翌日の朝。
日課にしていたマラソンは休み、
「・・・頭痛い」
「明日香ちゃん大丈夫?」
「でもないかな・・・夜中に突然吐き気と誰かに殴られた、みたいな激痛が走って・・・」
ありのままを述べる。
「医務棟行こう?
「ただ、今は平気なのよね・・・痛いけど、殴られた後の痛み?みたいな感じで残ってるだけだから・・・」
その後一旦部屋に戻り、講義の準備をしていたときだ。
トントン・・・
部屋をノックする音。こんな朝の時間に誰だろう?
「はーい」
ガチャ・・・
「明日香さん、ちょっとよろしいかしら?」
祀様?
部屋に来るとか珍しい。
「どうされたんですか?」
「敷井さんから聞いたの。ねえ明日香さん・・・しばらくここを離れてみてはどうかしら?」
え・・・。
特別寮?
「・・・お断りします。
「あら?違うわよ」
「え?」
「今年から・・・LG単位での休暇制度を導入することにしたの。このところヒュージの出没率も下がっているし、仲間との結束も上がるんじゃないかって思って・・・」
「な、なるほど・・・」
そういうことね・・・。早とちりした私が恥ずかしい・・・。
「ということで、LG単位で休暇申請を出そうと思ってるんだけど・・・みんなはどこ行きたい?」
「私!鎌倉じゃない別な海行きたい!」
とは如來だ。
できれば具体的な場所を示してほしいんだけど・・・。
「わたくしも初めて聞きましたわ」
「そうね。私も今朝祀様から初めて聞いたから。ていうか鎌倉以外って・・・如來抽象的すぎ」
「あの!」
藍ちゃん?
「えっと・・・私、湯河原に行きたいです」
湯河原?ふと頭に浮かんだのはアルケミラ女学館の管轄だということだ。
「え・・・でも湯河原って没落地域だよ?それでもいいの?」
「えっと・・・実は・・・灯音様がアルケミラにいたっていうのを聞いたので・・・」
それを言うなら私は駿府に行きたい!というのが本音だが、さすがに駿府までは・・・。
「調べてみないとなんともだけど・・・避難地域だったら大丈夫かも」
ただ、ヒュージとの戦闘は必須になると思う。
休暇しに行くんだか戦闘しに行くんだかわかんないような気もするがまあいい。
「温泉かあ・・・百合ヶ丘来てから天上の間と足湯しか行ってないないから楽しみ!」
円はそっち!?
その日の夜。
ピピピ・・・
携帯端末が鳴った。
・・・灯音様?
『円から話聞いちゃった。私も同行させてもらっていい?』
うーん・・・なんかよくわからないことになってきた・・・。
「構わないですけど・・・この場合ってLG休暇日申請扱いになるんです?」
『よくわかんない。祀に聞いてみる』
LGの籍は抜けていないので問題はないはず。
翌日。
(眠い・・・)
早朝の誰もいない百合ヶ丘正門前。
まさかこんな理由で休暇日申請が通るとは思わなかった、というのもあるが。
電車を乗り継ぎ、やってきたのは平塚だ。
一度訪れてみたかった、のだが、京夏お姉様の遺骨の一部が実家にも行っている、というので、そのお墓参りがメインである。
(へえ・・・鎌倉とはまた違った緑なんだ・・・)
『佐野重牧場入口』 の看板───初花様の実家だ。その少し上が京夏お姉様の実家だったところ、ということらしいが。
「・・・」
(なに・・・これ・・・)
庭の手入れがされてないのは誰も住んでないから、なのでそれはいい。問題は外観だ。
硝子が割られ、壁のあちこちに穴が開けられていた。
(空き巣にしても・・・なんてことを・・・)
初花様から聞いた京夏お姉様の部屋だった場所へ。
唯一ここだけは手つかずのままになっていた。
小さい頃の初花様と一緒に映っている写真。机横の壁には『リリィになってみんなのことをたくさん守る!』と描かれた紙が。
(なんか・・・いいなあ・・・私と如來より恵まれた環境だったんだ・・・)
『夏目家』と書かれた墓標。一般的な先祖代々のお墓の前にやってきた。
墓誌を見る。『夏目雄太郎』『夏目明子』『夏目京夏』の真新しい文字。初花様のご両親が家族ぐるみでお付き合いがあった、と聞いているのでそういうことなのだろう。
お花と線香、墓標の前に手を合わせる。
帰り道でのことだ。
パンッ!
