アサルトリリィ~もうひとつの物語   作:武士道の犬

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私たちのノインヴェルト戦術

 ノインヴェルト戦術の訓練が未だに出来ていないのは問題だ。だからこそ昨日咲良ちゃんが誤解していたわけだし。

 この前は幸い因悦(いえる)以外経験者((あい)ちゃんは不明だが)だったので「たまたま」成功はした。しかし、たまたまではダメなのだ。()()()ヒュージを撃退したい。それは自分たちの命にも関わってくる。

 

(順番間違いなく見誤ってるよね・・・)

 

 それは後悔してもしきれない。

 

「今日はノインヴェルト戦術の訓練をします」

 

 やっと、か。

 

「で、明日香。場所はどうすんだ?」

 

 みどりだ。

 

「去年切り通し行ったでしょ?あそこでやるわ」

 

「え・・・あの狭いところでか・・・」

 

「みどり様違いますよ」

 

 蘆乃(のの)だ。

 

「一度明日香隊長に連れて行ってもらいましたが、あそこなら迷惑かけることもなさそうですね」

 

 と補足してくれた。

 

「あの切り通しはね、手前が狭くてその奥が広場みたいになってるの。その先にあったのが大きな楠。去年私が訓練弾のフィニッシュショットで飛ばしちゃったやつね。ちなみにだけど、去年の入学式で一柳さんと結夢様、楓さんが標本になるはずだったヒュージを倒したのもここね」

 

「へえ・・・」

 

「あそこかあ・・・なんか懐かしいな・・・あのときはマギスフィアがマトモに扱えなくて苦労したんだよね私」

 

 とは(まどか)だ。

 

「そうでしたわね。わたくしはいい思い出はないのであまり思い出したくありませんが・・・」

 

 ノーコンのことか。

 

「まあいいわ。移動するわよ」

 

 ということでやってきたわけだが、ここはヒュージ出没多発地域内なので野良がどこかに潜んでいる可能性もある。そのときは倒すまでだ。

 

「まず最初に特殊訓練弾を使ってマギスフィアをパスする練習からやるわ。ホントはもっと早くやりたかった・・・けどあんな事態に・・・」

 

 思い出すな・・・思い出すな私!

 

「如來と因悦の2人だけで数回パスを回して。ある程度回したら私に」

 

「わかった」

 

「はい」

 

「最初のショットは・・・因悦、お願いね」

 

 と、訓練弾のノインヴェルトのバレットを渡す。

 

 ガチャン!

 

 シューティングモードに切り替わる音。

 装填口へ訓練弾が入る。

 

 ズガン!

 

「おっと・・・」

 

 グンッ!

 

 如來(ゆき)が受け取る。

 

「パスしたら因悦は一旦持ったままでいて」

 

「じゃ行くよ!」

 

 シュバッ!

 

「受け方はこの前言った通りね」

 

「はい」

 

 グンッ!

 

 因悦はこの前より苦労することなく受け取った。

 

「如來。なんでこの2人だけでパスさせてるか分かる?」

 

「えっと・・・因悦は慣れてないのは見て分かる。私は・・・?」

 

「因悦のパスの受け方を見て分からなかった?」

 

「受けるときにCHARMを引いて・・・あ」

 

 理解したようだ。

 

「御台場では押すように教わったじゃない?その方法だと手首に負荷がかかって余計にマギを消費するの。私も最初それでやって矯正されたわ」

 

「そっか・・・引いて受ける・・・」

 

「因悦。如來に返していいわ」

 

「はい。じゃパス」

 

 シュバッ!

 

 パスもこの前より良くなっている。因悦、実はこっそり練習したか?

 

「引いて受ける・・・引いて・・・」

 

 グンッ!

 

「あ・・・ホントだ。全然楽・・・」

 

「後2回パス回しして」

 

「因悦さん随分良くなりましたわね・・・」

 

 ベスもそう思ったようで、

 

「そうね。この前からしたら、だけど。後は回数こなせば・・・」

 

 さて、そろそろ待機しますか。指輪をかざし、CHARMを起動する。

 

 フォン・・・

 

「明日ねえ行くよ!」

 

 シュバッ!

 

 如來からのパス。

 

 グンッ!

