アサルトリリィ~もうひとつの物語   作:武士道の犬

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カワイイもの談義

「みんな揃った?」

 

「いるよー」

 

「同じくです」

 

「いますわ」

 

 休息日。

 私と(まどか)、ベスと咲良ちゃん、みどり以外のLG(レギオン)1年生組。しばらくして、

 

「・・・ごめん、待った?」

 

 茶髪のセミロング、左サイドテール───灯音様だ。

 

「いえ。私たちも丁度今集まったところです」

 

 制服を着た上で、背中には全員CHARMケースの出で立ちだ。これが私たちの休息日の普段の姿である。

 

「では参りましょうか」

 

 今日は灯音様の前々からの希望で、学園(ガーデン)からさほど離れていない、居住区がある海沿いの水族館に行くことになっていた。ここは居住区でもヒュージの出現しやすい場所であり、小規模エリアディフェンスの唯一海岸沿いに設置されているところでもある。

 

「わあ・・・」

 

 到着するやいきなり展示水槽の前にかぶりつく灯音様。

 私自身も水族館は久しぶりなので少しテンションが上がっていたりする。かつて駿府方面には大好きなカエルが展示してある水族館があったそうだ。

 もし駿府方面が沒落していないのであれば間違いなく行っていたと思うし、いつかアルケミラから外征要請があれば絶対に参加したいと思う。

 

「私さ、リリィじゃなかったら水族館とか動物園の飼育員になりたかったんだよね」

 

 灯音様は普段は口数が少ないが、こと動物やカワイイものになると途端に早口になる所謂カワイイものオタクだ。

 

「湯河原には水族館なかったから、鎌倉か駿府に出ないと見れなかった・・・んだけど、駿府は・・・もう・・・」

 

 テンションが高かった灯音様が急に落ち込んでいつもの灯音様に戻ってしまった。

 琴乃様との話を聞いた後、少しだけ灯音様にも過去の話を聞いたのだが、灯音様が中等部セレクションで百合ヶ丘に編入して少し経った後、駿府方面の戦いで沒落してしまった、と聞いた。

 

「え?」

 

 表情を変え、急に険しい顔になる灯音様。

 

「・・・海からヒュージが・・・来る」

 

「どういうことです?」

 

「そのまんまの意味だよ・・・まさかと思って・・・普段付けてないサーチャーにして・・・正解だった」

 

 サーチャー?

 よく見ると、普段サイドテールにしている髪飾りの色がいつもと違っていた。ヒュージサーチャーはCHARM同じく様々な形があるが、初めて見る形だ。

 慌てて表の海岸へ出る。が、姿は見えない。

 

「ヒュージなんて見当たりませんわ」

 

「いや・・・」

 

 言いながらレアスキル───鷹の目を発動させる。というか、ヒュージサーチャーの感度は一般的に半径200m前後が一般的とされているが・・・。

 

「ミドル級だけど・・・いる。ただ・・・かなり遠いから・・・実害が出るまでは・・・どうかな・・・」

 

「そうだ」

 

「どうしたの明日香ちゃん?」

 

 突拍子もないことを思いついてしまった。

 

「ねえ?その・・・見えないヒュージを誰が最初に撃つか競争しよっか?レアスキルなしで」

 

「え・・・?」

 

「そんなの・・・明日香さんが勝つに決まってるじゃありせんか。卑怯ですわ!」

 

「もちろん・・・私もサブスキルは使わないわよ?これなら文句ないでしょ?灯音様はどうします?」

 

 無意識なので使っているという自覚はないが、もしそうなったとしてもわざと外すという選択肢もある。この場にみどりがいたなら真っ先に乗ってきそうだ。

 

「・・・いいよ」

 

 私たちリリィならでは、の楽しみ方なのかもしれないが、できるなら、こんな形で楽しみたくはない。

 

「じゃ私からいきます!灯音様、位置は・・・」

 

 最初に名乗りを上げたのは珍しく咲良ちゃんだった。

 

「えっと・・・」

 

 再びレアスキル発動。

 

「あ・・・だいぶこっちに近づいてきてる・・・いや、それどころじゃない・・・円、準備できる?」

 

「あ、はい!」

 

 慌ててCHARMを構える円。

 

「どういうことですか?」

 

