アサルトリリィ~もうひとつの物語   作:武士道の犬

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休息日

 今日は百合ヶ丘に来て初めての休息日だ。

 休息日とは、CHARMの携帯と制服着用義務はあるものの、講義やLG(レギオン)の訓練等一切ない日のことで、基本的には一般的な休日と何ら変わりはない。

 

「・・・なんで私まで」

 

 蘆乃(のの)を引っ張り出してきた。

 

「えー。普段訓練以外は引きこもりなんだからたまには外に出なきゃ」

 

 とは因悦(いえる)だ。

 

「私、百合ヶ丘来てロクに観光とかしなかったから楽しみなんだよねー」

 

 明日ねえに教えてもらったクレープのお店とか、灯音様に教えてもらったグッズのお店とか、それ以外にも行ってみたいところが山ほどある。

 

「そういえば(あい)ちゃんは?」

 

「今日は明日香隊長と一緒だって」

 

 珍しい組み合わせだ。明日ねえと藍ちゃんが一緒かあ。

 

「で、如來はどこか行きたいところある?」

 

「えっとね・・・」

 

 まず最初に来たのはケーキのお店だ。リリィに限らず女子なら甘いものに目がないはず。

 

「んーおいしい」

 

「でしょ?次は・・・」

 

 因悦に連れられてやってきたのは明日ねえに教えてもらった所とは違った雑貨屋だ。

 

「鎌倉周辺は何件かあるけど、ここは最近できたんだって」

 

 へえ。最近かあ・・・。

 一方の蘆乃はつまらなそうにしている。

 

「蘆乃、そんなにつまんない?」

 

「違う。そういうわけじゃ・・・」

 

「気にしなくていいよ。蘆乃、こういう子だから」

 

 え・・・因悦の言ってる意味がわかんないんだけど・・・。

 

「こうやって黙ってるときは蘆乃も楽しんでるんだって。私たち付き合い長いから」

 

 そ、そうなんだ・・・。

 店内に入りいろいろ見て回る。お、これは。

 こっそり画像を撮影して明日ねえに送る。

 

『因悦たちと一緒にいるけど、こんなの見つけたよ』

 

 しばらくして、

 

『如來買っといて。代金は後で払うから』

 

 と返ってきた。

 因悦が私の取ったものを見て、

 

「・・・なに?何か気に入ったものあった?」

 

「あ、これ?明日香姉様にね」

 

「へえ・・・カエルかあ」

 

「因悦は知らないんだっけ。明日香姉様、カエルグッズ集めるのが趣味なの。部屋見たらびっくりするよ?」

 

「確かに明日香隊長の実家の部屋すごかった・・・壁から天井、部屋の至るところにカエルグッズがあった」

 

 やっと蘆乃が話に乗ってきた。

 

「蘆乃はそういう趣味とかないの?」

 

 ・・・知っててわざとやってるのだが。本人から直接言わせたいし。

 

「・・・別に私のことはいいじゃない」

 

「別にいいじゃん。今日ぐらいは普通に答えてよー。ケンカしたくないし」

 

「まったく、素直じゃないなあ蘆乃は」

 

 と、因悦がとあるグッズを蘆乃の前にちらつかせる。

 

「・・・因悦わざとやってるでしょ」

 

「素直じゃない蘆乃が悪い」

 

「う・・・」

 

「あれ?如來と蘆乃と・・・因悦。ごきげんよう」

 

 そこへ灯音様が来た。ニコニコしている。

 

「ごきげんよう灯音様」

 

 訓練以外あまり灯音様に会うことはないのだが、明日ねえからいろいろ話は聞いている。

 

「如來。今日は・・・明日香と一緒・・・じゃないんだ?」

 

「えと・・・今日はそう・・・ですね。別にケンカしたとかじゃあないです」

 

 ホントにたまたま別行動なだけです灯音様。

 

「そう。なら・・・良かった。で、因悦は・・・なんでチャーミィリリィの・・・ストラップ持ってるの?」

 

「あ。これは蘆乃が・・・」

 

 と言いかけて、

 

「いえ、因悦が好きらしいです」

 

