2日後。
火葬を終え、新たに作られた墓標の下に遺骨が埋葬され、最後のお別れ。
お姉様と仲のよかった人たちは泣き崩れていた。私も引きずられて泣きそうになったけどグッと我慢。
CHARMは元・
「いった・・・」
指輪をしている中指の血がダインスレイフ・カービンのコアに流れ落ちる。
パアアアアアア・・・
コアが光り、京夏お姉様のルーンから私のルーンに書き換えられた。
(これからよろしくね)
心のなかで呟く。しばらくはタングズニルではなくダインスレイフ・カービンを使うことになるかな?
初花様に話を聞いたところ、進級前両親が亡くなっていたそうだ。天涯孤独・・・そんなこと、私には何も・・・。
パンッ・・・・・・パンッ・・・・・・パンッ・・・・・・
今日も訓練は入れてないのだが、自室では落ち着かず、射撃場で的に向かい、無心で撃っていた。
すぐそばを円が通る。
「・・・」
何も言わずに立ち去ってしまった。
このところ円と私はロクに話をしていない、部屋内の会話も必要最低限・・・このままでは円と心が離れてしまうんじゃ・・・そんな気さえもする。
「あ・・・いた。明日香さーん!」
百由様?
「ごきげん・・・よう。何の用でしょう?」
「ちょっといいかしら。私に付き合ってもらえない?」
「はい?」
百由様の工房へ初めて入る。どうして工廠科の人たちは整理整頓が下手なんだ?と思うほど散らかっている。
「あれからちょっと調べ直したんだけど、意外なことがわかったのよ」
「意外なこと・・・ですか」
と、学園でもごく一部の人しか閲覧できない端末の画面を見せられる。
「これをみて。私たちリリィはこの細胞が突然変異してリリィになった、と現段階では考えているわ。あくまで仮説だけどね」
「はあ・・・」
イマイチ理解できていない私。
「ところがよ!負のマギに浸食されてしまうとヒュージ細胞と同じ速度で分裂して増殖・・・されるはずが、京夏さんはされていなかった。つまり・・・」
「つまり・・・?」
「負のマギ浸食よりリリィとしての終わりのほうが早かった、ということになるわ」
え・・・それじゃあ・・・京夏お姉様は自分の終わりが近いことを分かってて・・・。
「私の・・・せいじゃなかった・・・?」
「何のことかはわからないけど・・・ヒュージが原因ではないというのはこれで明白になったわ」
「あの・・・ありがとうございました!」
一礼だけし、百由様の工房を後に。
2つ隣の乃莉子さんの工房へ。
サッ・・・
「いきなりごめん!」
ノックもせずに声をかける。
「うわあああああああああっ!」
私の声に驚き、持っていたCHARMの部品を落とす乃莉子さん。
「あ、明日香さん・・・今度お見舞いに行こうと思ってたんだけど・・・何?」
「蘆乃と咲良ちゃんのCHARMっていつ頃直りそう?」
「咲良さんのCHARMは終わってるわ。問題は
「というと・・・?」
「エリザベート・ファクトリーにも問い合わせたけど、プロトタイプの開発は一切関わってない、の一点張りで全く進んでないのよ・・・。で、強引にエリザベスさんのブラダマンテの部品を流用しようとしたんだけど、設計が根本的に違うみたいでちょっと・・・ね」
エリザベート・ファクトリー───グランギニョル関連のベスの会社だ。CHARM持ち替えのときに薄々気づいてはいたが、もしかしたら蘆乃って・・・。
「ちょっとまって。ベス呼ぶわ」
「え・・・今?」
「今。やることなくてラウンジかなんかでボーッとしてるはずだから」
通信端末の通話機能を使い呼び出してみる。
『あ、明日香さん!?』
「大方講義棟のラウンジでお茶してた・・・ってとこかな」
『で、なんなんです?こちらを使ってまで・・・何か急ぎの用事でも?』
「乃莉子さんのところに来て。それと重大発表もあるわ」
ピッ・・・
「ホントは全員分ブレード強化してもらいたいところ・・・なんだけど、油断してたわ・・・あんなヒュージ・・・」
などと話しているうちに、
「まったく・・・なんですの・・・?人がのんびりお茶してるときに呼び出しだなんて・・・」
「わかったわかった。エリザベート・ファクトリーの社長令嬢さん」
普段言われない事を聞いてハッとしたのか、急に真剣になる。
「・・・蘆乃のブラダマンテ・アイのことですわね」
無言で頷く私。
「ブラダマンテの設計者は誰だかご存知?」
乃莉子さんの突然の振り。
「それはもう・・・
「はいビンゴ。いくらベスのとこで聞いたって断られるはずだわ・・・榛原?」
ベスが大きくため息。