「進行速度が・・・普通のヒュージより早い・・・縮地・・・とまでは・・・言わないけど」

 

 特型、か。

 

「場所は・・・そのまま正面で大丈夫」

 

「分かりました」

 

 円がCHARMを構え、レアスキルを発動する。天の秤目───ミリ単位で遠くの物の位置を把握できる。が、どうも円の様子がおかしい。

 

「あの・・・動きが・・・」

 

 

 

 

 

(は、早い・・・)

 

 灯音様に言われて慌ててアステリオンを構えたものの、早い上に動きが左右ランダムなため捉えられない。

 

(ど、どうしよう・・・)

 

 マギが勿体ないけど、もうこれは動きを予測して一発で決めるしかない。

 

 バンッ!

 

 様子見でまず1発。

 

(だよねぇ・・・)

 

 案の定外れた。動きが予想できない分どうにもやりようがない。

 

 パンッ!

 

 もう1発。まただ。

 

「どう?」

 

 明日香ちゃん・・・1発で決まらないよ?

 

「あのね・・・ヒュージの動きが左右ランダムに動きながら下ってるの・・・だから睨んでも据えられられなくて・・・」

 

 明日香ちゃんは少し考えて、

 

「ねえ円、私でも見える範囲にいる?」

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ・・・2人で一斉にやろうってこと。それでもダメならみんなしてやれば」

 

 そうだった。明日香ちゃんはそういう考えをするんだった。

 

 

 

 

 

 

 特型、か。

 私も自らのCHARM───タングズニルを取り出しシューティングモードにして照準を睨む。正直全く見えていないのだが・・・カンに頼るしかない。

 まさかとは思うが、目に見えないヒュージ・・・なんてことはないか。現に灯音様には見えている。

 

「もうちょっとしたら・・・多分見えてくる・・・と思う」

 

 円にしては珍しく自信のない発言。

 当たって砕けろ、だ。

 

 パンッ!

 

 試しに1発。

 

「待って・・・そんな闇雲に撃っても・・・意味は・・・あれ?」

 

「どうしました灯音様?」

 

 灯音様が何かに気が付いたようだ。

 

「でも・・・まさか・・・」

 

 灯音様がCHARMを構える。

 

 パンッ!パンッ!

 

 無言で撃ち始めた灯音様。

 

「どういうことですの?」

 

「・・・思ったとおりだ。円、明日香、ド真ん中で大丈夫」

 

 なるほど・・・そういうことか・・・。

 

「え?どういうこと?」

 

「いいから灯音様のいうこと聞いて撃って!」

 

「どういうことですの?」

 

「みんなも私と同じ位置でお願い!総当りすればなんとかなるはず」

 

「えっと・・・」

 

「あのヒュージ・・・って言っても今見えないけど・・・初花様みたいなことをやってるってこと」

 

 つまり、このヒュージは動いているように見えて実際は動いていない、ということだ。

 

「無駄口言ってる暇はない・・・」

 

「あ、そうですね・・・」

 

 そうだった。いくらミドル級とはいえ、実害が出ないとも限らない。

 

「残り300mぐらいまで来た!明日香ちゃんこれなら見えるはず・・・」

 

 よし、チャンスだ。改めてCHARMの照準を睨む。問題はヒュージの本来の位置がどこか、だ。やはりカン、か。

 

 パンッ!

 

 おそらくここだ!と思うタイミングで撃つ。

 

「やった・・・」

 

「明日香ちゃんやっぱりすごい!」

 

 ・・・どうやら撃ったらしい。今回は()()()意識したのでサブスキルと思われる能力を使わなかったらしい。

 

「よかった・・・」

 

 

 

 

 

 

 どうやらヒュージはミドル級1体だけだったらしく、特に被害らしい被害もないので、そのまま継続することになった。

 一通り回り、さあ百合ヶ丘に戻ろう、となったときのことだ。

 

「ごめん・・・明日香・・・ちょっと、いい?」

 

 灯音様から声をかけられる。

 

「何でしょう?」

 

「百合ヶ丘に戻る前に・・・ちょっと・・・話がしたい」

 

 話?なんだろう・・・と思ったが、いつかの琴乃様のときのことを思い出した。

 

「ごめん。みんなは先に戻ってて。ちょっと用事ができたわ」

 