 

 受け取ったまま説明。

 

「訓練弾でのノインヴェルトに関して少し説明するわ。消費するマギ量は通常の半分以下だけど、威力が半減するわけじゃないわ。今使ってる訓練弾はちょっと特殊で3分の1しかマギを消費しないの。パス回しの練習用ね」

 

「へえ・・・」

 

 とは円だ。

 

「ベス、蘆乃、藍ちゃん、みどり、咲良ちゃんの順でパス回し。フィニッシュショットは私がやるわ。じゃ行くわよ」

 

 シュバッ!

 

「わかりましたわ!」

 

 グンッ!

 

「・・・確かに今までの訓練弾より楽ですわね。藍さん!」

 

 シュバッ!

 

 こっそり蘆乃の元へ。

 

「・・・ベスってノインヴェルトのパス回しすっごい下手だったのよ?とんでもないところに投げて良く京夏お姉様に怒られてたわね」

 

「・・・櫻子姉様がですか?嘘ついてませんよね?」

 

「本人に聞かれると後大変だからこっそり教えてるの」

 

 と耳打ちでのやりとり。

 本人に聞かれるとまた口を聞いてくれなくなりそうなので気付かれないように。

 

「明日香さん?何をコソコソと話してますの?」

 

 やば・・・気づかれたか?

 

 グンッ!

 

「・・・あれ?重く・・・ない?」

 

 ベスから聞いた話ではこの前唯一ノインヴェルトでパスを回していないらしい。

 

「藍ちゃんノインヴェルトの経験は?」

 

 念の為聞いてみる。

 

「えと・・・今日が初めて・・・です」

 

 うわ・・・マジか。これは私のミスだ。ただ、「今は」問題なく受け取れてはいる。

 

「あの・・・この後どうしたら・・・」

 

「棒に物があたったときに跳ね返す感覚分かる?アレと同じようにやってみて」

 

「はい。えっと・・・こう・・・かな・・・みどり様!」

 

 シュバッ!

 

「できた!」

 

「あいよっ」

 

 蘆乃も特に問題はないのでそのまま、後は特に問題なくパス回し。

 

「明日香さん!」

 

 ラストだ。

 

 グンッ!

 

 ガチャン!

 

 シューティングモードへ。

 

「フィニッシュショット!」

 

 宣言して昔私が撃った方向へ。

 

 ズガンッ!

 

 いつもよりかなり軽い音。そして───

 

 ズドーン!

 

 爆風も軽い。以前撃った同じ穴に入る。当然だが、以前私の開けた穴は草が生えていた。

 

「やっぱり明日香隊長すごい・・・です」

 

「あんな正確に同じ位置に撃てるなんて・・・」

 

 蘆乃と因悦だ。

 

「フィニッシュショットだけど・・・如來か蘆乃のどちらかにしようと思ってるわ」

 

「え?明日ねえじゃないの?」

 

 如來が驚いているが、

 

「あのね・・・私のポジションはどこ?」

 

 基本的な質問。

 

TZ(テクニカルゾーン)・・・」

 

「流動的に変えるLG(レギオン)もあるけど、他所は他所よ。そもそもバレット持ってる人が最初でしょ。必然的に私か如來になるわ。それともうひとつ。ノインヴェルト戦術の基本は?」

 

「ヒュージを撹乱させて動きを封じる・・・」

 

 はあ・・・私が聞いたのがバカだった。

 

「それは説明。蘆乃、代わりに答えて」

 

「・・・撹乱のためにポジションごとにランダム、です」

 

「正解。例えばだけど・・・私から蘆乃へそこから咲良ちゃん、円、みどり、因悦、藍ちゃん、ベス、フィニッシュショットが如來、って感じかな。そのときの状況によるけど、いかにヒュージを翻弄できるか、ね」

 

 この場合はTZからAZ(アタッキングゾーン)、TZ同士、BZ(バックゾーン)からTZ、ラストは如來のAZ、となる。

 

「つまり、指揮してる私にそんな余裕はないってこと。わかった?」

 

「この前みたいに明日香隊長が抜けた場合はどうなるんですか?」

 

 藍ちゃんからの質問。

 

 如來がノインヴェルトのバレットを持っている場合か。

 少し考えてから、

 

「それでも基本は同じね。その場合はフィニッシュショットは蘆乃になるかな」

 

「ノインヴェルトの特殊弾を誰に預けるかによりますわね」

 

