明日香ちゃんとベスちゃんのやり取りを見て改めて思ったこと───連携は大事なんだということ。今はアンバランスな2人だけど、訓練を増すごとに上手く連携も取れていくんだろう。そこは京夏様がどう捉えているかわからないけど、体制としてそうなっていくのだろう。
「あの・・・京夏様・・・私にもちゃんとできるでしょうか・・・?」
「大丈夫。そんなに難しく考えることはないわ。今回は暴走する前に明日香ちゃんが一気に行った形だけど・・・実際はそんなこと考えてられないしね」
「ふう・・・」
「終わりましたわ。このメカヒュージ、どうしたらよろしいんですの?百由様」
「・・・そのままでいいわ。後で自分で片付けるから」
すっかり肩を落として落胆している百由様。
「明日香ちゃん。エリザベスさん。現状での評価をするわね」
京夏様がこちらに歩み寄る。
「まず明日香ちゃん。結果を急ぎすぎ。暴走する前だったらわざわざレアスキル使わなくても冷静に判断すれば行けたはずよ。それとエリザベスさん。自分から明日香ちゃんに指示を仰いでおいて独断で動くってどういうこと?もし私とだったらあなたを止めに入っているわ」
「はい・・・」
「もうしわけ・・・ありませんわ・・・」
京夏様の評価はごもっともだった。周囲のリリィから暴走・・・というワードを聞いて焦って先を急いだ。だが、実際のヒュージだったらそんなことを言っている場合ではないのだがここは黙っておく。
「けど、間違ってもないわ。まあ2人がかりでスモール級相当をやった感じだったけど」
「あれでスモール級なんですか?」
「そうね。全てが・・・とは言えないけど、幼体だったり、成長するから強さも個体差が出るわ。だからこそ訓練が必要なのだけど2人にはチームワークが必要ね」
「・・・それはベスに言ってください。私が悪いわけじゃないです」
「わたくしは明日香さんが勝手に判断したのだと」
「嘘をつかない!あんたが勝手に動いたんでしょうがっ!」
ベスの頬をつねる。
「わたしくはよかれと思ってやったんですわ!誤った判断をしたとでも?」
つねり返してきた。
「結果的によかったけどそれじゃ意味ないでしょ」
空いてる頬もつねり返す。
「それはお互い様なんでなくて?」
ベスも空いてる頬をつねり返してきた。
「こら!2人とも!」
コツン
「あいたっ」
「なにするんですの?」
京夏様に頭を小突かれた。
「当然だよなー。ケンカはだめだぞー」
「・・・みどり。あんたにいわれたくないわ」
その後も円ちゃんやみどりを中心に基礎訓練が多めのメニューをこなしていった。
訓練をはじめてちょうど二週間経ち、百合ヶ丘に来て初めての休息日。
ちなみに休息日とは、一般的な休みとほぼ同じ扱いだが、外出の際は必ず制服着用、CHARMも携帯する義務がある。
休息日とは別にCHARMを持ち歩く必要のない休暇日もあるが、こちらは事前に生徒会に申請する必要があり、手続きが少々面倒だ。実家に用事があるときや、何か特別なことがない限り使うことはないと思う。
「ねえ、どこいこっか?」
実は鎌倉府に来てから(百合ヶ丘直行で)街の中は全くもって初めてなので休息日が楽しみだった。
「明日香ちゃん嬉しそうだね」
「まあね。一番の目当ては・・・」
「カエルグッズ、でしょ?」
先に言われてしまった。
「あははは・・・よくわかってらっしゃる円ちゃん。
「咲良ちゃんは今日乃莉子さんのところにCHARMのメンテナンス出してるから外行けないって・・・」
「あ。そっか・・・対処できないもんね。で、みどりは?」
「先輩リリィ・・・えっと・・・
梅様、こと吉村・
「へえ・・・まぁみどりらしいけどね。何の勝負してるかわかんないけど」
と適当に答えたものの、同じレアスキル同士なので何の勝負をしてるかはなんとなく見当がつく。
「そういえばベスちゃんはよかったの?」
ベス───櫻子・
「いいのいいの。どうせ『わたくし、こういうお店には興味ありませんわー』とか言いそうだったし」