(はあっ!?)
マギ弾の音・・・しかも実弾だ。
キンッ!
「・・・っ!」
寸前のところで弾き返す。
「あなた・・・百合ヶ丘の生徒よね?なんでこんなところをウロウロしてるのかしら?」
黒髪ロングの、赤い目のリリィ───が私に言う。
「随分とご挨拶ですね・・・学園がどこだろうがあなたには関係ないでしょ?」
制服を見る限り相模女子高等学館か?この辺りの管轄なのでいても不思議はない。
やる気とスキラー値があれば誰でも入れるとウワサの新進気鋭の学園、というのを聞いた。
「この辺りは夏目さんと佐野重さんの実家ですけど・・・そこに用事でも?」
この人・・・京夏お姉様と初花様を知っている?
「だからって・・・実弾撃っていい理由にはならないでしょ?もし当たっていたならあなた処罰ものよ!」
「なら、正式に手合わせを申し込みさせてもらいましょうか?尾上明日香さん?」
私のことを知っている?誰だ?
記憶を辿るが該当するリリィが出てこない。
「ふーん・・・覚えてないんだ?」
私に近づいてくる・・・グルヴェイブ?
そして後ろ髪をまとめてポニーテールに・・・あれ?
「あ・・・朱美!?」
鏡朱美───御台場時代同じ東雲予備隊メンバーだったうちの1人で寮のルームメイトでもあった。レアスキルは
「どう・・・して・・・」
「久しぶりね明日香。聞いたわ。百合ヶ丘では自分のLGを持ってて、オマケに守護天使まで・・・」
「そんな・・・自分の実力じゃない・・・私は・・・前の隊長からLGを引き継いだだけで・・・」
「・・・」
「それに・・・妹だってあなたの知ってる子よ。お台場にいたときと変わり映えなんてし・・・」
「ふざけんなああああああああっ!」
「ひっ!?」
言い終わる寸前、グルヴェイブのブレードを喉元に突きつけられる。
「あんた・・・こんなことしてただで済むと思って・・・」
ガンッ!
直後、お腹周りを思いっきり蹴られる。
「うううううっ!?」
その場にうずくまる私。
「・・・昔なら私に敵意むき出しで抵抗してきたのにねえ」
そう。去年の私だったらそうしていただろう。天音のときのこともある。
実は朱美とは友人関係だった。だった、というのは彼女のほうから一方的に絶交されたからなのだが。
「う・・・る・・・さいっ・・・あんただって知ってんじゃないの?天音との・・・ことっ!」
「そういえば・・・そんなバカな子もいたわね・・・」
うずくまる私をグリグリと頭の上から靴で押さえつけられる。
「があああああああっ!」
(耐えろ・・・耐えろ私・・・)
もしこの場に如來がいたのなら間違いなく暴走しているだろう。
(そういえば・・・未だに朱美が私を嫌いになった理由がわかんないのよね・・・)
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る。通話機能だ。
「・・・っ!」
ガンッ!
再び蹴られて少し飛ばされる私。
「う・・・ど、どうした・・・の?」
『あ、明日ねえ!?どうしたの?』
連絡主は如來だ。
『蘆乃!生徒会に連絡して!早く!』
異常だと判断したんだろう。
さあどうする私?現状なら朱美を殺めたところで正当防衛が当てはまるかもしれない。
「言っとくけど、私も強化リリィだから殺めよう、とかバカな考えはやめてよね」
「あっそ・・・なら好都合だわ・・・」
フォン・・・
立ち上がって右手をかざし。CHARMを起動する。
「え・・・あなた・・・タングズニルじゃ・・・」
そうか、CHARMを引き継いだことを知らないのか。
「おあいにくさま。今日はお姉様の形見のダインスレイフ・カービンなのよね・・・それよりも・・・」
「・・・っ!」
今度は私が朱美にダインスレイフ・カービンを突きつける。
「正体はあんたかっ!私のお姉様の実家をあんな・・・」
「な、なんのことよっ!?知らないわ・・・」
そこへ──
「明日香っ!なにやってんの!?」
灯音・・・様?