「わかりましたわ。灯音様も早めにお戻りくださいまし」

 

「じゃ後で。ごきげんよう」

 

 みんなと別れ、場所を移動する。

 

「あの・・・あのときの話・・・ですよね?」

 

「よく・・・覚えてるね。そうだよ」

 

 やはりそうだった。琴乃様と話をしたとき───

 

『私も・・・初等科は・・・アルケミラ女学館にいたからね。いろいろあって中等部に上がるタイミングで・・・百合ヶ丘に編入してきたけど・・・』

 

 と振られたことだ。

 

「まず・・・先に・・・なんで私が・・・カワイイものが好きになったかって話」

 

 海岸を眺めつつ、こう呟く。

 

「アルケミラってさ・・・海と山が一緒にある・・・百合ヶ丘みたいなところなのは・・・変わらない・・・だから・・・かな・・・自然に触れる機会も多かったから・・・動物とかが好きになるのは・・・自然な流れだよね・・・」

 

 動物が好きなのは今日の灯音様を見ていればわかる。

 

「アルケミラにいたときは・・・今みたいに・・・こんな喋りじゃなかった・・・のは知ってるよね?」

 

「ええ。直接聞きましたから」

 

「そのときはまだ・・・もっと明るい性格だった。今の明日香みたいに・・・言うことはハッキリ言って・・・だから琴乃とも・・・仲良くなれた・・・けど・・・」

 

「ヒュージですか?」

 

「そう・・・倒した今でも後悔してる・・・自分が・・・あんなムチャさえしなければ・・・って」

 

 普段滅多に表情を変えない灯音様が表情を曇らせる。

 

「でもそれって琴乃様と知り合った後ですよね?一体何が・・・」

 

「当時の私は・・・今でもそうだけど・・・特にレアスキルが特異点なわけでもない・・・ごく普通のリリィ・・・」

 

 確かに灯音様のレアスキル───鷹の目は最前線で戦うためのスキルではない。それが足かせになるとは思えないのだが・・・。

 

「ちょうど・・・訓練中だったんだよ・・・LG・・・いや、予備隊編成のために基礎的なテクニックを教わっていた最中だった・・・」

 

 

 

 

 

 

 あれはちょうど琴乃との一件が終わって一ヶ月経ったぐらいだった。

 指導官立ち会いの訓練中で、たまたま百合ヶ丘の外だったため、そのとき居合わせたリリィでヒュージ討伐をすることになったのだ。

 

「訓練は一時中止。上級生が来るまでの間、私たちだけで食い止めます。希望者は前へ」

 

 真っ先に手を上げたのは当時の私だった。

 

「大丈夫灯音?あなたは前衛向きじゃないわ」

 

 京夏が心配するも、

 

「大丈夫大丈夫。これぐらいだったらなんとかなるって!」

 

 当時の私は怖いもの知らず、と言ってもいいぐらい自信に満ちあふれていた。

 

 まずは現在の状況を確認するためにレアスキルを発動。

 

「えっ?」

 

「どうしたの?」

 

 状況は想像していたものよりひどいものだった。

 

「うそ・・・ケイブが・・・3つ!?」

 

 幸いラージ級はいなかったが、中等部の私たちの実力ではミドル級ですらやっとなのに、それが5体、いや6体もいる。

 

「指導官!今の状況だとここにいる全員で食い止めが出来るかどうか・・・」

 

「天の秤目持ちのリリィはケイブの破壊を。レジスタ持ちのリリィは各リリィにかけるように」

 

 ここで私がおとなしく下がってサポートに回ればよかったのだが・・・。

 

「はああああああああっ!」

 

 当時の私は何を思ったのか、ミドル級に真っ先に向かっていた。

 

 キンッ!キンッ!

 

 ブリューナクを振りかざし、なんとかミドル級の1体を倒そうとする。

 レジスタのおかげで普段よりも動きやすくなっていた。

 

 キンッ!キンッ!

 

 が、ミドル級にはかすりもしない。

 

「このっ!」

 

(なんで入らないの?私の実力が足りないから?)

