いきなりだが、あたしは難しい話が苦手だ。聞いていると眠たくなってくる。
なので講義のときはいつも咲良に叩き起こされている。
「あー終わったあー!」
大きく背伸びする。さて、今日も先輩のところに行くか!
先輩というのは同じレアスキル───縮地───持ちでの吉村・
「みどりちゃん、今日も行くの?今日はやめといたほうがいいと思うけどなあ・・・」
同じクラスで
「え?なんで?」
「なんでって・・・特に理由はないけど・・・」
「だったら止める理由なんてないじゃん?あたしは行くよ?じゃ、そういうことで・・・」
LGに入る以前はレアスキルを使って移動していたが、京夏様に止められてからは使わないようにしている。
「あ。みどり。ちょっと、いい?」
途中、一番厄介なリリィに遭ってしまった。同じLGで一番口うるさいのが・・・。尾上明日香───京夏様も認める実力者で、京夏様の
「なに?忙しいんだけど?」
「その割には忙しそうに見えないけどね?」
あーこの態度!ほんと毎度毎度腹が立つ!
「とにかく!あたしは急いでるの!また今度な!」
当人の目の前で見せつけるように
「うまく撒けたかな?」
いつも梅先輩がいるであろう場所に着いた。ここは野良猫のたまり場になっていて、ここで待っていると大抵梅先輩がつかまる。が、今日は様子が違う。
そこに居たのは───
金髪でポニーテールの、赤い目のリリィだった。そのリリィも猫と戯れている。
「あんた、誰?」
あたしを見るなり一蹴する一言。
「ご、ごきげんよう・・・」
予想外の人物に、思わずいつも返さない返事をしてしまった。
「えっと・・・別に怪しくは・・・」
「そりゃ、見ればわかるよ。同じリリィなんだし」
なんか、調子狂うな・・・うまく会話が出来ない。
「おっ?なんだ?今日は珍しい組み合わせだナ?」
様子を伺ってたかのように梅先輩がやってきた。
「ど、どうも・・・」
「どうしたどうした。今日は挨拶硬いゾ?」
「いや、その・・・なんか調子が・・・」
「梅様、誰です?」
とあたしを指さす。
「おう、
「挑戦って・・・なんのです?」
「レアスキルだよ。ま、いい暇つぶしにはなるんだけど・・・いつも梅が勝つから当人は面白くないみたいだけどナ?」
「・・・変なやつ」
「変で悪かったな!これが普通だし」
喧嘩するつもりはまったくないが、ついこういう返しをしてしまう。
「こらこらケンカはダメだゾ?それより今日はどうするんだ?」
「あ・・・いた!こらみどり!」
まったく、普通に相談しようとしたらいきなり縮地使って逃げるとか・・・これは本格的に説教が必要だろうか。
「梅様ごきげんよう。えっと・・・」
椿組の・・・誰だっけ?名前が出てこない。
「鶴紗・・・安藤鶴紗」
「安藤さん。ごきげんよう。うちのみどりが迷惑かけてませんか?」
この前の遠藤さんとの一件もあるし、念の為に聞いてみる。
「迷惑?特にはなにも」
安藤さんはややぶっきらぼうに答える。ぶっきらぼうというか感情表現が苦手なのだろうか。そんな風にも見える。
「明日香かーごきげんよう。んーそうだなあ・・・」
梅様は一瞬考えてから、
「今の所はなにもないナ」
と答える。
「そうですか・・・・で、さっき私の顔を見て逃げたみたいだけど、どういうことか説明してもらえるかしら?あ、逃げそうになったら梅様お願いしますね」
「げっ・・・」
「げっ、じゃないでしょ?何かやましいことでもあるわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ・・・明日香の顔を見ると条件反射でつい・・・」
「それはあんたの日頃の行いが悪いからでしょうに・・・」
「ところで梅様。この子たちとはどういうつながりで・・・」
「あー」
安藤さんが尋ねる。
「明日香はみどりと同じLGだナ」
「なるほど・・・」
「すみません梅様。今日はまだ対決してないんですよね?その前にみどりと話がしたいのでいいですか?」
「別にかまわないゾ」
