アサルトリリィ~もうひとつの物語   作:武士道の犬

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カワイイもの談義・その2

 「どこから話せばいいのかな・・・」

 

 みんなはある程度私の過去については知ってるはずなので、それ以降の話のほうがいいのだろう。

 いつもの足湯。

 

「もったいぶってないで早く教えて下さいな。みなさん過去はさらけだしていますわ」

 

 あれは高嶺様にレアスキルの使い方を指南してもらい半年ほど経った頃だ。

 この頃の私はとにかく訓練バカで、誰かと仲が良かったわけでもなく・・・あ、いや・・・約1名いるが今は割愛、寮と学園、ヒュージ討伐、ビームライフルの練習以外は外出もせずじっとしているようなリリィだった。

 そんな私だったが、唯一普通に友達感覚で接してくれたのは高嶺様、叶星様の2人だけだった。百合に対する思わせ耐性がついたのも高嶺様のおかげと言っていい。

 そこまではまだ良かった。3年生に上がり、LG(レギオン)予備隊を・・・となったときのことだ。東雲予備隊に入り、技術面では評価されたものの、当時の仲間からは冷たくあしらわれ、メンバーからは『いらない存在』とまで言われ孤立したこと。

 

「・・・」

 

 私が全てを話した後。みんな黙り込んでしまう。

 

「・・・私ってさ、ついてない・・・っていうか・・・友達運がなかったんだろうね。ベス・・・とはまた違うけど」

 

「わ、わたくしのことはいいんですっ!」

 

「ベスちゃん?」

 

「あ・・・円は知らないんだっけ。ベスって元々・・・」

 

「明日香さん?わたくしの過去をえぐるのはやめてくださいます?」

 

「今更隠したってしょうがないでしょ・・・自分で『みなさん過去はさらけだしていますわ』って言っといて、出してないのベスじゃん」

 

「じゃ・・・私も。ホントは百合ヶ丘受けるつもりじゃなかったんだ・・・。リリィになりたかったわけでもじゃないし・・・。あ、今は違うよ?リリィになってよかったって思ってるし。これでおあいこだよベスちゃん?」

 

 観念したのか、

 

「・・・わかったわよ。言えばいいんでしょ言えば!」

 

「ベスちゃん!?え?え?」

 

 円が混乱している。口調までさらけ出すことはなかったんじゃないか、と思ったが黙っておくことにする。

 軽く咳払いをするベス。

 

「メルクリウスにいたときはこんな・・・言いたいことをもハッキリ言えませんでしたわ。ですが、わたくしをちゃんと認めてくれて・・・友達として見てくださったのは明日香さんが初めてでしたわ」

 

「出会いは最悪だったけどね。私にケンカ売ったの誰だっけー?」

 

「・・・明日香さん、絶交しますわよ?」

 

「そっか・・・私たち、もうそんな経つんだね・・・」

 

 出会って5ヶ月近く。LGの友好関係は非常に良好だ。私個人としては最近京夏お姉様と会う機会が減っているのは少しさびしい。

 

 

 

 

 

 

「・・・妹に付き合ってあげなくていいの京夏?」

 

「いきなりなんの話?」

 

 寮での会話。

 

「最近会えてないって、寂しがってたわよ明日香」

 

 このところの私は競技会の準備に追われていて、それどころではなかった。

 

「・・・わかってるわよ。言われなくても。けど───」

 

 窓を眺めながら、

 

「今のあの子たちを見てると、昔の私たちに見えちゃって・・・。今はそっとしておいてあげたほうがいいのかなあ・・・なんて」

 

「そうね・・・」

 

 中等部に上がって、灯音に出会って、その後琴乃にも出会って。琴乃は・・・まあ・・・最初は大変だったけど、すぐ仲良くなれて。明日香たちも今が一番楽しいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 戦技競技会の前日。休息日となったのでたまには・・・と、1人で久しぶりにお台場近辺まで来た。馴染みのカエルグッズが置いてあるお店もある。実は円も誘ったのだが『ごめーん、咲良ちゃんと約束しちゃった』と言われ断られてしまった。

 

「あら、尾上さん。ごきげんよう」

 