「私が聞きたいぐらいですよ。どうしてまた?」
あまりに不自然すぎる。
「なんでって・・・そりゃあ・・・初花ん家の・・・新作ぬいぐるみが・・・出てるかなあって・・・」
あ・・・灯音様はそういう人だった。ん?ぬいぐるみ?
「ゆるキャラちっくな牛がすごいかわいいんだよ!だから時々休暇取ってチェックしに来てるんだけど・・・」
久しぶりに聞く灯音様のマシンガントーク・・・って、今はどうでもいい。
「けどダメだよ?いくら・・・京夏ん家があんなだからって・・・こんな・・・」
「知ってたんですか・・・」
どうやら以前から頻繁に訪れているらしく、
「で、こっちのリリィは・・・」
仕方なく朱美の喉元からCHARMを離す。
「御台場の・・・予備隊時代のメンバーだった子です。寮のルームメイトでもありました」
「そう・・・なんだ・・・けどだからって・・・実弾撃っていいわけじゃないよ?」
・・・灯音様最初から一部始終を見ていた?
「それはどうも」
「生徒会にはもう・・・連絡済だよ・・・如來から・・・連絡も来たでしょ?」
無言でうなずく。
当の朱美は悪びれた様子もなく、あっけらかんとした表情をしている。
「あなたは・・・拘束される・・・リリィとして・・・それでよかったの?」
されたところで・・・おそらく彼女はなんとも思ってないだろう。そういう学園方針だというのを聞いたことがあるからだ。
それでいて狂酔の月持ちなんだから困ったものだ。
「さあ・・・・どうなんでしょうね?」
間もなく百合ヶ丘の生徒会役員が来て彼女は拘束されたが、相手方───相模女子高等学館の生徒会の姿はなかった。
帰り道。
「で、結局来ただけになっちゃったんですね・・・」
「うん・・・ネットとかで情報公開してないからね・・・ううううっ」
灯音様!?顔色が・・・。今までにないぐらい悪い。
カワイイものに関して目がなく、今まで症状が出てことがなかった。そのつもりでいつものテンションで喋ろうと思ったのだろう。
「大丈夫ですか!?」
慌てて指輪をしている手を繋ぎマギ交感。
が、しかし、
「うううっ・・・!?」
(な、なにこれ!?)
琴乃様のときは一瞬フラつく程度で済んでいるのだが、全く違う。まるで・・・根こそぎマギを持っていかれるような感覚・・・。前にも同様にマギ交感をしたことはあった。今回は全く別物だ。
「ご、ゴメン・・・明日香・・・私も・・・ちょっと・・・ビックリしてる・・・こんなの・・・初めて・・・だから・・・」
あまり考えたくないが・・・発言障害が進行した、と考えるのが妥当だろうか。
「戻ったら医務棟で検査受けましょう!」
「そうだね・・・」
戻ってすぐにそのまま医務棟へ。
十数分後。
「明日香さんちょっといいかしら?」
祀様だ。
「桃乃さんだけど・・・発言障害があるのは知ってるわね?」
「はい・・・」
「これは本人には黙っててほしいんだけど・・・病状は最悪だわ」
え・・・。
「あの・・・それってどういう・・・」
「喋ろうとすればするほど負のマギに侵食されていくの。今までは京夏さんがマギ交感をしていたから症状の進行を抑えられていたわ。けど京夏さんがいない今、進行を誰も止められないの」
「え・・・それって」
「元
え、S級!?スキラー値85以上だったってこと!?
