守護天使
『今日こそは
と、CHARMを持ち出してまで私の元にやってきた。
(手合わせが条件で・・・ってこと?強引だなあ・・・)
私からすればやれやれ、と言った感じだが、如來本人からすれば『冗談じゃない!』という声が飛んできそうだが。
「すみません。わざわざ予定まで空けてもらって」
「いいのいいの。久しぶりに明日香ちゃんの手合わせ見られるだけでも十分楽しいから」
と、ニコニコ顔の琴乃様。
(私は見世物じゃないんだけどな・・・)
「で、条件なんですけど、如來が勝ったら守護天使の契りを結ぶ。私が勝ったら・・・今のままで」
場所は如來のほうが指定してきた。修練場以外、か。
やってきたのは海岸だ。
(レアスキル使う気?)
確か如來のゼノンパラドキサの速度は私よりも遅かったはず。お互い使ったとしても明らかに私のほうが有利のはずだ。
今この場にいるのは私と琴乃様、如來の3人。
「わざわざここを指定したってことは・・・何か勝算でも?」
「明日香姉様でもそれは教えなーい」
「あ。琴乃様。レアスキルありなので!」
やはりか。
どの道如來は私には勝てない、そう思っていた。
「制限時間なし。レアスキルの制限もなし。ただし、危険と判断したらその場で止めるわ」
通常レアスキルは個人差が出るため、よほどのことがない限り「なし」が原則だが、何を思ったか、如來は使うことを決めた。
お互いCHARMを構える。そういえば如來と手合わせをするのは私が予備隊に入って少ししたとき以来だ。
「はじめ!」
琴乃様の掛け声。
「やあああああああああっ!」
円のときと同じ攻撃パターンだ。と思わせて、
ザッ・・・
・・・早速レアスキル使ってきたか。けど、
キンッ!
「遅いっ!」
やはり如來だ。速度はまだまだ・・・と思った。
スッ・・・
え?
いきなり目の前に如來の姿。
「ふふんっ」
妙な余裕のある表情の如來。
ステルス───サブスキルだ。
(如來・・・いつの間に・・・)
そして、避けきれず私の身体にタングズニルのブレードを突きつけられ、
「え・・・」
「そこまで!」
まさか、秒で終わるとは・・・完全に謀られた・・・。
帰り道。
「如來・・・サブスキルなんていつ覚醒したの・・・」
なんとなく聞いてみた。
「えっと・・・予備隊に入ってしばらくしてから?」
あっけらかんと答える。
「あと・・・ステルスだけじゃないんだよね・・・」
え・・・?
「縮地のサブスキルあるでしょ?」
「インビジブルワン・・・え?」
つまり。
ステルスで気配を消して、インビジブルワンの効果で早くなった、ということだ。
精神修練室に通った?まあそれはいい。
「あの・・・琴乃様。もしかして如來のサブスキルのこと・・・知ってたんじゃ・・・」
「知ってた・・・というよりは、なんとなく、かな」
な、なんとなく・・・。
「円ちゃんとの手合わせ見た時に京夏ちゃんの動きにどこか似てるなーって」
「そ、そうなんですね・・・」
お姉様の?琴乃様の理屈はよくわからないが、そういうことらしい。
「明日香姉様!」
早速これだ。如來は肩を寄せてくる。
「ま・だ・よ。書面持ってきてないわ」
「えー・・・」
「えー、じゃない。もっと言えば生徒会に受理されなかったら守護天使として認められないわ」
そう、書面を書いておしまい!ではなく、それを生徒会に提出、受理されなかったら守護天使にはなれない。まあよほどのことがない限り受理されない、ということはないようだが。
翌日、2年生の講義棟のラウンジにて。
「・・・明日香ちゃん大丈夫?顔色悪いよ?」
「そ、そう?」
私自身が守護天使の導く側になるなんて想像すらしなかった。
リリィとしての実力は私のほうがまだまだ上だと思っている。
「わあ・・・」
指輪でのルーン捺印を済ませ、すっかり顔が緩んでいる如來。
「書類は書いたけど、承認されなかったら私たちはまだただの先輩後輩でしかないからね」
と、釘を刺す。
「う・・・意地悪だあ・・・」
「ルールはルールよ。私だって・・・京夏お姉様と結んだときはそうだったんだから・・・」
言いながら照れてどうする私。
自分の身に置き換えると、如來ほど厚くはないかもしれない私とお姉様との関係。それでも私にとっては憧れの存在であり、命の恩人なのだ。
程なく生徒会から受理のメールが来た。
「おめでとう明日香ちゃん」
戻ってきた円から一言。
「あ、ありがと・・・」
「・・・あんまり嬉しくなさそうだけど、どうして?」
「いや、実感湧かない、っていうのもあるんだけど・・・」
もちろんそれだけではない。日頃の行動が全て変わる気がしているからだ。とは円の前で言えないしなあ・・・。如來の前ではなおさらだ。
この話はすぐにLG内に広がり、
ピピピ・・・
携帯端末のメッセージがしばらく鳴り続けた。
その日の夜の天上の間。
「おめでとうですわ明日香さん。遅かれ早かれ結ばれるとは思ってましたが・・・随分とあっけなかったですわね」
「・・・なにそれ。私に対する皮肉?」
「先を越されたのが悔しかったんだよねーベスちゃん?」
「なっ!?」
は?先を越された?
