少しずつ間合いを詰めていく。
「そこは相変わらずね」
「クセなんて・・・そうそう変えられませんからね」
久しぶりのこの感覚。私は純粋に楽しもうとしている。
「
「はい」
円にはもっと経験は積んでもらいたいと思っている。そのためには見せるだけじゃなくてこういう機会を設けてあげたいのだが・・・。
「はっ!」
先制は私から。
「下ががら空きっ!」
いつもならここで懐に入り下から上へ・・・と行くが、今日は───私が背中を向き、宙を舞う!そして背後から刺しにかかる。
「くっ・・・」
かわされた。というか、私がミスをした。距離感を掴めていなかったからだ。
「あの技・・・」
「琴乃様と同じですわ・・・まあ教えてもらってるのですから、出来るのは当然なのですけど・・・」
予想外の動きだったのか、
「明日香・・・変わったわね」
「まあ・・・いろいろありましたから!」
キンッ!
従来戦法と鬼龍院流薙刀術を組み合わせる───実戦で使うかどうかはわからない、けど試行錯誤していけば・・・。
こんな感じで勝負がつかないまま30分が経過。
「はあ・・・はあ・・・」
「はあっ・・・はあっ・・・」
「なかなか・・・勝負が・・・つかないわね・・・」
「そう・・・ですね・・・」
やはり槿様だ。実戦経験が違う。そして息が荒い。お互いの体力勝負になってきた。
キンッ!
滅多に体勢を崩すことがない槿様が一瞬よろめいた!
「はあっ!」
卑怯だとは思うがその一瞬を狙って下から上へ。
「ストップ!」
その声がかかるや、
「もう・・・ダメ・・・」
私はその場に倒れ込んだ。
訓練室の隅のほう。
「明日香ちゃん・・・」
円・・・。
「どうしたの?そんな顔して?」
「だって・・・だってえ・・・」
突然泣き出した。
「ちょ、ちょっと・・・なんで円が泣くの・・・」
「お疲れ様。よくやったわね」
お姉様・・・。
「ただ、槿さん・・・体力オバケね・・・。話を聞いたら
え・・・。リリィにはもちろん体力も必要だが、この場合は体力よりも持久力の問題だろう。
「けど、勝ちは勝ちでしょ?素直に喜びなさい。立てる?」
「はい・・・」
立ち上がり、訓練室の外へ。
「鬼頭さん、拘束されたわ」
「え・・・」
「明日香には黙ってたけど、彼女・・・以前からある疑惑がかかっていたのよ」
どういうことだろうか?
「明日香以外にも同じような方法で他所の学園に編入させるように妨害していたみたいよ。で、自分がLGに入りやすいように仕向けた、と」
「でもそれって今回と関係ないんじゃ・・・」
「それがね・・・神庭女子の叶星さんに聞いたら・・・同じ理由で編入してきた子がいて、詳しく聞いたら彼女だった・・・ってね」
「・・・」
「それでお台場の生徒会が動いた。リリィ同士が傷つけ合ってはいけないものね」
脅迫容疑とリリィの精神的迫害行為だ。処罰は免れないだろう。
「これが明日香にだけだったら拘束はされなかったでしょうね。まあ私もこんなことになるとは正直思わなかったわ」
なんとも後味の悪い終わり方だ。
帰り道。
「ビックリしましたわ。まさか琴乃様と同じ戦い方だなんて・・・」
「ちょっと・・・実験的にね。私ももっと強くなりたいし、いきなり実戦投入してみんなに迷惑かけたくなかったから・・・」
「私も・・・もっと頑張らなきゃ・・・」
円・・・。
「なら・・・叶星様にお願いしてグラン・エプレの紅巴さんと手合わせ、とかどうかな?ちなみにだけど・・・紅巴さんシュガール持ちだよ?」
「あらそれはそれは・・・グランギニョルのCHARMとはお目が高いですわ」
あえて食いつかせた。ただ、シュガール・・・名前と反比例してかなり見た目がごつい。
「はいはい・・・ならベスは灯莉さんね」
丹羽灯莉───私たちと同じ1年生だが、とにかく変わり者らしい。ただ、カワイイモノが好き、と言った点では灯音様と共通するところがあるのかもしれない。
「ちょっと!わたくしはやるともなんとも・・・」
「ついでだけど、灯莉さんマルテ使いだそうよ」
「・・・そういうときばかりずるいですわ」
「・・・いつもどおり・・・だね」
「ええ、そうね・・・」
手合わせで技を使ったことは琴乃様に黙っておこう。後々厄介なことになりそうだ。
ピピピ・・・
翌日早朝。携帯端末が鳴る。誰からだろう?