 慌てて蘆乃が因悦を指差す。

 

「そう・・・なんだ」

 

 灯音様完全に誤った認識したな。

 

「じゃ私は違うお店行くから」

 

 と言ってその場を立ち去ってしまった。

 

「蘆乃は罰として私たちに何かおごりなさい」

 

「・・・なんでよ!」

 

「私に濡れ衣着せたのは?」

 

 しばらくしてから、

 

「・・・わかったわよ」

 

 渋々答える蘆乃。

 明日ねえに頼まれたストラップの会計を済ませ、次のお店へ。

 

「私、行きたいところあるんだけど」

 

 

 

 

 

 

「へえ・・・長いこと鎌倉にいるけどここは知らなかった」

 

「明日香姉様に教えてもらったんだ」

 

「明日香隊長が・・・」

 

 少し街から離れてはいるが、ヒュージ警戒区域に近いラーメン屋にやってきた。

 

「まあ・・・ラーメンなのがちょっと残念だけど」

 

「別にいいじゃん。私にとってはラーメンとは切っても切れない縁なの!」

 

「櫻子姉様も前にここに来たって聞いたことがあるわ」

 

「へえ・・・で、学園戻って大泣きしたとか?」

 

 ガンッ!

 

「いったあ!」

 

 蘆乃に頭の上から思いっきり殴られた・・・。

 

「ひどい・・・誰も櫻子様のことだなんて言ってない・・・」

 

 これ以上は蘆乃の機嫌を悪くしそうなのでやめておく。

 

「如來。これ以上蘆乃からかうのはやめときなよ。またケンカになるよ?」

 

 小声で耳打ちされた。

 

「でもここホントに美味しいらしいから」

 

 一度来たかったのは事実だ。だから蘆乃たちを連れてきたのだが。

 実際食べて見ての感想。確かに美味しい。太麺なのが残念だが、スープの絶妙な絡み具合と味のバランス。尾上月島亭のあの味と比べるのはどうかと思うが、それに負けないぐらいなのは確かだった。

 

「あー美味しかった」

 

 店を出てから。結局ラーメンの話となり、

 

「明日香隊長の実家がラーメン屋で、如來の誕生日の日に食べたんだけど美味しかった」

 

「そ。それはよかった。じゃあ・・・」

 

「あんた達リリィだろ?助けてくれ!」

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 GYAAAAAAAAA!!

 

 突然呼ばれ案内されたのだが、確かにスモール級とおぼしき野良ヒュージが暴れている。ただ、場所が───

 

「・・・どうする如來?」

 

「どうするって言ったって・・・」

 

 複数体確認できるのだが、肝心の場所が少し離れている。

 オマケに視覚系レアスキルじゃない3人が揃いも揃っている。とはいえ迷っている時間はない。

 

「・・・私がなんとかする」

 

「何とかするって・・・ちょっと!」

 

 フォン・・・

 

 右手をかざしCHARMを起動させる。

 

 ガチャン!

 

 シューティングモードへ切り替え。

 

「この距離じゃ無理だよ!命中するかどうか・・・」

 

 私だって明日ねえに鍛えられてるんだ。照準を睨む。

 

「あそこまで行く方法考えよう?」

 

「いいから黙って!」

 

 つい2人を怒鳴ってしまった。後で謝らないとな。集中・・・集中・・・。

 今だ!トリガーを引く。

 

 パンッ!

 

 GYAAAAAAAAA!!

 

 よし。1体命中。

 

「・・・すごい。命中した」

 

 因悦がボソッと言う。

 この調子で残りも・・・と思った時だ。

 

 パンッ!パンッ!

 

「え・・・」

 

 音だけが聞こえ、残りも駆逐されていた。一体誰が?

 

「あ。如來ちゃんたちだ。ごきげんよう」

 

 円様・・・と、灯音様?