円に言われた途端、顔を真っ赤にして手をバタバタとし始める。
「ななな、何をおっしゃってますの!?確かに最近・・・その・・・気になる後輩がいるのは・・・事実・・・ですが、まだなる・・・だなんて・・・」
その後指同士を突きながらモジモジとし始めた。
そういえば昨日───
「ベスちゃん最近1年の講義棟でなにやってるの?」
突然円が言い出した。
「え?なんのこと?」
私にはなんのことだかさっぱりだ。
「如來ちゃんがね・・・ベスちゃんが李組の教室の前に毎日いるとかなんとか・・・」
ホント、なにやってんだか。私が1年の教室にいたのは最初の何日かだけで、悪目立ちするだろう、という理由から早々に撤退したのだが。
「まったく・・・」
・・・というやり取りを思い出した。
「照れるな照れるな。自分だってちゃっかりしてるじゃない」
「う、うるさいですわっ!」
ブクブク・・・
浴槽に顔ごと沈んでいくベス。
このときはあんな
一週間前。
私は李組の教室に来ていた。もちろんLGメンバー探しという大事な目的はある。が、その他に気になった子がいたからだった。
講義が全て終わり、皆寮に戻るかLG控え室に移動しよう、というタイミング。その中でただ1人、いつまでも残っている子がいた。
(あの子・・・まるで昔の私みたい・・・)
誰とも会話せず、言葉は必要最低限のみ。
次の日も。その翌日も。窓の外をじっと見つめている。
一週間もずーっと見ている私もどうかと思うが。
今日も窓の外をじっと見ている子を見に来ていた。が、今日は違った。
スッ・・・
「あなた・・・先輩ですよね?なんなんですか。私のこと・・・じっと見て」
気配なしに私の側に来たのだ。この子ユーバーザイン持ち?いやサブスキルのステルスかもしれない。
しかし、この誰も居ない状況では『なんでもありませんわ』とは返せない。
「ごめんなさいね。なんだか・・・あなたを見ていると中等部時代のわたくしを見ているようで・・・」
「・・・だったら、なんだっていうんですか。私に付きまとわないでください」
まるで誰とも関わりたくない、という感じで突き放そうとしている。一匹狼のつもりだろうか?
スッ・・・
そして彼女はレアスキルを使ったであろう、その場からいなくなっていた。
(一匹狼気取りなんて・・・そのうち自分が持たなくなるのに・・・)
これは私の経験則だ。
だからこそこんな・・・ひねくれたことになったのだが。
翌日。今日も李組の教室前に私はいた。
・・・いた。窓の外をずっと見ている。
・・・と、思ったのは一瞬で、
「・・・しつこい!」
あろうことか私にCHARMを向けてきた。
これは・・・行方不明になっている改良型のプロトタイプではないか。どうしてここに?
とりあえずそれは置いておく(いや、よくはないのだが。
彼女、ユーバーザイン持ちか。シャドウがいる時点で確定した。
「・・・あなた、こんなことして許されると思ってますの?」
「私に構うなって言ったでしょ・・・!」
「だからといってレアスキルとCHARMを上級生に向けていい道理なんてありませんわ。とにかくCHARMは仕舞いなさい。本当に生徒会に報告しますわよ?」
生徒会の言葉を聞いた途端に慌ててCHARMは仕舞う。
「・・・そこまでしてわたくしから遠ざけたい理由はなんですの?わたくしに恨みでも・・・」
「関係ない・・・」
「え・・・」
「・・・しつこいです。来ないで!」
私を睨みだした。
「ちょっと!あんたなにやってんの!」
明日香さん!?