 とはベスだ。

 

「今日は訓練だけど、実際はこの前みたいにマギを激しく消費するわ。それだけ肝に銘じておいてね」

 

「はい!」

 

「藍ちゃん、因悦、ちょっと」

 

 2人をそばへ。

 

「2人には別メニューね。パスの練習で昔ベスがやってた方法が・・・」

 

「ちょっと!明日香さん!」

 

「なに?ただの個人練習よ。別に方法は関係ないでしょうに・・・」

 

「・・・櫻子姉様。わざわざ自分で言わなくても」

 

 私はため息。

 

「この際諦めたら?」

 

 ベスはCHARMを取り出し、無言で今にも私に襲いかかろうとしている。

 

「姉様ダメです!落ち着いて・・・」

 

 蘆乃が止めに入る。

 またしばらく口聞かないパターンか?まあいい。

 

「あの・・・なんで櫻子様はあんなに怒ってるんでしょう?」

 

 因悦たちは気づいていないようだ。

 

「分からなかったら直接本人に聞いてみてね。まあ教えてくれないと思うけど・・・」

 

 とベスのほうをチラ見してその場はやり過ごす。なによ・・・墓穴掘ったのはあんたでしょうに・・・。

 

「はい。弾はこれ使ってね」

 

「この弾は・・・」」

 

 用意したのは蘆乃と一緒のときにも使った特殊訓練弾だ。

 

「この特殊訓練弾は一定時間マギスフィアを溜めておくことができるの。もし万一身体とかに当たっても2,3回跳ね返った後に消えるから怪我をすることはないわ」

 

「お。それ知ってるぞ」

 

 珍しくみどりが食いついてきた。

 

「最近ユグドラシルが作ったって弾。あたしも面白そうだから使ってみたいんだけどさ・・・なかなか手に入れられないんだよな。明日香どうやって?」

 

「出る前から予約入れてたわ。少しまとめ買いもしてあるし」

 

 最近討伐報酬はカエズグッズではなく、自主練のために使うことが多くなった。

 

「後で取り行くからあたしにも1箱譲ってくれ。出すもんは出すから」

 

「別に・・・いいけど・・・珍しいわね。どうしてまた?」

 

「あたしも・・・さ、いい加減頼りっきりなのはどうなのかって思っててさ・・・自分のため、だな」

 

 あの自ら進んでやりたがらなかったみどりが、だ。自主練のために・・・。

 

「みどり・・・」

 

 ダメだ。なんか泣きそうになってる・・・。

 

「後で私の部屋に来れば?」

 

「・・・サンキューな」

 

 そういうところは相変わらずか。

 さて、如來に訓練用のバレット渡しますか。

 

「如來。バレット渡しとくわ。2回ね」

 

 しばらく因悦と藍ちゃんの様子を見ているが、

 

「はっ!」

 

 シュバッ!

 

 因悦は上達がかなり早い。対して藍ちゃんは・・・。

 

「うわああっ!」

 

 昔のベスみたいに球技苦手?マギスフィアが全く取れていない。これは要個人練習か。

 

「どんまいどんまい」

 

 因悦は励ましているが、やはりこれは昔のベス同様ラクロスをやらせるべき?

 

「はいストップ」

 

 一旦止めさせる。

 

「藍ちゃんちょっといい?」

 

「す、すいません・・・全然上手く受けられなくて・・・」

 

 すごく悔しがっている。

 

「ベスもね。最初はひどかったのよ?投げるほうだけどね」

 

 受け取る側の練習方法、か。動体視力の問題?

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・」

 

「藍さんのことですの?」

 

 その日の天上の間。

 

「ベスは投げるのが下手で、藍ちゃんは受け取るのが下手、か・・・」

 

「あれは去年の話ですっ!今は違いますわ!」

 

「けどそれって、大問題だよね?」

 

 そう。投げるのはダメでもある程度みどりを頼ればカヴァーは可能だ。しかし、受け取る側は・・・。

 

「如來から聞いたわ。彼女のブーステッドスキル・・・リジェネレーターだそうよ」

 

「鶴紗ちゃんと同じ・・・」

 

「円知ってたんだ・・・」

 

「前に・・・梨璃ちゃんから聞いたことがあるんだ・・・」

 

「そう・・・ねえベス?」

 

 ちょっと聞いてみるか。

 