「お察しの通り、蘆乃は榛原慧美様の実の娘ですわ。ブラダマンテはわたくしのためには作ってくださいましたが・・・本当は蘆乃さんのために作られた、そう伺ってますわ」
「え・・・じゃあ」
「ええ。ふた振りともオンリーワン・・・同じものはないということですわ」
「じゃあこれからどうするの?替えCHARMなんて・・・」
「・・・当の本人が」
と言ったきり黙ってしまった。
「え・・・蘆乃に話してないの?」
無言で頷く。
ややこしいことになってきた。
「話してない・・・というよりも本人が拒否してますの・・・乃莉子さんに出させはしましたが・・・処分してくれ、としか・・・」
「マルテ・・・じゃダメなの?」
「え・・・蘆乃の前使ってた・・・」
ベスがビックリしている。
「別に驚くことはないでしょうに・・・コアの情報みればすぐ分かることじゃない。で、中等部の工廠科でも聞いてみたけど、蘆乃のマルテ、誰も使ってないらしいわ。ルーン入ったままだったし、高くて壊しそうだから・・・だって」
確かにグランギニョルのCHARMは維持費のケタが違って私たちには扱えない。いくらグランギニョルの最廉価量産CHARMでも、だ。
「どっちにしても、直るまではそれでやってもらうしかないわ。それと───」
「お姉様・・・ヒュージが原因ではなかったわ」
「え・・・」
「さっき百由様から聞いたの。負のマギの浸食よりも・・・お姉様のリリィの終わりのほうが早かった・・・って・・・」
「それって・・・」
「遅かれ早かれ私たちはマギの量もピークを過ぎると少なくなっていく・・・その終わりが攻撃と同時に来た・・・」
「つまり、あそこで止めようが止めまいがリリィとしては終わっていた、と?」
無言で頷く。
「だからリリィとして全うできて私は幸せだったんじゃないのかなあって・・・。お姉様は『違う!』って言いそうだけど・・・」
改めて乃莉子さんのほうを見向き、
「そういうことだからブラダマンテ・アイの修理は保留にしておいて。それと、相談なんだけど・・・」
「なるほど。円さんのときとほぼ同じね」
「そういうこと。本人は納得しないだろうけどね。グランギニョルCHARMの部品が高いのも承知してるわ。ほんっと、ムチャなのは分かってるわ」
乃莉子さんに頭を下げる。乃莉子さんは少し考えて、
「中古部品かき集めればなんとか・・・」
ちなみに、CHARMのブレードと銃芯は定期的に交換が必要な部品なので中古というのはありえない。
「ありがとう!今度実家で取り寄せセット作った、って言ってたから送るわね」
「明日香さん、それ、わたくしにもよろしくて?」
・・・やっぱり食いついてきた。
「はいはい・・・部屋にあるから後で取りに来れば?ホントは私が夜食用にってもらった分だからね」
その後改めて控え室に全員呼び出し。
「心配かけてごめんなさい!」
開口一番謝った上で、
「まず最初に報告します。私のお姉様だった夏目京夏様だけど・・・ヒュージが死因ではなかった、と正式発表がありました」
「え・・・どういう意味?」
円が尋ねる。
「つまり、リリィとしての終わりのほうが負のマギの浸食よりも早かった、ということですわ」
ベスが補足する。
「つまりはただの事故・・・私が止めようが止めまいがこうなる運命だったのよ・・・」
お姉様の余命宣告の件は結局口に出さなかった。私自身が納得できていないのもあるんだけど・・・。
「それと、蘆乃」
「は、はい」
「後で私と一緒にラーズグリーズの楓さんのところに行くわよ」
「嫌です」
即答・・・。
「じゃあ・・・CHARMはどうするの?乃莉子さんにも確認取ったけど、グランギニョル本社に直接掛け合わないと修理はできないって・・・」
蘆乃はベスのほうを見るも、
「残念ながらエリザベート・ファクトリーはノータッチですわ。アーセナルの方が本社栄転の際に関係資料全部持っていったとかで一切残っておりません」
「今聞いてのとおり蘆乃の替えのCHARMが見つかるまでは訓練はなしにします。自主練は大いにかまわないけどほどほどにね。怪我をしたら元も子もないわ」
「はい」
「じゃあ。今日はこれで解散ね。ベスと蘆乃には残ってもらうわ。隊長命令として、ね」
しばらくしてエリューズニルの控え室には似つかわしくないリリィがやってきた。
「あら明日香さん、とエリザベスさんと・・・蘆乃さん?がんくび揃えてどうなさいました?」
一柳隊、ことラーズグリーズから楓さんを呼び出し、事の次第と協力を要請。
「なるほど・・・掛け合ってはみますわ。CHARMの修理ですから問題ないとは思いますが・・・」
「お願いします楓さん」
楓さんを見送り、