 後ろから声をかけられた。

 黒髪にツインテール、黄色い目をしたリリィ・・・。一番会いたくなかった子が。

 

「・・・私になんの用ですか。鬼頭さん」

 

 鬼頭天音・・・。私を御台場から追い出した張本人だ。ウワサだが高等部に上がり、ロネスネスのメンバーになったのだとか。

 

「連れないですわ・・・せっかく感動の再会なのに。随分と冷たいのね」

 

 と舐め回すように私のほうを見る。

 

「誰のせいで・・・」

 

 落ち着け・・・今ここで問題を起こせば学園間の問題にもなりかねない。だが、

 

「まあそれはいいわ。敵に塩でも送りに来たの?(もみじ)様たちとは大違いだわ」

 

「あんたには関係ないわ」

 

 私はただ遊びに来ただけだったのだが、彼女と会ったせいで気分は最悪だ。さっきから私を挑発するかのようなことばかり言ってくる。

 

「にしてもウワサは本当だったのね。あなたが百合ヶ丘だなんて・・・全然似合いませんわあ・・・」

 

「・・・だったら何?私がどこ行こうが勝手でしょ」

 

「そう。まあそれはいいわ。あなたがいなくなってくれたおかげで私はロネスネスに入ることができた・・・感謝しているわ」

 

 なっ!あんたは・・・!最後の一言で私の中の堪忍袋の緒が切れた。

 

「ふざけるなああああああああ!」

 

 背中ならCHARMを取り出し、天音の喉元にタングズニルのブレードを突きつける。

 

「あら、わたくしは何もしてませんわよ?あなたが勝手に出ていったまでの話ですわ」

 

「誰のせいでこうなったと思ってるの!誰のせいで・・・何をしても許されるとでも思ったの?さんざん私で遊んでおいて!リリィ・・・いえ、あんたは人として最低よ!」

 

「おー怖い怖い・・・前々から野蛮な人だと思ってましたが・・・百合ヶ丘でますます野蛮になったのかしら?」

 

「あんたもCHARM出しなさい!ここで勝負よ!」

 

 

 

 

 

 

 LG代表会議に休息日も何もない。その帰りのことだ。

 明日香!?ちょっと何してるの!御台場のリリィと揉めてる!?

 慌てて止めにかかる。

 

「明日香!何してるの!やめなさい!」

 

 目には涙。いつもと違うのは寂しそうな表情ではなく、怒りに満ちているということ。ライバル関係?

 

「許さない・・・あんただけは、絶対!」

 

「いいから離れなさい!」

 

 怒鳴るもまったく声は届いてないようだ。とにかく止めなければ・・・!

 レアスキル発動!明日香の手を掴み、その場から離す。

 

「京夏お姉・・・様?・・・ごめんなさい・・・!」

 

「たまたま通りかかったの。何があった・・・」

 

 が、その場に明日香はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 レアスキル発動!今一度天音のところへ。

 

「待ちなさい明日香!」

 

 ごめんなさい、京夏お姉様・・・今だけは見逃して・・・。

 

「はあああああああああ!」

 

 ようやく天音もその気になったのか、アステリオンを取り出す。

 

 キンッ!キンッ!

 

 戦術は前と変わっていないらしい。これなら勝機はある。と言っても公式な手合わせではないのでルールも何もあったもんじゃないのだが。

 

「あら、前より強くなったのね。けど・・・感情的になるのは相変わらずだわ尾上さん!」

 

 天音のクセは把握している。以前の私なら分かっていてもそこで踏み込めずに負けていた。でも今は違う!

 

 少しずつ間合いを詰めていく。

 

 キンッ!キンッ!

 

 天音は踏み込むときに一旦タイミングを取ってブレードを振りに来る。大立ち回りのときは特にだ。

 

 キンッ!

 

「はっ!」

 

 実力は私とほぼ互角だと思っている。そして───

 ほんの少しだが大立ち回りのタイミング取りで右足を曲げた!

 私はそのタイミングを見逃さなかった!