「なんですの?」

 

「マギスフィアの・・・投げる練習してたとき・・・どうやってたの?」

 

 京夏お姉様の個人練習の内容はノータッチだったので、何をどうやっていたのかは全く知らない。

 

「どうって・・・例えばですが・・・修練場なら壁に向かってキャッチボールの要領ですわ」

 

 しかないか・・・。ただ、それはボールとか物理的なものに対してだ。マギスフィアとは根本が違う。

 

「どうしよう・・・」

 

 これまでいろいろな難題をクリアしてきたつもりだったが・・・今回ばかりは躓いている。

 

 

 

 

 

 

「ううう・・・どうしよう・・・」

 

 まさかマギスフィアの受け取りがこんなうまくいかないだなんて・・・。リリィとして一番致命傷だ・・・。京夏様が亡くなる直前、明日香隊長が駆けつけてくれなかったら確実に落としていた。

 運動神経は可もなく不可もなく・・・なのだが、何が原因か皆目検討もついていない。

 予備隊にいたときはフンヴェルトまではやっている。ただ、私の場合は一番最初に投げる事が多かった。

 

 ピピピ・・・

 

 携帯端末だ。こんな時間に誰だろう?

 

『これから藍ちゃんの部屋に行きます』

 

 と簡潔な内容。明日香隊長!?

 

「誰から?」

 

 ルームメイトの庵珠ちゃんが尋ねる。

 

「LGの隊長がこれから部屋に来るって・・・」

 

 まさか個人指導!?どっちの?頭の中がぐるぐると回る。

 

 トントン・・・

 

 え?もう?

 

「藍ちゃん。いいかな?」

 

「はい・・・」

 

 自ら部屋の外へ。

 

 ガチャ・・・

 

「ごきげんよう明日香隊長。こんな時間にどうしたんですか?」

 

「ごめんね、こんな時間に・・・実は───」

 

 明日香隊長からまさかこんなことを聞くとは思ってもいなかった・・・。

 

「そう・・・ですか」

 

「投げる側だったらいくらでも方法はあると思うの。私も・・・思いつく限りのことはやるから・・・ごめんね」

 

 次の日の早朝。

 悩んでも何も始まらないのは分かっている。少しでも何か策を・・・と思い始めたのは、

 

「ごめんね庵珠ちゃん。付き合ってもらっちゃって」

 

「いいよ。困ってるときはお互い様だし」

 

 ルームメイトの庵珠ちゃんに付き合ってもらい、とにかく普通の訓練弾を弾き返すことから始めることにした。100発。

 私には今何が足りないのか見極めたいというのもある。

 庵珠ちゃんのグングニルの弾速度は毎秒500m。CHARMとしては遅いほうだ。弾き返せれば通常ノインヴェルトも見えるようになるはず。

 

 ピピピ・・・

 

 庵珠ちゃんだ。

 

『順備いい?』

 

 右手をかざしてハーナルを起動させる。

 

 フォン・・・

 

「1分経ったら始めて。最初は合図で2発お願い。10秒間隔で」

 

『わかった』

 

 ピッ・・・

 

 しばらくして───

 

 パンッ!

 

 来た。1発は上空に向けて。もう1発・・・

 

「いたっ!」

 

 腹に直撃。弾が見えてない?どっちだ?

 2発目。

 

 ブンッ!

 

「あうっ!」

 

 空振った。痛い・・・。結局───

 

「100発中当たったのは5発・・・」

 

 ここまで来ると「まぐれ」の領域・・・。

 昼食後のラウンジでたまたま如來ちゃんに会った。

 

「藍ちゃんその手・・・どしたの?」

 

 これだけ手がアザだらけならさすがに分かるか・・・。

 

「いや・・・今日から自主練で庵珠ちゃんに付き合ってもらってるんだけど・・・訓練弾が手に当たっちゃって・・・」

 

 と苦笑いするも、

 

「当たっちゃって・・・って、いやいや・・・そんな半端なのじゃないって!すごいことになってるよ?青アザじゃん」

 

「別にアザは気にならないんだけど・・・ブーステッドスキルの能力で一晩もあればすぐ直るから」

 

「・・・昨日のノインヴェルトの訓練のこと?」

 

 如來ちゃん私のことなんで分かるの?

