アサルトリリィ~もうひとつの物語   作:武士道の犬

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京夏の過去

「はああああああああああっ!」

 

 キンッ!

 

 修練場に響くCHARM同士の独自の音。

 

 キンッ!キンッ!キンッ!

 

 これが訓練であればよその学園(ガーデン)でもよくある光景だが、そうではなかった。

 

「ちょっと!いい加減にしなよ!」

 

 私が声をかけるも聞く耳持たず。

 

 

 キンッ!キンッ!キンッ!

 

「きゃあああああっ!」

 

 ドンッ!

 

 対戦相手のリリィが倒れてしまう。

 

「そこまで!」

 

 ()()()声をかけてくれたのは琴乃だった。

 

「もういいでしょ・・・いい加減やめなって・・・」

 

 初花が宥めるも、

 

 ザッ・・・

 

 その相手のリリィにCHARMを向け、なおも手合わせを続けようとした。

 

「京夏ちゃん!」

 

 琴乃が京夏に向かい、

 

 パンッ!

 

 思いっきり平手打ち。

 

「ごめんなさいね和香(のどか)ちゃん。京夏ちゃん、あの事件があって以来ずっとこうなの・・・」

 

 新家(にいみ)和香───当時まだ予備隊扱いだった初代アールヴヘイム所属だったパワーに特化した戦い方をするリリィだ。

 彼女は黙ったまま頷き、一礼をしてそのまま修練場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 こんな状態が続くこと1ケ月。

 ついに同級生は対戦相手がいなくなる。私も相手はするが、京夏の攻撃パターンはある程度理解しているつもりなので負けるということはない。

 

「えっ?私ですか?」

 

 当時アーセナルに(正式に)なっていなかった綰妻乃莉子(わがつまのりこ)さんとも手合わせはした。もし彼女がアーセナルを望んでいなかったら将来有望なリリィになっていたかもしれない。

 その傍らで見ていたのは今のLG(レギオン)メンバーでもある紫衣原咲良(しいばらさくら)だ。

 

「ねえ?いつまでこんなことやるつもり?このままじゃ私たち居場所がなくなるかもしれないのよ!ねえ分かってる?」

 

「・・・」

 

「そんなの・・・言われなくても分かってるわよ!」

 

「それでも・・・やめる気ないんだ?そんなことしても・・・洲檸美様は戻ってこないんだよ?」

 

 私からしてみれば今京夏がやっていることはただの八つ当たりにしか見えない。

 

「ううっ・・・わああああああああああああああああああああああ!」

 

 ついには泣き出してしまう。

 そんな京夏を背中から抱きしめたのは琴乃だった。

 

「ねぇ京夏ちゃん、約束して?今の京夏ちゃんには支えになる子が必要だわ。私たちが高等部に上がって、もしかしたら導いてあげたいって子が出てくるかもしれない・・・その時まで手合わせはしないって・・・」

 

「・・・」

 

「そのやるせない気持ちは・・・私たちリリィじゃなくて・・・ヒュージにぶつけようよ?それが・・・本来の姿」

 

「そうね・・・」

 

 

 

 

 

 

「そこまでだったなんて・・・」

 

 信じられないがあの普段温厚な京夏お姉様がここまで・・・。

 

「もしかして、京夏ちゃんのことキライに・・・」

 

「なんかならないです!」

 

 これだけはハッキリ言える。今の話を聞いて確信した。再びこうならないためにも、今以上に頑張らないと。

 

「明日香ちゃん・・・」

 

「私・・・もっと京夏お姉様のためにがんばろうって思いました。もっと努力しなきゃ・・・」

 

「明日香・・・努力するのはいいけど・・・頑張りすぎちゃダメだよ?リバウンドが来るから」

 

「え・・・?」

 

 今の私には灯音様の言っている意味がわからなかった。

 

「今は・・・その話はいいかな・・・同じ過ちを・・・明日香にはしてほしくない・・・」

 

 

 

 

 

 

「明日香さん。ちょっと・・・」

 

 翌日、講義の終わった後、訓練前の控え室にて。

 

「それが・・・なんといいますか・・・その・・・」

 

 ベスが珍しくハッキリと言わない。

 

「え?なに?ハッキリ言ってくれなきゃわかんないわよ?」

 

 トントン・・・

 

 控え室のドアをノックする音。

 

「はい?」

 

 誰だろう?