衝撃の事実・・・お姉様隠し事多すぎ・・・。私がどう頑張っても届くはずがなかった。
ちなみに私は78だ。
「他の・・・私たちとかじゃダメなんですか?」
「正確には・・・抑えられる、けど・・・その時間が極端に短いわ。今までいろいろなリリィが試したけど結局京夏さんだったのよ・・・」
誰も代わりがいないなんて・・・。
私自身もうどうしていいかわからなくなっていた。頭ン中ぐちゃぐちゃ・・・昨日だって円や櫻子に八つ当たりして・・・。思いつく限りのことはしよう。
携帯端末を取り出し、因悦に連絡。藍ちゃんのほうがよかったか?
『悪いけど医務棟の16室まで来てもらえないかしら?』
試したことない子たちでやってみるしかない、か。
「あの・・・どうしました?」
10分後。因悦がやってきた。
「ごめんね突然呼び出して」
「いえ・・・」
「もうちょっと待っててね。もうすぐ来るはずだから」
一旦笑顔から真剣な表情へ。
「心して聞いてほしいんだけど・・・灯音様・・・もしかしたら百合ヶ丘にいる間にいなくなるかもしれないわ」
「え・・・」
「灯音様の発言障害のことは以前話したと思うけど・・・その症状が悪化しているの・・・このままだと灯音様は・・・私たちと喋るどころか・・・このまま・・・うううっ・・・」
私はそのまま泣いてしまった。
「落ち着いてください明日香隊長。それってどうにもならないんですか?」
「今までは・・・京夏お姉様が・・・マギ交感で進行を抑えていたそうよ。けどそれももう・・・」
やっぱりお姉様はすごい。マギ保有量はとてもじゃないけど私にはかなわないや・・・。
「あの・・・でも京夏様って・・・隊長と同じゼノンパラドキサ・・・でしたよね?どうしてまた?」
「マギの量の問題よ。今まで黙ってたけど、お姉様・・・S級だったのよ」
「・・・終わったよ。あれ?因悦・・・」
灯音様が戻ってきた。
「ごきげんよう灯音様。明日香隊長に呼ばれたのでちょっとここで話を・・・」
「そうなんだ・・・」
「そういえば・・・灯音様って・・・湯河原のどの辺り出身なんですか?」
「あー・・・」
灯音様言いにくそうだなあ・・・。
「ごめん・・・私の家は・・・もうどこにも・・・跡地なら・・・」
ヒュージ没落地域内、か。
「すいません・・・変なことを聞いちゃって・・・」
「いいよ・・・リリィなら・・・誰だって言いたくなかったり・・・悩みは持ってる・・・それに・・・私が・・・今ここで・・・死ぬわけにはいかない・・・から」
灯音様・・・。
「ああああっ!」
バタンッ!
ちょっと因悦!?
「たまたま」コケて灯音様の上に馬乗りになるような形に。
パアアアアアア・・・
指輪をしてる手同士が偶然重なりマギ交感をする形に。
「ううううっ・・・」
因悦の息が荒い。
「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・」
レアスキル───ブレイブの相乗効果でどうにかなる・・・と思ったけどやはりムリか?