「ありがとうございます」
と軽く頭を下げてから、
「ほら行くよ」
と手を引き移動する。
「えー」
「あんたにえーっていう権利ないから・・・」
ということでいつもの足湯へ。
「へー・・・百合ヶ丘にこんなとこあったんだな・・・」
「私もここを見つけたときはビックリしたけどね。で、今日はあんたにお説教をしたかったわけじゃないのよ・・・なのに逃げるとか・・・」
「悪かったからそう怒るなよー」
「まあいいわ・・・で、今日は聞きたいことがあったのよ」
「聞きたいこと?」
「そ。一般セレクションでここに入ったんでしょ?なんでリリィになりたかったの?」
「補欠だけどな・・・あたしってさ、運動とかしかとりえがないから、せめてスポーツとかでも・・・って最初思ってたんだ。けど・・・」
「けど?」
「去年の身体測定のときにスキラー値も一緒に見てもらったんだよ。そしたらたまたま越えててさ・・・もしかしたら!ってダメ元で一般セクション受験したらたまたま補欠で受かった・・・ってだけの話」
「そう・・・けど、それってここに入るための理由よね?ホントは違うんじゃないの?」
「なんでそれを今ここで話さなきゃいけないの?いいじゃん、別になんでも・・・」
ここで喧嘩する気はないのだが、私としてはちゃんと理由を聞いておきたい、そう思っていた。ただリリィになるだけなら、同じ鎌倉府でやる気とスキラー値があれば入れる相模女子高等学館っていう選択肢もあったはずだ。
「ただリリィになりたかったらわざわざ百合ヶ丘には来ないでしょ?ってこと。何か他に理由があるんじゃないの?」
「しつこいな!言いたくないって言ってるんだからいいだろ!」
「そこまで躍起になる理由がわかんないけど、私は・・・別にあんたを怒らせたくてこんな質問してるわけじゃないの・・・同じLGとして・・・みんなのことをもっとちゃんと知りたくて聞いて回ってるのよ」
「・・・」
「言いたくないんなら別にいい。けどみどり、これだけは言わせて。自分の秘密と仲間の信頼どっちを取るか問われたら、私は後者を取るわ。だって、今のエリューズニルには信頼できるだけの価値があるから」
「・・・わかったよ」
まさかみどりが納得してくれるとは。逆にこっちが拍子抜けしてしまう。
「あたしさ・・・見てのとおり、バカで脳筋・・・なんて言われたりするけど、小さいときに川で遊んでて・・・川って、急に深くなったりするところってあるじゃん?そこに行っちゃって、溺れそうになったんだよね」
「それとなんか関係ある?」
「そしたらさ・・・そのときに丁度スモール級ヒュージに遭遇して・・・ヒュージにやられる!って思ってた・・・そしたら・・・やられる寸前のところで助かったんだ・・・」
私は黙って続きを聞く。
「後から聞いたら百合ヶ丘のリリィだったって。それで・・・なんとなくだけど、助けられたんだから、今度は自分が助けたい!って・・・」
「そう・・・」
「あ。この話他のみんなにはするなよ?すんげー恥ずかしいんだからな」
顔を真っ赤にしながら言うみどり。
「言ってどうするのよ・・・別に誰も得しないでしょ?」
「それは・・・そうなんだけど・・・」
「もうひとついい?」
前々から疑問に思ってたこと───
「なんで梅様とあんな競争じみたことするの?」
実は以前にたまたま見かけてしまった。
梅様とみどりが縮地でどっちが早く行って帰ってこれるかという競争をしているのを。一見するとすごくくだらなく見えるのだが、当の本人は真剣だ。
「なんでそれを明日香に言う必要があるのさ。ていうかなんで知って・・・」
「偶然見ちゃったのよね・・・あんたと梅様がやってるところを、ね。ついでだから言っとくけど、梅様・・・縮地でも限りなくSランクに近い人って言われてるわ。そんなリリィに挑戦してるんだからあんたも度胸あるわよね」
「え・・・梅先輩そんなすごい人だったんだ・・・」
「けど、それが悪いって言ってるわけじゃない。むしろあんたのためになってるわよ?」