 

 ガチャ・・・

 

「約束どおり来ましたわ。これでよろしい?」

 

 黄土色の髪にサイドテールのセミロングヘア、そしてなんと言っても特徴的なのが左右で目の色が違う、所謂オッドアイであろう。

 

「ごきげんよう神琳(しぇんりん)さん。うちのLGに何か用でも?」

 

 (くぉ)神琳───台北出身の、幼稚舎からいる生え抜きリリィで、実力も相当だと聞く。

 

「用があるのは明日香さんではなく隣にいるエリザベスさんのほうです」

 

「ちょっと・・・」

 

 ベスの制服の袖を引っ張り控え室の隅のほうへ。

 

「なんですの?」

 

「なんですの、じゃないわよ・・・あんた神琳さんに何したの?」

 

 小声で耳打ちする。

 

「そのことで相談しようと思ったのですが・・・まさか直々に本人が来るとは思いませんでしたわ・・・」

 

「だ・か・ら!何したのって聞いてるでしょ・・・」

 

「実は・・・昨日訓練が終わった後自主練をしていたのですが・・・その・・・」

 

「まーた喧嘩売ったの?喧嘩の件は私で懲りたでしょうに・・・まったく・・・」

 

「お待ちなさいな!話は最後まで聞いてくださいまし。売られたのはわたくしのほうですわ」

 

「はあ?何わけわかんないこと言ってんの?神琳さんがそんなことするわけ・・・」

 

「あるんですのよ。それが」

 

 まさかあの神琳さんが?

 

「わたくしの態度が気に入らなかったのでしょうね・・・ただ、間違ったことは述べませんでしたので、わたくしに非があるとは思えませんわ」

 

「だから具体的に・・・」

 

「いつまで話をしているんです?」

 

 しびれを切らしたのは神琳さんのほうだった。

 

 

 

 

 

 

「あなた・・・雨嘉(ゆーじあ)さんに何をしましたの?」

 

 ニコニコしながら普段よりも低めの声で問い正す。(わん)雨嘉───お互いクラスは違えど、寮ではルームメイトだ。にしても神琳さん・・・怒らせると怖い、というのがよく分かる。

 

「・・・やっぱり怒らせてるんじゃない。懲りてないというか・・・学習しないっていうか・・・ごめんなさいね神琳さん。後でベスにはきつく言っておきますから」

 

 私が頭を下げるも、

 

「いいえ、それではわたくしも怒りが収まりませんわ」

 

「私は部外者ですけど・・・何があったのかだけ話してもらえませんか?」

 

 神琳さんによれば、昨日修練場でベスが自主練をしていたようだが、そこへたまたま居合わせた雨嘉さんとぶつかりそうになったらしい。それだけならお互い気をつけましょうね、で済む話なのだが、こともあろうに神琳さんのCHARM───媽祖聖札(マソレリック)をダシに使ったようなのだ。

 

「なるほど・・・ちょっと待って下さいね」

 

 一旦ベスと神琳さんを離し、私は控え室の外へ。通信端末を取り出す。

 ほどなくして京夏お姉様が出た。

 

「すみません突然。実は───」

 

 事の顛末を説明する。

 

「まさかこんなことになってるなんて思わなかったので・・・。それでなんですけど、私から提案が・・・」

 

 

 

 

 

 

「すみませんおまたせして。えっと・・・」

 

 端末で話をしているうちになんだか雰囲気が変わっていた。

 

「あら、これおいしいです。うちのLGにも欲しいですわ」

 

 うちのLG?