「あ、ここのお店・・・」
所謂雑貨屋なのだが、ひと目見て何かを感じた。
「入ろっか?」
そこで見つけたのはペンダントなのだが───
「うわあ・・・これすごい・・・」
緻密に、しかも精巧に再現されたディティール。目元や造形が私の一番好きな『アオガエル』そのものだった。
聞くところによると今これだけのものを加工できる職人さんがもうほとんどいないんだとか。ほ、欲しい・・・。
が、しかし、値段をみて愕然とした。
「う・・・」
百合ヶ丘に来てまだ間がなく、実績も対ヒュージの討伐報酬もない私にはとてつもなく高い。
装飾品は一期一会だ、という人もいる。逃したらもう手に入らないかもしれない。しかし、今回ばかりは諦めざるを得ない。
「明日香ちゃん・・・これ欲しいんだ?すっごい高いけど・・・」
「欲しいけど、さすがにムリ。誰かからプレゼントとしてもらえるんなら嬉しいけどね」
(プレゼントかぁ・・・今年は誰からももらえないかも・・・)
自分でさらっと言ってしまったが、実はもうすぐ誕生日だ。
この後2人でクレープを買って食べ歩き、そのまま寮へ。毎日こう何もない日々ならいいんだけど・・・。
「今日はノインヴェルト戦術の練習よ」
翌日、百合ヶ丘近くの廃墟が密集している場所にやってきた。かつてはここに住民の人たちが住んでいた。そう思うと少し胸が苦しくなる。
「京夏様ー、なんでこんなところでやるの?」
「こんなところ、じゃなくてここじゃないとできないの。いくら訓練弾を使うとはいえ、訓練棟でなんか使ったら百合ヶ丘に居られなくなるわよ・・・」
いくら知識がないとはいえ、実際のノインヴェルトを見たことがないみどりが言うのも無理はない。
「それと、習ってるからわかってると思うけど、ノインヴェルト戦術はマギを激しく消費するわ。マギスフィアを落としたらやり直しが利かないから慎重にね」
「はい」
「はーい」
「あ。待って!」
「どうしたの灯音?」
灯音様の目が赤い。レアスキル───鷹の目だ。鷹の目は上から俯瞰して見下ろせ、視界が碁盤の目のように広範囲に見えるため、欲しがるLGは多い。
「ここから4時の方向・・・300m先にミドル級3体とスモール級が4体いる・・・」
「ヒュージですか?」
「そう・・・近くにネストやケイブは・・・なさそう・・・野良・・・なのかな・・・」
「あろうがなかろうがヒュージには変わりありませんわ!どうなさいます?京夏様?」
「
初花様が確認する。
「えっと・・・まだ何も来てないわ。けど、放っておけるわけないでしょう?訓練は中止。ヒュージの殲滅に切り替えます。明日香ちゃん、琴乃、エリザベスさんはミドル級の早期殲滅を。他のメンバーは3人のサポートをしつつスモール級の駆除を。円ちゃん・・・みどりちゃん・・・初めてで緊張するかもしれないけど、万が一のときは私たちがサポートするわ」
「はい!が、がんばります!」
「おう!たのしみー」
まさかの訓練中にヒュージとは。時間を選ばないとはよく言ったものだ。だが、ネストやケイブがないのは幸いだ。そしてこれがLG二代目エリューズニルの初陣となる。
「これでミドル級でも特型だったら手を焼きそう・・・」
「縁起でもないことを言わないでくださいまし。わたくしだって御免ですわ」
「雑談してる暇はないわ。行くわよ!」
ヒュージがいると思われるポイントに到着。が、姿が見えない。
(どこだ・・・)
ヒュージ独特の、鳴き声・・・いや、音は聞こえるのだが。
GYAAAAAAAA!!
後ろから!?
咄嗟にマギ弾を打ち込む。にしても───
「相変わらずっ!見てて気持ちいいもんじゃないわ・・・ねっ!」
キンッ!
触手を1本切り落とす。百合ヶ丘近辺のヒュージはこんななのか・・・。そもそも場所も何もあったもんじゃないが。
GYAAAAAAAA!!
間髪入れず次の触手が来た。
「こんのっ!」
カンッ!