 

「ごきげんよう。どうしたんですか?」

 

「あれ?どうしたの?・・・あそこの・・・ラーメン屋にいたの?」

 

 そのものズバリを言われ一瞬動揺。

 

「ま、まあ・・・」

 

「丁度・・・食べに行こうって思ったら・・・偶然そこで・・・円と会って、店の前通ったら・・・ヒュージが出たって・・・いうから・・・来たん・・・だけど・・・」

 

 なるほど。偶然か。

 

「如來ちゃん、やっぱり明日香ちゃんの妹だね。レアスキルなしでここから撃っちゃうんだもん」

 

 褒められてるのか馬鹿にされてるのかよくわからないがまあいいや。ちなみに円様のレアスキルは天の秤目だ。

 

「明日香姉様にも鍛えられたけど・・・半分は自分の努力ですよ。姉様にも言われたけど・・・努力なしじゃ立派なリリィにはなれないし・・・」

 

「けど・・・驚いた・・・けど、ここからあそこまで・・・400mは・・・離れてるよ?」

 

 蘆乃たちは驚いている。

 

「けど・・・それでも勝ててない・・・ですよね?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

 円様が私に尋ねる。

 

「別に明日香ちゃん関係なくない?だって如來ちゃんは如來ちゃんだよ?」

 

「そうだね・・・」

 

「灯音様・・・」

 

「それにしてもビックリした・・・いきなりここから撃つ!とか言い出すから・・・」

 

 因悦だ。

 

「あはは・・・」

 

 私は苦笑いしながらも蘆乃のほうを見て、

 

「明日香姉様がすごいって思うのは・・・私が単に憧れてるだけじゃなくて・・・常に努力する人だからだったんだ。だから少しでも近づきたい!って思って必死で射撃の練習やって・・・。結局百合ヶ丘まで追いかけてきちゃったけど、それでもかなわなくて・・・だから私もっと頑張らなくちゃ」

 

「明日香は・・・ホントすごいよ・・・今のLGを・・・引っ張っていってる・・・京夏より・・・スゴイかもね」

 

 とは灯音様だ。

 

「ところで円様」

 

「どしたの蘆乃ちゃん?」

 

「さっき如來が勝ててない・・・って言ってましたけどあれってどういう意味ですか?」

 

「あー・・・」

 

 円様が言いよどんでいる。蘆乃の負けず嫌いが始まったよ・・・。

 

「言葉通りの意味だよ。あんただってウワサは知ってるでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 天の秤目リリィ───LGに入るとき明日香隊長に言った言葉だ。高等部の先輩でレアスキルなしで寸分違わず肉眼で見える範囲の射撃を命中させるリリィがいるという・・・のは中等部の風のウワサで聞いていた。

 如來の能力にも驚いたが、灯音様のさきほどの話ではそれ以上だということだ。

 

「けど、そこまでだなんて思ってなかった。私も・・・あんたに負けないから」

 

 ただ如來相手に悔しいだけではない、お互いのいいライバルとしての言葉。

 私も・・・もっとがんばらなきゃ。「あの人」に認めてもらうために。

 

 

 

 

 

 

「あんっ!あああっ!いやああっ!」

 

 今私は信じられないことに明日ねえに自分の胸を触られている。

 

「気持ちいっ!気持ちいいよお!」

 

 しかもめちゃくちゃ気持ちいい。

 私も明日ねえもあまり胸は大きいほうではない。櫻子様が羨ましい。

 

「・・・如來」

 

 誰かの声が聞こえる。

 

「・・・如來ってば!」

 

 バッ!

 

「待って!それ以上は!」

 

 というところで目が覚めた。・・・なんだ。夢か。

 

「・・・何口走ってるの?さてはそういう夢でも見たな?」

 

 ルームメイトからのするどいツッコミ・・・。

 

「な、なに朝からくだらないこと言ってんの!なんか用事あったんじゃないの?」

 

「後30分で朝食時間終わっちゃうよ?」

 

 ・・・は?