 そういえばウワサで一柳さんが新規にLGを立ち上げた、とか聞いたことがあったのを思い出し、京夏お姉様にその話をしたばかりなのだが・・・。

 

「あの・・・琴乃様・・・この状況は・・・」

 

 さっきまで穏やかではない表情だった神琳さんがすっかり私たちの控え室でまったりしている。

 

「明日香ちゃん、実はね・・・」

 

 耳打ちしてくれた。

 

「神琳さん」

 

 改めて面と向かって、

 

「さっきの話ですけど、正式にLG間での修練目的で手合わせになりました。ベス、これならいい?」

 

「いいも何も・・・まあいいですわ。公式戦ならばわたくしに拒否権はありませんし」

 

「わかりました。では後日改めて手合わせということで・・・」

 

 

 

 

 

 

「あんたのせいでこうなったんだから、責任持ちなさいよ?」

 

 天上の間にて。

 

「ちょっと!ほっぺたつねるのやめてくださいます?マトモに喋れませんわ!」

 

「まだ反省しない?ほら?」

 

「ひっ!?ちょっと明日香さん!どこ触ってますの!?」

 

 端から見ればじゃれ合っているようにしか見えないだろう。

 

「明日香ちゃん・・・みんなの注目の的だよ?もうその辺に・・・」

 

「あ・・・」

 

 気がつけば周りのリリィから見られまくっていた。穴があったら入りたい、とはこういうことか。

 

 

 

 

 

 

 

「一柳さん」

 

「はい?」

 

 一柳梨璃(ひとつやなぎりり)───LGラーズグリーズ(こと、通称一柳隊)隊長───(まどか)と同じく一般セレクションで百合ヶ丘に入学するも、実戦経験なしにいきなりヒュージを倒したり、私よりも早く白井結夢様と守護天使(シュッツエンゲル)の契りを結んだり、ちょっと羨ましかったりする。守護天使に速さとかは関係ないんだけどね。

 

「この度はうちのLGメンバーの不祥事でわざわざ公式戦の場を快諾してもらいありがとうございます」

 

 頭を下げる。

 

「明日香さん待ってよ!快諾だなんてそんな・・・」

 

「一応・・・LGの副隊長なので・・・形式上でもちゃんと挨拶しないと」

 

「あははは・・・」

 

 苦笑いの一柳さん。

 

「ほらあんたも、挨拶する!」

 

 借りてきた猫のように大人しいベス。

 

「よ・・・よろしくおねがいしますわ」

 

「・・・随分大人しいじゃない?いつもみたいに『ごきげんよう、以後お見知りおきを』ってやればいいのに」

 

「そ、それは・・・その・・・」

 

 さっきからやたらと横に視線が行っている。あーそういうことか・・・。

 

「ちょっと明日香さん・・・」

 

 珍しくベスに小突かれて小声で耳打ちされた。

 

「親会社の社長令嬢を前にそんな失礼なことができるとお思いで?答えは『NO』ですわ」

 

 楓・(じょあん)・ヌーベル───CHARMメーカー、グランギニョルの社長令嬢。聖メルクリウス中等部時代には当時予備隊格付けではそれまでなし得なかった百合ヶ丘を抜いて最高格付けを取った実績がある。そんな凄腕リリィがなぜ新進気鋭のLGに?という疑問は残るが今は関係ない。

 

「けどそれは親同士の話で、私たちは関係ないでしょうに・・・」

 

「それはそうなんですが・・・」

 

 どうも納得していない様子。

 

「あれ、他の人たちは一緒じゃないんですか?」

 

「神琳さんたちなら私と少し離れたところにいるよ?」

 

「あー・・・ごめんなさいね。別に神琳さんたちに用があるわけじゃないから」

 

「明日香さーん。今度インタビューいいですか?」

 

 唐突に話かけてきたのは同じLG所属のニ川ニ水(ふたがわふみ)だ。彼女も一般セレクションで百合ヶ丘に入学してきたが、所謂リリィオタクで戦術やリリィにやたら詳しい。学園(ガーデン)の新聞部とは別に『週間リリィ新聞』を独自に発行している。インタビューとはその週間リリィ新聞に乗せるためのものだろう。

 

「別に構わないけど・・・何を聞きたいの?」

 

「えっとですね・・・以前夏目京夏様と守護天使を結ばれたじゃないですか。その馴れ初めをご本人から直々に聞きたくてですね」

 

 そういえば・・・。京夏お姉様と守護天使を結んだ直後に早速載ったことを思い出した。

 

「別に・・・私が暇なときだったらいつでもどうぞ」

 

「ホントですかあ?よかったあ・・・丁度週間リリィ新聞に載せるネタがなくて困ってたんですよー」

 

 理由はともあれ断る理由もない。

 