「大丈夫?」
「は、はい・・・すみません・・・」
苦笑いの因悦。
だが、医務棟に来る前よりも灯音様の顔色はよくなっていた。
(気にしすぎ・・・なのかな・・・)
「じゃあ・・・部屋に戻るね。ごきげんよう」
お互いそのまま立ち上がり、灯音様は山
「大丈夫?」
「えっと・・・マギ交感のことですか?」
無言でうなずく私。
「たまたま・・・する形にはなったんですけど・・・ちょっと今までとは違った感覚でした・・・まるで・・・持ってるマギを吸い取られる・・・みたいな」
吸い取られる、か。私とほぼ同じ症状だ。
まさかとは思うが、京夏お姉様がリリィの終わりを早く迎える事になった原因って・・・。
「明日香ちゃん!一体なにがあったの!?」
「連絡もらったときはビックリしましたわ!」
「ははは・・・ごめん・・・予備隊で一緒だった子にケンカ売られただけ・・・」
「売られたって・・・」
「これは百合ヶ丘に対する冒涜ですわ!許せませんわ・・・」
そもそも相模女子は百合ヶ丘との関係は特に何もないはず。
「あのね・・・なんでもかんでも学園間トラブルに結びつければいいってもんじゃないでしょ・・・それよりも・・・」
「・・・明日香ちゃん?」
灯音様の発言障害の現状をありのまま話した。
「そんな・・・」
「負のマギの力が・・・」
「もしかして・・・」
「私も・・・信じたくはない・・・けど・・・そうとしか思えなくて・・・」
また泣いてしまった。
「そういえば・・・京夏様・・・灯音様とも・・・日常的にマギ交感されてましたものね・・・」
だからといって灯音様に非はない。ヒュージが余計憎くなる。
「で、因悦を呼んでたまたま触れた形でマギ交感したんだけど・・・」
あの後因悦はフラフラしながらも寮に戻っていった。ちょっと心配だな・・・症状に関しては伏せている。
「それならそれで、わたくしたちが交代でマギ交感すればよろしいんじゃなくて?」
「なら私が悩まないわよ・・・誰でもいいわけじゃないの・・・」
結局真実は明かせなかった。
さて、湯河原へ行く当日。
「おはよう。みんな」
休暇とはいえ、何があるかわからない。今は私服だが、目的地が目的地なだけに全員CHARMと制服は持参している。
「わあ・・・灯音様私服すっごいカワイイですー」
「そ、そう?」
なぜかテンションが一番高いのが藍ちゃんだ。
ピンクのセットアップに少し高めのハイヒール。背が低いの気にしてるんだなあ・・・。
「これどこで買ったんですかー?わあ・・・」
「明日ねえ相変わらずなんだあ・・・」
如來・・・あんたね・・・。
まあ否定はしないが・・・。カエルのTシャツに緑のスカート、カエルのワンポイント入りの麦わら帽子。
「明日香隊長ホントにカエル好きなんですね・・・」
「そ、そうね・・・」
苦笑い。
「あれ?蘆乃は?」
みどりだ。
ファッションに無頓着なのかと思っていたが、ほぼその通りだった。釣り(?)関連メーカーのキャップにTシャツ、カーキ色のハーフパンツ。ボーイッシュ?だが似合ってるのがなんか腹が立つ。
「遅くなりましたわ」
ベス・・・。
あんたが一番この中で場違いだわ・・・。
ガンッ!
思わずゲンコツ。
「あいたっ!ちょっと!?なにしますの!?」
「自分の胸に聞きなさいよ・・・まったく・・・」
「だよなー・・・お嬢のこういうとこがいけすかねえ・・・」
「みどりさん・・・」
サングラスにブランド物の服、水着か!と思うような出で立ち・・・。
「おはよう・・・ございます」
遅れて蘆乃もやってきた。
蘆乃のほうがベスよりもお嬢様っぽく見えるのはどうかと思うけど・・・。
白のワンピースがよく似合っている。
「あの・・・あんまり見ないでください・・・恥ずかしいんですけど・・・」
「ご、ごめん・・・じゃあみんな行くわよ」
私服ってこうも個性が出るもんなのか、と改めて関心してしまった。
咲良ちゃんもだが、みんなコーディネートがすごくうまい。浮いた感じがするのは私だけか・・・。
没落地域手前の小田原までやってきた。
この辺りも小規模ながらエリアディフェンスが張られている。
「かまぼこ・・・美味しいよね」
とは灯音様だ。
そういえばかまぼこは・・・量産品しか食べたことがない気がする。宿泊先で食べたいな・・・。