 

「これで・・・最後!」

 

 おそらく天音は寸止めする・・・と思ったのだろう。だが私は違った。

 

 ザッ・・・

 

 CHARMを下から上へ、ではなく腹部を突き刺す。

 

 ツツ・・・

 

「う・・・」

 

 その場でうずくまる天音。まるでスローモーションを見ているかのようにうずくまったままその場に倒れ込む。

 ブレードの先端には天音の血が。・・・血?

 

「私・・・何を・・・え・・・うそ・・・」

 

 私が落ち着いたときには、自分のしたことが信じられなくてただ呆然としていた。

 

「う、ううっ・・・ううっ・・・」

 

 いくら恨みを持ってたとはいえ、リリィを傷つけていい道理にはならない。

 

「私・・・なんてことを・・・」

 

 その場でしゃがみ込み。頭を押さえてうずくまる。

 

「明日香!」

 

 京夏お姉様に呼ばれた気がしたが、途切れ途切れでしか記憶がない。

 

 

 

 

 

 

「ええええ!?明日香ちゃんが謹慎!?」

 

「どういうことですのそれ!」

 

 私も信じたくはないのだが・・・LGの隊長としての仕事はしなくてはいけない。

 

「御台場のリリィとの非公式での手会わせ、それと相手に怪我を負わせたからよ。今回の処分は私がたまたま通りかかったからそれぐらいで済んだけど、もしいなかったら身分を剥奪されてたかも・・・」

 

 身分剥奪───それはリリィにとって死に等しい。そうならないために私は明日香をかばって嘘の申告をした。もちろん相手もそれは了承済だ。

 つまり、私が判定人で手合わせ中に明日香が不注意で相手のリリィに怪我を負わせてしまった。ということになっている。

 

「京夏様は止めに入ったんですよね?だったらどうして・・・」

 

「もちろん相手からはすぐに引き離したわ。けど、引き留められなかった・・・これは私の責任よ・・・」

 

 みんなの前で頭を下げる。

 

「頭をお上げください京夏様。京夏様は悪くないですわ。確かに最近明日香さんとわたくしたちの会話とでひっかかることはありました・・・それと何か関係が・・・」

 

「それは私にもわからないわ。面会のときに聞いてみるけど・・・言って話してくれるのかしら・・・」

 

「明日香さん・・・予備隊のときに冷たくされた、とは伺ってはいますが・・・まさかそれが・・・」

 

 そう考えるのが普通だろう。単なる逆恨み?

 

「私も・・・それは・・・聞いたよ。でも、本当の理由は・・・そこじゃないのかも・・・」

 

 ただ、あのときの明日香の態度は・・・尋常ではなかった。これは面会時間中に聞くしかないだろう。

 

 

 

 

 

 何も、ない。

 目の前に見えるのはベッドと周り一面壁・・・。外の景色すら見ることができない。

 その空間の中で私はただぼーっとすることしかできなかった。

 リリィの留置場に送られなかっただけマシだった、と思えば幸せなのだろう。けど、天音を手にかけようとしていたことには変わりない。

 

 スッ・・・

 

 突然謹慎室の扉が開く。

 京夏お姉・・・様?どうしてここに・・・。

 

「誰とも会えないんじゃ・・・」

 

「守護天使の特権。って言っても話せるのは10分ぐらいだけどね」

 

「あの・・・私・・・」

 

 京夏お姉様は私を無言でそっと抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 

「私のこと・・・かばってくれたんですよね?私のしたことは・・・こんな程度で済まされないのに・・・」

 

「・・・そうね。それと鬼頭さん。深い傷ではなかったそうよ」

 

「そう・・・ですか・・・よかった・・・」

 

 明日香はホッと胸を撫で下ろしている。

 

「・・・ねえ明日香。一体・・・昔御台場で何があったの?私に話してくれない?」

 

「どうしても・・・言わなくちゃ・・・ダメ・・・ですか?」

 

「そうね。明日香・・・守護天使(シュッツエンゲル)・・・姉である私には包み隠さず全てを話してほしい。明日香・・・いえ、私たちのためにもね」

 

 30秒ほど考えた後、

 

「1年前・・・私は天音・・・鬼頭天音に騙されたんです。だから・・・許せなかった。もちろん自分がしたことの重大さは分かってます」

 

