GYAAAAAAAAAA!!
「い、いや・・・」
目の前にヒュージの触手が襲いかかる。
「大丈夫!?
蘆乃が駆けつけてくれた・・・。
「右足が・・・」
思うように動いてくれない。
「はああああっ!」
ザッ!
(なんで・・・こんなところで・・・)
「くっ・・・!」
必死に動かそうとするが激痛が走る。
そして、ミドル級が私に近づき、足(と思われる部分)が襲いかかる!
「いやああああああああああああ!」
久しぶりにこの夢を見た。
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」
あの時以来だ。この夢を見たのは。背中が汗でびっしょりだ。
「因悦ちゃん大丈夫!?」
びっくりしたのか、ルームメイトの吉野亜美ちゃんが声をかけてきた。
「あ・・・ごめん・・・。起こしちゃった?ちょっと、怖い夢を見たから・・・」
結局この後、目が冴えてしまって朝まで寝れなかった。
「因悦大丈夫?目真っ赤だよ?」
翌日の講義中のことだ。
同じLGメンバーでもある瀬能
「・・・大丈夫じゃない。眠い」
机の前に突っ伏す。
「夜ふかしでもしたの?」
「いや、違う・・・ちょっと・・・怖い夢をね・・・」
「ならいいけど・・・訓練中に倒れるとか、やめてね?」
「多分大丈夫・・・」
と返したものの、実は怪しい。
ゴーン・・・ゴーン・・・
ヒュージ出現の鐘が鳴る。今日の担当は私たちだ。
え・・・このタイミングで?
よく明日香隊長が言っている『ヒュージは時間と場所を選ばない』というのは間違いではないと思う。
「行こう。因悦、
一柳さんと結夢様が由比ヶ浜近くのアルトラ級ネストを殲滅してから随分経つが、今だにケイブは発生し続けている。
今回はちょっと4人だけに任せてみるか。私たちが出るまでもない、という判断だ。
「今回はスモール級10体、ミドル級8体ね。ミドル級って言ってもいつものミドル級ほどじゃないから苦労はしないはずよ。全体の指揮は如來、あなたに任せるわ。私たちは今回見てるだけね」
「え?私!?って・・・それと、見てるだけって・・・!?」
如來が驚いている。
「何言ってんの。副隊長でしょ。しっかりね」
如來がどういう指示を出すか、というのを見るためでもあるが、このときは私の読みの甘さ・・・いや、判断ミスに気づいていなかった。
「えっと・・・私と蘆乃でミドル級4体相手するから、残りお願い」
「わかったわ」
「うん」
藍ちゃんにレアスキルを使わせてスモール級を一気に殲滅する作戦か・・・悪くはないが、因悦たちの負担が高くないか?という疑問もある。そのときはサポートに回るか。
「明日香さん、今回1年生だけにやらせて大丈夫なんですの?」
心配になったのか、ベスが訪ねてくる。
「と思ってやらせてるんだけど・・・ちょっと様子見かな」
予想通り、藍ちゃんは
「・・・っ!」
足が震えている。普段ならなんなくミドル級に向かっていくはずなのだが・・・。
「う・・・」
少しずつ後ろずさりしていく。
GYAAAAAAAAA!!
ミドル級のうち1体が因悦に向かっていく。
「い、いや・・・」
まずい、完全に逃げ腰だ。
腕が因悦に伸びる。
「因悦さんの様子がおかしいですわ!どうなさいます?」
因悦どうしたの?いつもこんなことは・・・。
「みどり!」
「お、おう・・・!」
みどりのレアスキル発動!因悦の目の前に現れ、
「みどり様!?」
ガンッ!
ミドル級に向かって一撃!