見ると見覚えのある名前が・・・。
『私、来年ぜったい百合ヶ丘に編入するから待ってて!』
以前、御台場に約1名椛様や槿様の他に知り合いがいるという話をしたが、その子からだ。詳しくは割愛するが、いろいろ問題のあるリリィなので、それはいずれどこかの機会で話したい。
「はあ・・・」
だよなあ・・・そういう答えが来るとは分かってはいたが、あの文面だと初日からLG控え室に押しかけて来そうな勢いだ。
「おはよう明日香ちゃん」
円だ。
「珍しい。こんな朝早く起きるなんて」
「ひどい!で、どうしたの?」
「・・・早朝ランニングしようと思って」
「ランニングかあ・・・」
「うん・・・昨日の手合わせで感じたんだ・・・。私には持久力語りてない!って。だから少しでも鍛えたくて・・・」
百合ヶ丘の敷地周りを一周すると約3キロ近くあるらしいので、これを3周すれば持久力アップになるのでは?と考えたのだ。お台場のときは2キロぐらいだったので単純に4倍近く、ということになる。
「円も一緒に走る?」
「え・・・私はいいよ。走るの遅いし・・・逆に明日香ちゃんの足引っ張っちゃうかも・・・」
「そっか・・・じゃ行ってくるね」
校門を出てゆっくり身体を慣らしていく。本格的なランニングは久しぶりなので一気にやると身体に負担がかかる。
今日は初日なのでいきなり3周・・・ではなく1周のみで終了。少しずつ慣らしていこう。
「おはよう明日香」
京夏お姉様だ。
「おはようごございます京夏お姉様」
「額に汗・・・ランニングしてたの?」
「え・・・なんで分かったんですか?」
「そんなの・・・見ればわかるわよ。こんな時期なのに上着まで脱いじゃってるしね」
確かに・・・それはそうか。この時期なら肌寒くてもおかしくない。
「はい・・・昨日の手合わせで改めて持久力がないって感じたので・・・。だからもっと上を目指したいんです」
京夏お姉様は私を見て、
「そう・・・でもムチャはしちゃダメよ?」
「もちろんです!」
一度寮に戻り、ブラウスを着替えてから学園へ。
「あんたも勇気あるよね・・・槿様と手合わせなんてさ」
どうやら週間リリィ新聞に掲載されたらしく、教室での質問が絶えなかった。
「あはは・・・」
「明日香ちゃん人気者だね」
「円・・・あんた・・・この状況楽しんでるでしょ・・・」
「少し?」
「ちょっとよろしくて?」
ベスだ。
教室の外へ引っ張り出される。
「・・・なによ?」
「明日香さん。東京のエリアディフェンスが半崩壊してるのはご存知ですわよね?」
・・・え?
「なに・・・それ・・・嘘・・・よね?エリアディフェンスってそう簡単に解除できるようなものじゃないわ」
それ初耳なんだけど・・・。
「嘘じゃあありませんわ。明日香さんが謹慎中の間、生徒会から通達が来ておりましたわ」
どういうこと?私・・・生徒会から何も聞かされて・・・ない・・・。
「もしかしたらわたくしたちも近々外征要員として駆り出されるかもしれませんわ・・・」
「ちょっとごめん!」
ダッ!
私は走り出した。
「明日香さん!」
ベスの声が聞こえたが無視する。
学園の普段誰も来ないような場所まで来た。
ピッピッピッ・・・
携帯端末の通信内の通話・・・ではなく電話としての機能を使い自宅へかける。
(大丈夫だよね・・・?)