 鬼頭天音───LGロネスネス所属らしい。明日香の次に期待されていたリリィであったことには変わりない。

 

「騙された?」

 

「はい・・・。御台場がG.E.H.E.N.A.の実験場にされているんじゃないかって話は京夏お姉様も知ってますよね?」

 

「ええ。有名な話ね」

 

「その実験体らしいヒュージが出て・・・討伐をするときに・・・彼女は私に嘘の情報を教えたんです」

 

 良識あるリリィとは思えない行動。

 

「もちろん討伐は成功しました。けど・・・私はその討伐には間に合わなかった。当時のリーダーからはサボった、とかやる気がない、とか散々言われて・・・。それも1度や2度だけじゃない・・・それで我慢できなくなって彼女に文句を言ったんです。それが・・・事の始まりでした・・・。予備隊メンバーに話かけても無視・・・それを注意するリリィすらいない。私は・・・その頃から予備隊の中では1人になってました。もう・・・ここにいないほうがいいんじゃないか・・・って。それが私が百合ヶ丘に来た本当の理由・・・です・・・」

 

 イジメの典型的なパターンだ。そうか、逃げるためにここへ・・・。

 

「久しぶりに天音に会って、あんなこと言われて・・・ついカッとなって、我を忘れてあんな・・・リリィ・・・いえ、人として最低な・・・。京夏お姉・・・いえ、京夏様。私と・・・守護天使(シュッツエンゲル)の契りを解消してください」

 

 私は再び明日香を抱き寄せる。

 

「・・・バカね。その程度で私が守護天使を解消するとでも思う?」

 

「え・・・?」

 

「私たちが仲が悪くなったわけじゃないでしょ?友達だったらケンカはして当たり前。違う?」

 

「けど・・・!」

 

「ただ、ケンカのやり方としては褒められたものじゃなかったわね。私、前も言ったわよね?もう少し大人になりなさいって」

 

「はい・・・」

 

「もう一度言うわ明日香。もう少し大人になりなさい。また同じようなことを繰り返すようだったら・・・本当に守護天使は解消します。いいわね?」

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・うちの妹は問題抱えすぎね・・・。ホント誰かさんみたいだわ・・・」

 

 謹慎室を出て一言。明日香はどこまで私そっくりなんだか・・・。州盧美(すのみ)お姉様と守護天使を結んだ直後はとにかく手合わせ外でケンカばかりしていた気がする。仲裁に入った指導官を殴ったこともあった。今回の明日香みたいにリリィに手をかけようとまではしなかったが。

 同じ頃、ラーズグリーズ、こと一柳隊では、リリィとしてではなくヒュージとして扱われた結梨ちゃんをかばい逃走した、として梨璃ちゃんが「形式上」謹慎処分になっていた。その結梨ちゃんは今はもう・・・。

 

「で、京夏ちゃん。どうするつもりなの?まさか話聞いておしまい!じゃないでしょ?」

 

 入り口で待ってくれていた琴乃がひとこと。

 ロネスネス、か。実は知り合いリリィが1人もいなかったりする。謹慎期間中は携帯端末でも明日香と連絡は取れないし・・・。

 

「まさか。けど連絡先を聞かなかったのは失敗だったわ・・・」

 

「失敗じゃありませんわ」

 

「エリザベスさん・・・」

 

「その・・・失敗じゃないって、どういう意味?」

 

 

 

 

 

 

「まったく明日香さんは一人で問題を抱えすぎですわ!」

 

 LGメンバーに事の次第と明日香から聞いたことを最初から説明し直した。

 

「ちょっと偶然すぎるかな・・・って気がするけど・・・」

 

「ホントそいつバカなんじゃないの?それ、自分の目先だけのことしか考えてないじゃん・・・」

 

「みどり。明日香がいたなら怒られてるわよ」

 

 と軽く小突く。

 

「うげっ・・・」

 

「相手の・・・鬼頭さんはどう思うかわからないけどね。で・・・問題は・・・どうやって手合わせを取り付けるか、なのよね・・・。明日香がいれば知り合い多いだろうから簡単なんだろうけど・・・」

 

「それでしたら・・・高嶺様たちにお願いするのがよろしいかと」

 

「高嶺様?」

 

「ええ。この間休息日に吉祥寺へ明日香さんたちと行きましたときに、偶然明日香さんの中等部時代の先輩リリィにお会いしまして。その方経由でしたらなんとかなるのではないかと・・・」

 

「ありがとう。助かるわ」

 

 高嶺・・・高嶺・・・どこかで聞いたことがあるような・・・。あ・・・。

 もしかして、あの船田予備隊の・・・。けど明日香とはどういうつながりなのだろう?

