「今日は訓練・・・というよりはちょっとしたお遊びに近いわ」
百合ヶ丘近所の海岸。一柳隊こと、ラーズグリーズの一柳さんさん経由でミリアムさんもお借りした。ただ、その前日───
「わしのレアスキルをなんと思っとるんじゃ!マギの供給のためではないぞい!」
「お怒りはごもっともなんですけど、うちにはいないので・・・・一柳さんからも許可をもらっちゃってますし、そこをなんとか・・・」
「ダメなものはダメじゃ。わしは手を貸さんぞ」
「これでもダメです?」
と以前と似たような作戦に打って出る。
「なっ!?」
「モノで釣るのは卑怯かと思ったんですけど、確保するの大変だったんですよね。嫌というならうちの
「・・・お主、ずるいぞ」
「後・・・うちの
ミリアムさんが無類の甘いもの好きというのを事前にリサーチしていたので、これも少々ずるいがあえて釣ってみる。
「・・・よかろう」
・・・という流れがあった。ベスからは、
『完全な買収行為ですわね・・・よくまあそんなあざとい方法・・・』
とまで言われたが、私の狙いは実際に体験して、知識として覚えておいてもらいたい、という思いもあるからだ。
現に去年のギガント級討伐ではそれが役に立っている。
私個人としては遠藤(
「遊び・・・というと?」
「
「はい?」
何も知らない|藍ちゃんが私の元へ。
「みんなはレアスキルの多重合成って知ってるわよね?」
「言葉だけは・・・」
「知識だけあっても実戦で役に立たなかったら意味がない。だからどういうものかを実際に体験してもらうわ」
「え?」
2年生以外全員目が点になっている。
「え・・・じゃないわよ。1年のみんなは知らないと思うけど去年実戦で実際に討伐してるのよ」
「明日香・・・それは本当か?」
ミリアムさんまで疑心暗鬼になっている。
「あれ、この前一葉さんから何も聞いてないんですか?ギガント級討伐の遠征で、ベスがテスタメントで範囲広げて、恋花様がマギの供給元で、
「なんと・・・!いつだったか梨璃の髪飾りを探すのに使ったことはあったが・・・まさか実戦で応用できたとは・・・後で詳しく聞かせてもらえんじゃろか?」
「それは・・・構わないですけど・・・」
すっかりミリアムさんの目が輝いてしまった。
「ただ、この方法も欠点があるの。それは供給するリリィのマギ量に依存するわ。今回の場合、ミリアムさんの持ってるマギ量を人数分で割って分散して使うから、使える時間も限られてくる。逆にそれを上手く使えば短時間で効率よくヒュージの倒すのに有効な手段になるわ」
「なるほど・・・」
蘆乃は納得してくれたようだ。
「・・・なあ明日香よ」
ミリアムさんが小声で耳打ちしてきた。
「だったらわしではなく、亜羅椰でもよかったんじゃなかろうかの?」
「ミリアムさん。お菓子の件、なしにしてもいいんですが?なんなら、昨日のやつも返してもらいますよ」
私の顔がよほど怖かったのか、
「待て明日香、わかった・・・わかったから落ち着くのじゃ!」
「あの件のことか・・・今聞いただけでも腹が立つ!」
とはみどりだ。彼女も私と同じ被害者だ。
「え?なんのこと?」
「
「明日香姉様」
「どうしたの?」
珍しく
「原理は分かるんだけど・・・それをどうやって?」
「それはわしから説明させてもらうぞ」
終わってから。
「訓練・・・とか言ってた割には明日ねえもちゃっかり楽しんじゃってたじゃん。なんかずるい!」
・・・バレたか。自分も体験したかったのもそうだが、本音は戦術の可能性の広さを如來たちに覚えてもらいたいからだ。
「あのね・・・何のためにやらせたと思ってるの?ただ遊びでやったわけじゃないわ」
「じゃあ何?なんか根拠でも?」
・・・ダメだ。
「問題です。今ここでミドル級が10体出現しました。リリィは自分を含めて4人います。それぞれのレアスキルはテスタメント、ヘリオスフィア、フェイズトランセンデンス。自分のマギはほとんどありません。さあ如來ならどうする?」
「えと・・・」
急に振られて考え始める如來。
「例えばそういうことよ。戦略の選択肢としてね。自分のマギがなくても、多重合成でその分は使えるからなんとか戦える」
