ようやくLGメンバーが全員揃った
運がいいことに入った全員が経験者という恵まれた環境だ。
チームワークは良好・・・ということにしておこう。
如來と蘆乃が揉め始めると
ホントあの2人、仲がいいんだか、悪いんだか・・・。
「今日の訓練はCHARMを持ち替えてもらいます」
訓練・・・というよりは遊びに近い感覚かもしれない。
「持ち替え・・・?」
「円、覚えてる?私とみどりがCHARM入れ替えて使ってたときのこと」
「もちろん。あのときみどりちゃんはグングニル使ってたね」
「明日香隊長と・・・ですか?」
ちなみにだが、現在みどりはグングニルではなく、ティルフィングを乃莉子さんが魔改造したものを使っている。
「どういう訓練ですか?」
「ヒュージとの距離感を掴むためね。今日は対リリィだけど、どういう状況でもそれに惑わされないためよ」
「あのときですわよね?・・・わたくしたちの距離感がまったくつかめなくなったときですわ。その後明日香さんがマギ切れで倒れて・・・」
「う・・・具体的に言われるとちょっと・・・」
思い出しただけでも恥ずかしい・・・。ベス・・・完全に仕返ししてきたな?というか、完全に墓穴を掘ってしまった。
「この前の仕返しですわっ」
「・・・明日香隊長、実は問題児でした?」
因悦のツッコミが痛い・・・。
「と、とにかく。今日は全員が入れ替えて使うわよ。乃莉子さんにも来てもらってるしね」
さてコアの付け替えが終わり全員入れ替わったわけだが・・・具体的にはこうだ。
私と如來はブラダマンテとブラダマンテ・アイ、ベスと蘆乃はタングズニル(バランスウエイトは無効化。円は因悦のボルソルン。因悦は円のアステリオン・ブリッジ。みどりは咲良ちゃんのナグルファール・・・といった具合だ。にしても。
私自身グランギニョルのCHARMは初めてなのでちょっと感覚に戸惑っている。
「自分で課した訓練だけど・・・あんた、よくこんなの扱ってるわね」
起動したときに思ったのはとにかく軽い。グランギニョルのCHARMは剣がモチーフになっているものがほとんどだが、これなら納得が行く。
「北欧の田舎メーカーのCHARMはただごついだけですわ」
と批判気味のコメント。
「ちょっと・・・!タングズニルバカにしてる?」
「そうではありませんわ。CHARMは一長一短。それぞれに良さがあります。各々が使いやすい、と思うならそれでいいじゃありませんの」
・・・めずらしくベスが正論を言っている。何か起こらなければいいのだが。
「・・・不思議。なんか扱いやすい」
一方の蘆乃は関心している。
「どういうことですの?」
「私・・・元々マルテを使っていたので・・・」
マルテ?
ということは高等部に上がってからCHARMを乗り換えた、ということだが・・・にしても不自然と言えば不自然だ。
グランギニョルのCHARMはマテリアルネーム(CHARMメーカーとマテリアル元)と使用者のルーンが本体のどこかに刻印されている。ちなみにベスのブラダマンテは持ち手のすぐ裏だ。
蘆乃のCHARMにはそれらしき刻印が見当たらないのだ。
訓練が終わり、コアを元に戻した後だ。
「明日香さん」
ベスだ。
「なに、改まって。まさか訓練前に言ったこと根に持って・・・」
「違うわ」
普通の口調?もしかして怒ってる?私にはわけがわからない。
バンッ!
誰も居ないラウンジにベスの携帯端末を叩きつける音だけが響く。
「・・・これ、どういうこと?」
「え・・・」
メッセージ内容をみるとベスに対する罵詈雑言が使える文字数限界まで羅列されていた。当然だがこんな文章を送る必要もなければ送った覚えもない。
「何これ・・・こんなの知らないわよ?」
しかし、送信元は私の名前になっている。考えられるのは、私の名前を偽って送信したイタズラなのだが・・・。
「ホントにそう?なら、端末見せて」
「・・・なんで!?」
端末の送信履歴に送ったことのない内容で送信したことになっていた・・・。ベスが怒るのも無理はないが、頭の中は「???」だらけだ。
端末はメールも使えるのだが、内容は生徒会(学園管轄の7号由比ヶ浜ネットの専用サーバ経由)で検閲されているため、LG間の連絡や生徒会からの重要連絡で使われ、むやみに送信することはできない。
最近学園内で携帯端末経由の不可解な事件があるとは聞いていたが、まさかこのことか?