 

 

 

 

 

 

「ホント、バカな子・・・わざわざ自滅しに来るなんて・・・」

 

 東雲予備隊。当時の予備隊格付けではAランクだった。その中でも特に評価が高かったのは隊長でも私でもなく、尾上明日香・・・あの子だった。

 それが悔しくて私はあのとき嘘の情報を彼女に教えた。手合わせでワザと負けている、というウワサを流したのも私だ。だが、実際ウワサではなかったようだが。

 その後私は純様たちに高く評価され、あこがれのLGにようやく入れることになった。今思えば幼稚で卑劣な手段だ、というのはわかっている。

 

 ピピピ・・・

 

 槿様からだ。なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 謹慎室を出る際、タイミング違いで一柳さんも謹慎処分になったことを知る。「形式上」ヒュージ(と認定された結梨ちゃんを)をかくまい逃亡した、ということで表向きの処罰だそうだ。

 

 ガチャ・・・

 

「明日香ちゃああああああああああん!」

 

 真っ先に向かって来たのは円だった。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 会うなりわんわんと泣き叫ぶ。

 

「どうして教えてくれなかったの?いつでも相談に乗るのに・・・」

 

「ごめん・・・円・・・」

 

 円を落ち着かせ、ソファに座らせる。一方のベスは黙って私のほうを見ている。

 

「ほーら。エリザベスさんも何か言ってあげなきゃ・・・」

 

 初花様に言われ、仕方ないですわ・・・といった感じで前に来る。

 

「・・・」

 

 しかし黙っている。そして───

 

 パンッ!

 

 彼女から受ける2度目の平手打ち。前にぶたれたほうと反対からだった。

 

「・・・3度目はないわよ」

 

 目には涙。私を睨みつけるような表情。お嬢様言葉は、ない。彼女は本気で怒っている。

 私は彼女を抱きしめる。

 

「・・・ホント、どっちがワガママなんだろうね」

 

「それはお互い様よ・・・」

 

 お互い、ぽつりと呟く。気がつけばこんな軽口を叩ける仲にまでなっていた。

 

「明日香。早速だけど、ロネスネスの昴様から連絡があったわ。手合わせさせたいリリィがいるって」

 

 川端昴様───琴乃様と同じくマディックアカデミー出身だ。唯一違う点は自らの努力でリリィに上り詰めた点だろう。私の尊敬するリリィの1人でもある。

 対戦相手は多分あの子だろう。たとえ恨んだ相手だったとしても私に責がある以上手合わせするわけにはいかない。

 

「お断りします・・・って言ったらどうします?京夏お姉様」

 

 ため息をして、

 

「そう言うと思ったわ。残念ながら明日香の想像している相手じゃないわよ」

 

「え・・・」

 

 と言って連れてきたのは、

 

「ご、ごきげんよう・・・」

 

 ニ川さんだった。

 

 

 

 

 

 

「え、ニ川さんと・・・じゃ・・・ないです・・・よね?」

 

 ニ川さんはラーズグリーズ。御台場とは一切関係ないはず。

 

「違うわ。あなたのことをよく知ってるリリィよ」

 

 と言ってニ川さんの持つタブレット端末を指差す。

 そのタブレット端末に表示されていたのは、灰色髪に三つ編みツインテール、頭にはヒュージサーチャーが2つ。私より背が低いことを気にしていたあの・・・。

 

「う、うそ・・・」

 

 思わず口に出してしまった。

 

「私が嘘をついてどうするの。これでも断るつもり?」

 

「い、いえ!やります!」

 

 けど、この時期に私と・・・なぜだろう?