ということでメンバー人数+灯音様の分購入。
湯河原に到着、宿に荷物を置き、
「夕方までは自由行動にしていいわ。だからって羽目を外しすぎないようにね」
「おう明日香。釣りやろうぜ」
なに唐突に・・・。まあみどりらしいというか。
「なによ急に・・・私やったことないわよ?」
「釣り方ならあたしが教えてやっから。竿も貸すし」
なんか意外。しかも楽しそうだし。
「あたしさ、父ちゃんの影響で釣りが好きでさー・・・鎌倉でもやれっかなーと思って楽しみにしてたんだけど・・・堤防とか全壊じゃん?だからフライできなくてつまんなかったんだよねー」
フライ?なにか揚げるのかな・・・。
「ああ、フライってのは糸を投げて釣るやり方な。昔は鎌倉辺りだとしらすとか生で食えたんだってよ」
「あ。みどり様・・・と明日ねえ?」
如來だ。
「これから海岸でバーベキューやるんですけどみどり様もどうです?」
「んー・・・あたしはいいかな。ていうか久しぶりに釣りしてえ・・・よっしゃ明日香。行くぞ!」
「私やるなんて一言も・・・」」
「いいから来い!」
何だこの流れ・・・。そのままズルズルと引っ張られてしまった。
結局避難地域内の漁港内の堤防まで連れてこられてしまった。
(けどま、いっか)
と思ってしまっている自分がいるのも事実なわけで。
というか、こんな楽しそうにしているみどりを見るのがはじめてだから、というのもある。
「仕掛けはあたしがいつも使ってるやつそのまんまだからいじらなくても平気。あ、あたしらリリィだけど一応ライフジャケットは付けてな」
はあ、とため息。
「で、どうすんの?」
「あたしが先に見本見せるからその通りにな」
もう1本の釣り竿を取り出し、リールのレールを起こしてから疑似餌を竿から少し下りた状態に。
「えっと・・・垂らしはこんぐらい。で、今んとこあたしと明日香ぐらいしかいないけど、普段なら他の人に当たんないように振らないと」
とそこで後ろへグルグルと糸を回し始めるみどり。
「で・・・こうや・・・ってっと!」
ブンッ!
どうやら狙った位置に行ったようで満足しているらしい。
「で、何釣るの?」
「んー・・・今の時期だとカサゴとかカレイとかかな・・・」
「あ。いたいた。明日香ちゃーん!みどりちゃーん!」
円だ。
「どう?」
「どうって・・・はじめたばっかりだよ?そんなすぐ釣れるわけじゃないじゃない・・・」
さて、私もやってみるか。
リールのレール起こして・・・疑似餌の垂らしがこれぐらい?で、手で引っ掛けといて、それから・・・。
「あーそうそう。明日香はあたしみたいにぶん回すよりも1発でやったほうがいいかもな。たまーに引っ掛けた手離さないで服に引っ掛けたりするから」
ま、まあ1度はそれをやりそうなのが怖い。
よし!
ブンッ!
(よっしゃ!)
心のなかでガッツポーズ。狙い通りの位置へ落ちてくれた。
「明日香ちゃん釣りやったことあるの?」
「ないない・・・初めて」
「えー・・・でもじょうず・・・」
「そんなことないって。気のせいだよ」
しばらく待つ。
あ。かかった?
「な、なんか引っ張られてる」
「おっ、かかったじゃん。一気にリール巻くなよ。バレるぞ」
「バレる?」
「あーあたしら使ってるのが疑似餌だからな。一気に引き上げると魚に怪しまれっから」
まあ確かに。
「で、竿を上下しながらゆっくりな」
「う、うん・・・」
言われた通りにゆっくり巻いていく。
つ、釣れた!
「カサゴかあ・・・この辺だとこのサイズかあ・・・」
な、なんか不満そう・・・。
「百合ヶ丘入る前は・・・城ヶ島とか横須賀とかしょちゅう行ってたなあ・・・で、なんだっけ・・・城ヶ島工科女子中等部のやつとよくケンカしたなあ・・・」
城ヶ島工科女子って・・・私たちにはあまり馴染みはないが、確か工廠科(アーセナル専門)の学園だったはず。ていうかあんた・・・なんでそんな子たちと絡むのよ・・・。
「あれ?出身地の話してなかったっけ?あたし葉山だから。ギリギリ没落地域外だよ」
葉山か。ほぼ地元じゃない。
「けどま、そいつらのおかげであたしは百合ヶ丘に入れたようなもんだけどな。じゃなかったらレアスキルなんて覚醒しなかっただろうし・・・」
「明日香隊長!」
藍ちゃん?