 慌てて携帯端末の時計を見る。

 

「なんでそれを早く言ってくんないの!着替え・・・着替え・・・」

 

「私はずーっと起こしてたけど?なんか幸せそうにニヤニヤしながら寝言言ってた」

 

 みるみるうちに顔が真っ赤になっていく私。

 

「忘れて!今すぐそれ忘れて!」

 

「幸せボケ?」

 

「違うって!」

 

 慌てて制服に着替えてルームメイトと一緒に食堂へ。

 

「・・・ねえ安芸乃。そんなに私そういう風に見える?」

 

 川端安芸乃。私のルームメイトだ。初等科からの生粋のリリィで蘆乃とはライバルだと思っていたらしい。蘆乃本人はどう思ってるかわからないが。

 安芸乃は少し考えて、

 

「そう・・・かな」

 

「う・・・」

 

 そのものズバリを突っ込まれた・・・。やっぱり・・・。少し明日ねえから距離置いたほうがいいのかな・・・。

 

「おはよう如來。安芸乃さん」

 

 因悦だ。

 

「おはよう因悦」

 

「どした?元気ないじゃん」

 

 いや、元気はありあまっているが。

 

「・・・そういう風に見える?」

 

「どう見てもそうだよ。いつも朝一番に声かけてくるのにボケーっとしてるし」

 

「・・・ようやくから元気だって自覚したんでしょ」

 

 蘆乃・・・。

 

「何?朝からケンカでも売ってんの?夜中にこっそり寮抜け出して櫻子様のとこに会いにでも行ってたんじゃないの?」

 

「はあ?根の葉もないデタラメ言わないでくれる?あんたのほうこそ行ってたんじゃないの?」

 

「昨日は戻ってすぐ寝たよ。証人なら目の前に」

 

 と安芸乃を指差す。

 

「如來ちゃん寝るのめちゃくちゃ早かったね。単位大丈夫?怪しいんじゃなかったっけ?」

 

 う・・・安芸乃・・・それ今ここで言う?

 

「・・・おい副隊長」

 

 因悦に睨まれてるよ・・・。

 

「な、なに・・・」

 

「明日香隊長に言って訓練止めてもらって。今日は勉強会やる」

 

 逃げよう。なんか適当に言い訳を・・・。

 

 ピピピ・・・

 

 携帯端末が鳴った。明日ねえからだ。

 

『今日の訓練は中止にします。急遽LG代表会議が入ったわ。お台場へ行かなきゃいけないの』

 

 なにその・・・狙ったようなタイミング。

 

「はい決まり。蘆乃って成績は・・・どうだったっけ?」

 

「一応・・・学年1ケタ台」

 

 う・・・優等生め・・・。

 

「あ。そういえば明日香隊長も櫻子様も成績で競争してるとか聞いたよ?まあお互い負けず嫌いみたいだし・・・」

 

「藍ちゃん・・・は今どこにいるの?」

 

 なんか安芸乃を置いてきぼりにしてる感じがするな・・・。

 

「ごめん安芸乃。LGメンバー集まるといつもこんな感じだから」

 

「いいよ。にしてもいいなあ・・・ここは仲良しで」

 

「え・・・安芸乃のとこはそうじゃないの?」

 

「そうじゃない・・・というか・・・変?」

 

 

 

 

 

 

「へえ・・・勉強会かあ・・・。私たちはやったことないなあ」

 

 昼食後たまたま廊下で会った円様との会話。

 

「意外です・・・仲がいいからてっきり・・・」

 

「あ。1回だけやったかも。私とみどりちゃんが課題やるの忘れててみんなで集まって教えてもらったことがね」

 

 課題だけなら明日ねえにしょっちゅう教えてもらってるけど・・・。

 

「まあがんばって。エリューズニルの次期隊長さん」

 

 それいわれれるのが一番きついんですけど・・・。

 

「あ。藍ちゃん」

 

 藍ちゃんも来た。

 

「ごきげんよう。メッセージ見た?」

 

「聞いたよー。またケンカしたんだって?」

 

 いや、ケンカはしてないけど・・・。

 

「それ誰情報?蘆乃と軽くそんな話はしたけどケンカにはなってないよ?」

 

「如來ちゃん・・・私より成績悪いってホント?」

 

「だから!それ誰情報・・・」

 

「今日私のルームメイトが休暇取ってていないから部屋で勉強会ね」

 

 なんか事が勝手に進んでるし・・・因悦のやつめ・・・。

 そして夕食が終わり天上の間で入浴を済ませた後、

 