 

「どなたですの?」

 

「お台場迎撃戦で活躍した藤田槿(あさがお)様ですよ!明日香さんの見守り役をされていたのは聞いてましたが・・・」

 

 やや興奮ぎみのニ川さん。というか、わざわざ連れてこなくてもよかったのでは・・・。

 

 

 

 

 

 

 御台場女学校。高等部は初めて入る。本来ならば私がいたはずの場所───なんとも複雑な気分だ。

 

「な、なんか緊張する・・・」

 

「なんで円が緊張するの。当事者は私なんだけど・・・」

 

「まあ、百合ヶ丘とはだいぶ雰囲気が違うようですから、それに呑まれそうになってるんじゃなくて?」

 

「まあ・・・確かに・・・少し殺伐とは・・・してるかな・・・LGの仲でも・・・悪いのかな・・・」

 

 今回の同行メンバーは京夏お姉様、灯音様、ベス、円の4人だ。

 

「それは少し違いますね」

 

 そう声をかけてきたのは───

 

 黒髪ロングヘア、オレンジのヘアバンド───(もみじ)様だ。

 

「ご無沙汰してます」

 

 軽く一礼する。

 

「お久しぶりです尾上さん。百合ヶ丘に編入したとはお聞きしていましたが・・・お元気そうでなによりです」

 

「どなたですの?」

 

「ここの生徒会長よ。ごきげんよう。LGエリューズニルの隊長夏目京夏です。今回はわざわざ学園外の対抗試合を快諾していだきありがとうございます」

 

 椛様に一礼をする京夏お姉様。そして会長、の言葉を聞いた途端硬直するベス。

 

「ま、あのへそ曲がりが「お受けしますわ」と言わなそうだからな・・・」

 

 と、後ろからの声。肩にヘッドホンを下げ、いかにも元気そう!な風貌が川村楪様だ。

 へそ曲がり・・・楪様は純様に相変わらずの態度だなあ、などと思ってしまった。

 

「ゆず、お客様相手に失礼よ。事情は叶星から聞きました。うちの学園の鬼頭天音が失礼なことを」

 

「いえ、私が明日香を止められなかったことにも原因がありますから・・・」

 

 と言い終わったところで、

 

「・・・なーんて、形式上の挨拶はこれぐらいにして、久しぶりね」

 

「ええ」

 

「え・・・二人ともお知り合いだったんですか!?」

 

「昔、個人的にちょっと・・・ね」

 

 それ以上のことは教えてくれなかった。

 

「京夏お姉様。そのことはもういいんです・・・事実は変わりませんから・・・」

 

「お姉様?」

 

 椛様も驚いていた。

 

「な、なんですか・・・楪様。私の顔に・・・何か付いてますか?」

 

「へえ・・・守護天使ねぇ・・・」

 

 楪様が私を見てニヤニヤしている。

 

「ゆーず?」

 

「へいへい・・・わかりましたよ」

 

 椛様が子供を叱るように楪様を諭す。幼なじみっていいなあ・・・。

 

「ところで、今回の件とは関係ないのですが・・・結夢がLGを作ったっていうのは本当ですか?」

 

 やはりその質問来たか。その辺りは蚊帳の外なので黙っていることにする。

 

「ええ。結夢ちゃんがあんなことになって・・・このまま一人になるのかと思ってましたけど・・・」

 

 京夏お姉様はそれ以上のことは言わなかった。

 

「そうですか・・・」

 

「ちょっと、明日香さん・・・」

 

 いつものやつか。

 

「なに?」

 

「椛様と楪様ってどういう関係ですの?」

 

「幼なじみ。京夏お姉様と初花様みたいな?」

 

「ところで・・・藤田槿様はどちらに・・・」

 

 

 

 

 

 

 訓練場に着く前。

 

「へえ・・・高嶺さんが明日香の・・・」

 

「そうなんですよ。ゼノンパラドキサって、私と高嶺様しかいなくてどう訓練してどう鍛えていけばいいかわからなかったので・・・」

 