「さて、次は乃莉子さんのところね」
工廠科の乃莉子さんのところへ。
「ごきげんよう。どう?やってみて」
「明日香さん・・・とエリザベスさんと蘆乃さん?まあいいわ。頼まれたものはうまく行ったわよー」
「頼まれたもの・・・とは?」
「ちょっと、ね」
魔改造もう上がったのか。乃莉子さん段々早くなってない?もちろん守護天使であるベスにはとぼけてもらっている。
「ひょっとしたら円さんのアステリオンより性能いいかもよー?」
え・・・そこまでなんだ・・・。
と言って机の上に置いたのは───
「・・・マルテ?」
蘆乃がぽつりと呟く。
「・・・の中古部品かき集めて組み直して魔改造したの。グランギニョルのCHARMなんて、中古部品でもなかなか出ないから苦労したわ」
とは乃莉子さんだ。
「見た目はマルテ、ブレードはブラダマンテ、バランスウエイト・・・は搭載できるスペースがなかったから断念したわ。後ちゃんとグランギニョルから公認取ってルーン入れてもらってるからね」
「あの・・・バランスウエイト・・・って?」
蘆乃が疑問に思うのも無理はないだろう。
「私や如來、円のCHARMには仕込んであるの。シューティングモードの安定度が全く違うわ。この前の入れ替え訓練のときは無効にしてたから分からなかったはずよ」
「それと・・・こっちも」
と乃莉子さんが出したのは───
「あ・・・私が使ってた・・・」
思わず蘆乃が声を上げる。蘆乃が中等部時代に使っていたマルテだ。ただし持ち手機構の一部が傷だらけだ。
「見覚えあるでしょ?中等部でも誰も使わなかったそうよ。まあグランギニョルのCHARMは維持費のケタが違うからね」
と苦笑い。
「それはともかく、しばらくどちらかを使うことになるわ。どうする蘆乃?」
「あの・・・明日香隊長・・・どうしてここまで・・・」
「お母さんと何かあった?」
「え・・・」
急に蘆乃の顔が曇る。
「榛原慧美。グランギニョルのアーセナル。蘆乃の実のお母さん。エリザベート・ファクトリー在籍中にベスのCHARM、ブラダマンテを開発。その直後、開発資料一切を持って本社開発部署に戻って改良型の開発途中に失踪。現在も居場所は分かっていない」
「そこまで・・・知ってるんですね」
しばらく黙るも、
「あの人は・・・私の母さんなんかじゃない!」
蘆乃が大声を上げる。
「蘆乃・・・」
「あの人は!・・・あの人は・・・私のことなんて目もくれない・・・!休暇日に戻っても話に上がるのはCHARMのことばかり・・・。私のことなんてちっとも興味ないんだ・・・」
「それは・・・どうかな?」
「え・・・」
蘆乃は驚いた顔をする。
「仕事としてCHARMのことに真剣なのは当たり前よね?けどもしそれが、あなたのためだったとしたら?」
「・・・」
何も答えなかった。
「それと、ブラダマンテ・アイはどうやって手に入れたの?いくらユニーク機って言ってもそう簡単には手に入れられないわ。ましてやプロトタイプなんて・・・」
「・・・何が言いたいんですか。私が何かした、とでも?」
「それは今回と関係ないけど・・・グランギニョルのCHARMはマテリアルネームとアーセナルのルーン、それと使用者のルーンが刻印されている。蘆乃もそれぐらいは知ってるわよね?CHARM持ち替えのときに一通り見たけど、それらしきものが一切見当たらなかったわ」
蘆乃は無言で頷くも、
「・・・困らせてやろう、って思ったんです。関連資料も全部私が持ってます」
「困らせるどころか
「私も聞いたことが。第四世代のCHARMの開発にも携わっていたとかで、グランギニョルの精神干渉型CHARMも開発が止まっていると聞いたわ」
アーセナルの間でも有名人だったわけだ。
「あーあ・・・私もCHARMの開発とか依頼がくれば有名になるんだけどなあ・・・」
と嘆く乃莉子さんは置いておくとして、
ピピピ・・・
ベスの携帯端末が鳴る。
「・・・お父様からですわ。ちょっと失礼」
と一旦外の廊下に出てしまった。
「お母さんの件は一旦置いとくわ。CHARMはどうするの?このままだとLGとしても機能しない。それと、脅すようで悪いけど、私たちリリィは莫大な公費が投入されているわ。ノインヴェルトのバレットとかがいい例ね。CHARMもその例に漏れず、だってこと」
さらに続ける私。
「改めて言うわ。私たちリリィの相手はヒュージよ。あなたのお母さんでもない・・・それだけは忘れないで」
「おまたせしましたわ」
ベスが戻ってきた。
「慧美様の居場所がわかったそうです・・・ホント、楓さんの情報収集ネットワークには頭が上がりませんわ・・・」