「あの・・・今すぐこっちに来てください!」
バーベキューやってるんじゃなかったの?
それは置いておこう。海岸に移動してきた。
「私たちが何したっていうの!別に自由でしょ!」
「危ないから避難しろって言ってるのがわからない?」
アルケミラの制服・・・。
「ちょっと二人共・・・」
「あ。明日ねえ・・・なんか知らないけど私たちに避難しろって・・・」
この子完全に私たちを一般人と勘違いしてる?
「ちょっといい?私服だからって私たちが誰か一度確認したほうがいいんじゃないのかしら?」
フォン・・・
右手をかざし、ケースからCHARM───タングズニルを取り出す。
「・・・リリィ?もしかして・・・私たちを助けに?」
「残念だけど偶然なのよね・・・傷心を癒やすための旅行なの」
「失礼ですがあなた達は・・・」
「私たちは百合ヶ丘女学院のリリィよ」
百合ヶ丘の名前を聞いた途端、顔を歪ませる彼女。
「・・・今すぐここから出て行ってください」
「・・・言ってる意味がわかんない。出ていけって」
「なら問答無用!」
ブンッ!
突然CHARM───ブリューナクを振りかざす。
如來に目で合図。
スッ・・・
レアスキル発動!
彼女の背後に回り、片方の手を押さえる。
如來には反対側を押さえてもらう。
「えっ!?」
「えっ・・・じゃないでしょ。CHARMはリリィじゃなくてヒュージに向けてね」
「結局明日香が釣った1尾だけだったよ・・・ってどした?」
みどりが戻ってきた。
「こっちが聞きたいぐらいよ・・・私たちの身分を明かしたら突然彼女が暴れだして・・・」
「・・・浮葉?」
灯音様だ。
「・・・灯音?」
「久しぶり」
ニッコリと笑う灯音様。
「元気してた?」
「・・・うん」
「あの・・・お知り合いですか?」
「知り合い・・・っていうか・・・私が初等科にいたときに・・・クラスが一緒だった子」
「もしかして・・・灯音、少し・・・変わった?」
「違うよ・・・これは・・・」
と説明しようとしたときだ。
「うううううっ!」
頭を押さえながらしゃがみこんでしまう灯音様。
(どうしよう・・・今いるメンバーでマギ交感させるべき?)
「藍ちゃん!ゴメン!」
やや強引に指輪をしている手同士を触れさせる。
パアアアアアア・・・
「うっ・・・」
藍ちゃんは少しフラついたものの、すぐに安定した。
「マジか・・・灯音様の症状・・・前よりひでえことになってる・・・」
息が苦しい。
立っているのもやっとなぐらいだ。
(私・・・もう・・・ダメなのかな・・・)
今までは京夏がいて、マギ交感を頻繁にやってたからなんとかなってたのはある。けど、京夏はもういない。
(リリィとして終わりを迎えるんなら・・・せめてヒュージを倒したい!)
野良でもいい。何もしないで終わるぐらいなら・・・リリィとして生命を全うしてやる!
「ダメですよ!動いちゃ!」
・・・藍?
海岸からずーっと一緒だった?