「・・・やっぱり明日ねえにはかなわないや。咄嗟にそんな考え出てこないもん」
「私もね・・・ただ闇雲にいろんなことをさせているわけじゃない・・・如來にいろんなことを覚えてもらいたい。そう思ってるだけよ」
「明日ねえ・・・私にいろいろ教えてくれるのは嬉しいよ?けど・・・それを指示して実践できるだけの自信ない・・・」
如來にデコピン。
「う・・・」
「1人で抱え込め、なんて言ってないでしょ?蘆乃たちのことはどう思ってるの?」
「どうって・・・蘆乃は・・・私のことを敵対視してて・・・」
「違うでしょ。如來だってもう分かってるんじゃない?」
「・・・やっぱりかなわないや。確かにケンカばかりしてるけど、それって結局お互いが羨ましいんだと思う。お互い素直になれなくて・・・けどホントは何でも言い合えるようになりたいんだけどね」
「なれるわよ。私とベスみたいにね」
明日香隊長はすごい。レアスキルの多重合成まで・・・。机上の理論でのことだと思っていたが、実践で・・・。
私には雲の上の人のように思えてならない。
今の私のLG内の目標───
1.如來とケンカをしない
2.思ったことはハッキリ言う
3.みんなと仲良くなる
4.櫻子姉様ともっと親密になる
最後は私の欲望でしかないが、努力はしているつもりだ。
翌日の朝。
「うーん・・・」
いつもより早く目が覚めてしまった。そういえば明日香隊長、この時間はもう走ってるはず。散歩がてら外行くか。
制服に着替えて校門前へ。いた。
「・・・蘆乃?」
「おはよう・・・ございます。明日香隊長」
「おはよう蘆乃。こんな時間に珍しいわね」
「なんか・・・目が覚めちゃって・・・」
「そう・・・うううっ・・・」
「明日香隊長!」
すごいフラフラしてる・・・。
「大丈夫ですか!?」
慌てて抱きかかえる。
「だい・・・じょう・・・ぶっ・・・ただの貧血だから・・・」
「大丈夫じゃないですよ!医務棟行きましょう!」
私が肩車をして医務棟へ連れて行こうとするも、
「ホントに大丈夫だから心配しないで」
平静を装いそのまま行ってしまった。
その後の朝食の時間。
「・・・」
私が無言で機嫌悪そうにしていると、
「どした蘆乃。また如來とケンカした?」
「・・・違う」
「じゃあなんでそんな機嫌悪いの?」
「明日香隊長・・・何か隠してるんじゃ・・・」
「明日ねえが隠し事?そんなのするわけないでしょ・・・あんた朝から何寝ぼけたこと言ってんのよ?」
如來はおそらく何も知らない。
「あんたホントに気づいてないの?」
「へ?なにが?」
「今朝・・・ランニング帰りの明日香隊長に偶然会ったのよ・・・そしたらすごいフラフラで・・・。私が医務棟に連れて行く!って言ったら「大丈夫だから」ってそのまま戻っていったわ」
「たまたまなんじゃないの?前日寝不足で走ってフラフラになった・・・とかよく聞くじゃん?」
ホント如來は楽観的というか、何も考えてないというか・・・。
「あの!」
昼食が終わり、午後の講義と演習が始まる前。
思い切って2年の講義棟に来てみた。
「あ。蘆乃ちゃん」
円様がいた。
「ベスちゃんだね。ちょっと待って・・・」
「今日は・・・明日香隊長を呼んでもらいたいんです」
「明日香ちゃん?別にいいけど・・・」
と呼びに行き、しばらくして、
「ごきげんよう蘆乃。珍しいわね」
明日香隊長だ。普段となんら変わりない。
「ごきげんよう。あの・・・今朝は大丈夫でしたか?」
「大丈夫よ。今朝のはホントただの貧血だから・・・」
と笑っているが、私にはそうは思えない。
「それと・・・お聞きしたいことがあるので付き合っていただけますか?」
ラウンジへ。
「明日香隊長っていつも忙しそうにしてますよね?1日ってどういうスケジュールで動いてるんですか?」
「朝起きて・・・学園の周り2周6キロランニング。これは蘆乃も見ていたから分かるわよね?それから・・・円と一緒に朝食を済ませて、訓練するときは控え室行って部屋の掃除してから訓練内容の確認、講義棟の食堂行ってお菓子の下準備、で、講義出て、演習出て、お昼食べて・・・食堂でオーブン借りてクッキーとスポンジの焼き具合をみて・・・、演習の後食堂寄ってケーキの仕上げ、それから・・・」