事前に楓さんにでも根回ししといたのか?随分手際がいいな。
母親の名前を聞いてまたも険しい表情になる蘆乃。
「蘆乃。ちゃんと謝りなさい。これはわたくしが姉として言っています」
こういうときに守護天使をダシに使うのはどうかと思うが。
「で、どうするの?」
蘆乃は少し考えて、
「私のマルテは処分してください。それと、ブラダマンテ・アイと資料はお返しします」
言い切った。
「マルテは処分・・・はしないけど、部品として再利用させてもらうわ。それでいい?」
蘆乃は無言で頷く。
「で、ブラダマンテ・アイだけど・・・どう処理するつもり?社長令嬢さん」
「わたくしに考えがありますわ」
とりあえずCHARM問題は片付いた。
親子問題は・・・私たちだけではどうにもできない。
「なんでこう・・・うちの子たちってややこしい悩みばかり抱えてるのかしらね・・・」
「わたくしからは何も申し上げられませんわ」
「だよねえ・・・楓さんも、去年の結梨ちゃん騒ぎのときに父さんと少し揉めたらしいし」
「・・・知ってましたの」
「ミリアムさんからちょっと、ね」
「ベスのとこは無関係だったらしいけど、G.E.H.E.N.A.とグランギニョル本社が手を組んで、ヒュージ細胞を使った人造リリィ計画に加担した、とかなんとか」
「・・・なんでそんなこと知ってますの!?」
「たまたま耳にしただけよ」
とシラを切ったが、実際は去年謹慎解除で部屋から出る直前、当時の生徒会会長である
「・・・次は円と私か」
ボソッと呟く。
「円さん?」
部屋に戻る。いた。
だが、目も合わそうともしてくれない。
「・・・」
そして無言のまま部屋を出ようとする。
「待って!」
つい円の手を掴んでしまった。
「・・・ごめん」
私のほうを振り向くも表情を変えず、振り払いもせず、そのまま手を離す。
「・・・よかった」
え?
突然円が口を開いた。
「いつもの明日香ちゃんだあああああああああ!」
いきなり私に抱きついてきた。
「ええええ!?」
そしてそのまま泣き出してしまった。
「よかった・・・ホントよかった・・・・」
「ちょっと!?円!?」
円が黙っていたのは私がちゃんと返さなかったからだった。私の取り越し苦労か・・・。
「ほら、泣いてちゃダメだよ。もうすぐベスが部屋に来るんだから」
「・・・ベスちゃん?」
「円は知らないか。ベスがラーメン好きだってこと」
「え!?そうなの!?私・・・お嬢様だからてっきりそういうの食べないかと思ってた」
予想通りの返答。
「本人いたらショック受けるわよ・・・で、実家の取り寄せセット取りに来るはずだから」
トントン・・・
ほら、ウワサをすれば。
「明日香さん、円さん入りますわよ?」
ガチャ・・・
なんというか、この部屋には似つかわしくない人物。百合ヶ丘の生徒だからその例えは間違っているはずだが。
「さっき言ったやつなら手前のクローゼットの下にあるから」
簡潔に場所だけ説明する。
「ちょっと明日香さん!随分冷たくありません?」
「冷たい・・・って、さっき大事なことは話したでしょうに・・・他に何があるのよ・・・」
「円さんとの問題・・・とかですわ」
「・・・さっき解決したわ。単純な理由でね」
「・・・なんのこと?」
円がハテナ顔だ。
「なんでもない。それよりさ、このところ3人揃うことって訓練以外で少ないじゃない?」
「それは・・・そうですわね。守護天使になってからはなおさらですわ」
「私も同じ。如來が金魚のフンみたいにベッタリだからね」
「今度久しぶりに3人でどこか行きたいね」
「ヒュージが出なかったらね」
2年生に上がってから3人で・・・という機会は激減してしまった。すれ違うことのほうが多い。
それよりも。私たちがリリィとしての役目を終え、離ればなれになったとき、この関係はどうなるんだろう?とかふと考えてしまった。
私は母のことが嫌いだ。
アーセナルであることは誇りに思う。けど、常にCHARMのことしか頭にないんじゃ・・・と思っていた。
・・・いなくなるまでは。
結局プロトタイプは櫻子姉様を通して『私は無関係』という
明日香隊長と櫻子姉様とのやりとりを見て思った。
(この人・・・真剣にヒュージと戦うことを考えてて、私たちのことも考えてるんだ・・・)
だからこそ亡くなってしまった先代隊長の京夏様も信頼を置いていたんだと思う。妹である如來もべったりなのも納得がいく。
生徒会に申請を出し、深夜の使用許可を取った射撃場へ。
半年ぶりぐらいに使うマルテ(の魔改造仕様のマルテ・リジル。
まず射撃場へ。
ガチャン!