「・・・」

 

 エリューズニルの1年生全員が藍ちゃんの部屋にいるという珍しい光景。

 

「・・・」

 

 そして無言であるノートを差し出してきた蘆乃。

 

「・・・これ、戦術理論のわかりにくそうなところまとめてあるから」

 

「・・・どういう風の吹き回しよ。私に恩でも売って何かする気?」

 

「私はっ!明日香隊長みたいに指示したり、みんなを牽引するのが上手く出来ないって思ってるだけ」

 

「はいはい。で、他の成績は?」

 

 冷たい因悦の視線。

 

「一般教科はまあまあ・・・。戦術理論とかとかが・・・」

 

 はあ・・・とため息の因悦。

 

「まあ今までの言動から大方予想はついてたけど・・・少しは明日香隊長見習ったら?」

 

「う・・・それ言わないで・・・一番気にしてるんだから・・・」

 

 

 

 

 

 

「うー・・・頭がパンクしそう・・・」

 

 こんなに頭を使ったのは久しぶりかもしれない・・・。

 

「さて・・・」

 

 因悦が切り出す。

 

「藍・・・ねえなんでそこまで過去を隠そうとするの?」

 

「え・・・如來ちゃんじゃなくて・・・私!?」

 

 急に振られて固まってしまった藍ちゃん。

 

「如來に教えたかったのは事実だけど・・・」

 

 確かに藍ちゃんは強化リリィだ。けどそれ以上のことを話そうとはしてくれない。

 

「どうしても言わなくちゃダメ?」

 

 突然始まった女子リリィ会。

 

「・・・私、G.E.H.E.N.A.のルドビックラボにいたの」

 

「G.E.H.E.N.A.の!?」

 

 思わず口にしてしまった私。無言で頷く藍ちゃん。

 ルドビコ女学院。下北沢や世田谷などが担当の学園だが、指導官の大半が亡くなり、残っているリリィはごくわずからしい。

 没落した今でもラボから逃げ出した実験体ヒュージが繁殖・攻撃していると聞く。

 

「だったら百合ヶ丘に来る必要なかったんじゃ・・・百合亜様とか幸恵様たちだっているのに・・・」

 

 つい口を挟んでしまう。

 

「私はあの人たちとは一切関わりがなかったから・・・とにかく実験が嫌で必死に逃げ出して鎌倉まで逃げてきた・・・」

 

 他の学園でかくまってもらうっていう選択肢もあったと思うが、なんで百合ヶ丘だったんだろう?

 

「え・・・藍って強化リリィだったんだ・・・」

 

 因悦は驚いている。

 

「別に隠すつもりはなかったんだけど・・・なかなか言い出せなくて・・・明日香隊長と如來ちゃんは知ってるよ?」

 

 藍ちゃんは続ける。

 

「私は特別寮に入る予定だったけど・・・無理を言って普通でいたいからって・・・」

 

 特別寮、か。

 確かに事情を考慮したら普通はそうなる。かの琴乃様のように。

 

「ごめん。もうひとついい?」

 

「ブーステッドスキルのことだよね?」

 

「ブーステッドスキルって?」

 

 因悦が私に尋ねてくる。

 

「ブーステッドスキルは何を強化されたのかが分かる目安みたいなものなの。もちろん外すこともできる。例えばラーズグリーズの安藤鶴紗様とか」

 

 鶴紗様の名前を出した途端顔を歪め出した藍ちゃん。

 

「え・・・藍ちゃんリジェネレーター・・・」

 

 無言で頷く。

 

「私は・・・死にたくても死ねない身体・・・みんなも嫌だよね・・・化け物みたいでしょ?予備隊のみんなからは嫌われて・・・エリューズニル入ってからも・・・みんなと上手くやっていけるのかずっと考えて・・・だから!・・・だから・・・ううっ・・・」

 

 突然泣き出してしまった。

 

「・・・」

 

 他のみんなは黙り込んでしまう。けど私は違った。

 

「・・・前も言ったじゃん!だから何?って」

 

「うっ・・・うっ・・・・」

 

 泣き続ける藍ちゃん。

 