「どうした因悦!いつもの因悦らしくないぞ?」
「あ、あれ?私たちだけでやるんじゃ・・・」
「いいからあたしについてきな!」
「は、はい!」
するとどうだろう、途端に普段通り戦えてるではないか。
(そうか・・・)
「一体どういうことですの?」
ベスが尋ねる。
「見てわかんない?因悦がどうして戦えなくなったか」
「わたくしにはさっぱりですわ」
「円はどう思う?」
円は少し考えてから、
「えっと・・・1人でヒュージと戦うのが怖い、とか?」
「そう。因悦は何かのキッカケで対ヒュージ戦のデュエルを怖がってる・・・」
「・・・私の予備隊仲間にも同じように戦えなくなっちゃうリリィがいました。『これじゃヒュージと戦えない・・・』って。その子はリリィをやめる道を選びましたけど、今何やってるかはわかりません・・・」
咲良ちゃんの話が本当ならば、このままだと因悦は・・・。
「このままでは因悦さんは同じように戦えなくなってしまいますわ・・・何か良い解決策があればよいのですけど・・・」
討伐は成功したが、因悦は終わった後も下を向いてうつむいている。
終わった後の
私と因悦2人残って話を聞くことに。
「・・・」
しばらく無言の後、
「どうしたの?今日は様子が変だったわよ?」
「・・・明日香隊長」
「中等部時代になにかあった?」
「野良ヒュージ討伐のときに・・・私が足を負傷して・・・蘆乃が私のことをカヴァーして・・・腕を切り落として、さらに迫ってきて・・・やられる寸前のところで麻友ちゃんが助けてくれたんですけど・・・その麻友ちゃんが上から振り下ろして足を下ろした先が崖だったんです。それで・・・崖の岩場が崩れてそのまま下に・・・蘆乃は自分のせいだと思いこんでたみたいだけど」
「それで?」
「もし誰かが自分をかばって・・・同じことになるんじゃないか・・・って・・・1人で戦おうとするとそればかり頭に浮かんできちゃって・・・。だからあんな・・・」
「そう・・・」
明日香隊長は私をそっと抱きしめてくれた。
「え!あの・・・」
「私もね・・・同じぐらいの時期にミドル級の討伐で失敗して死にかけたことがあるの」
「明日香隊長がですか!?」
びっくりした。まさか明日香隊長にそんな過去があったなんて。
「そんなに驚くことはないでしょ・・・私だって完璧超人じゃないわよ」
「すみません・・・」
「御台場の当時のやり方ね。今はわからないけど、引率で先輩リリィがいて、攻撃は私一人・・・手出しせずに見守ってるだけ。そこで私は撃ち漏らして背中から攻撃食らって大怪我・・・全治6ケ月。強化リリィになる道もあったけど断ったわ」
半年!?留年しててもおかしくない期間だ。けどどうして・・・。
「とにかくG.E.H.E.N.A.に関わりたくなかった・・・自分の手で敵を取るんだ!って必死に努力したわ」
明日香隊長・・・。
「その逃したミドル級は百合ヶ丘にレストアとなって私の前に戻ってきた」
「レストア・・・」
「今のエリューズニルが結成して2ケ月ぐらいの話ね。私ひとりで暴走して、京夏お姉様に怒られて・・・最終的にはマギを使い切っちゃって、みんなに迷惑かけちゃったんだけどね」
「・・・」
「確かに1人で向かってくのは怖いかもしれない。でもね因悦、それはリリィなら誰だって同じ。怖くないリリィなんて1人もいないわ・・・」
「はい・・・」
「それと、誰かがかばうのも当たり前。だって同じLGよ?犠牲に・・・だなんてさせないわ。それを考えるのが隊長の役目よ」
「そう・・・ですね」
「そういえば・・・如來から聞いたんですが、もし百合ヶ丘に来なかったならヘオロットセインツにいたかも、って」
「それはもしも・・・の話ね。ロネスネスからも誘いがあったけど、私は断ったわ・・・」
「けどどうして・・・」
「船田姉妹は知ってるでしょ?私、
「明日香隊長・・・」
「それと今回ね、如來に副隊長としてどこまで正しい戦略判断ができるかってテストもしてたの」
「そうだったんですか?」
「ええ。まさかこんなことになるとは思わなかったわ。私の判断ミスでもあるんだけど・・・あ、そうだ因悦」
「はい?」
「如來に伝言伝えてほしいんだけど・・・明日、講義前に私のところに来るように伝えてもらえる?メッセージするつもりだけど忘れそうだから」
「あ。わかりました」
「因悦、明日ねえと何話してたの?」
「個人面談・・・」
ブクブクブク・・・
天上の間でのひとコマ。私は浴槽に潜る。
「あーあ・・・私・・・何やってんだろ・・・」