鈍い音がして跳ね返される。装甲(という表現が正しいかわからない)が硬くなった感触だった。
まさか、このヒュージ・・・攻撃を学習する!?マギの入れ方が悪かったのか?と瞬間考えたがそんなはずもない。
いや、冷静になれ・・・通常ありえないことだ。凶暴化して強くなることはあっても、攻撃を学習して防御するなんてことはありえない。コイツ・・・特型か・・・?
琴乃様とベスは!?
見渡すと案の定苦戦していた。が、特型に当たったのは私だけのようだ。
「琴乃様!ベス!1体は特型だわ!なんで嫌な予感当たるか・・・なっ!」
カンッ!カンッ!カンッ!
「くっ!?」
攻撃を避けつつ、とにかく触手を切り落とそうと必死に入れようとするが、どうにも入らない。ベスにテスタメントをかけてもらったところで範囲が広がるだけでおそらく意味はない。咲良ちゃんに早く来てもらいたいところだ。
「明日香ちゃん!」
「京夏様!コイツは特型です!全く歯が立たない!」
遅れて京夏様たちも到着。
「咲良ちゃんレジスタお願い!」
「は、はい!レジスタ!」
パアアアアアア・・・
咲良ちゃんの掛け声とともに光に包まれる。マギにCHARMが吸い込まれていくような感覚───レアスキル、レジスタはCHARMのマギ純度を高め、CHARMのスペックを向上させるスキルとも言われている。よし、これなら・・・。
キンッ!
よし!ようやく通った!
レアスキル発動!すかさず特型ヒュージの背後に周りマギを込めて一撃・・・のはずだった。
GYAAAAAAAA!!
「えっ!?」
特型は私の速度に順応するかのように正面を向いて襲いかかってきた・・・!通常ではありえない速度で。
(うそっ!?)
やられる・・・目を瞑って私は死を覚悟した。
「はあああああっ!」
シュバッツ!
・・・あれ?私・・・死んで・・・ない?
「大丈夫明日香ちゃん?」
「京夏・・・様?」
間一髪のところで私の前に入り、レジスタで強化されたCHARM───ダインスレイフ・カービン───で特型に切りつけたのだ。
「私・・・生きてる・・・」
「明日香ちゃん感想は後!今は琴乃たちのアシストが先決よ」
「は、はい!」
「琴乃様!ベス!初花様!大丈夫?」
「いつもより手強いわ!」
「平気でしたらこんなにも苦労しませんわっ!」
「琴乃!もし厳しそうだったら許可するわ。ただし、ほどほどにね?」
許可?京夏様の言ってる意味が分からない。
何の許可なのだろうか?
「どういうことですか?」
「私も・・・あんまり使わせたくはないんだけど・・・レアスキル使った後の精神状態が・・・」
それを聞いて理解した。
「・・・白井
「そう。だからこそ精神状態を安定させるために普段からマギ交感してるんだけど・・・しばらくは大変かも・・・」
白井結夢───吉村・Thi・梅と同じく初代アールヴヘイムのメンバーだったリリィだ。私の知る限りでは2年前に没落のキッカケとなった甲州撤退戦に参加、そのときに自身の
が、つい最近入学式のときに話題に上がった一柳さんがアピールを続けて守護天使の契りを結んだとか。
今はそんなことはどうでもいい。琴乃様かベスのサポートが先だ。
「う・・・」
突然琴乃様の顔色が変わる。
「うわああああああああああああああああああ!」
あの長身CHARM───フリングホルニを振り回し、まるで人が変わったかのように動きが変わった。
「
「ルナ・・・えっ?」
ただの傍観者になってしまってる円ちゃん。
「このレアスキル・・・いや、レアスキルなんて呼べないかもしれない。自身が持ってるマギがなくなるまでバーサーク状態になるの」
「・・・」
「ただ、同じレアスキル持ちで全員が全員同じじゃない」
「そうね・・・明日香ちゃんがいた御台場女学校の船田姉妹・・・」
「はい。あの2人はレアケースだと思います。そして桁違いに強い・・・」
そう。だから負けて当然なのだ。
「どゆこと?」
ハテナ顔のみどり。
「上手くレアスキルと付き合ってるの。平常心を保ったままバーサーク状態になれるってこと。リリィでもほんの一握りしかいないわ」
メンタル次第では鍛えることができるのだろうが、専門外なのでそこはなんとも言えない。
ベスはというと・・・。
「くっ!?」
相変わらず苦戦はしていたが、初花様が加勢している分苦にはなってなさそうだ。
「まったく・・・しつこいですわ!」
「エリザベスさん。そこにいて!」
「はい?」
初花様の言う通り動かないベスだが、目の前にヒュージの姿はなかった。
(これが・・・)
実際のレアスキルを見るのはこれが初めてだった。
いるように気配を残しておいて実際は・・・。
「はああああああああっ!」
シュバッツ!