 私は返答できなかった。

 

「・・・藍ちゃん気にし」

 

「なるんだよ!」

 

 つい大声で言ってしまった。

 

 

 

「昨日の夜、私のところに明日香隊長隊長が来て・・・個人練習のメニュー考えようとしたけどいいのが思い浮かばないって相談があって・・・だから自分でも努力しなきゃって・・・」

 

「明日ねえ・・・また私を・・・」

 

「如來ちゃん。それは違うよ」

 

「・・・何が違うの?」

 

 明日香隊長のことになると見境がなくなる如來ちゃん。

 

「明日香隊長は私に努力しろ!って言ってくれたんだと思う。だから自主練始めたんだ。LGの訓練止めたくないし・・・」

 

「・・・なら、私は何も言わない。そっか・・・自主練か・・・けど、ムチャはダメだよ?」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

「今日もノインヴェルトの訓練を・・・」

 

「明日ねえ。そのことなんだけど・・・」

 

 如來が私に意見するとか珍しい。

 

「今日は普通の訓練でいいと思う。連チャンでノインヴェルトって身体が持たない気が・・・」

 

 確かに如來が言うことも一理ある・・・のだが、それにしてはなんか不自然だ。

 

「もしかして、誰かのことかばってる?」

 

「な、なんのこと?」

 

 余計な勘繰りはいけないと思いつつ、全員のことをよく見てみる。ん?

 ・・・そういうことか。

 

「いえ、なんでも。今日は藍ちゃん以外通常訓練にするわ」

 

「こっち来て」

 

 藍ちゃんを呼ぶ。

 

「あ、あの・・・今日は」

 

 アザだらけだが、ブーステッドスキルのことを考えれば寝ている間にでも回復するだろう。

 

「如來、何か余計なこと言わなかった?」

 

「いいえ・・・特別何も」

 

「そう・・・今日は私に付き合ってもらうわ」

 

 やってきたのは海岸だ。

 

「あの・・・もしかして・・・訓練弾を受け流す訓練・・・ですか?」

 

 言おうとしたことを先に言われてしまった。

 

「もしかしてそのアザって・・・」

 

「はい・・・今朝ルームメイトにお願いして試しにやってはみたんですけど・・・」

 

 結果アザだらけ、というわけだ。

 さて、どうするか。タングズニルは弾速度は毎秒900m、アステリオンが毎秒1800mなのでそれでも半分だ。

 

「ルームメイトの子のCHARMは?」

 

「えっと、グングニルです」

 

 毎秒500mでもこのアザか・・・。おそらく原因は十分距離を取らなかったこと、正確な射撃でないことによるブレが原因だと思う。

 

「今から同じことをするけど、15秒ごとに2発ずつ撃つわ。藍ちゃんの喉ぐらいのところを狙うから確実に跳ね返してね。合図は携帯端末を鳴らすわ」

 

 と言ってCHARMで円を描きその中に入って跳躍。1km近く離れることにする。

 

 

 

 

 

 

 同じこと・・・かあ。確かに庵珠ちゃんは射撃はあまりうまくはない。アザだらけなのはそのせいもあるのかもしれない。

 5分後、

 

 ピピピ・・・

 

 携帯端末の呼び出し音。メッセージではなく通話だ。

 

『準備はいい?』

 

「えっと・・・」

 

 慌てて片手で起動。

 

 フォン・・・

 

『この通話が切れたら始めるわよ。藍ちゃんがアザだらけなのは弾速度分を計算しないで撃ったからのはず』

 

 ピッ・・・

 

 よし、がんばろう!

 

 

 

 

 

 

「ゴメン円。無理やり引っ張ってきて」

 

 みどりに連絡を取り、円を連れてきてもらった。

 

「別にいいよ」

 

 たまたまCHARMメンテでアステリオン・ブリッジを乃莉子さんのところに出していたのが幸いだった。円がタングズニルを持っているのがなんか新鮮に感じる。

 

「じゃお願いね。藍ちゃんの喉辺りを狙って。2発ずつ」

 

「オッケー」

 

 円がレアスキル───天の秤目を発動して睨む。

 幸い今日は風もないから弾が流されることもないだろう。

 

 パンッパンッ!

 

 

 

 

 

 

 来たっ!CHARMを持って構える。

 

 キンキンッ!

 

 やった!