腕を掴まれてしまう。周囲を見渡す。丁度視線の範囲に如來さんが見えた。
(なるほど・・・それで・・・)
明日香さんのいる合点はいったが、当の黒髪セミロングのリリィのほうは全然納得が行ってない。
「明日香さん。ちょうどよかったですわ。この聞き分けのよくない子をしかってやってくださいまし!」
「・・・あんた、まさか強引にLGに誘おうとしてないわよね?」
「違いますわ!大体、わたくしの話を一切聞こうとしないこの子が悪いんですわ!」
間違ったことは一言も言ってないので真実のまま述べる私。
「とにかく私にかまわないで!」
明日香さんが黒髪の子の前に立つ。そしてその子の腕を掴み、
「何があったかわからないけど、話を聞かないっていうのはちょっと違うんじゃない?」
その子も明日香さんをにらみつける。
「あなたもなんなんですか!人のことを寄ってたかって・・・」
「私はあなたとうちのLGメンバーとのケンカを止めに来ただけよ。何か特別な理由がありそうだけど、話す気はない?」
「・・・あなたには関係ない」
「そう。ならいいわ。ベスもほら、さっさと謝る!」
当然私は納得行ってないので、
「どうしてですの?わたくしは納得いきませんわ!」
「はい、いいから戻るわよ。ごめんなさいね・・・なにかあったら私のところに来て」
・・・完全にたしなめられている。まあいい。この場は明日香さんに従うことにする。
まったく、なんなのあの上級生!
オマケに1人増えてるし。
そんな中1人私に声をかけてきた。
「ごめんね。ちょっと、いい?」
外部生?一般で入ってきた新入生?少なくとも中等部にこんな子はいなかった気がする。薄い紫色のショートボブだ。
「・・・何?」
この子もさっきの上級生の関係者?だったら相手をしないに限る。
「私、櫻組の瀬能如來。さっきあなたを止めに入ったリリィいるでしょ?同じLGなんだ」
この子・・・今まで私が接してこなかったタイプだ。
「・・・あんたも私を勧誘しに来たの?悪いけど、入る気はないから」
「でも予備隊にはいたんでしょ?」
「ええ、まあ・・・」
前学園がどこか知らないが、予備隊・・・なんて言ってるところを見ると外部生らしい。
「その予備隊時代に何かあってLGに入りたくない・・・みたいな?」
え・・・。
当てずっぽうなのだろうが、その子に私の心情を読まれた気がした。
「だったらどうだっていうの?それこそあんたに関係・・・」
「そういう子はさ・・・心にキズがあるんだよ。そのキズを埋めてくれる人が必要だよ?」
このときは『この子何言ってんの!?』と思っていた。
よくよく考えたら如來が櫻子姉様の架け橋役になってくれたんだと思う。
「私に守護天使の契りを結べとでも?冗談じゃない!」
「え・・・なんでそうなるの?私は姉様のところに相談しに行きな・・・って言おうとしたんだけど・・・」
う・・・。早とちりをしたようだ。
如來に教えられた控室の番号の部屋のドアをノックする。
トントン・・・
「はーい」
先程私を止めに入ったリリィの声。
ガチャ・・・
「どうしたの?」
「えっと・・・先程はすみませんでした!あの・・・ご相談したいことが・・・」
「因悦・・・そっか・・・みんなLG入るよ・・・ね・・・」
しばらくうつむいていたが、
「私・・・どうしたらいい・・・?」
そのまま泣き出してしまった。
このタイミングで卑怯だと思う。けど、こうでもしないと話は出来ないだろうと思った。
「隣・・・よろしくて?」
蘆乃さんの隣に座るも、
「・・・しつこいっ!」
こともあろう、私に向けてCHARMを抜いてきた。2回目。
「・・・っ!」
ブラダマンテ・アイ───私のブラダマンテを元にブラッシュアップした新鋭CHARMだ。しかしまだ一般リリィには一振りも作られないはず。
この子・・・グランギニョルの関係者?