シューティングモードに切り替えてみる。
マルテもそうだが、グランギニョルのCHARMはシューティングモードのとき、展開がキレイで気に入って使ったところがある。
パンパンッ!
試しに数発。もちろん訓練弾だ。気持ちマギの入る速度が早い気がする。射撃自体あまりうまいほうではないので、如來や明日香隊長、円様が羨ましく思うことがある。
前に天上の間で聞いたことがあったのだが、
「ねえ・・・なんであんなに射撃上手いの?」
「なんでって・・・鍛えられたから?」
「・・・答えになってない」
「えーなんで・・・十分答えじゃん。明日香姉様に鍛えられたからね」
と答えが来た。
以前訓練でCHARMを入れ替えてやったことがあったが、ユグドラシル製CHARMを使うリリィが多いのはやはり扱い易さなのだろうか?
パンッ!・・・パンッ!・・・パンッ!
素振りをしてても仕方がないのでとにかく射撃精度を上げたくてとにかく撃ち込む。
(そういえば・・・櫻子姉様も明日香隊長ほどじゃないけど上手いのよね・・・。何が違うんだろう?)
「へえ・・・こんな時間に自主練ねえ・・・」
え・・・明日香隊長!?
「ご、ごきげんよう・・・どうしたんですか?こんな時間に」
「それはこっちの台詞よ。寮の窓眺めてたら射撃場の明かり付いてるから何かあったのかと思って見に来たの。で、誰かさんみたいに無断使用・・・」
「じゃないですよ。ちゃんと書類もあります」
と時間外使用許可申請を見せる。
「そうだ・・・前々から気になってたんですけど・・・どうしてあんなに射撃うまいんですか?」
「そうね・・・」
明日香隊長は少し考えて、
「サブスキルの恩恵もあるけど・・・御台場時代にビームライフルやっていたのよ」
競技としての射撃、か。正確さが求められる上、勝たなければいけないプレッシャーもある。上手さの秘密はそこだったのか。
「ビームライフル・・・ですか」
「でも、ビームライフルの銃ってCHARMより遥かに重いから、最初は射撃でかなり苦労したわ」
確かに明日香隊長の言う通り、CHARMは俊敏性が求められるはず。
「で、当時の工廠科と相談してバランスウエイトの基本仕様が出来上がったわ。ブレードモードのときは軽く、シューティングモードは重く、ね。そのときは私以外誰も使わなかった・・・すぐ廃れると思ったんでしょうね」
「ほとんどのCHARMには実装されてないですよね?どうして・・・」
「それは設計者の兵藤
つまり誰も知らない技術、ということだ。
「それと・・・扱いやすい、扱いにくいは人それぞれだからね。リリィ全員が扱いやすい、とも限らないわ」
「なるほど・・・」
「で、私に聞きたいのはそういうことじゃないんでしょ?」
「・・・どうしたら上手くなれるか教えてほしいです」
明日香隊長は、
「そんなに焦ってどうしたの?いずれみんなに教えるつもり。だから答えは『NO』・・・と言いたいところだけど、さっき見てた限りだとあまり上手くはないわね。いや、如來のほうがもっと下手だったわ」
「え・・・」
「信じられないかもしれないけど、中等部の如來は的に当てるのがやっとなぐらい下手だったのよ?」
嘘!?
「・・・その様子だと何も聞いてないのね。如來はね、中等部時代クルッジ使ってたのよ」
ヒヒイロカネのCHARMでも最軽量、かつ高出力だったと記憶しているが。
「グランギニョルのシューティングモードは少しクセがあるの。そのクセのせいで自分が下手なように錯覚するわ。例えば───ブラダマンテの弾速度は800m。タングルニルとあまり変わらないわ。オマケにグングニルより銃芯が短いから、慣性でマギ弾が下に落ちやすくなる。だから少し上目に撃つようにベスには教えたわ」
パンッ!