 訓練弾はブレード中央付近に辺り跳ね返せた。15秒後、再び。

 

 キンキンッ!

 

 寸分違わず同じ位置へ。これもうまく弾き返せた。実践ではまずないと思うが、明日香隊長とか如來ちゃん、円様ならこのぐらい正確に撃ってくるだろう。

 1分後。

 

 ピピピ・・・

 

 再び端末が鳴る。

 

『出来てるじゃない。よかったわ』

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 素直に嬉しい。

 

『タングズニルの弾速度は毎秒900m。大体1kmの距離のところから撃ってるわ。グングニルの弾速度が毎秒500mだから、跳ね返すには700mか800m離れてないとダメ』

 

「え。それって・・・」

 

『つまり早すぎて見えてないってことね。ちなみにだけど撃ったのは私じゃなくて円だから。さすがにこの距離はサブスキル使っても無理だわ』

 

「あの・・・円様ってアステリオンじゃ・・・」

 

 普段円様はアステリオンを使っているはずでは・・・。アステリオンだったら弾速度はもっと早いはず。

 

『あー、今日はメンテ出しててたまたま予備のタングズニルを使ってるのよ』

 

 なるほど・・・だからか。

 

 

 

 

 

 

 

『あの・・・明日香隊長、受けられはしましたけど・・・これと、ノインヴェルトのマギスフィアは違います・・・よね?』

 

 そう。問題にすべき点はそこで、訓練弾は物理的、マギスフィアは半物理的、という違い。形として存在しない。

 

(藍ちゃんの苦手意識が失敗させている?)

 

「藍ちゃんよかったあ・・・これでノインヴェルト戦術失敗・・・」

 

「それはなんともね」

 

「え?」

 

 円が不思議がっている。

 

「だってうまく返せたんだよ?これならノインヴェルトのマギスフィアだって・・・」

 

「ねえ円、ノインヴェルトのマギスフィアってどんな形?」

 

 円に質問。

 

「えっと・・・モノはモノだけど形があってないような・・・あ」

 

 通信端末に向かって、

 

「藍ちゃん。今から昨日使った跳ね返る特殊弾使って同じことをやるわ」

 

『え、直接撃つんですか?それって意味ないですよね?』

 

「それは・・・受けてみれば分かるわよ」

 

 ピッ・・・

 

「聞いての通り。特殊弾撃ってどうなるか、ね」

 

 タングズニルに特殊訓練弾を装填する。で、

 

「行くよ円。パス受けたらそのまま藍ちゃんに返してね」

 

「え・・・!?待って・・・」

 

 パンッ!

 

 少し鈍い音ともにマギスフィア化した特殊弾は円の方向へ。ちなみに少し多めにマギは込めている。オーバーヒートはしないと想うけど・・・。

 円が再びレアスキル発動!

 

 グンッ!

 

「オーバーヒートさせるイメージで少し多めにマギを込めてそのまま投げてみて」

 

「こんな距離で投げたことないけど・・・やってみる」

 

 少々イレギュラーな訓練弾の使い方だけど、これなら・・・。

 

 

 

 

 

 

 マギスフィアが飛んできた。え・・・ちょっと待って!?

 私は慌ててCHARMで円を描き中に入ってジャンプ。マギスフィアを追いかける。

 そもそも「あの」距離でマギスフィアが私のところに届くはずがないのだが。

 

(落としちゃダメ!落としちゃダメ!)

 

 落下する前になんとか返さないと。

 そして、

 

 グンッ!

 

「やった!間に合った!」

 

 ピピピ・・・

 

 明日香隊長からだ。

 

『これで一安心ね』

 

「明日香隊長・・・もしかして、私のこと・・・わかってて・・・」

 

『そう。あのときノインヴェルト戦術が初めてで、あんな大きいマギスフィアが受け取れるかすごい不安でしょうがなかった、ってところかな?』

 

「はい・・・実は・・・フンフヴェルトやったことないって・・・あれは嘘で・・・落とすのが怖かったからです」

 

『私がもっと早く・・・ノインヴェルトの訓練をやって気づいてあげるべきだった。これは私のミスだわ・・・ごめんなさい』

 

「いいえ、謝らないでください明日香隊長。私の弱さだったんですから・・・」

 

 

 

 

 

 

「明日香ちゃんスゴイなあ・・・私にピンポイントであそこ狙って投げて!って言うから何するのかと・・・」

 

