・・ううっ・・・」
今まで頑張って泣くまい、と耐えてきたけど、ここでついに我慢の限界を越えて、声を上げて泣いてしまった。
「そう・・・だったんですね・・・。なんで、今までLGのことを話したがらなかったんだろう?って不思議に思ってました・・・リリィなら死と隣り合わせで・・・けど、どうして・・・」
「わからない・・・お姉様の机の上には、薬らしき錠剤と、メモが置いてあったわ・・・『京夏、ゴメン』って・・・」
「まさかとは思いますけど・・・洲檸美様って・・・」
「違う!お姉様・・・洲檸美お姉様は・・・そんな人じゃ・・・ない・・・」
今まで耐えてきたものが一気に崩れていた。
「こうなるって分かってたから・・・!だから・・・今までここには来なかったのよ・・・!」
「・・・」
「洲檸美お姉様あああああああああ!」
いつもの私はどこへやら。今は守護天使を亡くした、1人の妹───夏目京夏としてただ泣き崩れるだけだ。
数ある墓標の中で唯一、文字色の違うものがある。自ら命を断ってしまった私の守護天使────鹿野洲檸美お姉様。ここに眠る多くのリリィはヒュージとの戦いに敗れた者ばかりだ。
泣き崩れる私を明日香がそっと背後から抱きしめてきた。
「けど、もう大丈夫です。今は・・・私が・・・この私が・・・お姉様についてますから・・・」
「明日香・・・」
「最初はなんで私なんか守護天使に・・・なんて思ってました。けどあのとき、京夏お姉様が私のことを助けてくれなかったらどうなっていたか・・・」
「LGメンバーがピンチだったら・・・助けるのは当たり前のことよ・・・」
「けど、それだけじゃないです・・・お姉様。確かに決め手はそうでした。初めて会って、ベスと手合わせしたときのこと覚えてますか?」
「もちろんよ。確かあのときは明日香が足をくじいて、あのままじゃ怪我しそうだったから私が止めたのよね?」
「はい。私も、今までいろんなリリィと手合わせしてきました。もちろん『あの』船田
「ベスを止めに入ったときの間合いとタイミング・・・あれを見たとき、今まで悩んできた私の答えが見つかった。そう思ったんです。私が目指すのはこれだ!って・・・」
「え・・・」
「私・・・今まで対人戦で1勝もしたことがないんです・・・恥ずかしい話ですけど・・・対ヒュージ戦だとこんなことないのに・・・」
言われてみれば確かにそうだった。対ヒュージ戦では私と同等・・・いや、それ以上の実力を発揮しているのだ。が、対人戦はどうして?となるほどひどいことになっている。
「やっと純様に言われたことがわかった気がしました。あれは私を蹴落としたくて言ったんじゃなくて、もっと自分に自信を持ちなさいって・・・だから、上を目指すために京夏お姉様みたいなリリィになろうって・・・」
自らの口から京夏お姉様に守護天使になろうと思ったキッカケを話すとは思わなかった。
「だから京夏お姉様・・・今は私がいます・・・過去は過去です。でも、忘れろ、とは言いません・・・今を・・・いえ・・・その先を見てください」
お姉様を抱きしめていた腕にさらにギュっと力が入る。
「でもこれで・・・やっと心の詰まりが取れた気がするわ・・・ありがとう明日香・・・」
「えっ!?」
抱きしめていた手が振りほどかれ、代わりに私が京夏お姉様から向かい合って抱きしめられてしまった。
「あの・・・京夏お姉様!?」
「いいの・・・しばらくここままでいさせて・・・」
出会って最初の頃に琴乃様に言われた台詞を思い出す。
『今の京夏ちゃんには支えになる子が必要なの』
私が京夏お姉様の支えに、ようやくなれた、そう思うと嬉しかった。
はい。これぞアサルトリリィの真髄です。書いてる本人は途中で泣きそうになるし、てえてえを上手く表現できたの?の判断はみなさんにお任せします()