「あ。それと一柳さんに言っとかないと・・・」

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 修練場・・・ではなく、百合ヶ丘近所の海岸にやってきた。

 神琳さん本人たっての希望だそうだ。

 にしても海岸かあ・・・正直苦手だ。だが、そうも言っていられない。

 

「まず手合わせ1組目。制限時間はなし、レアスキルは禁止。危険と思われる行為は見つけ次第止めに入るわ。それでいい梨璃ちゃん?」

 

「はい・・・って言っても今回お姉様に全部お任せしちゃってるので私は何も・・・」

 

 と苦笑いしているのはピンク髪の、四つ葉のクローバーの髪飾りが特徴の一柳さんだ。

 ちなみに彼女の言うお姉様とは、一柳さんの守護天使───白井夢結様のことだ。甲州撤退戦では初代アールヴヘイムとして参加していたが、自身の守護天使───川添美鈴様を自らの手で殺めてしまう(本人は記憶が曖昧で罪にはならなかったそうだが。それもあり自らを苛み続けている。

 そんな結夢様だが、温かい目で見守っているようだった。

 

「それにしても───」

 

 手合わせが始まってから。

 

「あなたも思い切ったわね明日香。まさか結夢ちゃんとねえ・・・」

 

 そう。京夏お姉様に連絡したとき、

 

『あの・・・ついでと言っては何ですが・・・私も公式戦・・・ということで便乗でお願いしてもいいですか?』

 

 無理を言って結夢様との手合わせをお願いしたのだ。

 

「いつまでも苦手だ、なんて言ってられませんし。それに───」

 

「どうしたの?」

 

「あ、何でもないです。ははは・・・」

 

 と言いかけて止めてしまった。

 

「神琳さんもすごいなあ・・・」

 

「けど、これは神琳さんにやられてるわね。見事なまでに」

 

 円が関心している。ユニーク機(媽祖聖札(マソレリック))であれだけこなせるのだから。だが、気になるのはベスのほうだ。間違いなく圧されている。おそらく原因は───

 

 

 

 

 

 

(こんなはずでは・・・)

 

 焦っていた。あのときは正論を述べただけなので、それ自身は悪くないのだが、煽ったのは事実だ。

 

「エリザベスさん。わたくしに勝つんじゃなくて?」

 

 砂で思うように間合いが取れず、動きやすい海寄りのほうに誘導しようとするも引き離されてしまう。ブラダマンテよりもさらに小型なユニーク機───媽祖聖札───を操る姿はまるで羽のついた妖精のようにも見えた。

 

(実践経験が違う?なにか策は・・・)

 

「ご心配には及びませんわ。こんな状況すぐにでも・・・」

 

 と言ったその時だ。

 

(え・・・)

 

 一瞬何が起きたか分からなかった。

 

「チェックメイト、ですわ」

 

 

 

 

 

 

「ベスちゃん・・・」

 

「まさかこのわたくしが・・・負けるだなんて・・・」

 

「中華鍋だ、なんて言った罰よ・・・と言いたいところだけど、これは完全に神琳さんの作戦勝ちね」

 

「どういうことですの?」

 

「あんたもやっててわかったでしょうに。神琳さん、普段から海岸で訓練をして慣れている。つまり・・・」

 

「自分に有利な戦場に引きずり出して勝ってしまおう、ってことね。あの子見た目に反してやることがあざといわね」

 

 初花様が話に割って入ってきた。

 

「その・・・とおりです・・・あの初花様・・・普段からレアスキル使われてます?」

 

「何のことかしら?」

 

 やっぱり。本人は自覚がないらしい。

 

「さて・・・」

 

 私も準備するか。

 

「そういえば・・・もう1組手合わせが組まれてますが・・・どなたが対戦しますの?」

 

「さー・・・あたしは特に何も聞いてないぞ?」

 

「私もです」

 

 対面───ラーズグリーズ(こと一柳隊)では、

 

「梨璃、よく見ておきなさい。LG以外の人と手合わせなんてまずできないものね」

 

「はいお姉様。私は・・・お姉様が負けるだなんて思ってません」

 

「なーんて言われてるわよ明日香?」

 

「え?明日香ちゃんやるの?」

 

「実は一度手合わせしたい、とは思ってたのよね。それと・・・これは私自身への課題でもある」

 

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