パアアアアアア・・・
「うううっ・・・」
マギ交感・・・。
藍、苦しそう・・・だが、
「大丈夫ですか?」
笑顔で答える藍。
「・・・私はいいから。それより・・・ムチャしてない?」
「私は・・・大丈夫です。マギ量も他の子より余裕あるので・・・」
そういえば藍はブーステッドリリィだって聞いた。だからか。
「それよりも・・・今はとにかく安静にしていてください!」
「先程は失礼しました。小野浮葉と言います。3年生です」
「浮葉様・・・。えっと尾上明日香・・・LGエリューズニルの隊長で2年生です」
「それで・・・灯音の症状が悪化してるっていうのは・・・」
一度灯音様を旅館のほうに戻ってもらうことにして、私は現状を話すことに。
「灯音様は・・・中等部時代にヒュージに襲われて、普通の会話をしようとすると、負のマギに侵食されて発言ができなくなる症状になったんです。だからあんな・・・たどたどしく聞こえますけど、ああ喋るのがやっとなんです」
「そんな・・・」
「灯音様がLGにいたときはまだ・・・もっと普通に喋れていたんですけど・・・最近症状が悪化しているみたいで・・・。あー、今はLGから外れてスーパーサブとしてたまに入ってもらっています。で、今回LG単位で休暇を取ったので同行したい、というので一緒にいる次第です」」
「そう・・・あの子・・・小さいときに両親を亡くしてるの。自分の目の前でね」
そういえば琴乃様も父を目の前で亡くした、と話していた。
「それもあって・・・暴走することもあるわ。灯音のレアスキルって・・・」
「鷹の目です。自分がもっと戦えるならって・・・しょっちゅう悔しがってます」
LGとして見ると戦略的に非常にありがたい存在なのだが・・・本人からすれば、前に出て戦いたい!と思うのは当然だと思う。
「LGに入って・・・発言障害のことを聞かされたときは・・・自分のようになってほしくない!って言われました。私も・・・正義感強くてどっちかっていうと暴走して突っ走ろうとするほうなんですけど・・・よくお姉様に止められてました」
「姉・・・守護天使?」
「はい・・・正確には「だった」ですけど・・・私もまだ完全には吹っ切れてなくて・・・だからLGの慰安も兼ねての旅行・・・のはずだったんですけど、なぜかこんなことに・・・」
ピピピ・・・
浮葉様の携帯端末が鳴る。
「ちょっとごめんなさい」
浮葉様が一時的に私から離れる。ヒュージ没落地域なので百合ヶ丘以上に出没率は高いはずだ。しかも少数精鋭と聞いている。
しばらくして私のところへ。
「あの・・・ごめんなさいね。ホントは休暇のはずなのに・・・正式に外征要請をさせていただきました。まもなくそちらの生徒会から連絡が来るはずです」
ピピピ・・・
携帯端末が鳴る。生徒会からメールだ、
『LG休暇中大変申し訳ありません。先程アルケミラ女学館から正式に外征要請がありました。至急応援をお願いします。なお、出現多発地域であり、討伐報酬はありません』
・・・まあ報酬のために戦ってるわけじゃないからそれは気にするところではない。
「浮葉様。私達は何をすれば・・・」
「ラージ級3体・・・と言っても、うち2体はミドル級に近いですが・・・の討伐です。1体は私達の手に負えないので・・・」
確かリリィは9人に満たないと聞いたことがある。つまりノインヴェルト戦術が使えないということだ。
仮にマギスフィアをその人数で回したとしてもCHARMもマギも持たない。
「わかりました」
メッセージで全員に一斉連絡する。
「みんなゴメン。生徒会から正式にアルケミラからの外征要請があったわ。一旦旅館に戻って制服に着替えること。場所はこれから送るわ。現地集合で」
さて、灯音様には華をもたせてあげないとね。
「灯音様。ノインヴェルトのフィニッシュショット、お任せして大丈夫でしょうか?如來には私から説明しておきます」
『ありがとう明日香。で・・・ごめん。いろいろと・・・気使わせちゃって』
「なんのことです?」
あえてシラを切る。
『とぼけてもダメだよ?私も・・・いずれこうなることは・・・分かってたことだし。せめて最後ぐらいは、ね』
灯音様・・・。黙ってたけど、自分のことはしっかり理解されていた。
「だよねえ・・・あーあ・・・もうちょっとのんびりできると思ったんだけどなあ・・・」
連絡を受けての一言。
「それを分かってて了承したのはどこの誰よ?」
う・・・蘆乃のやつめ・・・。
「文句言っても仕方ありませんわ。わたくしたちの本分を忘れてはいけません」
櫻子様の言うとおりではある。私達はリリィだ。目の前のヒュージを倒すことが先決。