「一応、聞くけど・・・今学園内で携帯端末経由で変な事件起きてるのは知ってるわよね?まさか鵜呑みになんて・・・」
「し、してないっ!そんなことするわけないって・・・信じてる。でも・・・」
「落ち着きなよベス。こんなの・・・誰かのイタズラに決まってるでしょ。だいたい、私があんたにこんなことする必要性なんてある?するにしたって私なら後でうそー、とか返すわよ」
「・・・」
表情は納得出来てない様子だ。
「大体心配しすぎ。
「私が不安なのっ!蘆乃に・・・ちゃんと姉として接してあげられているか・・・」
「・・・いい加減なんとかならないの?そのわけがわからない言動」
その前フリがだんだん巧妙になってきている気がする。ていうか乃莉子さんまで巻き込むな!彼女だって忙しいんだから。
「・・・だって」
まるで子供のように指いじりを始めたベス。
「そのメッセージだって、乃莉子さんに送信元偽装して作らせたんでしょ?まったくネット犯罪者でもあるまいし」
「このところ・・・そのことばっかり考えちゃって・・・頭から離れなくて・・・」
・・・そういえばベス、いや櫻子が弱音を吐いてきたのは初めてな気がする。
「それはお互い様。私は・・・ちゃんとできてると思うけどな。私以上に」
「私から言わせてもらえば明日香のほうが全然できてるよ・・・」
初めて櫻子から呼び捨てされた。なんか、嬉しい。
「ねえ・・・初めて・・・だよね」
「なにが?」
「・・・なによとぼけちゃって。今、私のこと、呼び捨てにしたでしょ?」
「・・・言ってない。私は言ってないから!」
「はいはい・・・照れるな照れるな。さてっと・・・そろそろ追い出されそうだからいこっか・・・」
「そういえば・・・昼間の贔屓の話」
「なんですの急に?」
天上の間。円と咲良ちゃんは半休暇で自宅に戻っている。みどりは・・・来たり来なかったりなのでまあいいや。
蘆乃の台詞のことが気になってしょうがなかった。
「前に如來と蘆乃が大ゲンカしたとき。如來に贔屓してるって言われてたのよ。で、今日、蘆乃にも言われちゃったからやっぱりそうなのかな・・・って」
以前はルームメイトの円にこういう相談もしてもらっていたが、学年が上がり、円は入浴途中で良く抜け出してどこか行く事が多くなってしまった。
今ではベスがすっかり相談相手となっている。
「わたくしはそうは思いませんわ。以前汐里さんにもちらっとうちの訓練の話がありましたからお話しましたわ。汐里さん曰く『うちよりしっかりしてる』だそうです」
しっかりしてる、かあ・・・。あの隊長さんずぼらそうには見えないんだけど・・・汐里さんが討伐のたびにCHARMを破壊して帰ってくるからその後ろめたさもあるのかもだが、あまり参考にはならなかった。
「やっぱり
「ちょっと明日香さん。それ、汐里さんに失礼じゃありません?」
「最初に言ったの誰だったっけー?」
と背後からベスのお腹をくすぐる。
「ちょっとやめてくださいます!?ああんっ」
なんちゅう声を出すんだ・・・。
「こらっ、変な声だすな!勘違いされるでしょ・・・まったく・・・」
咳払い。
「で、蘆乃とは・・・もうそういうことしたのかなー?」
聞いた途端顔を真っ赤にして、
「な・・・なななななななっ!?何わけのわからないことを・・・」
その様子だとまだか。
「私だって京夏お姉様とその・・・したんだから、どうなの・・・って」
私まで顔が真っ赤になってしまった。それはそうだろう。女子会でもないのにこんな時間から何言ってんだ、と自分を突っ込みたくなるがまあいい。
「明日香さんこそ・・・その・・・どう・・・なんですの?」
「え?私?」
「これだけわたくしに言うんですからなにかしたんじゃありません?」
「ごめん・・・裏切るようだけど、如來とはそういう関係になりたいって思えないのよね・・・。リリィになる前から知ってるし・・・実の妹みたいな感じで面倒見てきたから・・・」
やっとベスに話す機会ができた。
「京夏お姉様にも話したんだけど、あの子・・・両親いないのよ。物心がつく前に亡くなって・・・。店に母親変わりの祖母と一緒に良く食べに来てたのよ。家も近所だからすぐ仲良くなって・・・私がリリィになりたい!って言ったときも一緒についてきて・・・スキラー値測ったら御台場の基準値越えてたのよね」