明日香隊長に言われた通り、そのクセを意識して撃ってみた。
「あ・・・」
結果、的の中央にかなり近づいた。
「さっきも言ったけどグランギニョルのCHARMは軽量に作られてる分パワーもあまりないし、銃芯が短いから飛距離も伸びないわ。それを分かってて使ってるのかと。マギを少し多めに込めれば飛距離は伸びるけど、今度はオーバーヒートのリスクが高くなる。それは避けたいわよね?」」
「ははは・・・」
そこまで考えてなかった、だなんて言えなかった。
(どこまで明日香隊長はヒュージに対して真剣なんだろう?)
「あの・・・明日香隊長」
「まだ他になにか聞きたい?」
「ど・・・どうして隊長はリリィになろうと思ったんですか?」
これはまだ私が普通の学校に通っていた頃。
夏休みを利用して私の家族と如來、如來の祖母の吉江さんと鎌倉府のあるキャンプ場に遊びに来ていた。
私自身こういうところが初めてだったこともあり、少しはしゃいでいたのもあるが、夕飯前に『森へ入るな』と言われていたにも関わらず如來と2人で入っていってしまったのだ。
後にそこは出没多発地域で一般人立ち入り禁止だったことを知ったのはリリィになってからのことだ。
「怖いよお・・・」
「大丈夫大丈夫。何も出ないって!」
調子に乗って奥へと入っていく。
「・・・明日ねえ?」
「い・・・」
GYAAAAAAAAAA!!
スモール級ヒュージ・・・足がすくんで声すら出ない。
当時の身長ならかなり大きく見えていたはずだ。
「いやだあああああああああ!」
その場で泣き叫ぶ如來。
そのときだ。
ザッ・・・
GYAAAAAAAAAA!!
「ダメじゃない。こんなところウロウロしてたら」
(カ、カッコイイ・・・)
一目見て思った感想。話を聞くと近所が実家で自主練中にたまたま野良に遭遇したら私たちを見た、ということだった。
その助けてくれたリリィは名乗りもせず、両親たちの元へ送り届けてくれた。
その制服が百合ヶ丘だったのだけは覚えている。
「その頃から如來って隊長にベッタリだったんですね」
「どこに行くのも一緒だったわ。中学に上がる前にリリィについて調べて・・・近くにイルマ女子があるって知ったけど、私は芸術センスのかけらもないから御台場を選んだわ」
「大分時間も遅いわ。もう戻りましょ・・・」
「はい」
私は物心ついた時からリリィになるように育てられていた。
百合ヶ丘の幼稚舎は見た目普通のこども園や幼稚園と変わらない教育だが、リリィのになるための基礎知識や簡単な基礎訓練もカリキュラムに含まれていた。
だからといって全員が全員優秀なリリィになるわけではなく、「させられていた」気持ちばかりが大きくなっていた。
(リリィが好きでなったわけじゃない!)
レアスキル覚醒も早いほうだった。周囲からは優等生扱いされ、CHARMも中古だったが他の子たちよりもいいものを持たされた。
周囲の子は普通に接してはくれているが、どこかよそよそしく感じたのだ。唯一気にも止めず、普通に接してくれたのは
もしかしたら・・・母は自分がリリィになれなかったのをすごく後悔しているのかもしれない。
(あの人は・・・自分がなれなかったリリィを私に託した?)
