「明日香さん、何をなさってますの?」
誰もいないはずの控え室・・・にベスがいる。
「あんたこそ。今日は訓練ないでしょ。
「蘆乃は
「それは関心だわ。で、だからあんたはなんでここにいるの・・・」
ジト目で返す。いや、まがりなりにも
「別にいいじゃありませんの。わたくしがどこに行こうが自由ですわ」
それはそうなんだけど・・・。
「と、とにかく!今はあんたに見られても困るのっ!ほら、さっさと出てった!」
押し出す形で強引に控え室の外へ。
バタン・・・
カチャ・・・
ついでに鍵もかける。ちなみに控え室の鍵は私(隊長)と
「ちょ、ちょっと明日香さん!?開けてくださいまし!」
ドンドン!
「ふう・・・」
何ため息付いてるんだか。
こんなはずじゃなかったのに・・・と思っている私。
さて、なぜこんな事になっているのかというと───
寮(山
「円、来週何か予定ある?」
「どうしたの急に?特にないよ?」
円、もしかして忘れてる?なら都合がいい。
「
親睦目的でLG休暇制度は使ったものの、結局あんなことになってしまった。罪滅ぼしというわけではないが、ちゃんとやりたい・・・っていうのは本音だ。
「お茶会かあ・・・いつもみたいにラウンジでお喋り・・・じゃダメなの?」
「ダーメ。それじゃあやってること同じでしょ・・・。で、いろいろ考えてることもあるしね」
円はすっかり忘れているようだが、実はもうすぐ誕生日だ。
去年は直接もらったので今度は私が何か返さないと・・・と思って考えていたところにベスがやってきた、というわけだ。
ドンドンドン!
「明日香さん!」
・・・まったくしつこいなあ。
カチャ・・・
「ちょ・・・っとととと・・・」
いきなり開いたので、勢い余って私にもたれるような形に。ってちょっと!
「・・・ちょっと!どこ触ってんのよ!」
「べっ・・・!」
バターン!
そのまま床に倒れ込む形に。
「わたくしのせいでは・・・不可抗力ですわ・・・」
どこが不可抗力だ。
「そういうことは私じゃなくて
胸を右手で隠しつつ軽く咳払い。
「それは置いといて・・・私の気が変わったわ。ベスにもちょーっと協力してもらおうかなー」
「・・・私?」
明日香さんは私に何をさせるつもりなんだろう?
「そ。もうすぐ円の誕生日でしょ?本人忘れちゃってるみたいだけど・・・私が聞いたら怪しまれるだろうから・・・さりげなく円に好きなもの聞いてほしいの」
・・・実を言うと私も円さんの誕生日のことをすっかり忘れていた。
「それは構わないけど・・・でも確か円さんって温泉・・・」
「それは知ってる。じゃなくて食べ物。実を言うと私も知らないのよね・・・」
言われてみればそうだった。円さんは私のことはいじってくるものの、一切自分のことは口にしたことがない。百合ヶ丘に入る前に何かあったのだろうか?
「というと?」
「去年私の誕生日のときにカエルの置物をもらったの」
「あの少々不格好な?」
「・・・それ円に言ったら絶対怒るわよ?で、そのときにね、『優柔不断でここに入るのも友達に進められて断れなかった』って言ってたわ」
あのフレンドリーな円さんが?ちょっと信じがたい。
「そうなんだ・・・」
「最初聞いたときは私もびっくりしたけどね。とにかくそういうことだから。うまく聞いてみて」
「分かったわ」
とは答えてみたものの。
(円さんにどう切り出そう?)
今でこそだいぶ良くなったが、コミュ障が完全になくなったわけではない。
一度蘆乃に相談してみるか。
「・・・ベスちゃん?」
ま、円さん!?