ちなみにだが、百合ヶ丘のスキラー値は50あれば誰でも受験できるが、御台場は最低70以上だ。
「そう・・・でしたの・・・」
「ごめん・・・私から振っといて・・・。けど知っておいてほしかったから」
「なになに?お互いの妹の話?」
珍しい。乃莉子さんが来た。
「なにその・・・世間話大好きなおばさんみたいなノリで入ってきて」
普段CHARMのメンテナンスのときにしか工廠科に行かないので、CHARMの話題以外の話に乗ってくるのが珍しく感じてしまうのだが・・・。
「いやね・・・その・・・」
珍しく乃莉子さんがどもっている。
「今年入ってきた子がやたら私に絡んでくるもんだからその・・・守護天使の先輩としてアドバイスを・・・」
「へえ・・・乃莉子さんが・・・ねえ・・・」
「な、なに・・・?」
「ふっふっふ・・・」
入浴後。山
「守護天使の話をする前に乃莉子さんが大喜びするお願いを」
何事も掴みは大事だ。
「如來のタングズニルに乗ってるバランスウエイトって、アレ改良型よね?私のも同じようにしてくれない?今度乃莉子さんの好きなラーメンおごってあげるから。なんなら実家に来たらただにしてもいいし」
「え?明日香さん家ってラーメン屋だったの!?知らなかった・・・」
「ただし、月島まで来れば、の話だけどね」
「つ、月島・・・うち、八王子だからなあ」
さすがに好きなモノでは釣れなかったか。乃莉子さん実家八王子かあ・・・。
「明日香さん・・・随分わたくしと待遇違いすぎません?」
「なんのこと?」
「はいはいどうどう・・・」
いつもなら円がそういう役なのだが、今日は乃莉子さんだ。
「わたくしは馬ではありませんっ!」
「で、乃莉子さんはその子とどうしたいの?」
「正直言うとよくわからなくて・・・。今までCHARMと機械いじりばっかりやってきたから」
根本がわからないのか。
「その子と一回会ってみたいな。離れてるんでしょ?だったら工房教えて」
翌日。
乃莉子さんの事前連絡もあり、工廠科へ。
なぜか如來も一緒に来ていた。
「で、なんで如來もいるの・・・」
「どうしてって・・・面白そうだったから?」
「別に遊びに行くわけじゃないのよ?乃莉子さんに頼まれた用事を済ませるだけ」
でもまあいいか。いたからって何かあるわけではないだろう。
「その前に───」
乃莉子さんの工房へ。
「はい。部品を交換するだけだから2時間もかからないしね」
「ありがとう」
ガチャン!
試しに切り替えてみる。バランスウエイトの欠点が見事に解消されている。3年近く付き合ってきた
「へえ・・・ここまで改良されてるんだ・・・」
「ウエイトシステム?」
「そう。今度円がメンテ出しに来たら一緒にそっちもお願い。私からも話しておくから」
「りょーかい。で、例のモノは用意した?」
「当然。うちには究極のカワイイもの好きがいることを忘れた?」
と、胸元から取り出してペンダントを見せる。
「へえ・・・これが・・・」
LGメンバー以外に見せるのはこれが初めてかもしれない。去年私の誕生日のときにLGメンバー全員が出し合ってくれた純金のモリアオガエルのペンダント。大事な宝物だ。
「明日香姉様?これは?」
「私が持ってるカエルグッズの中で一番高いやつよ」
「え・・・いくらなのそれ・・・?」
乃莉子さん食いつきすぎ。
「えっと確か・・・CHARM一振りと同じぐらい?」
「マジか・・・」
これには乃莉子さんもビックリ。
「LG入りたてのときにある店でたまたま見つけて、討伐報酬もなくて買えない!って円に嘆いてたら京夏お姉様に言ったらしくて、誕生日のときにサプライズでもらって・・・私のためにみんなで出し合ったんだ、って。だから・・・これはLGみんなを繋ぐ大切な宝物」
「私も・・・誕生日のときになにかほしい」
そっか。如來の誕生日。私と2日違いだ。
「大丈夫。ちゃんと用意してあげるわ」
「・・・楽しみに待ってるね。明日香姉様」
「じゃ
工廠科は乃莉子さん、ミリアムさん、百由様の工房以外行ったことがない。アールヴヘイムにも何人か工廠科リリィはいるが、全く接点がない。
今日の訪問は乃莉子さん以外の、次のアーセナルへの引き継ぎも兼ねてるのかな、とも思う。
『川端嗣埜芥』と書かれた工房の前。
トントン・・・
「はーい!」
えらい元気な声。
ガチャ・・・