たまにそんな事を思うが、そんな思わせることを言ったことも、素振りを見せたことはない。
だから「あの人」は嫌いだ。
けど、明日香隊長の話を聞いて少し考えが変わったかもしれない。
「何ボーッとしてるの?」
因悦に肩を叩かれる。
「うひゃあっ!な、なんだ・・・因悦か・・・」
「なんだとは失礼ねー。夜中射撃場で明日香隊長と何してたの?」
「な、何もしてないっ!ただ、アドバイスをもらってただけ。それと───」
因悦にあの画像を見せる。
「・・・あれ、中等部で使ってたマルテ?」
「じゃない。いろいろあって別な魔改造仕様のマルテを工廠科の乃莉子様に用意してもらったの。グランギニョルのCHARMは正規のルート以外では中古でも手にはいらないわ」
「じゃあなんで・・・あ」
「あの人経由じゃないわよ。櫻子姉様を通して楓様からメイン部品だけ調達し直してもらってる」
因悦にもグランギニョルのシステムについて説明。
マテリアルネーム(CHARMメーカー名)の刻印と使用者(私)のルーンの刻印がないと正規品としては扱われないからだ。
「へえ・・・百合ヶ丘ってユグドラシルのCHARM使ってる子多いのはなんでだろうね。今まで気にもしなかったけど・・・」
「さあ?工廠科行って聞いてみたら?私は特別CHARMに思い入れがあるわけじゃないし」
「お母さんがアーセナルなのに?」
「あの人の話はしないでって言ったでしょ!あ・・・ごめん・・・」
因悦に襲いかかる手前でグッと抑える。
「そんなにお母さんのことキライ?」
その声は・・・。
「明日香隊長。ごきげんよう。夜中はありがとうございました」
「ご、ごきげんよう。今日も訓練はなしですよね?どうしてまた・・・」
「たまたま、よ。如來に講義でわからないところがあるからって教えてた帰り」
「それで・・・訓練なんですが・・・」
「明日から再開するわ。それに関して因悦と藍ちゃんには後で乃莉子さんのところに行ってもらうわ」
「あの・・・この前メンテしてもらったばかりなんですが・・・」
「これを見て」
明日香隊長がバランスウエイトシステム本体の画像を見せる。
「なんですか、これ?」
「Couter Huge Shooting Baranced Weight System。私はバランスウエイトって呼んでるわ。私と如來、円とみどりのCHARMにはこれが仕込んであるの。ベスと蘆乃は構造上載せられないんだけどね」
「それがどうかしたんですか?」
「射撃能力向上を図る。このシステムはブレードのときは軽く、シューティングモードのときは重くなる。どうしてかわかる?」
「わかりません」
「明日香隊長・・・ビームライフルをやっていたそうです。その利点を生かすため・・・ですよね?」
「簡単に言うとそうね・・・ビームライフル用の銃はCHARMの倍以上の重量がある。ホントはさらに重りの塊みたいなライフルジャケットも着なきゃいけないからトータル3倍以上の重量になる・・・んだけど、さすがに無理だからせめてCHARMだけでも同じに・・・と思って考えたのがこのシステムなの。ベスと蘆乃以外全員にこのシステムを搭載します」
ピピピ・・・
明日香隊長の携帯端末が鳴る音だ。
「丁度いいわ。因悦も私についてきて」
「え・・・」
私が強引に連れ出す形で工廠科の乃莉子さんの工房へ。
「随分早かったわね」
「でしょ?私もびっくりしたわ・・・って、あれ?因悦さんも一緒?」
「ご、ごきげんよう・・・」
「たまたま居合わせたから付き合ってもらったわ」
「これが実物ですか・・・」
バランスウエイトを眺める因悦。
「どういう仕組みかは教えられないけどびっくりするわよー。実は私も実装しちゃった」
と工房裏に置いてあるドラウプニルを指す。
「・・・あれってどこのですか?」
「あれは私が作ったのよ。唯一無二のCHARMだから」
「え・・・自作機なんですか!?」
「だからよ。ミリアムさんや百由様とか他にも工廠科のリリィがいるのに乃莉子さんに任せてる理由。もちろんそれだけじゃないけどね」
「高等部あがってすぐにエリザベスさんとかみどりさんに絡んで京夏様と明日香さんにこっぴどく叱られたのよね・・・。それからおかかえ・・・みたいな?」
「随分軽いノリなんですね・・・」
「元々は友達の咲良がLGに入ったーって言って紹介されたのが明日香さんたちだった、ってだけの話。で、確認だけしに来たわけじゃないんでしょ?」
「ご名答。旧式ってまだある?」
「旧式?」
ついこの間まで私が使っていたので解体はされていないはず。
「まだあるわよ。それが・・・どうかしたの?」
「明日、先に旧式のほうで体験させたいから2つ用意お願いね」
「りょーかい・・・京夏様用の新品予備もあるんだけど、どうする?」
え・・・。
「それって・・・」
「明日香さんには黙っててって言われてたのよ。けど、もう・・・ね」
ある日を境に京夏お姉様が劇的に射撃の精度が上がった気がしたのだが、そういうことだったのか・・・。
コアを更新して、まだシューティングモードを試していないのでわからなかった、ってことか。
「お姉・・・様・・・隠し事多すぎ・・・」
思わず泣きそうになるがここはグッと我慢する。
「と、とにかく明日は控え室じゃなくて乃莉子さんの工房に直接ね」
「はい」
翌日。
如來には副隊長として5人の訓練を任せることに。
「来たわね」
各自のCHARMを持ち寄ってもらい、早速実装することに。藍ちゃんは藍ちゃんで、
「ウワサだけは知ってました・・・変な仕組みを作ってるアーセナルがいるらしいって」
まあそれぞれ考え方次第なので、概ね間違ってはいない。
「明日香さんがあえて先に初期型を実装させるのは理由があるからだと思うけど、そこはまあいっか。モード切り替えのときにショック振動があるからそこだけ注意してね」
1時間かからずに3人分の実装完了。乃莉子さんも随分手慣れたなあ、と素直に関心してしまう。
そのまま射撃場へ。
「試しに1発撃ってみて」
因悦が右手をかざしCHARMを起動させる。
ガチャン!