ヒュージの姿は消え、跡形もなくなっていた。
「何が起きたんです?」
「初花様のレアスキルだよ」
「え・・・どういう・・・」
「ユーパーザイン・・・百合ヶ丘でも持ってるのは初花と工廠科の野田
「気配を操ることができるの。私も見るのは初めてだからビックリだわ・・・」
さて、琴乃様だが・・・
シュバッツ!
「はあっ・・・はあっ・・・」
ちょうどヒュージを倒したところでマギが切れたみたいだった。
バタン・・・
「琴乃様!?」
その場に倒れ込んでしまった。
「ベス!琴乃様を医務室へ!」
「え、ええ・・・」
「とりあえずみんなお疲れ様。まさかヒュージに遭遇するとは思わなかったけどね。みんな帰る・・・わけないわよね・・・」
「決まってるじゃないですか!琴乃様が心配です!」
「まさかこんなことになるなんてさー」
「あの・・・京夏様・・・こんなときになんですが、ちょっといいですか?」
琴乃様を無事医務室へ届け、琴乃様が眠りにつき、LGメンバーが帰ってようやく落ち着いた。が、私と京夏様は足湯にいた。
「あの・・・京夏様・・・」
「何?明日香ちゃん?」
「えっと・・・」
いざ口に出そうとするとやはり恥ずかしい。口ごもってしまう。
「どうしたの?」
「今日は・・・ありがとうございました」
「なあに改まって。LGメンバーを助けるのは当然よ」
「じゃなくて!ええっと・・・」
「もしかして・・・緊張してる?」
「はい・・・」
「明日香ちゃん・・・いえ、明日香」
呼び捨て?
「あのときは断られちゃったけど、改めて聞きます」
「・・・」
「もしこれで断わられたら私は今度こそ諦めるわ。あくまでもLGメンバーとして接します。尾上明日香・・・」
「あのっ!私から言わせてください!」
京夏様が言いかけたのを遮り、私が割り込む形で口を開く。
もちろん心臓はバクバクだ。けど、もう迷いはない。
「あのときは・・・正直まったく分からなくてお断りしました。けど今は・・・やっと頼れる・・・信頼できる人に出会えた・・・そう思っています」
「じゃあ・・・」
「はい!よろしくお願いします!京夏お姉様!」
晴れて私───尾上明日香と夏目京夏お姉様───2人の間で
部屋に戻ってからはずっとニヤニヤが止まらない変な人になっていた。
「明日香ちゃんどうしたの?ご機嫌だね」
「そ、そう?」
「見ればわかるよ。だってずーっとそうだよ?」
私ってそんな態度に現れるタイプだったのか・・・それはそれでショックだ。
「何があったの?」
まあ、隠していてもいずれバレることだ。ここは素直に白状することにする。
「実は・・・さ。さっき京夏様と守護天使の契りを交わしたの」
「ええっ!?明日香ちゃん前に断ったんじゃ・・・」
「そう・・・なんだけどね・・・今日の対ヒュージ戦で助けられたでしょ?あれが決め手。まあ憧れみたいなところなのかな・・・」
助けられたことがキッカケなのは事実だが、ここは曖昧に答えることにする。
「そっかぁ・・・守護天使かあ・・・」
翌日。講義棟にあるラウンジ。そこで契約書にお互いのルーンを記し、晴れて正式に守護天使となった私と京夏お姉様。