「ごきげんよ・・・あれ?」
百由様やミリアムさん、乃莉子さんの工房は散らかっていていかにも工廠科!という感じなのだが、入った感じキレイに整頓されていて、一角に私の部屋の机の上のような空間が広がっている。
「どうもです明日香様!お待ちしてましたー!・・・あれ?そちらのリリィは?」
「ごめんなさいね。ホントは私だけのはずだったんだけど、うちの
「いえいえ・・・ウワサは乃莉子様から聞いてますよ。瀬能如來さんですよね?まるで本当の姉妹みたいに仲がいい守護天使だって」
「嬉しい・・・ホントの姉妹みたいって」
「私たち一緒にいた時間が長いからね。さて」
本題に入る。
「知ってると思うけど、普通守護天使は私たち上級生から申し出るわ。で、そこのところはどうなの?」
「実は・・・私のほうから一方的に・・・」
・・・やっぱり。如來と一緒だ。まあ私たちは元々知った仲で、だから特別だ。
「そっか。あ、これ挨拶代わりに持ってきたの」
と、やや大きめの紙袋を渡す。実は事前に乃莉子さんから聞いてリサーチ済だったりする。
「・・・なんかおっきいですね。今ここで開けちゃってもいいですか?」
「遠慮なくどうぞ。そのために持ってきたからね」
タネ明かしをすると、彼女はクマグッズが大好きだ、というので急遽前日に灯音様にお願いして探してもらったのだ。なんかこの子私ソックリだな・・・。
よくみると工具やメモのための筆記具等々至るところがクマグッズで統一されている。そこは如來も気づいたみたいで、
「・・・この子明日香姉様ソックリ」
と小声で言ってきた。
まあ乃莉子さんもまんざらではない感じだし、時間が来れば・・・という感じだろうか。後は乃莉子さん次第か。
「わあ・・・」
開けるなり、
「これ、限定生産のアリスカンパニーのスイートベアシリーズじゃないですか!え!?なんで明日香様が私の欲しかったもの知ってるんです?」
テンションマックスの嗣埜芥さん。
「ちょっと・・・ね。うちの元LGメンバーにこういうグッズ好きな先輩がいて、こういうのがいいんじゃじゃない?って」
「ありがとうございます!うれしい・・・」
喜んでもらえたようでなによりだ。
「で、ひとつお願いがあるんだけど、いいかな?」
「なるほど・・・蘆乃さんの誕生日・・・ですか。如來さんじゃなくて?」
説明したとたん如來が機嫌を悪くする。ネタばらしをするわけにはいかないので黙っておく。
「明日香姉様、ちょっと」
ほらやっぱり。うまいこと誤魔化さないと。
工房前の廊下。
「・・・蘆乃ってどういうこと?」
「ごめん如來。今はまだ言えないのよ・・・忘れてるわけじゃないから」
「なら、いいけど・・・」
如來も納得してくれたようで安心。
「ごめんなさいねいきなり。如來をなだめてたの」
と、工房外に行った理由を話した上で、
「それで内容なんだけど───」
「なんじゃ、お主ら揃いも揃ってわしに何か用か?」
私自身普段あまり深い関わりはないのだがミリアムさんの工房にいた。
「突然押しかけてしまって申し訳ありませんわ。お願いがあってきましたの」
「CHARMのメンテなら隣に行けばいいじゃろ?わしは忙しいんじゃ」
「・・・チャーミィリリィの数量限定フィギュアあげます」
蘆乃のその一言で、
「お主、チャーミィリリィ好きなのか!?」
明日香さんの言う通り、ミリアムさんが食いついてきた。ここまでとは・・・。
「はい。アニメのDVD出てる分全部とフィギュア。それから・・・」
と、チャーミィリリィに関する話題をマシンガントークしている。
お互いの守護天使がお互いの妹のプレゼントを選ぶ、と明日香さんがいいはじめたときは「何言ってんるの?」と思った。だが、実際はお互いのプレゼントが本命ではなく、本人から直接言わせるためのもの、ということに気づいたのだ。蘆乃がチャーミィリリィ好きだったとは。
「わざわざ付き合わせてしまって申し訳ないですわ」
「いや、わしゃ構わんぞ。チャーミィリリィの良さが分かってくれる者が少なくてな。寂しかったところじゃ」
「それはよかったですわ。ところでミリアムさん」
「なんじゃ櫻子」
「ミリアムさんは守護天使にしたいと思うリリィはいらっしゃいますの?」
「わしか?」
ミリアムさんは少し考えてから、
「残念だがわしにはなついてくれているリリィがおらんからのう・・・」