「せっかく高等部に来て懲罰だなんて・・・生徒会に連絡すればすぐですわ。それと───」
「我がグランギニョルのCHARMをそんな使い方だなんて、わたくしが許しませんわ!・・・と楓さんならおっしゃるでしょうね」
「楓・・・さん?あなた一体・・・」
「櫻子・
「櫻・・・子?」
名前を聞いた途端、私に手をあげようとする。
が、私はそれを止める。
「あんたのせいでっ・・・!私は・・・!」」
私に対しての怒りだろう、敵対心むき出しの表情。目には涙を浮かべている。
「何をわたくしに向けて怒ってるのか皆目検討がつきませんが、手を上げていい理由にはなりませんわ」
「・・・覚えてませんか?」
私には何のことだかさっぱりだ。
「
榛原慧美・・・まさか。
「あなた・・・ブラダマンテ開発者の・・・」
「娘です。ホントは・・・ブラダマンテは・・・私が使うためだけに開発されたCHARMだった。なのに・・・どうして・・・!」
「お待ちなさい。蘆乃さん、あなた何か勘違いされてますわ」
「え・・・」
と言って携帯端末のとある画像を見せた。
「これって・・・」
ブラダマンテ本体の柄の一部に刻印として自分の、リリィの識別であるルーンが彫り込まれている。
グランギニョルのCHARMはブレードにはマテリアルネーム(CHARMメーカー)、本体には使用者のルーンが。さらにユニーク機は開発者のルーンも全てのCHARMに付けられる。
「わたくしのルーンの刻印と榛原慧美様のルーンですわ。これでもあなた専用に作られたものだと言い張ります?あなたもグランギニョルの関係者だったらそれぐらいのことは知ってますわよね?」
「・・・」
「ブラダマンテの開発開始は6年前、わたくしがメルクリウス中等部に入る記念に、と作られたものですわ」
私は続ける。
「その後・・・改良型の話はいただきましたが・・・2世代目CHARMの仕様でも十分ヒュージの討伐は可能、と判断したので丁重にお断りしましたわ」
「それじゃあ・・・」
「もしそのプロトタイプが本当にあなたのために作られた、というのならどこかにリリィ識別のルーンが彫り込んであるはずです」
慌ててCHARMを隅々まで見始めた。
「それともうひとつ───これは外部に聞かれるとまずい情報なのですけど・・・グランギニョルの本社からわたくしのほうに開発中のCHARMが一振り行方不明になっている、との情報が寄せられています。しかもここ百合ヶ丘の誰かが関係している、との垂れ込みもありますわ。もし見つかったとしても慧美様や所持者本人には何かしらの懲罰が課せられるでしょうね・・・」
それを聞いた途端、蘆乃は不気味な笑みを浮かべ、
「・・・いい気味よ」
親に向かって言う態度とは思えない台詞・・・。
パンッ!
蘆乃に向かって平手打ち。
「・・・まだわかりません?あなたのことですわ!」
蘆乃さんは叩かれた頬を押さえた。そしてその直後、
パンッ!
返された。
「あなたに私の何がわかるっていうの!」
「・・・何もわかりませんわ」
「じゃあなんで・・・」
「・・・リリィをしていれば、辛いことだって、悲しいことだって出てきます。それを溜め込んで己を見失ったリリィもたくさんいますわ」
「だったら何?」
「・・・蘆乃さん。あなたの敵対する相手は慧美様ではなくてヒュージ。あなたと慧美様との間に何があったかは存じません。ですがCHARMの無断持ち出しだけは許される行為ではありませんわ」
「・・・だったら好きにすれば?」
「なら・・・」
私は蘆乃を抱きしめる。
「ちょっと!離してよ!」
暴れる蘆乃。レアスキルを使えばすぐにでも抜け出せるはずだが、そこまで気が回っていないようだ。
「・・・これじゃ答えになりません?」
「離して!」
「CHARMの件を帳消しにする代わりにわたくしの妹になってくださいな。今のあなたには心の拠り所が必要ですわ」
「意味わかんない・・・ううっ・・・うわああああああああああああん!」
言いながらも蘆乃は泣き出してしまった。
「我慢する必要はありませんわ・・・自分に素直になればいいんです」
蘆乃が落ち着いたところで、
「ベスは何ここで油売ってるのかなー?」
明日香さん!?
「あ、明日香さん!?ご、ごきげんよう・・・ですわ」
「ごきげんよう、じゃないでしょ!なーんて・・・ホントはあんたを叱りに来たんだけど・・・今の見てたらそんな気分じゃなくなったわ」
「い、今の・・・って・・・見てましたの!?」
「途中から・・・だけどね。けど、よかったじゃない・・・良い守護天使になれそうね」
「言ってる意味がわかりませんわ。そっくり明日香さんにお返ししますっ!」
「あのときは冗談で言ったつもりだったけど、まさかホントに守護天使になる、だなんてね・・・」
藍ちゃんが加入してしばらくした日の話だ。
「・・・何が言いたいの?」
「別にからかってるわけじゃないわ」
と前置きした上で、
「運命って不思議・・・何がきっかけで変わるかわかんないんだもん」
「・・・そうね」
ただ、気がかりな点は───
如來と蘆乃が子供っぽいというところ。
LG恒例(?)のメカヒュージ模擬戦のあとも。相変わらずことあるごとにしょっちゅうケンカしているようだ。
ホントこの2人、仲がいいんだか悪いんだか。