 

 その相手が特型だと気づくのにかなり時間がかかっていた。

 

「違うよ灯音!こいつ特型だよ?」

 

「え・・・どういう・・・」

 

 そのときだ。

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 不快な音とともに強烈な頭痛が私を襲う。

 

「どうしたの灯音?」

 

「頭が・・・頭がああああああああああああああああ!」

 

 しかし、異常を訴えているのは私だけで、他のリリィは何でもない。鷹の目持ちのリリィが当時クラスで私だけだった、というのもあったが、そこが盲点だった。

 そのまま私はその場にしゃがみ込む。

 その後も症状は収まらないまま、その特型ヒュージが倒れるまで続いた。そして───

 

「直った・・・なんだったんだろう?」

 

 その時はただのヒュージの攻撃か何かだろうと思っていた。

 

「ねえ京夏?初花、琴乃は今どこに・・・」

 

 言葉を続けようとしたが、

 

「うっ・・・」

 

 激痛が走り、目の前が点滅し始めた。

 

(何!?何が起きてるの?)

 

 私はわけもわからず、またその場にうずくまってしまった。そして、

 

 パアアアアアアアアアアア・・・

 

(指輪が・・・)

 

 点滅した、と思い見た・・・までの記憶はあるが、それ以降は覚えていない。

 私が気がついたときには医務室のベッドの上だった。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・じゃあ・・・」

 

「そう・・・あの時私が・・・ムチャするな・・・って言ったのは・・・私と・・・同じ過ちを・・・して欲しくないから・・・」

 

 灯音様のこの喋り方は、自然になったものではなく、ヒュージによってもたらされた後遺症だったのだ。

 

「感情を顕にすれば普通に喋れるよ?けど、疲労がすごくて・・あっ・・・」

 

 途端に灯音様の表情が曇る。

 

「ムチャはしないでください」

 

「ありがとう・・・明日香・・・」

 

 灯音様は続ける。

 

「結果的に・・・ケイブと・・・ヒュージは・・・私たちだけでなんとかなったよ?けど・・・」

 

「・・・」

 

「私の・・・この症状は・・・医学の持てる力を以てしても・・・どうにも・・・ならないって・・・」

 

 普段見せることがない灯音様の涙。

 

「いつだったか・・・明日香が・・・特型ラージ級相手に・・・フィニッシュショット通らなくて・・・最後・・・突っ込んだでしょ?」

 

 敵討ちのときだ。

 

「はい」

 

「あのときは・・・私の二の舞に・・・なるんじゃないか・・・って・・・すっごい心配だった・・・」

 

「ははは・・・すみません・・・あのときは敵討ちに夢中だったので・・・」

 

「けど・・・後で理由を聞いて・・・納得した・・・。だから・・・明日香がムチャしたときも・・・私は・・・京夏のサポートに回ったんだよ?」

 

 灯音様・・・。

 

「だからお願い。ムチャなことだけは・・・しないで欲しい。誰かが犠牲に・・・」

 

「なんかさせません!絶対」

 

「明日香・・・」

 

 そして灯音様は涙を拭い、こう言ってくれた。

 

「絶対、みんな最後までいよう。ヒュージは・・・なくならない・・・かもだけど」

 

「ですね」

 

 

 

 

 

 

「灯音様に・・・そんな過去が・・・」

 

「ちょっと・・・ショックだった。元々そういう喋り方だと思ってたから・・・」

 

 天上の間。

 みんなには話しておいたほうがいいだろう、ということで真実をありのまま語った。

 

「にしてもヒュージって何でもありですわね・・・許せませんわ・・・」

 

「ねえ、今度の休息日、灯音様誘って吉祥寺のほう行こう明日香ちゃん」

 

 吉祥寺・・・か。確かあの辺りは神庭女子の討伐担当エリアのはず。神庭女子・・・か・・・。高嶺様に久しぶりに会いたくなってしまった。

 宮川高嶺───私と同じ御台場女学校にいた、同じレアスキル持ちだ。お台場迎撃戦では船田姉妹とともに最前線で戦っていた。同じ予備隊メンバーで幼なじみの今叶星様と一緒に神庭女子に編入、現在はLGグラン・エプレの副隊長だとか。

 

「別にいいわよ。ただ灯音様が乗ってくれるかな・・・連絡はしてみるけど・・・」

 

「そういえば・・・このところ咲良さん見ませんわね。どこで何を・・・」

 

「ひゃああああ!」

 

 咲良ちゃんの声?