 訓練後。

 あの後藍ちゃんがあの位置からマギスフィアを返し、しばらく3人でパスの練習をした。

 やり方としては少々強引だったが、藍ちゃんに危機感を煽らせて落とさせないようにしたのだ。

 

「私のことバカにしてる?」

 

「違うよ・・・私だったらそんなの全然思い浮かばないもん・・・」

 

「もっと・・・早くにノインヴェルトの訓練をしてればあんなことには・・・」

 

「でもよかったですわ。これで一安心・・・」

 

「でもないわよ?受け取れるようになっただけで、実践じゃないわ。何が起こるかわからない・・・」

 

「明日香さんは心配しすぎなのですわ。もっと信頼なさってはいかが?」

 

「違うの・・・」

 

 私が心配してるのはそこじゃない・・・!

 

「もう・・・これ以上犠牲者を増やしたくない!ただそれだけ・・・・」

 

「それはみなさん思ってることですわ・・・明日香さんだけの問題では・・・」

 

「明日香ちゃん・・・まだ京夏様のこと引っ張って・・・」

 

「・・・わかんない。私は吹っ切ったつもり」

 

「明日香。ちょっといいか?」

 

 みどり?

 

「なに?課題なら教えないわよ?」

 

「ちげーよ。いいからCHARM持ってこっち来い。あとお嬢もな」

 

 何をさせたいんだ?

 言われたまま、修練場に連れてこられた。

 そして、

 

「CHARM出せ!今からあたしと手合わせな」

 

「ちょっと!」

 

 言うなりティルフィングを起動させて私に向かって突っ込んでくる。

 まったく・・・ベスは立ち会わせのために連れてきただけか。「形式上」はこれでも成り立つが、これは非公式だろう。

 

 フォン・・・

 

 慌てて起動させる。

 

 キンッ!

 

 寸前のところで止める。

 

「あのね!判定人立てればいいってもんじゃないでしょ!ルールはどうすんの!」

 

「うるせえ!いいから付き合え!」

 

 みどりは勢いを緩めることなく仕掛けてくる。

 

 キンッ!キンッ!

 

 いつの間に・・・私としばらくやらないうちに強くなっていた。そして少し離れた後、

 

 パンッ!

 

 バカッ!修練場で訓練弾って・・・非常識!しかし、

 

 コロコロ・・・

 

 弾の薬莢(?)はその場に落ちる。残ったのはマギスフィアだ。例のユグドラシル製の特殊弾か。そのマギスフィアの速度が早すぎて私に当たる。

 

「うっ・・・」

 

 訓練弾なので怪我はしないが、かなりな衝撃だ。いつかの手合わせでも同じことをやったな。そのときはみどりはいなかったが。

 

「おっしゃ!うまく行った!」

 

 とみどりは満足げだ。

 

「・・・あんたね」

 

 みどりを睨むも、

 

「いやー・・・さっき咲良と話してて、これなら練習で使えるんじゃないかってなって試しただけだよ」

 

 私はため息をついて、

 

「そうならそうとやる前に言いなさいよ・・・それと、みどりと同じことなら前に手合わせでやったわ。にしても」

 

 一旦言葉を切る。

 

「みどり・・・あんた随分強くなったじゃない」

 

 ポンッとみどりの肩を叩く。これは素直な感想だ。

 

「あ・・・あたしだっていつまでもおんぶに抱っこじゃないからな!」

 

 そういえばみどりとマトモな手合わせをするのはお姉様が隊長だったとき以来かもしれない。

 

「で?」

 

「で、って何よ・・・」

 

「如來とはもうヤったのか?」

 

 はあ!?

 

 みどりの心臓付近にタングズニルのブレードを突きつける。

 

「ちょ、ま、落ち着けって!」

 

 さらに、

 

 ゴンッ!