「・・・ひとつ聞いてもいい?」

 

 因悦が口を開く。

 

「如來は・・・何とも思わないの?」

 

「じゃあ逆に聞くけど・・・因悦はどう思う?」

 

「どうって・・・」

 

 因悦は言い渋る。

 

「今初めて聞かされて・・・ビックリはしてる。けど、だからって藍をどうしようとか思わない」

 

「結論出てるじゃん」

 

 私は続ける。

 

「確かにみんな最初は同情の目で見るかもしれない。その子たちはそうとしか思えなかった・・・他の子たちはそれで離れちゃったんだよ。それでいいじゃん」

 

「如來ちゃん・・・」

 

「前も話したけど、御台場はさ・・・そんな悩みを抱えてるリリィばっかりなんだ。明日香姉様も・・・そんなリリィをいっぱい見てるから受け入れてくれてる」

 

 百合ヶ丘にはG.E.H.E.N.A.から逃げてきたリリィを多くかくまっている。かといって特別扱いしていいのか、というのはまた別の話になってくるが。

 

「だからさ、自分が強化リリィだから・・・とかなしだよ?藍ちゃん。ここではみんな同じ仲間なんだから」

 

「ごめん・・・私・・・うっ・・・ううっ・・・うわあああああああああああああああああああああああん!」

 

 また泣き出してしまった。

 

「だから・・・なんで泣くの・・・」

 

 藍ちゃんの背中をさすりながら尋ねる。

 

「私・・・今までこんな・・・優しくしてもらったことなんて・・・なかったから・・・だから嬉しくて・・・」

 

 藍ちゃん・・・。

 しばらくそのままわんわんと泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 次の日の講義後。

 

「ごきげんよう瀬能如來さん。わたくしと手合わせいただけないかしら?」

 

 櫻組の教室から出ようとしたときだ。

 入口前で待ち構えていたのは見ない顔のリリィだ。

 

「誰?名前も名乗らないなんて、失礼にも程があるでしょ!」

 

「おーい如來、そろそろ訓練・・・ん?誰?」

 

 後ろから因悦に声をかけられた。

 

「こっちが聞きたいんだけど?いきなり私の前に現れて『手合わせしろ!』だってさ」

 

 別に手合わせは構わないのだが、せめて名前ぐらいは名乗ってほしい。

 

「で、名前は?」

 

「如來、ちょっといい?」

 

 明日ねえだ。

 この状況どうしたらいいんだろう?

 

「あ。明日香ねえ!ちょっと待ってて・・・」

 

 茶色髪に軽くウエーブがかかったサイドテールのリリィ───どこのクラスだろう?

 

「これは失礼。LGパルパスの隊長瀬戸煌糜です。というか、覚えてないみたいですわね」

 

 クラスは名乗らなかったが、LGの隊長か。覚えてない?

 

「なら、これなら思い出してもらえるかしら?」

 

 と、髪をほどき、後ろでまとめ、前髪を上に上げてピン止め・・・あ!

 

「あんた・・・!煌糜!でも名字・・・」

 

「思い出した?最近親が離婚して今は旧姓を名乗ってるわ」

 

 瀬戸煌糜・・・旧姓は田村───御台場時代・・・特に予備隊のときやたら私に絡んできたリリィだ。百合ヶ丘にまで私を追いかけてきた?流石にそれはないと思うが・・・。

 

「あなた・・・煌糜?へえ・・・百合ヶ丘に来たのね」

 

 明日ねえも知っているので当然そういう反応になる。

 

「明日香様ご無沙汰してます。近々LG会議でお会いするかもしれませんが」

 

 なんか腹が立つ。LG立ち上げたのか・・・。

 

「まあいいけど。因悦、代わりにやる?」

 

「はあ?受けたのは私じゃなくて如來じゃない。受けたものは責任取ってよ」

 

「私は煌糜とやるの飽きたからもうやりたくない・・・」

 

 だって、相手してると疲れるし・・・とは本人の前では言わないが。

 

「ならこうしましょうか。修練目的の手合わせでLGの誰かもう1人参加させる」

 