いつものようにラウンジでボーッとしていたら声をかけられビックリしてしまった。
「うひゃあ!ご、ごきげんよう・・・ですわ円さん。どうされました?」
「そんなにビックリしなくても・・・蘆乃ちゃんのことでも考えてた?」
ここはとりあえずごまかさなくては。
「ま、まあそんなところですわ。ところで円さん」
「なあに?」
「明日香さんから話があると思うのですけど・・・今度控え室でお茶会をしたいそうですわ」
これぐらいの情報は出してもバチはあたらないだろう。
「へえ・・・お茶会かあ・・・」
「それで円さんのご都合を聞いておきたいのですけど、大丈夫でして?」
「えっと、いつなのかな?」
「来週の火曜日ですわ。この日は講義も演習もありませんでしたわね」
私達の言うところの休息日だ。
「その日は予定何もないから大丈夫だよ」
笑顔で答える円さん。本当に覚えていないらしい・・・。
「わかりましたわ。ではそのように明日香さんには伝えておきますわ。ところで、話は変わりますが・・・」
「?」
「───という感じだったわ。まさか本当に忘れてるなんて」
円もそう忙しくないはずだけど・・・。
「まあいいわ。ありがとう。さてっと・・・」
携帯端末を取り出し、みどりにメッセージを送る。
「突然ごめん。ちょっと控え室まで来てくれる?」
『おっす明日香。え・・・別に構わないけど・・・あたしになんかするんじゃないよな?』
「いいからさっさと来る!ちょっと話があるだけだから」
『まあいいや。丁度咲良も一緒だから同伴でもいいか?』
咲良ちゃんも一緒か・・・。どうせなので巻き込んで一緒に仕掛け人やってもらうっていうのもありか。
「別にかまわないわよ。そのほうがむしろ好都合だわ」
『あいよー。今中庭だから10分ぐらいかかるぞー』
「誰に連絡取ってたの?」
「みどりよ。LG休暇覚えてるでしょ?あの子釣りが趣味なのよ。釣れるかはともかく、やる意義はあるわ」
10分後。
「・・・来てやったぞ?で、あたしになんか用?」
「すいません。みどりちゃんちょっと機嫌悪いみたいで・・・」
やや機嫌が悪いみどり・・・と、申し訳無さそうにしている咲良ちゃん。
「来週円の誕生日じゃない?だからみどりに協力してもらおうと思って」
「・・・あたし?」
「咲良ちゃんにも協力してもらうから」
「え・・・?」
「な、なるほど・・・お茶会のフリして誕生日会ですか」
「そ。去年私の誕生日のとき円に見事してやられたからね。だから今度は私が仕返し」
「で、あたしは何したらいい?」
しょうがないなあ、と言った感じで少し機嫌が戻ったようだ。
「決まってるじゃない。釣って来て欲しいのよ」
すると目の色を変え、
「釣るのはいいけど、今の時期は大したもん釣れないぞ?」
「そうなの?」
「アジ・・・カワハギ・・・アオリイカぐらいなもんじゃね?そもそも鎌倉で釣れるかどうかはわかんねーけど」
うーん・・・めぼしいのはアオリイカぐらいか。アジは開きか叩きにするぐらいしか調理方法なさそうだ。そこは琴乃様に聞いたほうが早そう。早速メッセージ。
すぐ返信が。
『なるほど・・・円ちゃんのお誕生日かー・・・私から聞いてもいいけど・・・あ、それとアジならなめろう風にして、少しひき肉まぜてハンバーグとかにしてもおいしいわね』
なめろう風ハンバーグ・・・。私が食べたい。
「まあいいわ・・・やってみて・・・釣果次第では琴乃様のお料理が変わると思う」
さて、前日。
因悦も巻き込んで下準備。
「あの・・・隊長・・・少し作りすぎじゃないです?この量は・・・いくらLGメンバーと先輩方いても食べ切れる量じゃないですよ・・・」
結局。
最初に琴乃様から返信があったとおり、ハンバーグになった。ただし具はアジがメイン。つなぎにひき肉が少し・・・といった感じだ。
そういえば───
(円・・・去年1回だけ食堂で一番高いメニュー頼んでたっけ・・・)
というのを思い出したからだった。鎌倉府の特産品である高座豚をふんだんに使ったハンバーグ。一般的に高座豚はハムだったりソーセージになることが多い。ただ、残念なのはヒュージによって超がつく高級品になってしまったこと。そこは悔やんでも悔やみきれない。
「で?」
「で?」
何故か如來とアールヴヘイムの樟美さんがいる・・・。おそらく琴乃様が呼んだんだろう。樟美さんは?