「あの・・・一つ聞いてもいいですか?」
「なあに?」
「昨日の琴乃様についてなんですけど・・・」
「あー・・・」
急にバツの悪い顔をする京夏お姉様。
「ごめん明日香。私からでも言えないわ」
「どうしてです?」
「どうしても、よ。もっとも、本人に聞いたところで教えてくれるとは思えないけどね」
「ごきげんよう。京夏様。明日香ちゃん」
「あ。咲良ちゃんごきげんよう」
「ごきげんよう。今日は訓練はなしって言ったはずだけど?」
「えっと・・・それどころじゃないんです!」
「はあ!?みどりがケンカぁ!」
「はい。さっき教室から出て・・・これから一緒に寮に戻ろうっていうときに遠藤さんと肩が当たってしまって売り言葉に買い言葉で・・・」
遠藤
「で、誰も止めなかったの?」
「私が必死になだめたんですけど、全然聞かなくって・・・」
「あんのバカッ・・・!」
まったく世話が焼ける。
「はい。樟美さんや壱さんがいればよかったんですが、そのときは・・・」
天野天葉───LG二代目アールヴヘイムの主将にして数多くいるリリィの中で世界最高峰のマギ保有量を有する、と言われている、いわばリリィのトップ中のトップだ。ブロンドのショートヘア。いかにも、な風貌ではあるのだが、それでいて嫌味に感じない。だからこそ皆に愛されるのだと思う。その天野天葉の守護天使────江川樟美───違うクラスなので普段関わりはないが、咲良ちゃんやみどりを呼びにいくときにしょっちゅう会っている、程度の印象しかない。
「で、どこにいるの?」
やってきたのは百合ヶ丘近所の海岸だ。
「あらあ・・・皆さんお揃いで。ごきげんよう」
「お揃いで、じゃないでしょ遠藤さん。うちのみどりに手出してどうするつもり?」
「さて、なんのことかしら?私はただ、この『世間知らず』の子に、リリィとはなんたるかを教えてあげるところですわあ・・・」
確かにみどりは破天荒なところがあり、それに関しては同感なのだが、今回ばかりはちょっと違う。
「だからって手合わせてしていい理由にはならないでしょ?今すぐやめてさっさと学園に戻ったら?」
「明日香ーとめんな!あたしは今はらわた煮えくり返ってんだ!絶っ対許さない・・・!」
・・・ケンカふっかけたのはみどりのほうか?
「とにかく2人ともやめなさい。それと遠藤さん、これ以上事を進めるようなら天葉ちゃんに報告するからね」
「そ、それは・・・」
「ったく世話が焼けるんなんだから・・・あれ、京夏」
「ごきげんよう」
「天葉ちゃん」
「ごきげんよう天葉様。はじめまして。尾上明日香って言います。よろしくおねがいします」
軽く一礼をする。
「知ってるよ。さっき週間リリィ新聞見たから。京夏の守護天使でしょ?」
「えっ?」
週間リリィ新聞?なにそれ?
「椿組の二川ニ水さんが単独で出している、リリィに特化した記事の乗っている新聞ですね。さっき号外が貼り出されてました」
え・・・情報流れるの早くない?
っていうかめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど・・・。二川さん、ストーカーか何かか?