 明日ねえの提案なら・・・まあ仕方ないか。

 

「わかりました・・・明日香様がそうおっしゃるなら・・・」

 

 

 

 

 

 

 ということで急遽訓練は中止、LGパルパスとの修練目的の手合わせとなったわけだが・・・。

 如來の相手はピンク髪ツインテールのリリィの子か。

 

「そういえば明日香様との手合わせは初めてですね。楽しみです」

 

 とはパルパス隊長の煌糜だ。

 京夏お姉様がいるとき無理を言って結夢様と手合わせしたなあというのを思い出す。勝てなかったのが今だに悔しい。

 煌糜にも同じように努力してもらいたい気持ちもある。

 

「帆さんねぇ・・・」

 

 如來がチラチラと横目で見ながら気にしている。

 

「帆はうちのクラスで一番成績のいいリリィです・・・」

 

 とは因悦だ。

 だが演習で一度も手合わせしたことがないという。

 

「だからさっきから気になってるのね・・・」

 

 判定人は私(上級生)がいるのでルール上向こうが指定できないため、こちらが行うことになる。

 

「それでは始めます」

 

 今回は咲良ちゃんだ。

 

「制限時間はなし、レアスキルは使用禁止。なお、今回は特例としてサブスキルの使用は認めます。CHARMはグングニルを」

 

 ・・・は?

 

「ちょっとまって。私は聞いてないわよ?どういうこと煌糜?」

 

「紫衣原先輩にだけ事前に言いましたから」

 

 事後承諾・・・まあいいか。

 

「事後承諾はトラブルの元だわ。他のLGでやったら苦情ものね」

 

 あくまでも冷静に対処せねば。

 

「・・・そうですね。仰るとおりです」

 

 元々対如來を想定していたからであろう、素直に謝罪。

 

「・・・煌糜のやりそうなことだわ。だから相手したくなかったのよ」

 

 とは如來だ。私は彼女たちがどういう関係かよく知らないので、こういうやりとりで情報を得るしかない。

 

 にしてもグングニルかあ・・・。去年使った以来だ。

 乃莉子さんにコアを付け替えてもらい、煌糜を待つ。

 

「お待たせしました」

 

 ・・・グングニルの魔改造機か。まあハンデと思えばどうってことはない。

 

「構えて」

 

 お互いCHARMを構える。

 ピンと張り詰めた空気。

 

「はじめ!」

 

 !?

 いきなり目の前に彼女が現れる。ステルス持ちか!

 咄嗟に離れる。

 

「ふっ!」

 

 まるで張り付くかのようにピッタリと付いてくるではないか。

 

(なにこの子!?)

 

 思わずシューティングモードにして訓練弾を撃つ。ただし特殊弾だ。

 

 パンッ!

 

 撃った直後ブレードに戻し、修練場の床を支えにジャンプ。

 

「うっ・・・」

 

 一瞬煌糜が声を上げるが、なおも私にピッタリ張り付こうとする。

 

(手合わせは技の見せ合いの場じゃないんだけどな・・・)

 

「あの弾・・・」

 

 誰かが声を上げる。

 グングニルで円を描き中に入ってジャンプ。今度はマギも入り過ぎてない。

 修練場の端のほうへ「わざと」移動する。

 

「えと・・・」

 

 咲良ちゃんは混乱している。一般的な射撃と違い害のない牽制のマギスフィアだからだ。

 そして───煌糜の背中に周り、しゃがんでから再びジャンプ、煌糜の喉元にブレードを突きつける。

 

「ううっ・・・」

 

「そこまで!」

 

 挨拶のときに言われた一言。

 

「さすがですね。マギスフィア撃たれたときは文句言おうかと思いましたが・・・それでも勝てなかったのは悔しいです」

 

「そうね・・・反則まがいの行為だから私にも落ち度はあるわ。だから今回は私の負けよ。ただ、最初も言ったけど、事後承諾の手合わせは決していい方法とは言えないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、私の番だ。

 相手は・・・同じ櫻組でパルパスメンバーの(ほのか)さんだ。

 最近蘆乃としか手合わせしてないので丁度相手が欲しかったところでもある。

 