「ごめんなさい・・・おジャマでした?」
「いやいやいや・・・むしろ樟美さんが手伝ってくれるなんて思わなかったから・・・」
私も量に関しては疑問に思っていたが・・・。彼女がいることで合点が行った。
(なるほど・・・天葉様か・・・)
「いったあ!」
如來の叫び声。
見ると左人差し指の先端を包丁で切っていた。あーあ・・・。
「なーにやってんの如來。ほら手出して」
「ごめん明日ねえ・・・」
「ふふふっ」
その様子を見て微笑む樟美さん。
「明日香さんと如來さん・・・ウワサには聞いてましたけど・・・ホント仲がいいんですね」
そっか。樟美さんは実際に見るのは初めてのはず。他所のLG同士私があまり交流しないのもあるかもしれない。
「樟美さんと天葉様だって仲いいじゃない。はい終わり。まったく・・・如來は普段料理しないんだから気をつけなさいよ?」
「うう・・・」
如來の頭をぽんぽんと叩きつつ、
「私と如來は付き合い長いからね。リリィになるもっと前から知ってるし。うちにしょっちゅう食べに来てたから仲良くなったのよね」
「そういえば明日香さんって御台場出身ですよね?どうして百合ヶ丘に?」
私の過去について他のLGの人にぺらぺら話すのもなあ・・・と思いつつ、もう過ぎたことだし・・・と思ってる私。
「御台場にいるとき・・・私、いじめに遭っていたの・・・高等部で一度リセットしてやり直しできたら・・・って」
「・・・」
「そしたら椛様と知り合いだったお姉様に声をかけられて・・・気がついたらLG任されて・・・」
・・・ってなんで私の話になってるんだ!?
「・・・って私の話はいいんだって!今は明日のことを考えないと」
当日。
控え室がものすごいことになっていた。
21人もいたらそりゃそうなる。うち(エリューズニル)のメンバー9人と琴乃様初花様。アールヴヘイムの9人と乃彩様。
テーブル(と椅子)が足りなくてわざわざ隣(ラーズグリーズ)から借りてきたぐらいだ。
「お茶会・・・なのかなこれ?」
円の素朴な疑問。
「うーん・・・多分違う・・・かな・・・気がついたらこうなってたし・・・」
「けどあたしはキライじゃないけどな・・・約1名いることを除けば」
みどり・・・去年の遠藤さんの一件のことをまだ根に持ってるのか・・・それは置いといて・・・みどりと少し離れた位置に遠藤さんがいてそこは安心した。
「ただのお食事会・・・になってますわね・・・」
とはベスだ。
まあおかげで本来の目的がバレずに済むからそれはそれだ。
「けど・・・おいしいです・・・琴乃様料理がお上手なんですね・・・」
「蘆乃ちゃんありがとう。今回は樟美ちゃんにも手伝ってもらってるのよ」
と相変わらずニコニコ顔で答える琴乃様。
「元エリューズニルの胃袋だからね」
現在は因悦が担当しているが、お姉様が隊長をしていたときは琴乃様がお菓子担当だった。
「でも半分は樟美が作ってるんでしょ?あたしはそれだけでも満足だけどなー」
とは天葉様だ。ホント
「で、この量だったんですね・・・納得です・・・」
とは因悦だ。
天葉様の大食漢は百合ヶ丘でも有名なのだが、1年生にはあまり馴染みがないらしい。
「さて」
そろそろ本題に入るか。
パッ・・・
控え室の明かりが消える。
「えっ!?停電!?」
だが驚いてるのは円だけで、全員がニヤニヤしている。
1分後、
パンパンッ!
電気が付き、クラッカーの鳴る音。
「えっ!?ええっ!?」
「円、今の今まで忘れてたでしょ?」
「明日香ちゃんなんのこと?」
ここまでされてまだ思い出せないのか・・・。ホントに忘れてる?
「今日は何日?」
日付を聞いてみる。
「えっと11月2・・・あ・・・」
ようやく思い出したらしい。そして、
「あ。あの!」
蘆乃が円の目の前に。
「お誕生日・・・おめでとう・・・ございます円様・・・。私の誕生日のときに・・・その・・・チャーミィリリィのぬいぐるみ作ってくれたじゃないですか。その・・・お返し・・・といっては何ですが・・・がんばって作りました・・・」
少し大きめの紙袋を手渡す。
「じゃ、私からも。いつもありがとね円。はいこれ。大したものじゃないけど・・・私からのプレゼント」
私が手渡したのは木で彫ったビーバーの置物だ。芸術が苦手・・・といいつつ、それじゃあなあ・・・と思ったので、実はこっそりそうさく倶楽部の終わった時間を間借りして作らせてもらったのだ。そこは栞里さんに感謝しかない。
「円さんおめでとうですわ。わたくしからはこれを」
・・・なんか随分薄っぺらいな。お金か?