「そ、それはどうも・・・」
「あらあ・・・それはおめでたいですわね・・・なら、なおのこと、お祝いをしなきゃ、ですわ」
と言ってCHARMを構える遠藤さん。
「こら亜羅椰!CHARMを仕舞う!」
「みどりもね!」
「はーなーせー!」
結局私と京夏お姉様、天葉様と樟美さんで2人を引き離し、とりあえず事態は収まることになった。
「まさかとは思っていましたが、京夏様と本当に守護天使になるだなんて・・・」
「・・・なにそれ。私がなっちゃいけないみたいな言い方じゃん」
天上の間。ベスの一言で少し機嫌が悪くなった。
「そ、そんなことはありませんわ!ほら、なんていいますの・・・親しい中にも礼儀あり、というじゃありませんか・・・」
「けどビックリしました。まさかあの時のことが現実になるだなんて・・・」
あの時───2週間ほど前の出来事のことだ。
「そういえば・・・いつもご一緒の円さんは?」
「でしたよね?」
「あー・・・それが・・・今日は早上がりしちゃって『これからちょっと用事あるから!ベスちゃんたちに謝っといて!』って」
「そう・・・ですの」
「咲良ちゃん」
ちょっとカマをかけてみるか。
「はい、なんでしょう?」
「これだけ仲良くなってるのに中等部何してたー、とか一切話さないけど、どうして?」
「そ、それは・・・」
やはりか・・・咲良ちゃんは黙り込んでしまう。
「話たくないならいいけどね。誰にでも言いたくないこととかあるから」
「咲良ちゃん。ちょっと・・」
ベスに聞こえないように耳打ちをする。
「後で私たちの部屋に来てもらっていい?円ちゃん戻って来るの遅いはずだし」
「明日香さん・・・わざわざ部屋に呼んでまでなんでしょう?」
天上の間から上がり、円ちゃんのいない私たちの居室へ来た咲良ちゃん。
「ごめんね、わざわざ部屋に呼んだりして。でもね、やっぱり気になるのよ・・・何かつらいことでもあった?」
「・・・」
いくら周りに誰もいないとはいえ、口を開こうとはしない。思い切って私の話を切り出す。
「あのさ、咲良ちゃん。御台場女学校の船田姉妹知ってるでしょ?」
「はい。中等部時代すごい活躍をされていたリリィですよね?それがどうかしたんですか?」
「私が・・・お台場の中等部に上がってすぐね、その船田
「すごいじゃないですか!っていうか羨ましい・・・」
「ちっともすごくなんかないよ・・・あのときはまだレアスキルも覚醒してなかったし、マギ保有量も今ほど高くなかったから・・・当然だけど、負けちゃった・・・」
「ですよね・・・けど、なぜその話を・・・?」
「それだけならまだよかったんだけどね・・・負けた後に純様から言われた言葉がショックで・・・さ・・・」
「なんて・・・」
「『あなたみたいなリリィは御台場には必要ない』ってさ・・・」
「え・・・どうして・・・」
「そのときはすっごい悔しくてさ・・・必死に訓練したよ?まあ、それがトラウマになっちゃって今こうして百合ヶ丘にいるんだけど・・・」
「そう・・・だったんですか・・・明日香さんみたいな実力ある人がなんでわざわざ百合ヶ丘に?って不思議に思ってました」
「私より実力ある人なんていっぱいいるって。それよりもさ・・・」
一呼吸置いて、
「そこまで話たがらない理由って何?嫌ならこれ以上追求しないわ」
「そうじゃないんです・・・エリザベスさんも明日香さんもみんなすごい人ばかりで、私の話をしてもちっとも面白くないんじゃないか・・・って」
ピンッ
咲良ちゃんに軽くデコピン。
「あいたっ」
「咲良ちゃん。自分を卑下しちゃダメ。それに話に優劣なんてないでしょ?芸能人じゃないんだから」
「私・・・初等科から百合ヶ丘に入ったんですけど・・・特にこれといって目立ったことをしたことがなくて・・・中等部に上がって少しは変われるかなーと思ってがんばってはいたけど・・・それでも・・・」
「別に・・・いいんじゃない?」
「えっ?」
「目立つことが目的じゃないよ?私たちはリリィなんだから」
「でも・・・」
「ほーらそれ。これからネガティブ発言禁止ね」
咲良ちゃんの両頬をつねる。
「ひゃい・・・」
「それともうひとつ、いい?」
「なんでしょう?」
「初代エリューズニルのこと。なんで誰も・・・何も教えてくれないのか知りたいのよ」
「・・・」
「私外部出身だから百合ヶ丘の内情とか・・・あ、有名な話は知ってるよ?甲州撤退戦とか、お台場迎撃戦とかね。お台場は・・・私は蚊帳の外だったんだけどね」
苦笑い。
「実は・・・初代エリューズニルはメンバーの大半が亡くなってるんです・・・」
「え・・・」
「だから・・・亡くなった先輩リリィの意思を継いで二代目を立ち上げたんだって・・・」
確かに最初のミーティングでは亡くなったリリィのことを話してはいたが、大半って・・・。
「亡くなった後、京夏様が事件を起こして大変だったんです。中等部ではトラブル防止で手合わせが原則禁止だったんですけど、手当たり次第強そうなリリィを捕まえてやみくもに手合わせを・・・」
京夏お姉様が?