 京夏お姉様が高嶺様との繋がりを訪ねてきたので答えつつ、現在のお台場のLGの構成について軽く話をしておいた。

 船田姉妹が隊長のロネスネス、生徒会長の椛様が隊長のヘオロットセインツ、弘瀬湊様が隊長のコーストガードの3つだということ。以前は学園の承認制で自主結成LGは認められなかったということも。

 

「御台場って変なところが厳しいんですのね・・・」

 

「まあ・・・そうなのかな・・・でも、今は百合ヶ丘に来てよかった・・・って思ってる」

 

 中を進んでいくうちに、

 

「あー!」

 

 後ろから特徴あるの声。

 

「明日香だーひさしぶりー」

 

 ヘオロットセインツの元気っ娘、河鍋(なずな)だ。みどりはどちらかというと単純バカなのだが、こちらは万事を楽しむタイプだ。レアスキルはファンタズム。

 

「ご、ごきげんよう・・・」

 

 正直言うとこの娘のテンションにはついて行けない。キライな性格じゃないんだけど・・・。

 

「あ、そっか。百合ヶ丘に行くって言ってたもんね。制服違うとすっごい印象変わるー」

 

「そ、そう・・・ありがと・・・」

 

「それじゃねー」

 

 とそのまま行ってしまった。

 

「・・・御台場の方々ってみなさんこんな感じなんですの?」

 

「いや、みんながみんなそうじゃないけどね」

 

「それと・・・その・・・」

 

 ベスが言いづらそうにしている。予備隊のことか。

 

「今の子・・・薺って言うんだけど、あの子は違うよ?だから普通に接してくれるし」

 

「あら尾上さん・・・?」

 

 また声をかけられた。が、

 顔を見て一安心した。

 

「ご無沙汰してます」

 

 と一言。私の格好を見るなり、

 

「百合ヶ丘に編入されたのですね。あちらでの活動はどうですか?」

 

「おかげさまで順調です。まあ・・・その間もいろいろありましたけど・・・」

 

「エリューズニルの夏目京夏です。うちの明日香が大変失礼なことを・・・」

 

 挨拶するなりまずは一礼する京夏お姉様。

 

「頭を上げてください京夏さん。話は天音さんからも聞きました。どうやら元々あまり仲はよろしくなかったようで」

 

「明日香ちゃんこの方は・・・」

 

「船田(うい)様よ」

 

 とは説明したものの、正直(きいと)様だったら目も合わせたくなかっただろう。

 

「槿さんなら訓練室にいますよ」

 

 

 

 

 

 

「なんかすごい感じのいい人・・・」

 

「初様はね。純様だったら目も合わせたくないわ・・・」

 

「誰がわたくしと目も合わせたくないですって?」

 

 ひっ・・・ウワサをすれば・・・。

 紫のロングヘアに蝶の髪飾り・・・。

 

「き、純様・・・ごきげんよう・・・」

 

 ・・・最悪だ。できることなら顔を合わせたくなかった。

 

「あら・・・その制服・・・あなた、百合ヶ丘に行きましたのね」

 

「はい」

 

「今日は何しにお台場に来ましたの?」

 

「えっと・・・今日は槿様と手合わせを・・・」

 

「そう・・・がんばってくださいませ。ではごきげんよう」

 

 それ以上は何も言わなかった。それだけを言って純様も行ってしまった。

 私自身は拍子抜けをしている。もっとなにか言われるかと覚悟していたんだけど・・・。

 

「純さんいい人じゃない。楪様がへそ曲がり、とか言ってたけど・・・素直になれないタイプなのかしら?」

 

「多分・・・そうなんじゃないかと・・・」

 

「ツンデレさんはうちにも約1名・・・」

 

 と京夏お姉様はベスのほうをチラチラ見ている。

 

「な、なんのことかわかりませんわ。ほほほ・・・」

 

「・・・心臓止まるかと思った」

 

 今の態度からして純様本人は私のことはなんとも思ってない気がする。

 あのときの台詞は私の思い込みだった、ということでもあるんだけど・・・。

 

「百合ヶ丘でもうちのLGはあまり個性がない、とか言われてるみたいだけどね」

 