 

「あら・・・ウワサをすれば・・・ですわ」

 

 以前も似たようなことがあった気がしたが、今日はなんだろう?

 

「なあ・・・いいじゃんー付き合ってよー!」

 

 ・・・みどり?よく見ると咲良ちゃんを追いかけ回している。

 まったく・・・あのバカは何やってるんだか・・・。

 はあ・・・ため息の後、レアスキル発動。

 

「明日香!?な、なんか用?」

 

 突然私が現れてビックリしている。

 

「ちょっとこっちいらっしゃい。咲良ちゃんもね」

 

「あだっ!」

 

 私たちの近くに呼んだ後、真っ先にみどりの頭を背中流しの桶で叩く。

 

「で、咲良ちゃん追いかけ回して何してたの?」

 

「そ、それは・・・あたしの課題を手伝ってもらおうかと・・・」

 

「あー!」

 

 後ろから円の声。ビックリした・・・。

 

「ゴメン私もだ・・・明日香ちゃん手伝ってー!」

 

「2人とも自分の力でね」

 

「えー・・・」

 

「えーじゃありません。もしかして・・・2人とも後回しにするタイプ?」

 

「う・・・」

 

 そのものを言われ、固まるみどり。

 

「わ、私は違うよ?たまたま忘れただけで・・・それより明日香ちゃんとベスちゃんはどうなの?」

 

「ざーんねん。私は御台場にいたときに中等部にいても取れる単位取っちゃったからねー。だから半分復習してるみたいな感じかな」

 

 講義には出ているが、もしこれが百合ヶ丘と提携関係があったならある程度は免除されていたかもしれない。

 

「わたくしもですわ。メルクリウスと百合ヶ丘は提携してますから、履修した分は免除されてますの」

 

「う・・・成績優秀・・・うらやましい・・・」

 

 うなだれる円。

 

「手伝うのは手伝うけど・・・基本は自力でね」

 

「明日香ちゃーん・・・ありがとうー」

 

 円が私に抱きついてきた。

 

「あ・・・こら・・・!」

 

「じゃあ・・・私はこれで・・・」

 

 そして1人その場から離れようとしているのを私は見逃さなかった。

 

「咲良ちゃーん?」

 

「・・・はい?」

 

「なーに1人抜けようとしてるのかなー?」

 

「ははは・・・」

 

 

 

 

 

 

「お待たせ・・・」

 

「ごきげんよう灯音様」

 

 休息日。慣れているとはいえやはり鎌倉から都心は遠い。待ち合わせの駅に着いたが、道中有事かなにかと思われたのか、ジロジロ見られるし・・・。

 都心郊外は初めて来たが、なんというか・・・鎌倉とまた違った雰囲気だ。私の住んでいた地域ともまた違う。日の出町のときは初めての外征任務で景色なんて楽しむ暇がなくてよく覚えていない。今日は楽しんでいきたい。

 

「よく・・・この辺来ようなんて・・・思ったね」

 

「円の提案で・・・ってちょっと!」

 

「あ。灯音様早く行きましょうよー」

 

「ちょっと円さん引っ張らないでくださる?」

 

 珍しく円がはしゃいでいる。そんなに珍しいところではないはず。

 

「出かける前に調べたんだー・・・そしたら・・・うわっ!」

 

 ドンッ!

 

 余所見をしていたからか、通行人とぶつかってしまった。

 

「ごめんなさい!」

 

 慌てて謝る円。

 

「すみません。大丈夫で・・・高嶺様?」

 

 まさかこんなところで会えるとは。制服のせいか、御台場のときとは大分雰囲気が違って見える。

 

「あら?久しぶり」

 

「わあ・・・高嶺様だ!ご無沙汰してます」

 

「そう・・・よかったわ」

 

「明日香ちゃん知ってるの?」

 

「知ってるもなにも・・・私の先輩リリィよ。中等部時代いろいろ助けてもらったわ」

 

 そして、私のレアスキル───ゼノンパラドキサ───の恩師でもある。高嶺様がいなかったら今頃私はお台場はおろか百合ヶ丘にはいなかっただろう。

 

「そう・・・なんだ・・・ごきげんよう。桃乃灯音です」

 

 軽く一礼する灯音様。

 