「嘘・・・でしょ・・・?」
普段温厚で誰にでも優しく接しているあの・・・。
「嘘じゃないです。信じられないかもしれませんけど、人が変わったような荒れ方でした。もしかしたら、心の拠り所が欲しいんじゃないかって・・・それで高等部に上がったら・・・
「咲良ちゃん・・・」
「ごめんなさい・・・気持ちがおさえられなくて・・・ううっ・・・ううっ・・・」
私が横から取ってしまった形か・・・。咲良ちゃんは泣き出してしまった。
「ごめんね・・・けど、ありがとう・・・話してくれて・・・」
「いいんです・・・もう・・・過去のことですから」
ガチャ・・・
「ただいまー・・・あれ、咲良ちゃん?なんで私たちの部屋に?」
円ちゃんが戻ってきた。
「おかえりー。あー・・・私が呼んだの・・・ちょっと話があったから・・・」
「咲良ちゃんありがとね。話してくれて」
「いいえ。でもおかげで私もすっきりしました。それと、遅れましたけど守護天使の契りおめでとうございます」
え、ここでそれ言うの?
「あ、ありがとう咲良ちゃん」
なんか複雑な気分だ・・・。
「それじゃあ、私自分の部屋に戻りますね。ではごきげんよう」
「「ごきげんよう」」
バタン・・・
咲良ちゃんは自室へと戻っていった。
「で、咲良ちゃんと何話してたの?」
「なーいしょ」
「ずるーい・・・教えてよー」
気分を沈ませたくないので話題を変える。
「琴乃様・・・もう平気なのかな・・・」
「急にどうしたの?」
「
実は琴乃様の過去も気になっていた。けど一切そのことを誰も口にしない。そもそも私も聞いてもいないのだが。
「あれから何も聞いてないけど、どうなんだろうね・・・明日控え室に行けばわかるんじゃないかな」
「そうなんだけど・・・やっぱ気になるー」
「あ。消灯時間・・・もう寝よ?」
「うー・・・」
次の日の
控え室にある窓から外をずーっと眺めている。いつも笑顔でニコニコしている表情とは違い、上の空のようにも見えた。
「やっぱりね・・・ほら、琴乃始めるよ」
「あ。ごめん・・・ちょっと考え事・・・」
「琴乃様、ちょっと」
「え・・・」
言って指輪をしている右手同士で握手。
しばらくすると指輪同士が光り、自分自身一瞬フラっとしたが、すぐに収まった。
「マギ交感・・・」
マギ交感は対ヒュージで溜まった負のマギを浄化する行為・・・なのだが、通常は私と京夏お姉様、といった疑似姉妹同士で行うのが一般的だ。かといってそうでないリリィ同士がしないか、というとそうではない。
「明日香ちゃん・・・」
「すいません・・・どうしても我慢できなくて・・・少しは落ち着きましたか?」
実は京夏お姉様よりも琴乃様のほうが守護天使が必要なのでは、と余計なことを考えてしまう。
無言だが頷いてはくれたものの、やはりまだどこかぎこちなかった。
「今日の訓練だけど・・・なしにしてこれからミーティングにしましょうか」
そう言って京夏お姉様は自分のソファに座・・・らない?
そして私の背後に回り込む。
(何するんだろう・・・?)
琴乃様以外はなぜか皆ニコニコしている。
それから2分ほど経過。状況は変わらず。
「あ、あの・・・」
と言ったそのときだ。
「えっ!?」
京夏お姉様が後ろから目隠し。
「あの・・・なにを・・・」
「いいからいいから」
ジャラ・・・
私の首に何かかかった音が聞こえる。
目隠しされてから30秒ほど経って、
「もういいかな・・・」
目隠しから開放される。
「何がしたかったんです?」
頭の中はハテナだらけだ。
「明日香。胸元を見て」
胸元・・・。
見ると見覚えのあるものが首にかかっていた。
愛嬌ある目元、特徴的なディテール・・・それは一昨日円ちゃんと一緒に行ったあの店に置いてあったアレだ。
「え・・・これって・・・」
「誕生日おめでとう明日香」
「えっ!?えっ!?」
ちょっと頭の整理がつかないんだけど・・・
「ゴメン明日香ちゃん黙ってて。実は───京夏様から誕生日のこと相談されてて、何かできることはって・・・」
待って・・・円ちゃん以外には誕生日のことは言ってないはず・・・けど京夏お姉様が知ってるってどういうこと?