「そうですの・・・ではわたくしは所用がありますのでこれで。ではごきげんようですわ」
工房を後にする。蘆乃はミリアムさんのところにまだいるようだ。
なら都合がいい。蘆乃に見つからないように携帯端末を取り出し、明日香さんへ連絡する。
『こちらも終わりましたわ。後は例の場所で』
足湯・・・ではなく、山梔館の裏の楠。
「で、どうだった?」
「私が言う前に・・・蘆乃が気がついたらしくて、すっかりミリアムさんと打ち解けていたわ」
な、なるほど。そこまで好きなのか。
如來の好きなものは聞くまでもないんだけど・・・御台場にいる頃と変わらなければウサギグッズ集めのはずだ(本人は隠してるつもりなんだろうが。
携帯端末のストラップを見れば一目瞭然。
「で、明日香さんのほうはどうだった・・・って聞くまでもないか。元々如來さんの好きなものは知ってるんでしょ?」
「まあね。ただ、今年はサプライズしようかと思ってるわ。しばらく実家に帰ってないはずだし」
「え?実家に戻るの?だったらラーメン食べさせてよ!話聞いてからずーっと気になってたのよ」
・・・やっぱり食いついてきた。
「あのね・・・私と如來の貴重な帰宅の時間に割り込まないでくれる?いろいろ台無しじゃない・・・」
「ならこうしてよ。私と蘆乃はオマケ。それでもダメ?」
「しつこいなあ・・・ダメなものはダメ」
結局、このやりとりは消灯時間ギリギリまで続いた。部屋の入口近くまでついてきて騒いでたもんだから、祀様に怒られてそのまま部屋に連れ戻されていた。なにやってんだか。
明日は私の誕生日だ。
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る音。
『如來。休暇日申請書いて。日付は明日。理由は実家の用事、でいいわ』
え?明日?
明日香姉様は何をしたいんだろう?
遅れてLGの連絡メールが来る。
『明日の訓練はなしにします。理由は私が不在なため(実家に一時帰宅)。休みとはいえ自主練は忘れずに』
櫻組の教室にて。
「ねえ如來。明日って・・・」
「ごめん。明日休暇日で申請出してて
「明日香隊長も明日いないらしいけどそれと関係・・・」
「ないない・・・多分」
「多分って・・・バレバレじゃん。明日香隊長とどっか行くんだ?」
「私と明日香姉様の実家って近所なの。ただの里帰り」
とはいえしばらく実家・・・というか実家同然に住んでいるばあちゃん家には戻ってない。
「里帰り・・・近いって羨ましい・・・私仙台の多賀城だから・・・」
「え・・・因悦って東北出身だったの!?」
これにはビックリ。確か東北には学園がなかった記憶がある。
「けどいいなあ・・・姉と妹で水入らずの誕生日会、とかかな?」
明日香姉様がそんなストレートなお祝いをするとは思えないんだけど・・・。
翌日。
「・・・で、どうして蘆乃たちもいるの?」
明日香姉様の他に櫻子様と蘆乃まで・・・。
「ごめんね。ベスと蘆乃はオマケだから」
と明日香姉様は言っているが、
「オマケって・・・そういう扱いですの?」
「昨日散々私の部屋の前で騒ぎ立てて生徒会の祀様に怒られてたの誰だっけー?」
櫻子様は一体何をしたんだろう?
「あ、あれは・・・明日香さんの部屋に入ろうとドアを開けようとしたら偶然ゴキブリがいてビックリしただけですっ!」
ゴキブリねえ・・・。後で真相を聞いておこう。
「私は・・・櫻子姉様に誘われただけで・・・別にあんたのことをお祝いするとか、そういうんじゃないから」
ホント素直じゃないなあ。
「早速行こうと・・・思ったんだけど、先に寄りたい所があるのよね」
「寄りたいところ?」
「そ。行けば分かるわよ」
明日香姉様の後を着いていく。
着いたのは───
門構えが立派な平屋建ての建物の前に。
『鬼龍院流薙刀術 総代道場』
と書かれた大きな木の表札が掛かっている。
「あれ・・・ここって・・・」
鬼龍院といえば・・・。
「明日香ちゃん、みんな。いらっしゃい」
袴姿の琴乃様の姿が。すごく凛々しく見える。
「すみません。わざわざ私の予定に合わせてもらっちゃって」
「いいのよ。私もしばらく実家に顔出せてなかったから」
相変わらず笑顔が絶えない。
「あ。そういえば・・・アレは届きましたか?」
「ええ。後で門下生たちにも配るつもりよ」
配る?