「え?今日のこと?」
「うん・・・明日香隊長、如來に何か聞きたがってたみたいだけど・・・明日講義前に来てほしいって」
「あ・・・」
私が明日香隊長のことを出すなり、ばつの悪そうな顔をして、
「うー・・・どうしよう・・・絶対怒られるやつだ・・・」
「それはどうだろうね・・・長い付き合いなんでしょ?如來ならそれぐらいわかってるんじゃない?」
翌日。講義棟のラウンジ。
珍しくガチガチに緊張した如來が私の前に座っている。
「えっと・・・」
「なーに緊張してるの。如來を叱るために呼んだわけじゃないわよ」
とデコピン。
「いった!」
「ちょっと・・・昨日の反省をね」
「反省?」
「昨日の指示は私の読みの甘さだったわ・・・それに関しては謝るわ」
「そ、そうなんだ・・・」
怒られると思ってたらしく、安堵の表情。
「ところで如來」
「はい?」
「あんた・・・戦術理論の成績はどうなの?」
「うっ・・・」
その様子だと・・・いい返事は期待できなそうだ。私の記憶では、こと一般勉強に関してはあまり優秀ではなかったと記憶していたが・・・リリィになってもそこは変わっていないのか・・・。
はあ・・・とため息をついたあと、
「だと思ったわ。昨日の指示の仕方がね・・・」
「・・・どうせ頭良くないですよーっだ」
「こーら」
軽く頭を小突く。
「話は最後まで聞きなさい。そこを叱りたいわけじゃないわ」
「じゃあ何のために?」
「何年一緒にいると思ってるの?それぐらいわかるわよ・・・如來なりに考えられることはあるでしょ?」
「京夏様も、明日ねえも・・・みんな成績優秀で・・・ダメなのは私だけで・・・」
「もちろん戦術理論は大事。それ以上に副隊長なんだから他にやらなきゃいけないことがあるでしょ?」
「え?」
「私が副隊長のときはみんなの相談をしてたわ。というか、もうしてるでしょ?」
「・・・知ってたんだ」
「けど、因悦だけは私も想定外だった。後は恐怖心をどう取り除くか、ね」
如來をそっと抱きしめる。
「ええっ!?何?」
小声で、
「如來。訓練終わったら私の部屋に来て?」
すると、
「・・・はい」
同じく小声で返してきた。ただし、顔は真っ赤だが。
えっ!?ちょっと待って!?明日ねえの部屋に呼び出しって・・・・!?
確かに百合ヶ丘は名門だし、そういう関係になるリリィもいるっていう話も聞く。
(ど・・・どうしよう!?心の準備が・・・)
講義が終わり、訓練の時間。上の空で全然集中できない。
「如來!集中できてない。どうしたの今日は?」
そのせいか明日ねえに怒られてしまった。私の思い違い?
「えと・・・この後・・・だよね?」
「何勘違いしてるか知らないけど、今日は部屋に円もいるわよ」
そ、そうなんだ・・・。ビックリした・・・私の勘違いかあ・・・。
訓練が終わり、明日ねえと円様と一緒に山
ガチャ・・・
この前の私の誕生日のときは部屋の様子を見る余裕はなかったのだが・・・改めて部屋を見て、相変わらずだったので安心してしまった。
「あれ?ぬいぐるみは?」
「実家の私の部屋。百合ヶ丘の寮は狭いって聞いてたからかさばる大きいやつはみんな送ったわ。この前部屋に段ボール積んであったでしょ?あれよ」
「へえ・・・ぬいぐるみかあ・・・」
円様が興味津々だ。
「御台場にいたときに・・・ね。座って」
部屋中央に置いてあるラグの上へ。
「さて、もうすぐ来るかな・・・」
トントン・・・
「円様、明日香隊長。よろしいですか?」
え?因悦の声?
「開いてるわ」
ガチャ・・・
「失礼します・・・円様ごきげんよう。あれ?如來?」
「なんで?」
失礼にもストレートな質問。
「私が呼んだからよ。因悦も座って」
「はい」
私の隣へ。
「えと・・・因悦呼んでまで話って・・・・」
「明日の訓練の前に2人に話しておきたくてね」
「はい?」
「明日の訓練で2人のポジションを入れ替えるわ。如來は
「え!ちょっとまって!?ポジション入れ替える・・・って・・・」
少々強引なやり方ではあるが、訓練なので問題はないだろう。
「私が・・・ですか・・・?」
「そ。如來は御台場の予備隊でポジションどこだったの?」
「えっと・・・AZ・・・」
今まで本人に確認したことはなかったが、だからか。私がポジション指定してすんなり馴染めたのは。
「因悦は?」
「私は・・・BZでした・・・自主結成の予備隊で・・・麻友ちゃんのサポートがしたくて・・・」
例の亡くなったリリィの子だ。ということは狂酔の月持ちだったのだろうか?