シューティングモードへ切り替える。
「おわあっ!え?何?どうなってるのこれ!?」
一瞬よろめいたが、
パンッ!
訓練弾を1発撃ってみて。
「・・・スゴイ!全然ぶれないです!撃ったときの衝撃も緩和されてる・・・」
驚く因悦。
「初期型の欠点何か分かった?」
「えっと・・・モード切り替えのときの重量負荷がすごいですね・・・」
「ひとつアドバイスすると、手を添える位置をもう少し前にするともっと安定するわよ」
射撃のアドバイスをした上で、
「使っての通り、初期型はモード移動時の重量バランスがおかしくなるっていう欠点があったの。それでも私は2年近くこれを使ってたんだけどね。藍ちゃんもやってみて」
「はい」
ガチャン!
「っとととと・・・」
藍ちゃんの腰に軽く手を添える。
「あ、ありがとうございます・・・」
「体重をかけていない証拠ね。ただ持ってるだけではダメ。接近戦では問題ないけど、こういう定点射撃のときは重心を前にしないと」
「う・・・重い・・・」
藍ちゃんは少しフラフラ気味だ。
「添える手が後ろすぎるわね・・・この辺かな・・・」
と、藍ちゃんの手を誘導する。
「は、はい」
まだフラフラしているようだ。藍ちゃんは背が低い上にあまり体重もない。うーん・・・ダメかな・・・。
「藍ちゃんにはムリか・・・乃莉子さん。もうちょっとウエイト重量減らせる?みどりと同じぐらいでいいと思う」
当然だが、バランスウエイト自体強化リリィへの利用は想定していない。
「ちょっとごめんね」
乃莉子さんが調整している間。
「改良型についてちょっと話すわね。実をいうと私も良く分かってないの」
「そうなんですか?」
「ええ。如來のタングズニルで初めて知ったからね。ただ、使い勝手はかなり向上してるわ。欠点も克服されている」
「タネ明かしをすると術式が少し変わってるわね。知っての通りCHARMはマギを通じて術式を介して力となるわ」
「その術式が改良されている、と」
「そゆこと。だから今みたいな苦労はしないわよ。はい、これでオッケーっと」
藍ちゃんに戻す乃莉子さん。
「これでもう一回やってみて。少し位置も直したわ」
ガチャン!
モードの切り替わる音。
「え・・・うそ・・・すごい!」
藍ちゃんもビックリしている。
「明日香隊長これチートですよ・・・」
藍ちゃんにチートと言われてしまった。
「私たちの相手はヒュージよ。チートとか悠長なことは言ってられないでしょ?」
「確かに・・・」
「かつてはソロでマギを大量にCHARMに流し込んで撃つ方法もあったらしいけど、今は禁止事項ね。その代わりとして9人でパス回ししてマギを貯めるノインヴェルト戦術ができた・・・ってまあ今日やってることとは関係ないけど、ヒュージ相手に生半可なことをしても仕方がないってこと」
そろそろ戻るか。如來に連絡を・・・。
ゴーン!ゴーン!
ヒュージ出現のチャイムだ。今日は当番ではないはずなのでひとまず置いておく。
「そろそろ訓練に合流するわよ」
「はい」
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る。メールだ。どこからだろう?
『LGエリューズニル尾上明日香隊長、ヒュージ迎撃に関して私たちでは力不足で駆逐できないかもしれないので、協力をお願いしたく連絡を差し上げました』
差出人は───以前手合わせしたパルパスの隊長瀬戸煌糜からだった。
慌ててメッセージで返信する。
「どういうこと?通常任務なら苦労はしないでしょ?」
『それが・・・スモール級の数が尋常じゃなくて・・・私たちだけでは駆逐しきれません!』
『場所送って。すぐ行くわ』
と返信。
通話機能を使い、如來を呼び出す。
『あ、明日ねえ。どうしたの?』
「訓練は今すぐやめて。パルパスの煌糜さんから応援要請があったわ」
『え?煌糜?なんでまた?』
「あのね・・・人で判断するんじゃないの。そっちに場所送るからすぐに向かって」
ピッ・・・
「煌糜さんって・・・パルパスの隊長ですよね?」
「そうね・・・彼女たちからのヘルプよ。スモール級を駆逐しきれないって・・・」
以前スモール級「だけ」を100体以上駆逐したことがあったが、今回はそれ以上か?
「3人とも私についてきて!」
「「はい!」」