「琴乃様。早速ですけど、着替えってどこで・・・」
「更衣室は左奥にあるわ。そこに準備してあるから」
更衣室?それってまさか・・・。
「実は楽しみだったのよね。普段LGメンバーとしかやったことがなかったから」
明日香姉様の目が輝いている。間違いない。
「訓練はお休みだけど、これは自主練の一環だからみんなにも付き合ってもらうわよ」
結局袴に着替えさせられた私たち。
「・・・こんなの聞いてませんわよ」
「それは私も同じです。直接実家に行くと思ってたのに・・・」
「それじゃ道場の方に案内するわね」
と案内されるまま、一番大きな建物へ。
そこは畳が敷き詰められていて、色の違う畳が囲むようになっている。そこに───
私と同じぐらいの歳の子たち数人と男子が10名ほどいた。
「初めまして。鬼龍院
と挨拶してきたのは、琴乃様の弟さんだ。しかもかっこいい。
「今日はよろしくおねがいします」
明日香姉様が一礼。
その中でも1人ポニーテールの子が突然立ち上がり、
「1本組試合よろしいですか?」
と明日香姉様を指定してきた。
・・・この子か。道場に通う同年代でも一番強い子、らしい。琴乃様曰く『まだまだ』とのことだが、普段知った顔としか組試合をしたことがないので楽しみだったりする。
「尾上さん・・・ですよね。尾上月島亭の」
「よく知ってるわね。と言っても今はそこに住んでるわけじゃないけど」
「話は総代から聞かせてもらってます。総代と同じリリィなんだそうで」
リリィ、と聞いて門下生たちがざわついている。
「初めまして。横尾綾子って言います。正直、遊びでやってるのかもしれませんけど武道をなめてもらったら困りますよ」
完全に敵意の目だ。
「あなたがどう思おうと勝手だけど、私は遊びでやってるわけじゃないわ」
と、自分の
「構え!」
琴乃様の声。
初めての百合ヶ丘外での組試合。正直自信もない。
(いつもどおり・・・いつもどおり・・・)
暗示のように自分に言い聞かせる。
「はじめ!」
鬼龍院流薙刀術は元々剣から身を守るための護身術が発展してこの形になったんだそうだ。奥義も教えてもらっているが、まだ一部しか会得できていない。
合図がかかってから30秒は動いてはいけないルールになっている。顔面への攻撃は禁止だ。
長竹刀を使った組試合の基本はどちらかが必ず攻撃を仕掛け、鍔競り合いでタイミングを見計らって、お互いが技を決めていくことになる。畳に手をついたり、試合線からはみ出たり、倒れたら負けだ。
30秒後、すり足で少しずつ間合いを取っていく。取る、と言ってもCHARMとは違い2メートル近く離れてはいるのだが。
「やっ!」
綾子さんのほうから仕掛けてきた。そして鍔競り合いへ。
(動きが読めない・・・)
さあどう仕掛けるか。
パンッ!
右脚に綾子さんの長竹刀が当たる。直後、左肘を狙って突き。
やはりLGメンバー相手では練習にはなってないか。けど、
(琴乃様より遅いっ!)
すかさず払い除け、袴越しに左脛を思いっきり「わざと」掠める。掠め突きという技だ。
門下生たちがざわつきはじめた。
「ウソだろ・・・掠め突き・・・」
「あんな高度な技・・・」
綾子さんも一瞬顔を歪めるものの、すぐに真顔に戻る。
「あんな技見たことありませんわ・・・」
ベスも驚いている。
「やっ!」
さらに右肘を狙って突き。
(さすがにこれはあからさますぎたか・・・)
もう一度掠め突き。右からだ。
ザッ!
「っ・・・!」
綾子さんの顔が歪む。
「やっ!」
そして左から脇腹への一撃。
「っ・・・!」
綾子さんが右手を付いた。
(よし!)