「あの・・・灯音様はこういう喋り方しかできないので気にしないでください」

 

「そういえば叶星様は?」

 

「なに?もしかして・・・私に妬いてるの?」

 

「ち、違いますよ!その・・・いつも高嶺様と叶星様って一緒にいるイメージがあったので・・・」

 

「そういえば・・・百合ヶ丘に編入したって聞いたけど、本当だったのね。ビックリしたわ」

 

「ははは・・・」

 

「ああそうだ・・挨拶挨拶・・・ごきげんよう。その百合ヶ丘で寮のルームメイトの敷井円です」

 

 円も一礼する。

 

「そう・・・じゃあ、そこでいろいろしてるのよね?」

 

 いろいろって・・・。そうだった、高嶺様はそう言ってからかったりするんだった・・・。

 

「え・・・いろいろ・・・」

 

 それを聞いた円、たちまち顔が真っ赤に。だよねえ・・・。

 

「えと・・・えと・・・」

 

「ダメですよからかっちゃ。耐性のある私ならともかく、今年リリィになったばっかりなんですから」

 

「あら、そうなの?」

 

「明日香ちゃん?」

 

 そして後ろから懐かしい声が。

 

「わあ・・・叶星様だー。お久しぶりです!」

 

「明日香ちゃん、この方も知り合い?」

 

「そうよ。今叶星様。同じ私の先輩リリィで・・・」

 

「叶星は幼なじみなのよ」

 

 と高嶺様が付け足してくれた。

 

「ベス?さっきから静かだけどどうしたの?」

 

 ベスが借りてきた猫のようにすっかり静かなのが珍しい。楓さんのとき以来だ。静かというか・・・冷たい態度、というか・・・。

 

「ごきげんよう。櫻子・(せーぬ)・エリザベス・・・ですわ」

 

「ちょっと・・・なんで静かなのよ。別にあんたとは関係ないでしょうに・・・」

 

 小声で言いながら小突く。最近この行動をよくやっている気がする。

 

「あら?そうでして?それは明日香さんの気のせいですわ」

 

「もしかして・・・またコミュ障に逆戻り?」

 

 その一言を言うや否や、

 

「あーすーかーさーん・・・」

 

 背中のケースからブラダマンテを取り出し、私の喉元にブレードを突き立てようとする。

 

「こーら。ヒュージも出てないのに街中でCHARMを振り回しちゃダメでしょ」

 

 叶星様に怒られてしまった。

 

「ベスちゃんすっかり馴染んじゃったね」

 

「ベスちゃん?」

 

「あーすみません。私と円が彼女のことを普段そう呼んでるんです」

 

「そっか・・・あの頃と変わらないのね」

 

 ニコニコ顔で答える叶星様。あの頃───私がレアスキルに覚醒して半年ぐらい経った頃のことを言っているのだろう。けど、今はその話題に触れてほしくなかった。

 

「ああそうだ。叶星様たち、どこかに向かわれる途中だったんじゃ・・・」

 

「そうだわ。早く学園に戻らなくちゃ。灯莉ちゃんたちが待ってるわ」

 

「そうね。行きましょ、叶星」

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、明日香さん」

 

 最初に口を開いたのはベスだった。

 

「まだわたくしたちに何か隠し事してるんじゃありません?あの態度は明らかにおかしかったですわ!」

 

「え?態度?私にはそうは思わなかったけど・・・」

 

「よくわかったね・・・エリザベスさん。私も・・・ちょっと・・・不自然に思った」

 

 灯音様まで・・・。もう隠し通すのはムリか・・・。けど、それではせっかくの休息日が台無しになってしまう。

 

「せっかくの休息日なのに・・・私の話聞いて気分落ち込んじゃっていいの?それじゃ楽しくないよ?すみません灯音様。せっかくお誘いしたのに・・・」

 

 今思ったことを素直に言う。

 

「それは・・・いいよ・・・明日香。私も・・・気になって・・・きちゃった・・・」

 

「う・・・」

 

 言葉に詰まる私。けど、それでは来た意味がなくなってしまう。

 

「と、とにかく!今日はその話はもうなし!で、さっき円が行きたいところがあるって言ってたけど・・・」

 

「あ。そうだった・・・えっとね・・・」

 

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