これでヒュージが出ないのが一番いいのだが、ヒュージは時間を選んではくれない。
「拒否権はないわ。1日だけだから安心して」
如來と因悦を新館へ返し、ため息。
「どうしたのため息なんて。部屋でらしくないよ?」
「そうかな?」
と返したものの、なんか様子が変だ。頭がクラクラする・・・。つい先週も蘆乃たちに心配かけたばっかりだが・・・。
「ゴメン・・・ちょっと横にな・・・うっ・・・」
バタッ・・・
身体が思うように動かせない。返そうにも言葉が出てこない。だるい・・・頭がボーッとする・・・。
「ううっ・・・」
「明日香ちゃん!どうしたの?」
円が右往左往している。
「明日香ちゃん!?ええっと・・・生徒会、生徒会・・・」
身体がだるい。風邪でも引いたかな・・・。
「ゴメン円・・・身体が動かない・・・みんなに明日の訓練は中止って連絡して?」
「わかった!」
意識が薄れていく・・・。
「あと・・・如來と・・・京夏お姉・・・」
まで言ったのは覚えているが、以降の記憶がない。
「・・・ねえ」
如來?
「明日香!」
京夏お姉・・・様?
バッ!
「あっ・・・!」
目を開けるとそこには泣いている如來と泣きそうになりながら見守っていた京夏お姉様がいた。医務棟のベッド・・・久しぶりの光景だ。
「よかったああああああああ・・・!」
わんわんと泣く如來。
「・・・なんでそんな泣いてるの。ただ倒れただけよ」
「円から連絡来たときはビックリしたわ。最近少し頑張りすぎたみたいね」
「京夏お姉様・・・ごめんなさい。心配かけて・・・ただの過労です」
「ただの、じゃ済まされないわよ?LGのことを真剣に考えてくれるのは嬉しいけど、あなたが倒れたら本末転倒だわ」
「はい・・・」
「・・・」
遅れてベスもやってきた。が、無言のままだ。
パンッ!
平手打ち。いつ以来だろう・・・。
「・・・嘘つき」
ボソっと呟いた。本気で怒ってるときだ。
「私何回も警告したわよね・・・?私に嘘ついてたの!?」
胸ぐらを捕まれた。
「嘘は・・・ついてない・・・」
如來と京夏お姉様は呆気にとられている。
如來と京夏お姉様がいるのに気づいたのか、慌てて胸ぐらから手を離し、咳払い。
「・・・見られてしまったら今更ですわ。二重人格ではありませんが・・・仲のいい方としか素の自分は見せませんし」
「そ、そう・・・」
ベス・・・いや、櫻子の突然の告白に困惑をみせている京夏お姉様。
「それはさておき、最近頑張りすぎてましたものね。少し分担させたほうがいいんじゃありません?例えばお菓子づくりとか」
確かにLG控え室では一切のケアを私がやっている。京夏お姉様が隊長のときは琴乃様が一切をやっていたから負担になっていなかったのだ。
「なら、私の代わりにベスがやる?そうしてもらえると私の負担がかなり減るのよね・・・」
「・・・明日香さん、わたくしが料理下手なのわかっててわざと振ってらっしゃいません?」
私はただ振っただけなのだが・・・。
「さあ?なら妹の蘆乃にでも相談したら?」
「あの・・・明日香姉様」
如來?
「なあに?」
「私。琴乃様から教わります!」
確かに願ったりではあるが、確か如來は・・・私以上に不器用だった気が。
「気持ちだけ、もらっておくわね」
「えー・・・」
京夏お姉様は悟ってくれたようで、
「明日香が言うってことは・・・よっぽどなのね」
「まあ、そういうことです・・・けど、冗談じゃなくて分担は考えなきゃいけないわね・・・」
「とにかく。明日は安静にしててください。また倒れられても困りますっ!」
ベスに一喝された。
「ということですので、今日はわたくしたちの分担役割を決めますわ」
翌日のLG控え室にて。明日香さんはまだ医務棟で療養中だ。副隊長の如來さんに代わり私が指揮を取ることに。
「えっと・・・具体的には控え室のお菓子作り、訓練時間外のメニュー編成、CHARMのメンテ依頼、あとは・・・」
円さんが内容説明する中、
「ちょっといいか?」
珍しくみどりさんが声を上げる。
「どうしまして?」
「なあ・・・あたしたちもおんぶにだっこしすぎたんだよな?」
「みどりさん・・・人の話聞いてまして?それを今から決めるんじゃありませんか!」
「う・・・」
みどりさん・・・。明日香さんが頭を抱えるのも分かる気がした
「確かに・・・それはあると思います。少し明日香隊長に甘えすぎていました。それに───」
ゴーン!ゴーン!
ヒュージの出現の合図だ。
「如來さん。先に明日香さんに確認を」
「はい。櫻子様!」
ホントにベス・・・いや、櫻子のいうとおりになってしまった。
「私・・・そんなにムチャしてたのかな・・・」
今は安定しているが、1週間は安静にしていろ、と言われるだろう。何事もなければ、の話だが。
ゴーン!ゴーン!