「・・・もういいです」
何この鬼スケジュール・・・。休憩する暇がない。平静を装ってはいるが、これは間違いなく過労の前兆だ。
「あの・・・また私たち勉強会したいので、今日の訓練お休みさせてもらっていいですか?」
つい嘘を言う。
「別にいいわよ。特に約1名成績の悪いリリィもいるしね」
と苦笑いする明日香隊長。
「それじゃ失礼します。ごきげんよう」
訓練前のラウンジ。
「で、何を話に行ったのかなー?」
とニヤニヤしながら因悦が突っ込んでくる。
「今日は訓練はなしよ」
「え?なんで?」
ハテナ顔の因悦。
「は、はにふんほにょー!(な、なにすんのよー!)」
と、隣にいる如來の口に人差し指と中指を突っ込んだ後、
「あんた明日香隊長の妹でしょ?そんなことも気づけないの?」
背後に回り、如來の両耳前付近をグーでグリグリとやりながら、
「痛い!痛いっ!痛いって!」
「明日香隊長の1日のスケジュール聞いてきたの。過労の疑いがあるわ。だから勉強会やるって嘘ついてきた。だから訓練はなし」
今朝の明日香隊長のフラフラ具合は貧血だけで片付けられるものじゃない。明らかに疲労から来ているものだ。
「そんなこと・・・ないもん!」
「いい加減そのくだらない意地張るのなんとかしなさいよ。大体そんなんだから明日香隊長に子供っぽいって言われてるのわからない?」
「それは・・・わかってるけど・・・けど納得行かないものは行かないの!」
と、如來はサブスキル───ステルスを使い、私の背後に回り込み、私のスカートを・・・えっ!?
「きゃあああっ!?」
いきなり上に捲ったではないか。あんたは子供か!大人げないにも程がある。
「なにするのよ!」
如來のほうを向き、思いっきりグーで顔パン。
「ぶべっ・・・」
ガッシャーン!
そのまま隣のテーブルに当たり、椅子が倒れた。
そして起き上がった如來も蘆乃に負けじと腹に向かて蹴りを入れる。
「このおおおおおおお!」
ガンッ!
「くっ・・・・・・!」
ガッシャーン!
如來に蹴られた私はそのまま吹き飛びテーブルにぶつかる。当然椅子もだ。
起き上がった蘆乃が如來の上に馬乗りになり、胸ぐらを掴む。
「いい加減にしろ!いつまで変な意地張ってんだ!」
蘆乃も負けじと如來の髪の毛を引っ張りだしたではないか。そしてそのまま殴り合いへ。
「それはあんただって同じじゃない!いい加減櫻子様に素直になりなさいよ!」
「ちょっと!2人ともやめなよ!」
「ふざけんな!明日ねえがそんなムチャするわけないじゃんか!」
「ふざけてるのはあんたじゃない!」
今まで口ゲンカはしょっちゅうしている2人だが、取っ組み合いのケンカははじめてだ。
2人を引き離そうと蘆乃を羽交い締めにしようとするが、
(なんでこんなときにレアスキル使うのよ!?)
蘆乃や如來の姿はその場にはない。
フォン・・・
「いつかあんたとマトモに勝負付けたいと思ってたんだよね・・・」
「望むところよ!」
ちょっと!?
CHARM抜き出した!?
キンッ!
お互いのCHARM同士が交差する音。
バッ!
効くかどうかはわからないが、お互いの腕を掴み、
パアアアアアア・・・
レアスキルを発動。
「いい加減にしろ!生徒会来るぞ?」
が、
スッ・・・
蘆乃のやつレアスキルまで使いやがった。
如來は如來でゼノンパラドキサで蘆乃に近づき、
キンッ!
蘆乃に再び攻撃。
(ったく・・・)
「藍!明日香隊長に連絡して!」
「う、うんっ!」
藍が通信端末を取り出して連絡を取る。もちろん通話機能で、だ。
私も通信端末を取り出す。止めるなら・・・と、すぐにみどり様が出た。
『どした?因悦?』
「すみません!今すぐ1年の講義棟のラウンジに来てください!如來と蘆乃がまたケンカを・・・」
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る。しかも通話機能だ。藍ちゃん?
なんだろう?