『もしもし尾上・・・』
よかったあ。母さんだ。
「母さん!」
『明日香?どうしたの?』
「ううん・・・なんでも。ちょっと・・・声が聞きたくなっただけ・・・」
母さんの声を聞いて一安心してしまった。話してる途中で涙声になっていた。
『もしもし明日香?あなた泣いてる?』
「泣いてない・・・目にホコリが入っただけ・・・」
『そう・・・ならいいけど・・・なにか悩みとかあるなら遠慮なく言いなさいよ?』
「うん・・・けど・・・大丈夫・・・今度・・・いつになるかわかんないけど家には帰るから。それじゃ」
『がんばってね』
「・・・うん」
ピッ・・・
よかった・・・。自宅近辺はまだ大丈夫なようだ。
「・・・こんなところにいましたの」
「べ、ベス!?なに・・・まだ何か用?」
「何か用・・・じゃありませんわ。話はまだ途中ですわ」
「それは・・・ゴメン・・・」
「で、どなたとお話ししてましたの?」
「べ、別に誰だっていいじゃない・・・」
「まさかとは思いますが・・・明日香さんのご実家って・・・」
私はあえて何も言わなかった。
「ならわたくしも何も聞きませんわ。プライベートに深く首を突っ込む気はありませんし」
一旦会話を切るベス。
「で、先程のエリアディフェンスの話ですが・・・おそらくはG.E.H.E.N.A.が大きく関わってるかと」
「・・・何を根拠に言ってるわけ?もし仮にそうだとしても私たちじゃなくて御台場とかイルマに声かかるでしょ?」
「これはニ水さんからの情報ですけど、御台場はそれとは別にギガント級が頻繁に出没するとかで手が離せないそうですわ。イルマ女子のほうまでは・・・お聞きしませんでしたが」
LG総出、か・・・。船田姉妹を始めとする3大LGかかりきりということは、かなりのものだろう。その合間を縫って手合わせを受け入れくれたのは感謝しかない。
ピピピ・・・
お互いの携帯端末が鳴る。
(来たか?)
「はいビンゴ。来たわね・・・」
内容はこうだ。
『つい先程エレンスゲ女学院から正式に外征依頼がありました。場所は新宿近辺一帯、ギガント級が多数出没、参加LGはラーズグリーズ、ローエングリン、私たちの3組よ。詳しいことは控え室にて説明します。』
「ですわね・・・」
百合ヶ丘に来てから初めての外征・・・か。
「みんな来たわね」
LG控え室に集められた私たち。
「外征・・・ですか・・・」
不安そうに尋ねる円。
「そう。私も外征は初めてだけど、うまくいきそうな気がするわ」
「あの・・・」
「エレンスゲのどこと共闘することになるんでしょう?」
咲良ちゃんが質問する。
「それは・・・私にもわからないわ。生徒会から話を聞いただけだから」
「私は・・・すごく楽しみだわ。久しぶりに千香瑠ちゃんと会えるかも・・・」
唯一琴乃様だけが楽しそうにしている。
「千香瑠様?」
「ええ?私の友達よ」
「分かってると思うけど遊びに行くんじゃないんだからね?」
私も楽しみといえば楽しみだ。日の出町の惨劇で一緒になったリリィがエレンスゲにいるからだ。
「わたくしは・・・不安しかありませんわ・・・あの悪名高きヘルヴォルの方々と共闘なんてことになったら・・・」
「ヘルヴォルって?」
円は知らないんだっけ。
「LGヘルヴォル。エレンスゲ女学院の序列1位・・・あ、成績優秀者のことね・・・がリーダーで、そのリーダーが指定し4人で構成される、エレンスゲのトップ集団よ」
「で、そのヘルヴォルってあまりいい話を聞かないのよ・・・実力至上主義、作戦遂行のためには手段を選ばない、そのためには犠牲をもいとわない・・・」
京夏お姉様が補足してくれた。
「なにそれ・・・最悪じゃん・・・」
みどりだ。
「ま、まああくまでもウワサでしかないから。年度毎にメンバーも入れ替えになるって話だし・・・序列が入れ替われば、の話だけど」
そして、その悪い予感は的中してしまった。
「え・・・」
送られてきたメッセージを見て絶句する私。
『共闘するLGが分かったわ。ヘルヴォルよ』
お、終わった・・・。
そして遠征日程も確定した。あさってだ。
「あはははは・・・」
乾いた笑いしか出てこない。
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る。誰だ?
『ひっさしぶりー!メンバー一覧見てビックリした!あさってヨロシク』
うっそ!?
この軽いノリの挨拶・・・。
「どうしたの?」
「なんか・・複雑なんだけど・・・」
これってどう返せばいいんだろう?むしろ混乱している。
「円も見たでしょ?」
「うん・・・そんなにショックなんだ・・・」
「いろんな意味で、ね」
ピピピ・・・
あれ?また京夏お姉様からだ。
メール?
中を確認する。
『ヘルヴォルのメンバー一覧よ。会う時の参考にしてね』
とある。どうやら私にだけ来たようだ。もしかしたら琴乃様にも同じメールが行ってるかもしれないが。
見てみると───
『相澤一葉・佐々木藍・飯島恋花・初鹿野瑤・芹沢千香瑠(敬称略)』
とある。
恋花様と瑤様かあ・・・。今から楽しみだ。
実は初期の修正改稿を用意していたつもりだったのですが、手違いで忘れてしまったため、次回以降の更新に差し替えたいと思います。