ヒュージの出現の合図。今日の当番は私たちだ。
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る。生徒会からだ。
「ラージ級1体が近づいてきています。場所は由比ヶ浜もアルトラ級ネストがあった海岸跡地の3キロ先。今のところ実害はないものの、特型の可能性があるので注意するように」
特型ねえ・・・。京夏お姉様に入ってもらえれば私の出る幕はないと思うけど・・・。
ピピピ・・・
さらに端末が鳴る。如來からだ。
『明日ねえどうしたらいい?』
どうしたらいいって・・・なんというか・・・内容が簡潔すぎて何を言いたいのか伝わってこない・・・。
『それを考えるのがあなたでしょ。しっかりしなさい隊長代理!』
ノインヴェルトのバレットは如來に渡してある。ただ、ノインヴェルトの訓練を一切していないのが仇となるとはこの時思ってもいなかった。
「櫻子様・・・私・・・どうしたら・・・」
「少々不安ですわね・・・京夏様に連絡取ってみますわ」
今の如來さんには指揮能力がない、と判断した私は京夏様に連絡を取ることにした。
程なくして京夏様が控え室に。
「仕方ないわね・・・明日香がいないのは心もとないけど、やれることはやりましょう」
「はい!」
3ケ月ぶりのヒュージ討伐だ。不安はあるが腕は鈍っていないはず。
「ところで如來ちゃん。ノインヴェルト戦術の経験は?
「えっと・・・御台場でフンフヴェルトやっただけで一度も・・・」
明日香のツメの甘さ?まあそれはいい。マギスフィアの扱いに慣れていないわけではなさそうだ。
「ラージ級1体よね?1発で決めるわ」
あまり手間取りたくないというのもあるが、今は明日香の側にいてあげたい、という気持ちのほうが強い。おそらく如來ちゃんもそうであろう。
CHARMで地面に円を描き、その中へ。
マギの力で跳躍することができる。
ノインヴェルトのバレットは如來が持っている。まず誰にパスを渡すか。
「えっと、ノインヴェルト戦術、いきます!」
ガチャン!
ノインヴェルトの弾を装填、そして───
ズガンッ!
「円様!」
円か・・・軌道ルートも悪くない。
ちなみだが、私がノインヴェルトを指揮していたときの基本陣形はAZからBZ、BZから
「えっと・・・」
円が躊躇している。
「私にまわして!」
すかさず声を上げる。TZ同士で回して最後咲良ちゃんから蘆乃に回す方法を取る・・・つもりでいた。
シュバッ!
円からマギスフィアが来た。
(よしっ!・・・あれ?)
この時点で違和感は感じていた。
(マギスフィアが・・・少ない?)
どうする?このままではフィニッシュショットをしたとしても失敗する可能性が高い。
ここはイチかバチか賭けをすることにした。下手をするとこの時点で私のマギがなくなるかもしれないが。
「TZ同士で回すわ!エリザベスさん!」
シュバッ!
「わかりましたわ!」
グンッ!
「お、重い・・・この感覚久しぶりですわね・・・」
私が今出せるだけのマギをマギスフィアに込めたからだ。
エリザベスさんが導き出したルートは───
「藍さん任せましたわ!」
賭けに出たようだ。だが、ラージ級の触手が来る!
「バカお嬢!違うだろ!」
みどりは気がついたようだ。レアスキル───縮地を使い、触手に当たる寸前のところで見事キャッチした。その辺の目の良さとルートの読み(とカンの良さ)は相変わらず良いようだ。
「なっ!?バカとは失礼なっ!」
「今のはそっちじゃない!あたしか因悦だよ!守護天使になったからノロけて思考おかしくなった?」
オマケに舌まで出して煽る始末。
「なんですって!」
「ケンカしてる場合じゃないでしょ!急いで!」
牽制する。
「ほら藍!行くぞー!」
「は、はい・・・」
シュバッ!
マギスフィアはみどりから藍へ。
が、しかし・・・。
「あああああっ・・・」
まずい。取りこぼした!
もしかして藍はノインヴェルト初めて?
明日香・・・ノインヴェルトの指導はどうしたの?
しかし・・・。
グンッ!
・・・マギスフィアを受け取る音?
「危なかったわね・・・ラージ級かあ・・・」
その声は・・・。
念のためなにかあっても困る、と思って飛んできたが、やはり飛んできて正解だった。終わった後は要安静なのは覚悟している。
「ナイスですわ!明日香さん!」
「明日香姉様!?なんでここに・・・」
「話は後!今はノインヴェルトを繋げるほうが先よ!」
この位置からラージ級を陽動できるルートの最適解は・・・。
「行くよ!因悦!」
シュバッ!