「どうしたの?」
『あの・・・大変です!如來ちゃんと蘆乃ちゃんが取っ組み合いのケンカ始めちゃって!』
「えっ!?場所は?」
『1年のラウンジです!早くしないと生徒会の人たちが来ちゃう・・・』
「今行くからなんとか2人を引き離して!」
『は、はい』
ピッ・・・
あの2人何やってんのよ!勉強会やるって言ってたのにケンカ!?全くもって意味がわからない。
ラウンジに着いてみると───
「離せっ!離せっつってるだろ!はーなーせー!」
「ダメだよ如來ちゃん!」
「今日という今日は絶っ対に許さない!」
「いいから落ち着け蘆乃!」
因悦と藍ちゃんに羽交い締めで押さえられた2人の姿があった。みどりもいる。
「で、なんでケンカ始めたの?」
「あ、明日香隊長!実は───」
はあああ・・・。
私はため息をついた。
つまり。
今朝の私を見た蘆乃が気を使って私を休ませようとした・・・のはまだいい。それを如來が気づかずに蘆乃が怒った末に取っ組み合いの大ゲンカ、挙句の果てにCHARMを抜いて非公式の手合わせをしようとした、ということらしい。下手に私が口出しすると事が大きくなるだけだ。
「今回ばかりは私の手に負えない・・・か」
周囲には他のリリィも見に来ていた。仕方ない。通信端末を取り出し、祀様のところへ。
「ごきげんよう。明日香です。実は・・・」
結局2人には謹慎3日の処分が下った。処分としては重いほうだろう。今までは私が止めて事なきを得てきたが、ケンカだけならともかく、非公式の手合わせの制裁、ということだ。
その2日目。
まさか私がこういうことをする日が来るとは。
スッ・・・
謹慎室のドアが開き、如來の横へ。当然当人は驚いている。
「明日ねえ・・・」
「守護天使の特権ね。10分だけだけど・・・私が天音を殺めそうになったときもこうやって京夏お姉様が来てくれたわ。まさか自分が同じ立場になるだなんて思わなかったけど」
「・・・ごめん・・・なさい。悪ふざけが過ぎたって・・・思ってる」
涙目の如來をそっと抱きしめる。
「ホントはね・・・お互い手合わせさせようかとも思ったの。けどLG隊長としての体裁もあるからそういうわけにもいかなかったのよ」
「ところで明日ねえ・・・ホントに体調なんでもないの?」
万全・・・と問われると嘘になるが、ここは如來を安心させるほうが優先だろう。
「ええ。あの日はたまたま徹夜明けで・・・ちょっと寝不足だっただけ」
1つ向こうの謹慎室は如來がいる。私は巻き込まれた側なのだが・・・。カッとなって真っ先に如來を殴ったのは事実なので罰を受けることにした。
私のリリィの履歴に汚点を付けてしまったが仕方がない。
スッ・・・
突然謹慎室のドアが開く。
え?なんで??
そこにはブロンド髪のサラサラヘアに緑の瞳───櫻子姉様がいた。
「あの・・・」
何も言わないまま私を抱きしめる。
「・・・バカね」
「・・・バカなのは如來のほうです。守護天使の・・・姉の明日香隊長の体調を気にしないなんて信じられない!」
「もしかして・・・あなた気づいてたの?」
「はい。遠回しに如來に言ったつもりだったんですが・・・軽くあしらわれてしまって・・・それでカッとなって・・・つい・・・」
その口ぶりだと・・・櫻子姉様も明日香隊長の疲労具合は知っていたみたいだ。
「それにしても・・・怪我がなくてよかったわ・・・」
「・・・すみませんでした」
「いいのよ」
スッ・・・
ドアが閉まり、再び謹慎室は闇に包まれた。窓もない金属で覆われたベッド以外なにもない部屋。おそらく部屋自体にも術式があって出ようすると何かしら働くようになっているのだろう。
「・・・ホント、どっちがバカなんだろうね」
謹慎室を出て、ベスとばったり会った。
「あれ?」
「明日香さん・・・」
「なんだ・・・」
「なんだとはなんです!失礼な」
お互い笑う。
寮に向かって歩きながら、
「・・・蘆乃は明日香さんのこと気づいてたみたいね」
「何のこと?」
「前に言ったでしょ!『LGに夢中になるのはいいけど、そのうち体調壊すよ?最近ちゃんと休んでる?』って」
ベス・・・いや、櫻子は続ける。
「蘆乃が気づいたってことは・・・あなた相当疲れてるわよ?例えるなら首の皮一枚で繋がってる」
「え・・・私そんな疲れてるように見える?」
「ええ・・・だから問題起こしたわけじゃないと思うけど・・・このままだとホントに倒れるわよ?」
・・・釘を刺された。
いや、まだ大丈夫。無理はしてない・・・はず。