「あの後・・・二川さんのところに行ってきたの。そうしたら今日が誕生日だって・・・」
二川さん・・・一体何者・・・
「で、私がカエルグッズのことを話したら、京夏様が今一番欲しいものは何かって聞かれたから一昨日のあの店でのことを話したの」
円ちゃん・・・。
「内緒で部屋も見させてもらったわ。スゴイわね・・・隅から隅までカエルだらけで。本当に好きなんだなって・・・」
「・・・」
「で、すぐにLGのみんなに連絡入れてプレゼントしたいからって話たら全員オッケーしてくれたからみんなで出し合ったのよ」
え・・・全員?
「だからこれは、私からだけじゃなくてLGみんなからのプレゼントだよ。琴乃、もういいわ。お疲れ様」
「・・・普段やらないことって疲れるわね。でも上手く騙せたからいいかな」
いつもの琴乃様だ。
「明日香さんみずくさいですわ。なんでおっしゃってくださりませんの。言ってくださればもーっとスゴイものを用意しましたのに・・・」
ベス・・・。
「そうですよ明日香さん。昨日言ったこと、忘れないですからね?」
「そ、それは・・・」
咲良ちゃんにツッコまれるとは・・・。
「・・・おめでとう。えっと・・・」
いつも無口な
「実は私もそれ狙ってたんだ。すっごい出来いいよね。値段だけのことあるし、あの店ってたまにすっごいレアアイテム入ってることあるからチェックしてたほうがいいよ!」
「あの・・・灯音様!?」
「ご、ごめん・・・驚かせちゃって・・・私・・・さ・・・カワイイものに目がなくって・・・つい・・・」
突然のマシンガントークに驚く私。円ちゃん、ベス、みどりも驚いていた。
「おめでとう明日香。私も聞いたときは驚いたわ」
「ありがとうございます初花様」
で、みどりだが、黙っている。
「・・・ちょっとみどり。なんかないの?」
「・・・別にいいじゃんか。何も言わなくても」
と言ってはいるが、いつもと態度が違っていた。
「もしかして、はずがしがってる?」
「う、うるさい!いいじゃんか別に・・・」
なにはどうあれ嬉しいのは事実だ。
「みんなありがとう。大切にします・・・!あ、あれ?」
気が付いたら視界がぼやけていた。
「おっかしいな・・・嬉しいはずなのに・・・なんで?」
サプライズは嬉しい。けど、リリィになって今までこんなお祝いのされ方を一度もされたことはなかった。
「ちょっとやり過ぎたかな・・・」
「そんなことはないです!ただ・・・今までこんなこと・・・一度もなかったから・・・」
今どんな顔してる?と聞かれたら恥ずかしくて答えられないかもしれない。それぐらいひどい顔をしてると思う。
「さー、今日は腕によりを奮ったわ。みんな食べて食べて」
「うわぁ・・・」
テーブルの上には私の似顔絵が描かれたケーキ、いつものクッキーと紅茶が置いてあった。そしてケーキには『誕生日おめでとう』の文字。なんか食べるのもったいない・・・。
「それと、明日香ちゃんには特別にこれも」
「はい?」
といってテーブルに出されたのは───
「か、かわいい・・・」
これもケーキなのだが、抹茶で着色されて型を取ったそれは、トノサマガエルのそれのようだった。目には大きめのチョコレート、独特の縞模様にはチョコチップ。こっちも食べるのがもったいない・・・。
「いいなぁ・・・」
「灯音・・・ダメでしょ」
「あはは・・・今度灯音ちゃんにはゴリラのやつ作ってあげるから・・・・」
ご、ゴリラなんだ・・・ちょっと灯音様のかわいいの感覚が分からない。
そんなわけで───
この日は私にとって、百合ヶ丘に来て一番のサプライズをもらった。けど、それだけで終わったわけではなくて───
気がついたらこんな長さになってましたね()
この量が割と普通なのかなと思いますが・・・^^;