「はいっ!」
グンッ!
「わわわっ!重い・・・」
少々危なげなかったが、なんとか受け取ったようだ。
「もしかして・・・ノインヴェルト初めて?」
「はい・・・中等部でも・・・フンヴェルトまでしかやったことがありません・・・」
マジか・・・大丈夫かな・・・。これは私に責任があるのだが。
少々不安だが、残るは咲良ちゃんか蘆乃のどちらか。もしくはCHARM破壊覚悟で多くマギスフィアを貯めてぶつけるか。
「咲良ちゃんに投げて!フィニッシュショットは蘆乃に任せるわ!」
少々マギスフィアの量は過多になるかもしれないが、失敗するよりはマシだろう、という判断だ。
「はいっ!えと・・・」
「棒の中にカゴのついたボールを投げるときと同じような要領よ!」
聞いて理解したのかその場で頷き、
シュバッ!
「で、できた!」
マギスフィアは咲良ちゃんの元へ。
「お、重い・・・蘆乃ちゃん!フィニッシュショットお願い!」
ガッ!
「ああっ!」
投げる際にグルヴェイブのブレードの一部が欠けた音がした。
「CHARMの限界!?9人・・・よね?どうして・・・」
ギガント級討伐の際、みどりがムチャをして膨大なノインヴェルトのマギスフィアを強引に受け止めた上、(グングニルの)ブレードと本体を跡形もなく破壊したことを思い出してしまった。
問題は受けたときに蘆乃のCHARMが持つかどうか・・・。
シュバッ!
「うっ・・・お、重い・・・」
ミシミシ・・・
ブラダマンテ・アイにヒビが入る音。やはりマギスフィアの量が多すぎるか?
「え・・・!?」
グランギニョルのCHARMはノインヴェルトを受けてもシューティングモードにはならない。
「CHARMが限界よ!早くフィニッシュショットを!」
「はい!」
ガンッ!
軌道は間違いなく問題ない。
ドーン!!!
ラージ級はものすごい爆風を受け、駆逐されてい・・・ない!?
「やああああああああああああああっ!」
バカ!如來!こともあろうにラージ級に向かっていくではないか。なんでそんなところまで私そっくりなの!?
「みどり!」
「あいよ!」
ガシッ・・・
「やだっ!離してっ!」
みどりに腕を捕まれ、身動きが取れない如來。
「バカッ!それじゃ明日香と変わんないぞ!」
「え・・・」
「無鉄砲にもほどがあるだろ!昔な、撃ち漏らしたラージ級に向かってトドメ刺してマギ使い切って倒れたことがあるんだよ・・・お前は今同じことをしようとした。それでいいのか?」
みどりに言われ、うつむいてしまった。こんな形で私の恥を出されるとは思わなかったが。
「で、どうなさいますの?まだ動いてますわ」
マギ量を考えて余裕があるのは藍ちゃんなのだが・・・。
「私が行くわ」
京夏お姉様!?
「ダメですよ!お姉様!それに、マギだって・・・ノインヴェルト戦術・・・」
「大丈夫よ」
私が言い終わる前に一言だけ言い、ラージ級に向かっていってしまう。
「お姉様!」
タングズニルで地面に円を描き、慌てて京夏お姉様の後を追う。
「明日ねえ!」
如來の声が聞こえたが、ついてこないのを見ると誰かが止めたのだろう。
最悪の事態だけは避けなければ・・・それだけだ。
「はあああっ!」
ザシュッ!
ラージ級の本体とおぼしきところを左から右へ。
GYAAAAAAAAAAAAA!!