(まああざとい煌糜とやるよりはマシか・・・)

 

「で、如來ちゃんはなんか策とか考えてるの?」

 

 藍ちゃん・・・策もなにもないでしょうに・・・。

 

「私は相手が誰だろうが全力でやるだけだよ」

 

「それでは2本目始めます」

 

 判定人は明日ねえと同じ咲良様だ。

 

「制限時間はなし、レアスキルは使用禁止。危険だと判断した時点で止めます。構えて」

 

 お互いにCHARMを構える。相手も同じCHARM───タングズニル同士だ。

 

(やったことなかったけど・・・ちょっとやってみようかな?)

 

 明日ねえや琴乃様と同じ鬼龍院流薙刀術の構え。私自身の実力はまだまだだ。

 

(集中・・・集中・・・)

 

 自分自身、今まで手合わせのパターンで「これだ!」っていうのが今までなかった。自分のステップアップのためにも。

 

「はじめ!」

 

 咲良様の合図。

 いつもならここで真っ先に向かっていくのだが・・・。

 

 少しずつ帆さんとの間合いを詰めていく。

 

「はあっ!」

 

 先に来たのは帆さんだ。

 懐に入られる前に少し手前へ引いてブレードを入れて避ける。

 

 キンッ!

 

 お、重いっ!帆さんってパワープレイヤー!?

 すかさず頭から振り下ろす。

 

 ブンッ!

 

 かわされた。当たり前といえば当たり前だが、こんな単純な手段で引っかかかるわけがない。

 からの───足にマギを入れてジャンプ!

 後ろ向きから左上に向けてブレードを突きつける!

 

 ブンッ!

 

 ・・・これもかわされた。まるでパターンを読まれているかのように。

 

(うそっ!?もしかして・・・私、負ける!?)

 

 

 

 

 

 

 如來の動きがいつもと違う?

 普段なら真っ先に相手に向かっていっているはず。しかも相手───帆さんに圧されている。

 

「・・・動きが裏目に出てるわね」

 

「そうですね」

 

 とは蘆乃だ。

 

「いつもどおりやればいいのに・・・」

 

 と少し呆れ顔。

 

「それは・・・違うわね」

 

「え・・・」

 

「如來は・・・自分を変えようとしている。去年の私よりはマシかな・・・」

 

「え・・・」

 

「去年の同じ時期にね・・・結夢様と手合わせしたのよ。そのときは自分の戦い方を見失いかけて止められちゃったけどね」

 

 と苦笑い。

 

「でも如來は冷静に自分を見ている・・・成長したわね・・・」

 

 さて如來はどうするつもりだろうか?

 

 

 

 

 

 

(なにか策を・・・今まで通りに戻す?)

 

 ふと思った。戻したら負けな気がする。

 戻したら煌糜の思うツボなんじゃないかとも思ってしまう。

 相手は煌糜全く関係ないはずなのだが、なぜか頭をよぎる。

 

(なんで煌糜のことが頭に浮かぶの私?関係ないじゃん!)

 

 ていうかかすりもしてないこと自体がなんかくやしい!

 

「こんのおおおおおおっ!」

 

 ブレードを右から・・・にみせかけて左から上へ。

 

 キンッ!

 

 あ・・・つい、いつもどおりやっちゃった。

 が、

 

(え・・・帆さんが体勢崩した!?)

 

 え?逆にいつもどおりやったほうがよかったのか!?

 それなら・・・。

 懐に入るフリをしてしゃがむ。

 からの立ち上がって上から下へ!

 

「そこまで!」

 

 

 

 

 

 

 なによ・・・結局いつもどおりやってるんじゃない。

 そう言ってやるつもりでいた。

 

 ポンポン・・・

 

 明日香隊長?

 

「如來の作戦勝ちね」

 

「あの、それって・・・」

 

「あの子はね・・・1度パターン化させるとそれしか出来なくなることがあるけど・・・それ以外は今みたいに応用力があるのよ」

 

 やっぱり明日香隊長は如來の守護天使だ。妹のことをよく見ている。

 櫻子姉様は私のことをどう見ているのだろう?

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