「・・・明日香さんなにか邪なこと考えてません?違いますわ」
う・・・思ってたことが顔に出てたのか、あっさり否定されてしまった。そしてみどり。
「・・・わりぃ。あたしなんも用意してないわ」
「え・・・」
「・・・なーんてな。今円食ってんじゃん?それがあたしからのプレゼントだよ」
「それって・・・」
「そゆこと。材料のアジ。あたしが釣ったやつだよ」
「みどりちゃん・・・」
「円さん。実は・・・私も釣ってるんです・・・みどりちゃんほどうまくは釣れないですけど・・・。久しぶりに釣りしたんですけど・・・やっぱり楽しいですね」
咲良ちゃん・・・。やっぱり父さんの影響は大きいのか、実は好きだったり?
「円様。はい」
如來のプレゼントはなんだ?後でわかるからいっか。
ひととおりプレゼントが渡し終わった後。もちろんアールヴヘイムのみなさんは帰った後だ。
「うっ・・・ううっ・・・わああああああああああああああん!」
円!?声を上げて泣き出してしまった。
(もしかして・・・やりすぎた?)
「ごめん円・・・私・・・やりすぎ・・・」
言いかけたときだ。
「違うの・・・うううっ・・・私っ・・・うれしくて・・・ううううううっ・・・」
「去年さ・・・私の誕生日のとき・・・円がお姉様に言って・・・みんなで出し合ってペンダントくれたじゃない?ちょーっと遅いけど・・・その仕返し」
「明日香ちゃん・・・」
「私たちエリューズニルはさ・・・御台場じゃないけど・・・家族みたいなものだと思ってるから・・・」
そう。御台場は血誓の儀といい、仲間意識の向上のためにLGメンバーは家族であり、共に共闘するという誓いを立てるのだが、ここは百合ヶ丘だ。けど、仲間意識に対する姿勢は変わらない、と思っている。
「そうね。私も・・・そう思うわ」
琴乃様・・・。
部屋に戻ってから。
「・・・私にサプライズなんていつ思いついたの?」
・・・まあ聞いてくるよね。
「えっと・・・2週間ぐらい前?」
そしてもらったプレゼントの袋を次々と開けていく円。
「わあ・・・」
実はなんとなく気づいてはいた。
円の机の上にあるグッズ類。統一性のないように見えて実はビーバー関連の割合が高いことに。二川さんはカワウソが好きらしい。
・・・ただし、部屋の中では私のカエルグッズのほうが目立ってるから余計そう感じるんだろうけど。
「それにしても・・・私がビーバー好きなの良く分かったね?」
「なんとなく・・・かな。半分カンでしかないよ?」
「そうなの?」
ベスがプレゼントした薄っぺらい封筒の中身を見るなり、
「わあ・・・ベスちゃんありがとう・・・」
つい覗き込んでしまった。
(あー・・・なるほど・・・)
プレゼントとしては少しセコい気もするが・・・。楓さんのグループ会社の運営する温泉リゾート施設の無料招待券だ。
で、如來のプレゼントだが───
「はははっ・・・如來ちゃんらしい」
(あー確かに)
袋の中身は私と円そっくりの手のひらサイズのぬいぐるみだ。こんなの作ってたのか・・・。針を指先に手を刺しながら作ってる如來の姿が目に浮かぶ。
「うっ・・・ううっ・・・うううっ・・・」
そして再び泣き出す円。
「ちょっと!?」
「ごめん明日香ちゃん・・・。私さ・・・中学でもこんな風にお祝いされたことなくて・・・」
「それは私も同じ。去年も同じようなこと言ったと思うけど・・・それであの時ボロ泣きしちゃったんだよね・・・」
「そういえばそうだったね・・・私・・・今がすっごい楽しいんだ・・・」
それは普段の円を見ていればわかる。講義と演習が終わって、LGの訓練がなければそうさく倶楽部。性格上私よりも友達は多い。
「けどそれも明日香ちゃんがいたから今があるんだよ?感謝したいのは私のほうだよ・・・」
同じことを去年も言われた気もしたけど・・・。新館から旧館(山
「うん・・・そうだね・・・」
思わず後ろから抱きしめてしまった。
ていうかなんだこの・・・雨嘉さんや神琳さんもこんな風に普段から想ってるんだろうか?
いやいやいやいや・・・円に対して恋愛感情は持ってない。あくまでも同級生で
もやもやした気持ちのままこの日は過ごした私だった。