ラージ級の動きは止まる。いずれ形を保てなくなり無機質化していくであろう。が、
「え・・・何!?ううっ・・・」
バタッ・・・
と同時に京夏お姉様も倒れてしまう。
「お姉・・・うそ・・・なんで・・・!?」
目の前の光景が信じられない。
「みどり!京夏お姉様を医務棟へ!早く!」
「わ、わかった!」
このときはまだ、ただのマギ切れだろう、という判断をしていた。
「あの・・・お姉様の容態は?」
お姉様の収容されている医務棟には生徒会役員の秦祀様と担当も同席していた。
「大丈夫・・・と、言いたいところだけど、様子がおかしいわ。ただのマギ切れで倒れただけなら回復していてもおかしくない。それが・・・負のマギに浸食されているの・・・」
負のマギ・・・。
「あの・・・私たちって浸食されにくいんじゃ・・・」
「一般的にはね。狂酔の月のリリィは負のマギに影響されやすいってされてきたわ。けど、その負のマギの量が異常なのよ・・・カリスマやブレイブのリリィが浄化を試しても全く効かない・・・明日香さん、何か心当たりは・・・」
「ラージ級を倒すときにお姉様が・・・斬りつけて・・・それからいきなり倒れた以外は特に・・・」
「明日香さん。心して聞いてね。京夏さんは・・・元々余命宣告されていたの」
「え・・・そんなこと・・・私には一言も・・・」
はあ、と頭を抱える祀様。
「その様子だと・・・誰も知らないみたいね・・・もしかしたら、だけど・・・京夏さんはわかっててヒュージにとどめを刺しに行ったんじゃないかしら?」
そんな・・・。
それから私は毎日様子を見に医務棟へ足を運んだ。最初は落ち着いていた容態が日を追うごとに悪化していく。
1週間経過しても京夏お姉様は目を覚まさない。
「なんで・・・どうして・・・」
やはり行かせるべきじゃなかったんだ。そのことばかりが頭の中をぐるぐるしている。
(私のせいだ・・・)
今まで様々なヒュージと対峙してきたが、こんなのははじめてだ。もし、大量発生していたのなら・・・と思うとゾッとしてくる。
(ヒュージって細胞分化したリリィだ、なんて話もあるけどそうなのかな・・・)
思考がどんどんネガティブになっていく。
「明日ねえ・・・」
如來が話かけてきた。
「ねえ・・・なんで如來のこと相手にしてくれないの?ねえ!」
大声を出して私のことを揺すってくる。
「・・・ごめん」
事実が受け止めきれず『ごめん』の一言すらやっと言えている状況だ。
バタンッ!
医務棟の待合室のドアが開く音。
「明日香さん!京夏さんが!」
慌てて私の元に駆けつけてきたのは祀様だ。
そして今、目の前に広がっている光景が信じられない。
「うそ・・・だ・・・よ・・・ね・・・?」
ベッドの上には白い布が被せられたお姉様の姿。
祀様は首を横に振っている。
LGメンバー全員集まっていた。
「京夏ちゃん・・・」
「あんな強い京夏が・・・どう・・・して・・・」
「一体なにが・・・」
幼なじみの初花様、中等部時代から友人関係の灯音様と琴乃様が涙を流している。
「先週のあのヒュージ・・・CHARMのブレードからヒュージに送り込まれたらしい負のマギの痕跡が見つかった、って・・・」
信じたくはない。けど事実は事実だ。みんなに報告する義務がある。
「そんな・・・まさか!」
「残念だけど、そのまさかよ」
後ろからの声。
「しばらくね」
百由様だ。半年近く会った記憶がない。
「百由様、どういうことですの!?わかるように説明を・・・」
「簡単に説明すると、あの特型は負のマギを大量に保持していて、触れるとその余剰分を接触者に放出する・・・つまりは触れば誰でもなった可能性があるってこと。だからあのとき京夏さんの判断は正解だったのよ」
後から聞いた話では最初からノインヴェルトをやったとのことだが、判断は正解だったのだ。
そして京夏お姉様に向かい手を合わせ、そのまま工廠科のほうに戻っていった。
「お、姉様・・・うっ・・・ううっ・・・うううっ・・・・・・うわああああああああああああああああああああああああああんっ!!」
今は言葉よりも感情・・・言葉なんて出てこない。
私が泣き出すとみんな黙り込んでしまった。唯一、如來だけが私に話かけてくる。
「明日ねえ・・・」
「なんで?どうして!?あのとき私のことを無視してまで!」
今回は誰かが悪いわけではない。誰も予測ができなかった、誰にでも起こりうる出来事だった。
「・・・明日ねえは悪くないよ」
「わかってるわよ・・・!そんなの・・・!けど・・・・」
(ごめん!みんな・・・でも今は・・・無理・・・)
如來は後ろから私を抱きしめてくれる。
「私は!・・・そんな明日ねえなんか見たくない!いつもみたいに私を叱ってよ!」
ドンッ!