「一柳さんのところみたいに個性派ばっかり、が正解なんじゃありません?」

 

「LGは個性で戦うわけじゃないからそこはいいんじゃないかしら?」

 

 と雑談しているうちに訓練室に到着した。中へ入る。

 この雰囲気、中等部時代を思い出す。奥には機械がギッシリ、その周囲を保護する壁が一面を覆っている。

 

「なんか、仰々しいわね・・・」

 

「そう、感じるかもですね。中等部時代はこれが当たり前だと思ってやってたので・・・」

 

 百合ヶ丘と違う点は訓練弾は使うものの、実際のヒュージに近い形の疑似ヒュージが出てくることだろう。今日は一切関係ないが。

 

「久しぶりね。明日香」

 

 相変わらずの・・・口には出さないが私より背が低い。

 

「槿様。お久しぶりです。今日はよろしくおねがいします」

 

 一礼。

 

「叶星から話を聞いたときはビックリしたわ。まさか明日香が百合ヶ丘に入るなんてね」

 

「ははは・・・」

 

「先に言っときますけど、ワザと負ける・・・とかなしですよ?あの頃の私じゃないですから」

 

「随分な自信ね。もちろん手は抜かないわ」

 

「この方が・・・ですの?随分と背・・・」

 

 言う寸前のところでつねる。

 

「いたっ!ちょっと!明日香さん!」

 

 それ言っちゃダメ、と目で合図する。

 

 それを見たベスは『あ・・・』と言った感じで、

 

「な、なんでもありませんわ。ほほほ・・・改めましてごきげんよう。櫻子・(せーぬ)・エリザベスと申します。以後お見知りおきを」

 

「槿さん今日はよろしくおねがいしますね。エリューズニルの隊長夏目京夏よ」

 

「敷井・・・(まどか)です」

 

「ところで明日香。槿さんとは何回か手合わせしたことがあるんでしょ?」

 

「はい。最後は・・・私が予備隊に入る前なので・・・1年半ぐらい前です」

 

 百合ヶ丘のリリィが来ている、というのを聞きつけたのか、ギャラリーがだんだん増えてきた。見に来ている大半がヘオロットセインツの面子だが。ロネスネスは取り付けてくれた(らしい)昴様ぐらいしかいない。

 灯音様は黙って見ている。

 実は槿様との手合わせするにあたってある試みを考えている。せっかく琴乃様に教わっているのに取り入れないのは勿体ない気がしていたからだ。もっともCHARMと長竹刀とでは長さが違うのでそれなりにアレンジはするつもりだが。

 

「それでは・・・始めます」

 

 判定人は灯音様にお願いした。

 

「時間無制限・・・レアスキルの使用は・・・なし・・・危険だと・・・判断したときは・・・止めに入るから・・・」

 

「この子・・・ふざけてるの?」

 

 やはり灯音様の喋り方に反応した。槿様の反応が普通であろう。

 

「あの・・・詳細は割愛しますけど、灯音様・・・こういう喋り方しかできないので・・・」

 

 対ヒュージとの後遺症、ということを伏せつつ槿様に説明する。

 

「気を・・・悪くしちゃったら・・・ごめん・・・これ・・・戦いの・・・後遺症だから・・・」

 

「そう・・・私のほうこそごめんなさい・・・」

 

 CHARMを構える。普段なら右から左に振り下ろすようにするのだが・・・。

 

「あれは・・・琴乃の・・・」

 

 京夏お姉様は気づいてくれたようだ。

 そう───鬼龍院流薙刀術の構え。これは単なるハッタリなのだが、槿様がどう判断するか。

 

「ですわね・・・明日香さんどうされるつもり?」

 

「わかんない・・・」

 

「へえ・・・構え方変えたのね」

 

 予想通りの反応。もしこれがタングズニルではく、琴乃様のフリングホルニだったら結構さまに見えているのかもしれないが。

 「ここまでは」想定通りだ。槿様を欺くわけではないが、どうしても勝ちたい、いや、私の成長を見てもらいたい、そう思ったからだ。

 

「じゃ私も・・・」

 

 槿様も構える。

 

「じゃ・・・いくよ・・・」

 

「はい!」

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