 

「あだっ!」

 

 ベスが頭の上から思いっきりゲンコツ。

 

「あ、あなたはっ!デリカシーがなさすぎるんですわっ!」

 

 ベスが怒るのも無理はない。まあ私も大概だが。

 

「わ、悪かったよ・・・!分かったからCHARMは向けるなって!、お前また生徒会に捕まりたいのか?」

 

 流石に可哀想なのでCHARMは仕舞う。

 

「・・・前にベスにも言ったけど、あの子とはそういう関係になろうと思えないのよ」

 

「この前如來と蘆乃が訓練前にケンカしてたとき偶然聞いちまったんだよ・・・。だからその・・・どう思ってるのか気になってさ・・・」

 

 如來の過去のことか。

 

「で、お嬢は?」

 

「なっ!?」

 

 なんだこの流れ。幸い3人以外誰もいないからいいのだが、この中に咲良ちゃんがいたら失神しているだろう。

 

「・・・私もよ。明日香さんと同じ」

 

「へえ・・・そこまで蘆乃にお熱なんだなお嬢」

 

 ・・・今まで私にしか見せなかった「素顔」をみどりにも見せている?

 

「私と蘆乃は明日香さんほど仲は深くない。けど、お互いが素直になれないのは一緒・・・」

 

「・・・みどりと何かあったの?」

 

「蘆乃の誕生日の前に円と2人でお嬢の部屋行ったんだよ。そしたら───」

 

 ベスが咳払い。

 

「そういうこと。もう長い付き合いなんだからそれぐらい察してよ。それよりも───」

 

 ゴンッ!

 

 みどりに2発目のゲンコツを食らわす櫻子。

 

「だからっ!なんであたし!?」

 

「とにかくデリカシーなさすぎっ!次同じようなことしたら・・・ただじゃ済まないから」

 

 と、ブラダマンテに手をかけようとする。

 

「わ、わかった!わかったから落ちつこう?な?」

 

「みどりはもう少しデリカシーはなんたるかを覚える必要がありそうね?」

 

「ぎゃあああああああああああっ!」

 

 みどりは泣きながら自室へと戻っていった。

 

「ちょっとやりすぎ。あれじゃみどりが可愛そうだわ・・・」

 

「あれぐらいやりませんと・・・みどりさんには理解してもらえませんわ」

 

 さすがの私でも・・・あそこまで鬼じゃないぞ・・・。

 ・・・もしかして櫻子、妹(蘆乃)のことになると見境いなくなる?

 後で携帯端末で一応謝っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

「ひでえ目に遭ったわ・・・」

 

 修練場から逃げ帰るように中庭に出てきたあたし。

 

「あれ、みどりちゃん?明日香ちゃんと一緒じゃなかったの?」

 

「おお円か・・・いやな、お嬢も一緒だったんだけど・・・いろいろあってあたしが逃げてきた」

 

「さっき手合わせするんだー!ってやる気満々だったよね?」

 

「・・・逃げる前はな」

 

 そう。咲良と話して『これ使えるんじゃね?』で盛り上がって早速・・・のときは意気揚々だったわけだが。結局明日香に先を越されてたわけだ。

 

 ピピピ・・・

 

 ん?明日香?なんだ?

 

『さっきはゴメン。ベスの代わりに謝っておくわ。どうも最近蘆乃のことになると見境なくなるみたい^^; だから気にしないで』

 

 ・・・なるほど。そういうことか。

 お嬢の蘆乃への熱の上げようは明日香以上な気がする。しかもお互い不器用だしな。

 

「明日香ちゃん?なんて?」

 

「ああ。さっきお嬢に頭から思いっきりゲンコツ食らってさー・・・しかも2回もだぜ?それに対しての詫び」

 

「みどりちゃん・・・ベスちゃんに何したの・・・」

 

 なぜか円に白い目で見られる。

 

「いやいやいや・・・お嬢には何もしてねえよ・・・八つ当たりされたんだって!」

 

「みどりちゃん・・・最近明日香ちゃんの様子なんかおかしくない?」

 

 唐突に振られた。

 

「どした?なんか気になんの円?」

 

「なんて言ったらいいのかな・・・京夏様が亡くなってから前以上に思い詰める事が多くなったっていうか・・・ひとりで抱え込むことが増えたっていうのかな・・・そんな感じしない?」

 

「そうか?あたしにはそうは見えないけど・・・」

 

 そのときはつい言ってしまったが、最近天上の間でも一緒になることがあまりないしな。ていうか、あたしの前ではそんな素振りなんか見せたこともない。

 

「こんなこと・・・みどりちゃんにぼやいてどうなるわけでもないと思うけど・・・なんか嫌な予感がするんだ・・・」

 

 後にその嫌な予感は的中することになってしまうのだが。

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