「やめ!」
琴乃様の掛け声。
一安心。初めての対外組試合で勝てたのもそうだが、今までやってきたことが実りになっていることが実感できて一番うれしかった。
一礼をして戻る。
「綾子さん。これで私が遊びでやってるんじゃないって分かってもらえました?」
「馬鹿にしたことは謝ります。ではお訪ねしますがどうして薙刀術を?」
「ヒュージと戦うため、かな。元々私は武道を習ってたわけじゃないから自己流で戦ってたけど、ある時から自己流に限界を感じたの。それで総代にお願いして直接指導してもらっているわ」
(明日香姉様強い・・・)
琴乃様が強いのは言うまでも・・・だが、それに負けず劣らずの強さ。文武両道とはこういうことなのかな・・・。
「強いですね。さすがです」
蘆乃の一言。
「どうして薙刀を訓練に組み込んだのかが分かった気がします」
「精神修養ね。無の心で見えてくるものもあるわ。さ、次は如來珠の番ね」
私はというと───
同じぐらいの実力の子と対戦したのだが、こてんぱんにやられて惨敗してしまった。
「くやしいいいいいいい!」
「まだ始めたばかりだから仕方ないわ」
と明日香姉様は言うが、くやしいものはくやしい。
対戦結果。私と蘆乃が負け、明日香姉様と櫻子様が勝ち、という結果となった。
「すみません。ありがとうございました。じゃ、私たちは実家のほうに向かいますので。ではごきげんよう」
琴乃様の実家でご馳走になってしまってなんだか申し訳ない気がしてしまった。
「そういえば・・・都心ってこんなに静かなんですね」
移動中の蘆乃の一言。
「この辺りはまだエリアディフェンスが機能してるからね」
とは明日香姉様だ。そっか・・・エリアディフェンス・・・。
去年新宿一帯は崩壊して大量発生したとかで大変だったらしいが、その渦中に姉様や櫻子様たちも行ってたんだ、と思うと少し感慨深い。
そして見慣れた風景。最寄駅に到着。
「わあ・・・」
到着したときは昼を少し回っていた。聞いた話では、エリアディフェンスの境界が丁度この辺りになったとか。
あの時と全然変わってない。唯一違うのはヒュージ警報の看板があるぐらいだ。
「そっか、如來は3年ぶりになるのよね」
「そんなに帰ってなかったの?」
蘆乃はびっくりしている。
「帰ってない・・・っていうか・・・おばあちゃん機械音痴で・・・連絡しても出てくれなくて・・・」
確かに如來の祖母は高齢ではある。まさか・・・ね。
「ま、まあ・・・とにかくこっち」
見えてきた。幹線道路沿いから少し外れたところにある。『尾上月島亭』の文字。
「ただいま」
「ただいま」
さすがにお店側から入るわけにはいかないので家の玄関へ。
「あ。姉ちゃんおかえり。如來ねえだー!如來ねえもリリィになったんだね!」
弟の彰彦だ。
「弟さんなんていましたの?」
「まあ・・・聞かれなかったし?」
これは円も知らなかったりする。唯一知ってるのは京夏お姉様ぐらいだ。
「ご無沙汰してます。亜沙香さん」
如來が会釈をする
「あら明日香おかえり。如來ちゃんも久しぶりね。あら?」
母さんは如來の制服を見るなり、
「如來ちゃんも百合ヶ丘に編入したのね」
「まあ・・・いろいろあって明日香ねえと同じ学園に・・・」
と私のほうをチラ見する如來。
こら如來、目で訴えるな!
「で、こちらの2人はどういう関係?」
「えっと・・・ベ・・・櫻子は私と同学年で、蘆乃は如來の同級生。一緒に戦ってる仲間よ」
とざっくり紹介。
「えっと、榛原蘆乃です・・・」
「櫻子・
「櫻子さん・・・もしかしてあなた、エリザベートファクトリーの・・・」
「ええ、ロクセット・エリザベスの娘ですわ」
え?ちょっとまって!?
「今・・・なんて・・・」
「今まで黙ってたけど私もリリィだったのよ」
衝撃の事実。蛙の子は蛙だった。
「あは、あははは・・・!」
「明日香ねえが壊れたー!」
う・・・なんか、気持ち悪くなってきた・・・。
玄関先で倒れそうになる。
「まったく・・・玄関先で倒れそうになるだなんて・・・」
「普段の明日香隊長とは思えないです・・・」
私の部屋に3人。御台場から送った段ボールの箱がそのまま山積みになっていた。まあ、出したところで・・・ではあると思うけど。
「ほんっと、実家もすごいですわね・・・ビックリしましたわ」
壁から何から全て埋め尽くされているカエルグッズ。自分の部屋にいる、という安心感。
「ちょっとまって。今用意してもらうから」
階段を降り、お店のほうへ行こうと廊下を歩いているときだ。
弟と母さんがなにやらひそひそと話をしている。
「やっぱ言わないほうがいいよ・・・」
「けど、身辺整理の問題もあるし・・・」
まさかとは思っていたが的中してしまったようだ。
「ゴメン。ちょっと・・・いい?」