「それっとどういう・・・」
「無意識のうちにレアスキルを鍛えることになってるってこと。特にスピードが命なんだから、やってて損はない。私からは特に言うことはないわね」
「え、じゃあ・・・」
みどりは止められるとでも思ったのか、キョトンとしている。
「むしろ逆。やりすぎはさすがに注意するけど、訓練に支障ないレベルだったらいいんじゃない?」
「・・・」
みどりは黙ってしまった。
「明日香に止められるんじゃないかって思ってた。その・・・」
また顔を真っ赤にするみどり。
「礼ならいいわよ。あんたの性格じゃそうなるってわかってるし」
「ううっ・・・」
事実を突っつかれてなにも言えなくなるみどり。
「あら、ごきげんよう明日香さん。珍しい組み合わせですわね」
ベスがやってきた。
「おっすお嬢。別にいいじゃんか。明日香と一緒でも」
LGメンバーでは唯一ベス───櫻子・
「あら、そこは別に何も言ってませんわよ?ただ、疑問に思っただけですわ」
「で、何か用?」
おそらく私に用事があったはずで、でもなければわざわざここまで足を運ばないはずだ。
「明日休息日ですわよね?何か予定とかありますの?」
「予定?特にないけど・・・それがどうかしたの?」
「わたくしに付き合っていただけます?」
「え?なに?別にいいけど・・・」
そんな改まって言われるとかえってこちらが緊張してしまう。
「では詳しいことは入浴のときにでも打ち合わせを。ではごきげんよう」
用件だけを告げ、さっさと行ってしまった。まるでいつものみどりみたいだ・・・。
「なんだったんだ?」
「さあ・・・普段あんなことしないんだけど・・・」
ベスの態度が珍しかったというのもあるが、いつもと様子が違っていたような。
「さて・・・引き留めちゃって悪かったわね。じゃ、戻りましょうか。まだいるかな・・・」
「おう」
「お、戻ってきたナ?」
梅様は普段いる場所にまだ残っていた。ここは野良猫の集会場ということか。安藤さんはいなくなっている。
「梅先輩。今日もお願いしていい?」
「お前も懲りないやつだナ。いいぞ」
「あの・・・ちょっといいですか?」
始める前に梅様を呼び止める。
「いつもこんな感じで?」
「そうそう・・・にしても明日香は保護者みたいだナ?」
え?保護者!?
「やめてくださいよ・・・みどりはただのLGメンバーで・・・」
「冗談冗談。じゃ、行ってくるゾ」
と楽しそうに笑う梅様。
梅様・・・嫌がってるのかと思ったけど、この状況を純粋に楽しんでるように見えた。これならみどりのためにもなるし、まあいっか・・・と思った。
数分後、
「あああああああまた負けたああああああああ!」
悔しがっているみどり。
「はいはい。行くわよ」
「え?どこに?」
「いいから私についてきなさい。怒るわけじゃないから」
さてやってきたのは山梔館(旧館)だ。多分部屋にいるはず。
とある部屋の前に停まり、ノックする。
トントン・・・
「開いてるわ」
やっぱりいた。
ガチャ・・・
「突然すいません。京夏お姉様」
「明日香・・・と、みどり?珍しい組み合わせね。どうしたの?」
「実は───」
と、ここまでの流れを説明する。
「そう。別にいいんじゃないかしら。訓練になるのであれば大歓迎よ。私からは特になにもなし。これでいい?」
部屋から出た後、
「・・・別にあたしいなくてもよかったんじゃ」
「そんなわけないでしょ」
とおでこを軽く叩く。
「あたっ!」
「LGに入って最初の命令忘れた?」
「わかった、わかったから」
控え室で私と京夏お姉様との間で最初にみどりと交わした命令───訓練と実戦以外でのレアスキル使用禁止。今回遊びではあるが、訓練になるのなら、とみどりの自由がまた少し増えたわけだ。
「まったく・・・誰のおかげで公認取ったと思ってんの?」
みどりの両頬をつねる。
「ひゃへれないって(喋れないって)・・・」
「なら、また私のタングズニル使う?」
「それはカンベン・・・」