けど、如來を突き飛ばしてしまう。
「・・・明日ねえ」
そしてそのまま遺体安置所となった医務室から飛び出してしまう。
いつか私にもこんな日が来るんだろう、とは思っていた。去年亡くなった結梨ちゃんのときは謹慎中だったこともあって実感が湧いてこなかったのだ。今だに結梨ちゃんは行方不明なだけで本当はどこかで生きてるんじゃないか、と思う時さえある。
けど、目の前の現実が今だに信じられなくて・・・。御台場から逃げてきた私を快く受け入れてくれて、LGで一番に私のことを見てくれて・・・油断していた私のことを助けてくれて。リリィを殺めそうになったときも私のことを責めることなく許してくれて・・・。
思い出が次々と出てくる。そのたびに涙が止まらなくなる。
「ううっ・・・うううっ・・・」
オマケに如來まで突き飛ばして・・・。
(やっぱりダメ・・・私には
目的もなくアテもなく。学園の外を出て、ただひたすら走るだけ。もちろんCHARMなんて持ち歩いているわけがない。
気が付いた時には野良ヒュージの多発地域にまで来てしまっていた。
GYAAAAAA!!
「なっ・・・!?」
まずい。いくら野良のスモール級とはいえ素手で勝てるわけがない。
リボンをほどき、ある部分を触る。こうすることで一時的な武器へと変わるのだ。軽いダメージぐらいは与えられるだろう。
「はっ!」
それを目(?)に向かって投げつける。
GYAAAAAA!!
よし!
ボンッ!
制服のボタンを1つちぎり、地面へと叩きつける。
目眩ましは成功した。全力ダッシュしてその場から離れるが、スモール級は私のあとを追ってくる。冷静に考えれば足にマギを入れてジャンプして離れればよかっただけなのだが、今の私にはそこまで判断出来ていなかった。
(どこかに隠れてやり過ごす?)
だが、森だ。隠れる場所なんてたかが知れている。
(どうする?もしこんなとき京夏お姉様だったらどうしてた?)
その時だ。
「明日ねえ!」
如來?だが、姿が見えない。
「如來?」
声を上げるも、
「ここ!木の上!」
木の上?
すると、
「うわっ!」
上から私のタングズニルが降ってくるではないか。
「・・・っとと」
マギが入ってないCHARMはただの金属でしかない。落下寸前のところで受け止める。
「どうしてここが・・・」
「明日ねえ端末の位置情報忘れてる?」
あ・・・携帯端末、か。
端末自体はスカートのポケットだ。普段位置情報なんて切る必要もないので常に入れたままだ。
フォン・・・
右手をかざしCHARMを起動させる。マギが入りコアに私のルーンが示された。
ガチャン!
シューティングモードに切り替え、迫ってくる野良のスモール級目掛けて、
パンッ!
睨むまでもない距離なので命中。
GYAAAAAA!!
思わずため息。
全く何やってるんだ私は。
そしていつの間にか木から降りていた如來。目の前に来て、
パンッ!
思いっきり平手打ちされた・・・。頬を押さえるも下を向いたままの私。
「明日ねえのバカッ!CHARMも持たないで森に入るだなんて・・・!まさか死ぬ気だったわけじゃないでしょ?」
何も考えずにボーッとしてたなんて言えるわけがない。
「・・・わかんない・・・ごめん」
「明日ねえ・・・やっぱりおかしいよ!どうしてそんなに・・・」
パンッ!
如來に平手打ち仕返していた。
「如來には・・・私の気持ちなんてわかんないわよ!」
泣きながら大声で怒鳴ってしまった。
バンッ!
如來に押し倒された。
「守護天使だから?何したっていいっていうの?違うじゃん!」
「・・・」
何も答えられなかった。
「私・・・明日ねえの
「・・・」
「前も言ったよね?私を頼ってって!変わってないのは明日ねえのほうじゃん!・・・なんで・・・なんでよ・・・なんで・・・ううっ・・・うわああああああああああああああああん!!」
・・・意地張ってるのは私のほうだ。
「私はっ!如來が思ってるほど強くなんてないっ!如來珠の理想であろうとして・・・頑張ってただけ・・・!今の私は・・・私は・・・目標を見失った抜け殻みたいなものよ・・・」
泣きながら如來を強く抱きしめる。
「・・・そんなことないよ。私にないものいっぱい持ってるもん。だから守護天使とか関係ない・・・私のお姉ちゃんだもん」
「・・・ありがとう如來」
そして唇を近づけてそのままキス。
「明日ねえ!?あ・・・す・・・ええええええええええええ!?」
大きい声を上げ、
バタン・・・
そのまま気を失ってしまった。
(ありがとう如來・・・)
京夏お姉様は洲盧美様が亡くなった後、気持ちのやり場を失っていた。けど今の私には如來がいる。もし如來がいなくて誰とも守護天使を結んでいなかったら私はどうなっていただろう?
想像するだけでも怖い。洲盧美様みたいに後追いしていたかもしれない。そう思うと急に怖くなってしまった。
突然の急展開です。
この後明日香のメンタルがズタボロになってしまいますが、温かい目で見守ってあげてください(´;ω;`)