母さんによれば去年この辺りで小規模ながらケイブが大量発生したらしい。この辺りは御台場・・・ではなくイルマ女子の管轄なので殲滅は成功したが、ミドル級に襲われて・・・だそうだ。
イルマ女子、か。私は芸術に長けているわけではないので、実力的にも場所も近かった御台場を選んだが、あの一件がなかったら私は御台場にいたままでこの辺りを守っていたかもしれない。
「もうちょっと時間かかりそう、だって。如來・・・ちょっと」
部屋から如來を呼び出し、近所の公園へ。
「こんなところまで引っ張り出して何?」
「ゴメン・・・如來。ホントは誕生日だからサプライズのつもりで連れてきたはずなんだけど・・・吉江さん、去年ヒュージに襲われたって・・・」
「え・・・うそ・・・」
「私だって信じたくないわよ・・・だって、あんな元気だった人だよ?杖振り回していじめっ子追いかけ回すような・・・」
「明日ねえ・・・」
私は如來を思いっきり抱きしめる。
別れはつらい。だからこそこれ以上犠牲を増やさないためにも私たちが頑張らなければ。
「うわあああああああああああああああん!!」
唯一の身寄りを亡くしてしまった如來。
「・・・百合ヶ丘に戻ったら私のところにおいで」
まさか如來にそんな感情を抱く日が来るとは思ってもいなかった。
「うんっ・・・うんっ!」
「・・・みんなが心配するから戻ろっか」
「ごちそうさまでした」
「おいしかったですわ」
「それはよかった」
ラーメンは好評だったようでベスへのもてなしには満足できた。
「ところで如來さんとは何をお話してましたの?」
「ああ・・・如來の実家に顔出しに行ってただけよ」
ベスはなんだ、といった感じでつまらなそうにしていた。あの後確かに如來の実家には顔を出しに行ったが、真実は言い出しづらい。
帰り道。
「えへへ・・・」
如來はいつも以上に私にべったりだ。
「・・・ホントに何もありませんでしたの?」
「何もないわよ。いつもどおりじゃない」
「その割にべったりしてますが・・・」
蘆乃のツッコミが珍しくするどい。
「わ、私にべったりなのはいつものことでしょ。驚く要素なんてどこにも」
「本当にわたくしに隠しごとしてません?」
「しつこいわよ。ていうかあんたには関係ないでしょ・・・」
学園に戻ってから。食堂で夕飯食べた後も、天上の間ですらしつこく聞いてくる。
「どうも・・・如來さんの態度が気になってしまって・・・」
ちなみにだが今日も円は一緒ではない。
「はあ・・・」
ため息の後、
「・・・後で私の部屋に来て。ここじゃ話づらいから」
天上の間から出た後そのまま私と円の部屋へ。
「・・・で、何を隠してらっしゃいますの?部屋に呼んでまで・・・となると、相当言いづらいことでして?」
「・・・そう。私もちょっとショックでね」
「ショック、とは?」
「・・・如來の親変わりの祖母が亡くなっていたそうよ。私もいろいろ教えてもらってたから。それで帰り寂しくて私にべったりだったんだと思うわ」
「そう・・・でしたの・・・」
「それもただ亡くなったわけじゃない・・・」
「まさか・・・ヒュージ・・・」
私は無言で頷く。
「如來が御台場に行ってからは人が変わったように態度が豹変したそうよ。近所の人からも嫌われるようになったらしいわ」
だからといって周囲も助けないのはどうかと思うが、如來がいなくなって相当寂しかったんだと思うと胸が痛い。
「・・・私が心配なのは、これで如來が壊れちゃうんじゃないかって。結夢様みたいにはなってほしくないの」
「・・・変わったわね。あの頃とはまるで別人みたい」
「そんなことないって。櫻子だってそのうちなるわよ」
「そんな・・・言い過ぎ。それと明日香さん」
急に真剣な目になる櫻子。
「LGに夢中になるのはいいけど、そのうち体調壊すよ?最近ちゃんと休んでる?」
「何急に?母さんみたいなこと言い出して」
「・・・気づいてないでしょ」
「え・・・何が?」
はあ、とため息をつく櫻子。
「この際だからハッキリ言っておくけど明日香さん、あなた夢中になると自分のことを犠牲にしがち。特に体調。1日のスケジュールは?」
なんなのこの展開・・・。
「えっと・・・朝起きて学園のまわり1周マラソンして・・・円と一緒に朝食。それから食堂行ってケーキとかクッキーの仕込み。講義棟着いたら控え室に行って訓練メニューの確認。それから・・・」
「・・・もういい。少しは自分で抱え込まないで周りに任せたら、と言ってるの!」
言われてみれば確かに少しスケジュール詰め込みすぎかな、とは思っている。ただ、この状況も苦に思っていないのも事実だ。
「わかった。今度みんなと相談するね」
とは返したものの、
(心配してくれるのは嬉しいけど・・・正直私自身全然苦になってないのよね・・・)
これがキッカケになろうとは思いもしてないのだが。